処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第33話 夏休み最後のイベント

 -刹那side-

 その日は朝から一部の寮生と茉理、美玲衣を集めてリビングにて最後の追い込み勉強会と銘打って宿題の残務処理をしていましたが…。

 

「花火、ですか?」

「はい。夏休みの終わりにある花火大会を皆さんで見ませんか?というお誘いに来ました」

 

 織女さんは顔を出すなりそう言った。どうやら毎年やっている花火大会へのお誘いをしに来たということらしいのだが…。

 自習をしている美玲衣や宿題をやっつけている茉理を見るなり、何故か膨れてしまった。

 

「──ですが、刹那さん。どうして私には勉強会のお誘いがきてはいないのでしょうか?」

「…いえ、密さんから聞いてはいませんか。連絡先がわからなかったので密さんにお願いしたのですが…」

「密さん?」

「…私は昼食の準備をしてきますね」

 

 笑って立ち上がるとそそくさとキッチンの方へと歩いていく。

 

「密さん!」

 

 少し怒った様子の織女さんが追いかけていった。連絡ミスがあったのでしょうね、密さんがし忘れた形で。

 

「密さんでもああいうミスはするのですね」

「まあ、夏休み中は私もそうですが密さんもそこそこに動き回ってる感じでしたから。茉理のヴァイオリンの練習監督に行ったりもしていたようですし」

「えへへ~。おかげさまでまだ宿題終わってなかったんだよね~」

「その話を早くに聞けてよかったですよ、茉理」

「なんというか、茉理はぶれませんね」

「茉理がぶれたらそれはそれで怖くありませんか、美玲衣?」

「…まあ、そうですね」

 

 和気藹々と勉強会が進む隣で、密と織女が花火大会についての詳細を詰めながら昼食の準備をしている。

 

「あちらもなんだかんだと仲良くなっていきますね」

「そうですね。ですが、照星が不仲よりはいいのではないでしょうか」

「美玲衣のいう通りですね。不仲よりは仲良くしている方がずっといい」

「刹那さんも、楽しそうですね」

「私ですか?──そうですね…」

 

 楽しい。でなければ、全力を越えて動きすぎた結果に夏風邪など引かないだろう。

 

「ええ、楽しいですよ。ですが、ほどほどにするようにします。また倒れても面白くありませんから」

「ふふっ。そうですね」

 

 ああ。楽しいですとも──

 

 

 

 ★

 

 

 

 夏休みも残りわずか。織女の予定通りに花火大会は会場からは離れた、風早グループ保有の花火を見るには理想的とされたビルの屋上へと来ていた。

 

「ビルの上ですと、この姿でもけっこう涼しいものですね」

 

 刹那が着ているのは闇色の着物。袖口は紐で絞って、目の前の鉄板で焼きそばを焼いている。

 

「こういうのもお祭り感が出ていいでしょう?」

「はい。ありがとうございます、刹那さん」

「いえいえ。当初予定の水着よりはこちらの方が皆さんにはよいと私が考えただけですから」

 

 刹那の近くでは桜色の着物を着てわたあめをかじっている織女と、茜色の着物を着て焼きとうもろこしをかじる密。2人に隠れるようにわたあめをかじっているのは薄緋(うすあけ)色の着物を着ている花。

 少し離れたところでレジャーシートを敷いて、藍色の着物を着た美海と紺碧(こんぺき)色の着物を着た月子が焼きそばをほおばっている。

 

「なんていうか、夏祭りの焼きそばって感じですね、お姉さま」

「ああ。刹那さん、本当にこういう料理も得意だよね」

「ええ。昔、少しやっていたこともありますから」

 

 紫紺(しこん)の着物を着るすみれとあやめはかき氷を機械で削り出していた。

 

「このような本格的なかき氷機はなかなかありませんわね」

「刹那お姉さま。これらはいったいどうやって用意なさったのですか?」

「食材等は織女さんに言って風早グループ関連から一括で卸していただきました。機材は、私のツテがありましたのでそちらの方から一日だけの約束で借りてきました」

 

 黒紅(くろべに)色の着物を着る鏡子と雪白(せっぱく)色の着物を着る千歳はミニカステラをかじっている。

 

「好きなだけ焼いて好きなだけ食べられる。これは良いものですね!」

「いいからもう少し落ち着いて食べてはいかがです。喉詰めますよ…」

 

 ハムスターよろしく、頬をパンパンに膨らまして食べる千歳の世話を鏡子がやっている様。

 

「しかし、刹那さん。これだけの珍しい配色の着物、よく集められましたね」

「美玲衣ちゃんのも綺麗だよね~。刹那さんのやつも綺麗だけど」

「ありがとう。茉理も似合っていますよ」

 

 団扇片手に佇むのは白緑(びゃくろく)の着物に身を着る美玲衣と籐黄(とうおう)の着物を着て、割りばしを持っている茉理。今焼いている焼きそば待ちの様子。

 

「昔から仕事で物品要求すると私が女性あるからか質の良い布を送られることが多かったもので。売るには惜しい色ばかりなのでせっかくですし、天形御用達の者へ納品していたら大抵は着物へ変わって返ってきましたから。たまに小物類になって返ってきましたが」

「天形SPってそんなに手広く経営していらっしゃるのですか?」

 

 織女にとって天形SPは正しくボディーガードの家なのだろう。それは正しくもあり、しかし少し間違いでもある。

 

「いいえ。基本的には護衛や警備業だけですよ。しかし、そうやっているといろいろな相手と知り合い、また懇意になることも多くあり。結果として多くの業種の方々と横の繋がりを持つようになっているだけですよ」

「なるほど。本来であれば知り合うことのない相手とも会話する機会は必然的に増えているのですね」

「そうですね。そうやっていると知らぬ間に意外な相手と知り合うこともあります。直近で言うなら父上が風早グループ総帥の風早幸敬氏と知り合いであった、ということでしょうか」

 

 旅行後に確認したのだがどうやら外国であった護衛任務中に依頼者が『同じ日本人。縁を結んでおいて損はない相手だから』と引き合わせたらしい。

 家を利用する依頼者はこういったお節介焼の方が多い。

 

「そういった縁があるのは良いことですわね」

「そうですね。…と、茉理。焼きそば出来上がりましたから好きなように取りなさい」

「わーい!さっきからすごく美味しそうな匂いがただよってて待ち遠しかったんだ~」

 

 紙の皿に欲しいだけ焼きそばを盛った茉理が設置されているテーブルとイスへ向かって歩いていく。刹那も皿に焼きそばを盛って食べる。

 

「…ふむ。もう少し麺を焦がしても美味しかったかもしれませんね」

「研究に余念がありませんね、刹那さん」

 

 織女は密の元へと帰っていて、入れ替わりで美玲衣が近くに来ていた。

 

「私がいただいても?」

「ええ、どうぞ。好きなだけ食べてください」

 

 皿に焼きそばを盛ると刹那の隣で食べる。

 

「美味しいですよ」

「ええ。もっと美味しくできるかも、というだけですから」

「刹那さんは、毎日楽しそうですね」

「そうですね。楽しみ過ぎて夏風邪引いたくらいなので否定できません。ですが、実際に今年はとても楽しいですよ」

「去年まではそうでもなかったですか?」

「ふむ…」

 

 なんだかんだと楽しんではいただろう。では、今年は──?

 

「一人よりも二人、二人よりも四人。一人でも楽しくはありましたが、やはり大勢で何かをする方が楽しいのですよ」

「…なるほど。確かに、そうですね」

 

 ここにいる人の大半は去年まではこうした友人達との遊びなどは無縁だったものが多い。夏休み中などは特にそうだ。

 だが、今年は旅行に行ったり、寮で勉強会をしたり…、今までとは違った夏休みを過ごしている。そう思えば、今年はとても充実している。

 

「二学期からも、いろいろと楽しくなりそうですね」

「…そうかも、…いえ、きっとなるんじゃないですか」

「あっ、始まったよ~」

 

 夜空を照らし始めた花火を刹那は茉理と美玲衣の二人と並んで見上げていた。

 

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