処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第28話 刹那の心情 茉理の想い

 旅行から帰ってきて早一週間。戻ってきてからは宿題をいち早く終わらせるべく、必要な外出以外では部屋から出ずにひたすらテーブルに向かう日々を送っていた。

 

「今日は、ここまでにしておきましょうか」

 

 凝り固まった身体をほぐすように動かしながらベッド周りを歩く。座りっぱなしだったから少しでも動いた方がいいという判断だ。

 

「しかし──」

 

 旅行の時に自分の中で感じた茉理への想い。親友としての分を弁えた感情かと自分に問うが──

 

「正直なところ、自信はありませんね…」

 

 そばに居てくれるだけですごく安心してしまえる。まるで幼い子どもが親へ全幅の信頼を寄せているように…。

 

 実は自分はあまり母上に甘える子どもではなかったし、幼い頃から身体を鍛えることが好きな部類でもあったから、母上に抱かれて眠るとか頭を撫でてもらうとか…。

 普通の子どもならしてもらったことのあることもしてもらっていない可能性はある。それが寂しいとも思わなかったし、自分がそうしたくてそう過ごしてきたのだ。

 

「まあ、それも原因なのかもしれませんね…」

 

 茉理はゆったりとしている。ヴァイオリンを弾けていた頃は違ったのかもしれないが、少なくとも今の茉理は隣にいるとすごく安心している自分がいるのは事実だ。

 心地いい──そう感じたことは生きてきた中でもそう多くはないものだ。

 

「私が男だったら…」

 

 いや、そうしたら茉理に会えていないかと、埒もないことを考える程度には煮詰まっている。なんだかんだと一週間は部屋で缶詰め状態のせいで思考も固まってきているのかもしれない。

 

「明日はどこか出かけましょうか」

 

 そんな折、スマホが電話を着信した。拾い上げて電話相手を確認する。

 

「美玲衣…?」

 

 珍しい相手から電話があるものだと、電話に出る。

 

『あの、こちら雨水刹那さんのお電話でしょうか』

「いえ、違います」

『ええっ!?』

「冗談ですよ、美玲衣」

『・・・』

 

 冗談に対して返ってきたのは無言。たぶん、抗議されている。

 

「すみません。美玲衣から電話なんて──というより、私…美玲衣に番号教えていましたか?」

『いえ。茉理に聞きました』

「ああ、なるほど。それで、用件はなんでしょうか」

『もう、いきなり冗談から始めたのはそっちなのに…』

「すみません。どうにも電話にはいい思い出がなくてですね…」

 

 自分から連絡する相手はだいたい両親だが、電話するとからかわれるのは自分の方がほとんどだ。

 だから、せっかくだから自分もふざけてみたかったのだが、タイミングはあまりよろしくなかったようだ。

 

『実は、今日の茉理の練習に付き合った際にどこかへ出かけないか、という話になって。映画を観に行くことは決まったのですが…』

「映画、ですか」

 

 前に観に行ったのはいつだっただろうか。そんなことを思い出そうとしていると…。

 

『茉理の提案で刹那さんもお誘いしないか、という話になりまして』

「…ふむ。なるほど」

 

 ならばなぜ、わざわざ美玲衣が電話してきているのか。茉理が電話してきてもいいはずだが…。

 

『茉理は何か『やることがある』といって電話する余裕はあまりなさそうだったので私から電話しています』

「そうですか。まあ、茉理の急な奇行は今に始まったことでもないですから気にしないことにしましょう。それで、その映画に行くのはいつですか?」

『明後日を予定していますが、大丈夫なんですか?』

「大丈夫ですよ。一週間も引きこもりしていましたから身体を少し動かしたい気分でもあります」

『引きこもりって…。何してたんですか』

「宿題を終わらせるために。もう、粗方終わりましたが」

 

 一週間引きこもったのは伊達ではない。ほぼ終わらせた。電話越しの美玲衣が急に黙ってしまった。

 

「どうしました?」

『刹那さん、お願いがあります』

「はい、なんでしょうか?」

『映画以降に日を取って勉強を教えてくださいませんか…?』

「…?ええ、構いませんよ。しかし、そうですね──」

 

 これならばせっかくですし茉理も誘ってあげた方がいいでしょうね。成績、落とすのは私が許しません。

 

「映画の時に茉理も誘いましょう。三人でやれば苦手分野は粗方無くなるでしょうし」

『ああ。茉理も誘うんですね』

「ええ。成績、落とさせるわけにはいきませんから」

 

 電話越しに美玲衣が笑っている。

 しかし、映画ですか。いつ以来でしょうね、観に行くの。

 

 

 

 ★

 

 

 

 ──二日後。

 

 かねてからの映画を観に行く日になって、駅前での待ち合わせということなので早めに来たのだが。

 

「ねぇねぇ。君、誰かと待ち合わせ?良かったらさぁ──」

 

 早く来すぎたかもしれませんね。これでかれこれ八人目。そろそろ追い返すのも面倒になってきましたし、この人を生贄に残りを退けましょうか。

 

「待ち合わせの邪魔をするのは止めていただけませんか?」

「またまた~。もうかれこれ10分以上ここにいるのは見てるんだよ。だからさ、君みたいな女の子を待たせる相手なんて放っておいてさ──」

 

 気安くこちらの肩に手がかけられ──迷わずその手を取り、後ろ手に捻りあげる。折れては…過剰防衛になりかねないのでそのまま肩を外させていただく。

 

「へっ…?あ、いぎぃっ?!」

「待ち合わせの邪魔をするなと、再三の警告にも耳を貸さず。あまつさえ他人の肩に気安く手を置いた罰です」

 

 地面に倒れ、肩が外れた痛みに悶え苦しむ男を冷ややかに見下ろす。

 

「待ち合わせの邪魔です。大丈夫、関節が外れているだけですから病院に行けばすぐに嵌めてもらえますよ」

 

 男は痛みに返事すらできないのか、ヨロヨロと立ち上がって人混みの中へと消えていった。あまりの光景に同じように待ち構えていた男達は瞬く間に散っていく。

 

「鬱陶しいものですね、ああいう輩は…」

 

 今は自分だからいいが茉理達にあんなことされている場面でも見ようものなら加減を間違えてしまいかね──?

 

「…重症かもしれませんね」

 

 何も気にすることなく対象を茉理達を置いていた。いや、親しい男性など仕事の現場の彼らぐらいしかいないから身近な人間に置き換えてしまった可能性も…。

 

「だとしても、これはまずい気もしますね…」

 

 今日一日、二人と一緒にいて平常心で居られるでしょうか…?

 

 

 

 ★

 

 

 

 -茉理side-

 美玲衣さんと待ち合わせして刹那さんとの待ち合わせ場所へと向かっていると、遠くに見覚えのある姿が見えた。

 美玲衣さんと二人で言ってたけど、刹那さんは予想通り先に来ていて顔を見合わせて笑ってしまった。

 

「刹那さ~ん」

 

 こっちの声に気がついたのか手を振っている。旅行以来だから、今日も楽しんでほしいな。

 

「お待たせしました、刹那さん」

「いえ、大して待ってませんよ。二人は別で待ち合わせしていたのですか?」

「うん。駅前まで行くのに途中で一緒になるから、って」

「万が一、はないと思ったんですが茉理が道に迷わない可能性も──」

「私、そこまで方向音痴じゃないよ!」

「まあまあ。落ち着きなさい、茉理。貴女の普段のおっとり具合を見ていると不安になるのですよ」

「学院まで行けるんだから迷わないよ」

「そうですね。まあ、とりあえず映画館へ向かいましょう。予定時間まではまだあるとはいえ、いい席を取るのであれば早めに行くに越したことはないでしょうし」

 

 そうして、刹那さんと美玲衣さんと映画館へ向かう。ちなみに映画の内容に関しては──私的にはとても面白かったよ。

 美玲衣さんは映像に酔ったのか終わってからはふらふらしてたり、刹那さんは『たまには見に来るようにしますか』なんて言ってたから楽しんでもらえたと思うな。

 

 それからはあちこちでウインドウショッピングを楽しんだりしながらしていたのだけど…。

 

「うーん…」

「どうかしたの、茉理?」

「美玲衣さん。やっぱりおかしくないかな」

「何が?」

「刹那さん。なーんか緊張してるように見えるんだよ」

「そうですね…」

 

 美玲衣さんと二人でアクセサリーを見ながら窓に写る刹那さんを眺める。こっちで楽しくしている時は笑っているのに、少し離れると鋭利な感じで周囲を見渡しているのを今日一日で何度も見ている。

 

「たぶんですけど、周囲を警戒しているように感じますね」

「警戒…?なんで?」

「先ほどから何人か、こちらを見ていた男性の方がいましたから、それを気にしているのではないかと。いわゆる『ナンパ』というやつです」

「なるほど~。でも、それだけであんなに警戒する必要あるの?」

「おそらく、強引な人もいるからではないでしょうか。刹那さん自身は男性顔負けに強いのだとしても、端から見れば私達は女性三人。男性が話しかけたくなるのもわからなくはありません」

 

 そうなんだ。でも、それって疲れないのかな。私は刹那さんにもゆっくりくつろいだり気分よく遊んだりしてほしい。

 この前の旅行も、どこか気をつけていた感じで、それって毎日気を張ってるってことで、そんなの…

 

「──いや、だな…」

 

 だって、刹那さんにはゆっくりと休んでほしい。私を休ませてくれた人だから…。

 

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