───その後。
茉理に寮に泊まる手続きをしてもらい、両親には勉強会をすることになったから寮に泊まる旨を電話で説明してもらって…。
お互いに抱きついて一晩を過ごした。つかず離れず、一晩中話をした。
「──んあ?」
目が覚めたらすでに日は高い。横を見るとこちらに抱きついて気持ちよさそうな寝息をたてている茉理がいる。
その頭を優しく撫でて、頬を突っついてイタズラする。しばらくすると目を覚ました茉理がこちらをのぞいてくるから…、口づけを一回…一瞬だけ。
「ふ、ふふふ…」
「あは、あはは…」
端から見れば少々イタイ子に見えてしまいそうですが仕方ありません。お互いの気持ちが通って、決まった翌日なのですから。
「茉理」
「なぁにぃ?」
「これで聞くのは最後にしますが、本当によかったのですか?今なら、まだ引き返すことは可能ですよ」
「うん。大丈夫。私はさ、『雨水刹那っていう女性』が好きになったんじゃなくて『雨水刹那っていう人』を好きになったの。だから、いいんだよ」
「──わかりました。もう、同じことは聞かないようにしますね。これからも、よろしく、茉理」
「うん、刹那さん」
お互いに着替えてからは部屋の中で本を読んだり、ベッドに寝転んだりと、まったりと過ごす。
「まあ、気持ちが通ったからといって何か大きく変わるわけでもないのですが」
「うーん、刹那さん。端から見たらそうは見えないと思うよ?」
今は茉理にひざ枕をしてもらいながら、近くに置いたテーブルからピーナッツをつまみつつ、時折…茉理にも食べさせてあげている。
うむ。確かに端から見たら今の私は別人にしか見えない。
「いいんですぅ。今日は茉理とのんびりまったりゆっくりと過ごすって決めたんです~」
「なんだろう。この刹那さん、すごくかわいい~」
茉理に頭を抱え込まれて顔が茉理の胸に潰される。息苦しいけど、これはこれでいいかもしれない。女性の胸って柔らかいですね。私も女性ですが…。
「しかし、何したらこんなに大きくなるのでしょうか…?」
茉理の胸元で頭をぐりぐりと動かす。うむ、とても柔らかい。
「うーんと、大したことしてないよ?昔はヴァイオリン一辺倒だったし」
私の場合、遺伝子異常の関係で胸は大きくならなかった可能性もあるので、茉理の胸はすごく羨ましい。しかし、今日からなら触り放題ということでは…?
「刹那さん、悪い顔してる」
「すみません。他の女性でも羨むような胸だったのでつい…」
いや、本当に何したらこんなに立派な胸になるのでしょうか?…思考が融けてますね。まあ、こうやってのんびり過ごすのもいいですが…。
茉理から少し離れて深呼吸を数回。よし、思考が戻りました。
「茉理。お昼ご飯を食べたら少し勉強しましょうか。一応『勉強会』という名目で寮に泊まったのですし」
「え~。昨日、しっかりやったよ…?」
「それでも、課題が全て終わったわけではないのでしょう?8月の頭とはいえ、油断していると夏休みなどあっという間に終わってしまいます」
「わかったよ~。でも、誰か他にも誘わない?」
「そうですね。何人か寮生を誘うとしましょう」
起き上がって着替え始めるも茉理は布団から出てこない。
「茉理…?」
「やっぱりもうちょっとだけ寝る~」
「許すわけないでしょう」
茉理を引っ張り出して着替えさせる。切り替えはしっかりとしてもらわないと。
★
昼食は軽めのサンドイッチを大量に作り、リビングで勉強会を行いながら食べてもらうことにした。
そのせいか、数名部屋へと逃げ帰ってしまったが、まあ気にするだけ無駄というものでしょう。
「うう~。美海お姉さま、こういう時は早いんですから…」
「月子さん。姉への文句、言いたくなる気持ちはわからなくもないですが、今は勉強に集中しなあさい。わからなければ質問するように」
「はい…」
「あの、刹那お姉さま。この問題なんですが──」
「はい」
勉強に参加しているのは茉理、月子、すみれ、あやめの四名。花さんはすでに密さんと約束していたそうで、2人そろって朝から勉強しているそう。
それを知った織女さんが先ほど密さんの部屋に向かったので、おそらく3人で勉強会をするのでしょう。
対して、逃げ出したのは美海さん。まあ、あの人はなんだかんだと宿題は終わらせるでしょう。去年もそうでしたし。
鏡子さんはいつの間にか紛れていた千歳と共に逃げるように出かけていきました。千歳はあれで要領はいいので問題ないでしょうね。鏡子さんもそういう人です。
「刹那さん、ここはさっきやった方法でいいの?」
「茉理。まずは解いてみてから聞きなさい。身に付きませんよ?」
「は~い」
ふと、すみれがこちらを見ていることに気がつく。何か観察しているようにも見える。
「すみれ、私をじっと見つめていますがどうかしましたか?」
「──いえ。なんでもありません。すみません、お姉さま」
「いえ、少し気になっただけですから」
とはいえ、すみれにあんなにじっと見つめられたのも初めての経験ですね。私の顔に何かついていたのでしょうか。
その後も、質問してくる茉理や月子に説明をしながら、勉強会は夕方になるまで続いた。
★
-すみれside-
今日は刹那お姉さまに勉強を見ていただけたおかげか、いつも以上にはかどりました。少なくとも夏休みの時間に大きな余力を持てる程度には…。
ただ、少し気になることがあります。聞かない方がいいのかもしれませんけど、何かあってからでは困りますし…。
「──よし…」
刹那お姉さまの部屋の扉をノックする。しばらく待つと扉が開いた。
「おや、すみれ。どうかしましたか?」
「夜分遅くに申し訳ありません、お姉さま。実は少しお聞きしたいことがありまして…」
「そうですか。とりあえず、中にお入りなさい。今、お茶を用意してくるから待っていてもらえる?」
「はい、わかりました」
お姉さまの部屋に入るとイスに腰掛ける。待つこと数十分。お盆にお茶の一式を載せてお姉さまが戻ってきた。
「緑茶にしましたが、よかったかしら?」
「はい、大丈夫です」
緑茶の入れられたコップが近くのテーブルへと置かれる。お姉さまはベッド近くのミニテーブルにお茶を置き、自身はベッドに座る。
「さて、すみれのお話を聞きましょうか」
「はい。…えっと──」
話す段になってからふと思う。なんと切り出すのがいいのかと。自分の感じたことをそのまま言葉にするには自分の感覚をうまく言語化できる自信がない。
とはいえ話したいことがあると時間を取っていただいたのに、何も話さないのも──
「もしかして、話しにくいこと?」
「…はい」
「ふむ。では、私から質問しますから、答えられる範囲で答えてもらえる?」
「…、はい」
正直、自分から聞きにくいこと。なら、お姉さまから話してもらった方がいいのかもしれない。
「──では、まずはその話は、すみれ自身のこと?それとも、私のこと?」
「刹那お姉さまのことです」
「ふむ。では、今日の様子からでしょうか。それとも、もっと前からでしょうか」
「そう、ですね…」
気になってきたのは…。
「この前の旅行の時からでしょうか」
「旅行、ですか…」
お姉さまが次に何を聞くべきか悩んでいる。思い当たることを考えてくれているのでしょうか。
「友人関係のこと、または家族関係のこと?」
「…友人関係です」
「むっ…。そうですか、では具体的な名前をいくつかあげます。関係のある方の名前があれば首を縦に振ってもらえますか」
「はい」
再び考えているお姉さまに私は少し気になった。そんなに秘密が多いのか、と。
「まずは、密さん、鏡子さん、千歳さん」
「いいえ」
「では、織女さん、美玲衣さん、密さん」
「いいえ」
「むむっ…?では…、美玲衣さん、茉理さん」
「はい」
首を縦に振ると、刹那お姉さまが青くなった。…青くなった?
「お姉さま?」
「…すみれ、単刀直入に聞きます。茉理との関係、ですね?」
「えっと、はい。刹那お姉さま」
「むむっ、むぅ…!」
「えっと、お姉さま?」
立ちあがり、頭を抱えたまま壁に額をつけて何やらブツブツ呟いている。数分間、そうしていたお姉さまは小さな咳払いを一つしてベッドに座り直す。
「わかりました。何を、聞きたいのでしょう」
「その…。今日は特に感じましたが、茉理さんのことを慈しむように見ていて…。もしかすると何かあったのかな、と…」
「…そんな表情していましたか?」
「はい。大切なものを見ているような…」
「そう、ですか…」
しばし黙考したお姉さまは、観念したように小さなため息をついた。
「それは、あやめや月子辺りも気づいていそうですか?」
「いえ、そのような感じはありませんでした」
「そうですか──わかりました。貴女も奉仕会のトップ。このことを隠していて問題になっては困ることがあるかもしれませんから、素直に白状いたします」
「白状…?」
何やら自分が考えていた以上の『何か』を知らされようとしているのでは…?そう思っていたら──
「本日付で私、雨水刹那は、仲邑茉理とお付き合いを始めました」
予想の斜め上の事実を知ることになりました…。