処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第3話 雨水刹那

 -刹那side-

 自身の部屋に帰ってきた刹那は机に向かうとスマホを取り出して電話をかける。

 コール音は続き、十数回を越えたところで相手が出た。

 

『すまない。出るのが遅くなってしまった』

「いいえ。忙しい時間なのは知っていましたが、今ぐらいしか時間が取れませんでしたので」

『そうか。そう言ってくれるとこちらとしても気が休まるよ、刹那』

「まあ、休めてばかりもいられませんから。さっそく本題に入りますがよろしいですか、父上?」

『ああ。報告を頼む』

 

 『父上』と呼んだ相手は電話口にも関わらずこちらに適度な緊張感を与えてくれる。

 

「どうやら尽星グループが何かしら動いてはいるようです。とは言うものの、鏡子さんは去年から居ましたし、密さんがパートナーだとしても…」

『ふむ。何か大がかりなことをしでかそうという感じではなさそうかい?』

「はい。どちらかと言えば、織女さんの護衛強化といった感じですね」

 

 電話口がしばらく無言になる。しかし、それも数秒のこと。

 

『そうか。となれば、うちの商売が関わることはなさそうだね。すまないな。学院生活を満喫していただろうにいきなりこんなスパイじみたことさせて』

「べつに問題はなかったですけど…。偶然にも密さんは寮に入ってくださりましたし」

『手間がかからなかったのなら僥倖だよ。では、もし何か問題があったりしたら連絡してくれ』

「はい。ところで、夏や年末はどうなりそうですか?」

『そうだな……年末はまだわからないが夏は仕事が詰まっていて動けなさそうだ。母さんの方も似たり寄ったりだろうね』

「わかりました。夏は変わらず、ですね」

『すまないな。家族の団らんが年末年始ぐらいしかなくて…』

「気にしていませんよ。そもそも、私が寮に入らなければよかったのですし」

『それはいけないよ。刹那が電車通学なんて』

「それは、どういう意味でしょうか?」

『万が一にでも刹那から『痴漢にあった』なんて聞いた日には犯人を市中引回しにして火炙りにしても許せそうにないからだよ』

 

 我が父上ながらこういうことにはやたらと過保護なのはどうにかならないものか。そもそもの話──

 

「仕事仕込みの私に痴漢しようものならその場で叩き潰しかねませんが…」

『たとえそうだとしても親としては許容できることではないのだよ』

 

 そう言われてしまうと刹那としては返す言葉がない。せいぜいそういうものなのだと納得するしかない。

 

『では、そろそろ仕事に戻らなきゃならないから切るよ。たまには母さんの方にも電話してあげてくれ』

「わざわざ個別に電話せずとも傍にいるのでは?」

 

 おそらくだが、母上は父上の隣でこの電話をスピーカーモードにでもして一緒に聞くぐらいはしていそうだ。

 

『いや、今日は本当に居なくてね。私だけ刹那と電話していたとわかったらむくれるんだよ』

「子どもですか、あの人は…」

 

 まあ、そもそも自分が寮に入ることも母上の方が渋っていたくらいだ。確かに父上とだけ電話していたとなると羨ましがって最終的にはむくれるか自分からこちらに電話してくるだろう。

 もしそうなったらこちらの時間を考慮してくれるかもわからない。

 

「わかりました。また折を見て母上にも連絡するようにします」

『よろしく頼むよ。じゃあ、失礼』

 

 電話が切れる。軽く息をついて時計を見るともう11時を過ぎようかという時間だった。

 

(そういえば、お風呂ぐらいは入らないと…)

 

 面倒な気はするが入らないわけにもいかない。入浴セットを持って浴場へと向かう。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 浴場に着いて億劫そうに刹那は服を脱ぐ。ふと、すりガラスの向こうに人影が見える。

 

(珍しい…、と言いたいけど月子か美海さん辺りかな)

 

 二人はネットゲームなどやっていると平気で徹夜をする。だから、こういうギリギリの時間に入っていることも珍しいことではなかった。

 

(まあ、たまには他の人とも入りたいし…)

 

 扉を開けるとそこにいたのは──

 

 

 

 ★

 

 

 

 -密side-

 夜半遅く。浴場の湯が冷める前に鏡子と入りに来て、鏡子からは女体に慣れる必要があると二人で入っていたが、不意に真っ赤になった鏡子は飛び出してしまった。

 

(悪いことをしましたね…)

 

 自分の言葉で恥ずかしい思いをさせてしまったようで。とはいえ、せっかく一人になれたのだしもう少しゆっくりと入ることにして密は寛いでいた。

 そこへ、浴場の扉が開く音が響く。鏡子が帰ってきたのかと視線をやって密は固まった。

 

「…おや?入っていたのは密さんか」

「せっ、せつな、さん?!」

 

 扉を閉めて歩いてきたのは一糸まとわぬ刹那だった。

 身長があるためかその細身の身体はモデルのようであり、しかし適度に筋肉もついているようでアスリートのようにも見えた。

 ただ、当然ながらタオルで身体を隠したりしていないものだから見えていてはいけないものもいろいろと丸見えだった。

 

「密さん、大丈夫かい?顔真っ赤だけど」

「えっ、ええ…。大丈夫、ですよ?」

 

 ゆっくりと視線をそらした密に刹那は気にすることなく身体を洗いに洗い場へと移動した。

 すぐにあがるべきだったが、こうなると密としても上がりづらくなってしまった。

 

「密さんはこういう大衆浴場みたいなお風呂はあまり経験がないのかしら?」

「そ、そう…ですね。あまり、そういうところには行きませんから」

「なるほど。だから、恥ずかしそうなんですね。──とはいっても私の貧相な身体を見て顔を赤らめるようなものですか?」

「ひ、貧相なって…。その、モデルみたいにしか見えなかったんです」

「ああ。開けっ広げ過ぎましたかね?私としては自分の身体が見られることをあまりどうこう思わないものでしたから」

「そ、そうなんですか。その、恥ずかしいとは思いませんか?」

「あまり、思いませんね。私、昔からその辺りは無頓着でしたし」

 

 身体を洗い終わったのか、密の隣に刹那が入ったことで密はいよいよ動けない。

 顔を真っ赤に染めて、刹那の身体を見ないように視線をそらす。

 

「まあ、お風呂で寛げないのはよろしくないでしょうしね」

 

 そう言って刹那は目を閉じる。

 

「見られるのが恥ずかしいということでもあるのでしょう?今なら私は目を閉じておきますから上がってはいかがでしょう?」

「あっ、ありがとうございます」

 

 密は刹那の様子を見ながらも浴場の扉を開けて脱出した。そこでようやく密は息をつく。

 

「なんというか……今日はとっとと寝よう」

 

 ネグリジェにも諦めて着ると密は部屋へと帰ってきた。部屋を見る度にげんなりするが、ベッドに寝転んでみるとふかふかで寝やすそうではある。

 

「これは……先が思いやられる1日だった気がする…」

 

 ベッドに潜り込み、目を閉じるとすぐに眠気がきた。思いとは裏腹に今夜はよく眠れそうだった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -刹那side-

 浴場から戻ってくるとベッドに寝転ぶ。

 先ほど一緒にいた密の様子を思い出すと笑いが止まらなかった。

 

「なんというか、不思議な人だね…結城密さんは」

 

 彼女が転校してきた理由は調べたから知っている。それでも、今日一日の様子を見るかぎりでは護衛というよりは純粋に学生生活を楽しみに来たようにしか見えない。

 あと、夕食はとても美味しかった。自炊はよくしていたとはいえ、あれほどの料理技術は刹那は身につかなかった。

 

「まあ、それもそうか。私自身、誰かのために料理を作ったりはしていない。ここに通っているのも学生生活を謳歌したいからって日本に帰ってきたためなんだし…」

 

 昔から一緒だった同僚達と比べても仕方のないこと。

 明日から、どんな日々が待っているのか。寝る前にも関わらず今から楽しみで仕方ない刹那だった。

 

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