処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第40話 一時入寮

 演奏会の打ち合わせに少し付き合って。寮に帰って夕食を食べ終えた頃に茉理から電話が入る。

 

『もう、急にびっくりしたよ~』

「ですが、良かったでしょう?」

『…うん。ありがとうね、刹那さん』

「お礼を言われるようなことでもありませんよ。どうにも私にも縁のある方でしたから」

『どういうこと?』

 

 応接室であった話を話すと電話口で茉理が笑っているのが聞こえる。

 

『刹那さんってなんだかんだといろんな人と仲良くなれることしてるよね』

「そうなんでしょうかね?自分ではよくわかりませんが…」

『刹那さんらしいなぁ~』

 

 茉理としばらく電話で話し、きりのいいところで電話を切ると入浴セットを持って風呂場へと向かう。

 浴場の扉を開けると予想していた人物は湯船に浸かっていた。向こうはこちらを見るなり少し頬を赤く染めて顔をそらした。

 

「いい加減慣れてはどうですか、密さん」

「あのですね。無茶言わないでください」

「無理を言っているつもりはないのですがね」

 

 身体をサッと洗うと密の隣へと浸かる。

 

「それで、そちらの聖歌部の問題は解決しましたか?」

「刹那さんも何か知っているのですか?」

「いいえ。そちらは織女さんや美玲衣さん、鏡子さんも動いていたようなので気にしないことにしていました。私が口出しするような話なのかもわかりませんでしたし」

「…はい。ひとまず、解決いたしました」

「そうですか。でしたら、これ以上の詮索はしないようにしましょう」

「そうしていただけると助かります」

 

 お互いにゆっくりと身体を温めるとそれ以降は大した話もせずにあがることにした。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -美玲衣side-

 学院に出てきてからため息が止まらない。別に嫌なことがあったとか苦労話があったとかそういったことではないのだが、最近は特に疲れることもなかったはずなのですが…。

 

(無意識に何か疲れるようなことを感じている…?)

 

 それならなおのことわからない。自分が何に疲れているのかわからないというのに、それを考えているのはどうすればいいのか…。

 図書室で読書をしているのに内容がまったく入ってこない。今日はもう切り上げて教室に戻るか…。

 

「美玲衣さん」

「えっ?あっ、密さん」

 

 本から視線を上げた先には密がいた。手には数冊の本を持っているので、何か借りに来たのでしょう。

 

「どうかしましたか?」

「何がでしょうか」

「いえ。ひどく、苛立っているように見えたものですから」

 

 苛立っている、か。間違いではない。今は少し虫の居所が悪いのは事実だ。

 

「少し、問題がありましたから…」

「問題、ですか」

「ええ。といっても、別に深刻な問題でもありません。ただ、少し憂鬱にはなる話なだけです」

「何か、手を貸す必要などはありますか?」

「…いえ。密さんの手を貸していただいたりするような話ではないですね」

 

 そう。人を頼るような話ではない。

 

「そうですか。もし、力になれるようでしたらいつでも声をかけてください」

「はい。ありがとうございます。そろそろ、行きましょうか」

「ああ。今日は会合の日でしたね」

 

 ──そうして、いつも通りの象牙の間にやってきて、いつものように雑談に興じる。何も無ければこうして時間は過ぎていく。

 しかし、今日は少し珍しいことを聞いた。

 

「寮生活、ですか。織女さんが…?」

「はい。二学期からですが」

「急にまたどうして…」

「そうですね。密さんや刹那さんのお話を聞いていると楽しそうだったから、でしょうか」

 

 『楽しそう』ということだけで寮生活をスタートさせるというのはどうなのでしょう。というよりこのような中途半端な時期からでも入寮とはできるものなのでしょうか?

 

「まあ、姫の場合は一族の権力によるごり押し入寮だけどね」

「一時入寮でしたら、書類を用意すれば一般生徒でも可能な話ではありますが、このような時期の入寮は本来であればあり得ません」

 

 やはり、風早の力による中途入寮ですか。しかし、一時入寮というシステムもあるのですね。

 

「しかし、織女さんのような方が寮生活というのはなかなか大変なことなのでは?」

「そうですね。多くの場面で未だに戸惑うこともありますが、それも含めて寮生活は楽しんでおりますわ」

「まあ、寮生活だというのに、まともな自活をしているのは私や密さんぐらいですが」

「どういうことですか?」

 

 周囲の他の人を見るがことごとく視線を外される。織女さんも追及されたくないのか、目線を外した。

 

「料理できる人が私と密さんぐらいなんですよ」

「ああ、なるほど。しかし、それでは学院の理念的にもどうなのでしょうか。元は花嫁修業の側面のあった学院ですしね」

 

 私の言葉に密さんと刹那さんは苦笑い。肩もすくめている。他の面々はそれぞれに視線をそらす。

 しかし、織女さんだけは様子が違った。

 

「──しかし、そう言われるということは美玲衣さんも料理はできるということですよね?」

「え、ええ。他人に食べさせられるようなものはさすがに作れませんが…」

 

 自分だけで簡単に済ませてしまえる程度のものなら私でも作れる。

 

「料理ができる人はみんなそう言うのです」

「鏡子さん。私や美玲衣さんも最初から料理ができていたわけではないんですよ」

「密さんはできる側だからそう言えるのです」

「でしたら、美玲衣さん。今度、私たちにご飯を作ってくださいませんか?」

「…は?」

 

 いえ、どうしてそんな話になるのかよくわからないのですが。

 

「刹那さんや密さんの料理の腕前は私達には到底どうにかなるようなレベルでないのは日頃のご飯から把握しています。ですが、美玲衣さんは先ほど『他人に食べさせられるほどのものはできない』と言っていましたから、それがどの程度のものなのか見せてはくれませんか」

「…そこまで密さんと刹那さんのご飯は美味しいということですか」

 

 こう言われてしまうと気になります。そういえば、茉理からも何度か刹那さんの料理についてお話を聞いていましたね。

 そこで、織女さんが何か思いついたように手を叩いた。

 

「そうですわ。美玲衣さん、先ほど出ていた一時入寮。あれをなさってはいかがでしょう」

「「えっ?」」

「えっと…一時入寮、ですか。しかし、そんなに簡単にできてしまうものなのですか?」

 

 奉仕会会長であるすみれさんを見ると、隣にいたあやめさんが書類を持ってきていた。

 

「こちらの書類一式に必要事項を記入の上、奉仕会に提出していただければ後はこちらで手続きいたしますわ」

「あやちゃん、いつの間に…」

「ふふん。こんなこともあろうかと、お話の最中に奉仕会室から用意してきておきましたの」

 

 こういう時は用意がいいですね。書類に目を通すが、特に面倒な手続きなどはなさそうですし…。

 

「それでは、今週末からでもお願いできますか」

「はいはい。書類受け取り次第、準備しておきますわ」

「美玲衣さん、よろしくお願いしますね」

「刹那さん。はい、よろしくお願いします」

 

 少し離れたところで密さんと鏡子さんが天井を仰いでいますがどうかしたのでしょうか?

 

 

 

 ★

 

 

 

 -密side-

 寮へと帰る道すがら。密は鏡子、刹那と密談していた。

 

「どうしましょうか?」

「美玲衣の一時入寮をですか?別に構わないでしょう。早々にバレるとも思えません」

「刹那さん。この密さんですよ」

「鏡子さん。どういう意味ですか」

「まあ、美玲衣にも何か理由があるのでしょう。でなければ、あんな風に即決するとも思えません」

「そうですね」

 

 図書室で会った時も感じたが、美玲衣さんはなにやら機嫌が悪そうでした。それが、一時入寮を決めてからは少し落ち着いたようにも見えましたし…。

 

「なんにせよ、これ以上バレないようにお願いします」

「それはわかってます」

 

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