処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第31話 不養生

 ── 一夜明けて。

 

 すみれは未だに昨日の告白を受け止め切れずにいた。

 密お姉さまの作った朝食を食べながらも、昨日の話が頭の中で回っている。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「本日付で私、雨水刹那は、仲邑茉理とお付き合いを始めました」

「……えっ、と。刹那お姉さまと茉理お姉さまが、お付き合い、ですか?」

「はい」

「お二人とも女性、ですよね?」

「そうですね。しかし、お互いに意思の確認はしましたし、キスならしてしまいましたから、付き合い始めたのは事実です。まあ、初日から他の方にバレるような事態は想定していませんでしたが…」

「なる、ほど…。刹那お姉さま、茉理お姉さまとは今後は、どのような…。いえ、すみません」

「すみれが謝るようなことでもないでしょう。今後、とは言いますが基本的には今までと大して変わらないと思いますよ。すみれにわかってしまったくらいですから、もう少し注意して接するようにするつもりですし」

「そ、そうですか…」

「ええ。すみれ、祝福しろなどとは言いません。ただ、見守るくらいでお願いします。私自身、このような気持ちを持つのも扱うのも初めての経験なので…」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 あの後、部屋に帰ってすぐにベッドに入って眠ることにした。自分自身、処理しきれていなかったし、今後は見守ってほしいなどと頼まれるとは思っていなかった。

 

(今年は、いろんなことがありすぎる…)

 

 奉仕会会長になって半年以上。しかし、学年が変わり、密お姉さまが転入されて、いろんなことが次々に起きている。

 この上、自分のお姉さまと知り合いが付き合い始めたなど…、晴天の霹靂でしかなかった。

 

「はあ…」

 

 朝からため息が止まらない。あやちゃんから心配されているが心労に近い今の状況を彼女に説明しても混乱が増すだけで何のメリットもない。

 とはいっても、このまま一人で抱えるべき案件なのかと悩んでいるわけで──

 

「そういえば、刹那さん、今日は起きてくるの遅いな。いつもなら朝食の準備手伝ったりしてないの?」

「確かに今日はまだ見ていませんね。まあ、刹那さんもゆっくりと寝たい時ぐらいあるのではないでしょうか?」

 

 美海お姉さまと密お姉さまが刹那お姉さまのことで話している。確かに珍しいと思う。あの人が8時までに起きてこないことなんて、今まではなかったはずなのに…。

 

「──様子を見てきます」

「すみれさん?」

 

 さすがに昨日、あんな話をしたあとだ。気にならないわけがない。

 お姉さまの部屋の前に立つと、数呼吸おいて扉をノックする───しかし、返事が無い。

 

「刹那お姉さま、入りますよ?」

 

 鍵はかかっていなかった。もしかしたら朝早くからどこかへ出かけているのかも──そんな考えが浮かび…

 

「──えっ?」

 

 目の前の光景が理解できなかった。

 

「お姉さまっ?!」

 

 刹那は、倒れていた。床に横倒しになってすみれの声にも反応しない。慌てて抱き起こして──

 

「──っ、すごい熱…」

 

 荒い呼吸を繰り返す刹那の身体はとても熱い。顔も紅潮していて、見るからに苦しそうだ。

 

「待っていてください。すぐに他の方をお呼びします!」

 

 すみれ一人では刹那を持ち上げることはできない。すぐにでも、他の方の力を借りる必要があると判断してリビングへと駆けていった。

 

 医者に連絡を取り、往診していただいた結果は『過労』による一時的な体力の低下による発熱だと診断された。安心できるものではないが、今すぐどうこうするようなものでもないと告げられ、解熱剤は処方された。

 ベッドで眠る刹那を、すみれに頼まれて運んだ密とすみれが見守る。

 

「最近…というより、旅行の時からずっと高いモチベーションを維持していましたし、身体がついてきていなかったんでしょうね」

「そうかも、しれません…」

 

 確かに今までの刹那お姉さまは自室ではけっこうだらしない格好で休んでいることもあった。

 もしかするとあれはこうならないための自衛みたいなものだったのではないだろうか。

 

「よく眠っているようですし、私は皆の昼食でも作ってきますね」

「ありがとうございました、密お姉さま」

「また何かあったら声はかけてください」

 

 密お姉さまが部屋から出ていく。静かになった部屋の中で、お姉さまの頬を撫でる。

 

「あまり、心配をかけないでください…」

 

 規則正しい寝息。目を覚ます様子はない。

 

「…しばらくは、おとなしくしていてくださいね」

 

 

 

 ★

 

 

 

 -刹那side-

 ひどく寝苦しい。いつもより布団が重い気がする。身体は妙に重たいし、力があまり入らない。

 

「…ぅ、む…?」

 

 目を開けてみるとそこは自分の部屋の天井。窓から射し込む光はすでに明るく…。

 

「今は、何時でしょうか…」

 

 身体を起こそうとしてまともに身体が動かないことに気づいた。力をいれようにもうまく入らない。

 

「起きましたか、お姉さま?」

「…む?」

 

 首を動かしてみるとベッド脇にイスを置いてすみれが本を読んでいた。こちらが起きたことに気がついて本を閉じる。

 

「すみれ。なぜ、貴女が私の部屋に…?」

「朝のことは、覚えていませんか」

「朝のこと…?」

 

 今朝は目を覚まして、顔を洗い、軽く身体を動かしながら───何しましたっけ?

 

「ベッドの近くで倒れていたんですよ」

「…誰が?」

「お姉さまが、です」

「…私が、倒れた…?」

 

 頷くすみれを見ながら朝の自分のことを思い出す──が、わからない。確か、気合いを入れて着替えに手を伸ばしたところまでは記憶にある。

 

「なるほど…。で、今の私はどういう状態なんですか?」

 

 倒れたと自覚してからやたらと喉の奥が痛く感じるし、身体は先ほどから妙に重い。

 

「お医者様の話では『過労』からくる発熱だろう、と。発見が遅れていたら『肺炎』の可能性もあったが幸いそこまでは酷くはないそうです」

「意外な病名を聞いた気がします」

 

 『過労』…過労かぁ。今までこれほどまで精力的に動いたのは『あの時』以来かもしれないとはいえ、まさか過労…。

 

「疲れを侮ってはいけなかった、ということでしょうね」

「そうです。もっと、刹那お姉さまは、ご自愛ください…」

 

 ふと見たすみれは泣いていた。静かに、しかし涙は次から溢れるように頬を伝う。

 ───心配させてしまった。昨日、あんなことまで言ったばかりだというのに…。

 

「すみれ…」

 

 身体が重いことなど今は気にするな。とにかく無理やりにでも身体を起こす。

 

「お姉さま…!」

「すみれ…、おいで…」

 

 ベッドレストに背中を預けて、近づいてきたすみれを抱き寄せる。力が入りにくくはあるが、抱きしめられないほど弱ってはいない。

 なにより、私を心配して泣いてくれている妹をこのままになど出来ようはずもない。

 

「心配をおかけしました。貴女が私を見つけたから、貴女が今も私を見てくれているから、私はこうして貴女を抱きしめられる」

「刹那、お姉さま…」

「ありがとう、すみれ」

「──っ…。ふ、…ぅ、くっ…、ぅぇ…」

 

 静かに泣くすみれを入れられるだけの力で抱きしめる。寂しくないように、不安がらせないように…。

 

 ひとしきり泣いて気持ちも落ち着いたのか、イスに座り直して涙をふくすみれを見つつ、布団へと潜り直す。

 

「しかし、過労…。昔はもっと精力的に仕事に邁進していたというのに、この体たらく…。いや、仕事の時とは違った疲れがたまっていたとみるべきでしょうか…」

「お姉さま、せめて今日明日ぐらいはしっかり寝て身体を休めてくださいね。私が見張りに来ますから」

「見張りにって…。私はそこまで心配されるほどにすみれに信頼されていないと…?」

「そうは言いません。言いませんけど、無理して入院とかになったらどうするつもりなんですか。今回は大丈夫でしたが次も大丈夫かはわからないのですよ?」

「ごもっとも…」

 

 肺炎になっていてもおかしくなかったと言われていては反論することもできない。すみれが話を盛って脅している可能性もなくはないが、今の体調がすこぶるよろしくないのは自分の身体だからよくわかる。

 そうこうしているうちにあくびが漏れる。身体はやはり休息を欲しているということだろう。このまま目を閉じれば寝れてしまいそうだ。

 

「何か食べておきたかったですが…、眠気に勝てそうに、ありませんね…」

「今はそのままお休みください。明日には、動けるようになっているならご飯を用意します」

「…ふむ。すみれの手作り。楽しみに、寝ることにいたします…ふぁ…」

「…えっ、お姉さま?」

 

 眠いので寝ます。すみれが何か言っていますが気にせずに寝ることにしましょう。目を閉じた途端、引きずり込まれるように夢の中へと意識を手放した。

 

 

 

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