-刹那side-
二学期が始まってみても学院での生活そのものは大きくは変わらない。いつも通りに授業があり、違うところといえば夏休みに皆が行ってきた旅行先のお土産交換くらい。
時間は過ぎていき気がついてみれば放課後。本日は二学期初めの照星会合の日。
「では、皆様。二学期に入りましたがこれからもよろしくお願いいたします」
「まずは、二学期にある行事とそれに関係する事柄を簡単にではありますがご説明いたします」
奉仕会会長のすみれのあいさつから副会長の深夕の二学期にある各行事に関する説明。わかりやすくまとめられていて聴いている側からはとても良い説明といえます。
「ふむ。今年はどんな感じになるのでしょうかね」
「ところで、なぜ千歳さんまで居るのでしょうか?」
私は皆から少し離れた位置に座っていましたが、なぜか隣にはメモを取る千歳が座っている。
丁寧なことにちゃんと紅茶のカップも置かれている。
「いいではないですか、刹那お姉さま。二学期はいろいろな行事が目白押し。これを生徒達に伝えずして何が新聞部か!」
「紛れ込んでいることに言及しているのです」
そのまま襟首を掴んで部屋の外へと放り出す。扉の向こうから何か聞こえるが相手にはしない。
「しかし、いつの間に入り込んでいたのでしょう…」
「相変わらず千歳さんは神出鬼没ですわね」
「いい加減慣れました」
照星は三者三様の反応。美玲衣に至っては驚いてすらいない。
「というかですね。千歳さんの扱いは鏡子さんの領分では」
「勝手に担当にしないでください」
勝手にもなにも、最近は仲良くしていることが多いので…。
「まあ、彼女はいつも通りですので気にしない方向で行きましょう。二学期の行事については説明の通りですが、大丈夫でしょうか?」
勝手にワイワイ騒いでいる間も深夕さんは説明を止めなかった。こちらも聞き流しはしていたが、聞き取れていないわけではないので照星共々全員が頷く。
「では、続けて投書箱の方の開封に移ります。あやめさん」
「はーい。それでは~」
蓋を開けると箱からかなりの量が出てくる。
「大半は照星へのファンレターですわね。議題に挙げられるものは…これですわね」
あやめが読んだのは『食堂とは別に自販機を学内に設置することはできないか?』というもの。
「これは…どういう意味でしょうか」
「夏休み中は食堂及び購買が閉鎖されていますから、その代替として…ということでは?」
「今年も入っていましたか…」
「懲りない生徒がいるよねぇ…」
照星達は珍しそうにしているが、私や美海はため息しか出ない。その様子に照星三人の目がこちらに向いた。
「いきなりぶった切りましたね。これは毎年のことなのですか?」
「少なくとも、私が照星とやり合った期間は毎年夏休み明けに入っていましたね」
「つまり、今年で三年連続ですか。執念ですね」
美玲衣は感心している様子だがこちらとしては呆れるしかない議題だ。
「そもそも夏休み中に購買や食堂が閉鎖されているのは全生徒が共有できている情報です。あと、部活動に来ているというのになぜ飲み物が用意出来ていないのか…」
「なるほど。確かに刹那さんの言う通りですね。学院内の買える場所が無いのはわかっているのに飲み物を持ってきていないのは確かにおかしい」
「そうですね。それに、自販機を一度置いてしまえば撤去するのは難しくなります。食堂の利用率が下がらないとも限らないでしょうか」
こちらの言わんとしていることがわかっているのか美玲衣が説明に補足してきた。
「で、あるなら。わざわざ自販機を置くというのは理に叶いませんわね。自らがしっかりと準備をすればどうにかなるようなことを行わないのはあまり利口ともいえません」
「では、照星としましては『自販機は設置しない』でよろしいでしょうか?」
三人が頷くのを見てすみれは頷く。それを確認したあやめは次の議題へ移るために新しい投書を手に取る。
「では、次ですわね。次は…聖歌部から『諸事情でオルガンを弾ける方を探しています。どなたか伝手はありませんでしょうか』ということですが…」
「オルガンなら、茉理さんでしょうか?」
織女が茉理に話を振るも、本人は腕を組んで唸る。
「うーん…。聖歌部ってことは、オルガンって『パイプオルガン』のことだよね~?」
「はい。礼拝堂にあるパイプオルガンのことだと思われます」
「となると、私には無理かなぁ~。普通のオルガンとはいろいろと勝手が違うんだよね、パイプオルガンの場合…」
「そうなのですか?同じように思っていましたが…」
「パイプオルガンって基本的にはパイプの中を通る空気の振動で音を出すから、弦で鳴るオルガンとかとは音色がまるで違うんだ。弾けなくはないけど、聖歌部の求める人材とは私は合致しないと思う…」
「なるほど。専門家の意見だとよくわかります」
「…刹那さんは弾けませんか?」
美玲衣がこちらを見て言う。しかし、私が返事をする前に茉理が美玲衣の肩を叩いていた。
「美玲衣ちゃん。誰にでも向き不向きはあるんだよ」
「「「「「えっ?」」」」」
象牙の間の中で茉理以外の全員が意外そうにこちらを見ている。
「前に刹那さんのヴァイオリンとかピアノとか聴いたことあるんだけど、初心者でももう少しいい感じに弾けるよね~ってくらいに下手で──せふぅなさ~ん、いひゃい~」
「人の不得手を扱き下ろす悪い口はこれでしょうかね~?」
茉理の頬を思いきり潰したり引っ張ったり。涙目で抵抗する茉理を無視して罰を継続。
「意外なことを聞いた気がします…」
「織女さん。私とて万能超人ではありません。不得手なものも一つくらいあります」
楽器に関しては自分でも驚くほどに相性が悪い。両親にも肩を掴まれて『諦めなさい』と諭されたほどだ。
そんな中、密さんがおずおずと手を上げた。
「私は弾けますが…」
「──織女さん。超人とはこういった人のことを言うのです」
「いえ、私も超人とまでは…」
私クラスに勉強できて運動も追随できるほど。更には楽器も弾けるときた。これを超人と言わずしてなんと言う。
「物を見てみないことには確かなことはいえませんがパイプオルガンならなんとかなると思います」
「では、聖歌部のオルガンの代打は薔薇の宮、お任せしても?」
「ええ。承ります」
「あとは…これ、ですわね!」
最後の議題。要約すると『とある女性を好きになってしまったようだがこの気持ちはどうしたらいいのか?』というもの。
当然ながら室内の人間は固まっている──私と茉理、すみれを除いて…。
「こ、こういう案件も入るのですね…」
「ま、まあ、確かに投書の中味を限定はされていませんものね…」
照れたように頬を赤らめた織女と美玲衣は視線が泳いでいる。
「この案件は、どうしたらいいのでしょうか。手紙の中を見るかぎりでは解決してほしいという感じでもなさそうですが…」
「ひ、密さんは落ち着いていらっしゃいますのね…」
「そ、そう見えますか?」
私から見るかぎり、密さんは手紙の意味を深く理解はしていない。そも、女性が女性を好きになるということは理解しにくいし、されにくいのもよくわかる。
───だからすみれ。私の顔を凝視するのは止めなさい。『お姉さまなら答えられるでしょう』みたいに見ない。
「ところで、すみれさんはどうして刹那さんを凝視しているのですか?」
鏡子さんからごく当たり前の質問。私はどうするべきかと茉理に視線を送る。茉理は赤くなった頬──他の人とは違う理由──をさすりながらも小さく笑う。『任せた』という感じでしょうか。
「そうですね。夏休み中からですが、私は茉理と付き合っています」
「「「「「えっ?」」」」」
再び凍る空気。すみれと密は除く。
「まあ、付き合っていますと言っても『お互いに遠慮はしない』と約束しているような関係で、決して『◯◯しまくっている』だとか『◯◯◯してみたいよね~』みたいな関係ではありませんよ」
念のために伏せておきましょう。意味があるかはわかりませんが。いち早く回復したのは織女。
「それは、親愛という感じでしょうか…」
「そうですね。それに近しいものではないでしょうか。もちろん、私が茉理に甘えることもありますし、茉理が私に甘えることはありますよ」
「刹那さん、甘える時はこっちのお腹辺りに頭をぐりぐりこすりつけてくるよね~?」
「茉理。そういうことはこういう場で暴露しないでください。さすがに恥ずかしいので…」
周りは未だに固まっているが、議題について意見を述べるのであれば──
「この手紙の主が望む答えは返事ではなく、吐露したかっただけかもしれませんね。解決を望んでいる雰囲気の手紙ではなさそうです」
「そう、ですね。とりあえずこちらに関しては保留しましょう。よろしいですね、会長?」
「えっ、あ、はい。そうですね」
密からの確認にすみれは少々しどろもどろだ。まあ、私のこともありますから仕方ないでしょうね。
──それに、このあとキミリア館にはもう一つの行事が待っていますからね。