処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第41話 引き継ぎ

 週末に美玲衣さんの一時入寮を控えているなか。今日は定期の集合の日ではあるが、特に大きな問題などもなく、象牙の間に集まった面々はそれぞれに思い思いのことをしていた。

 そこへ、奉仕会室へと繋がる扉が静かに開くと、あやめさんがこそこそと入ってきた。

 

「あやめさん。どうかなさいましたか?」

「すみません、宮様方。少しの間、匿ってほしいのですわ」

「匿う?」

「はい。失礼いたしますわ」

 

 そのままピアノの向こう側へと姿を隠してしまった。少しすると今度は深夕さんが姿を現した。

 

「申し訳ありません、宮様方。こちらにあやめさんは来ておりますでしょう」

 

 密は美玲衣、織女と視線を交わす。どうするべきか逡巡していたら──

 

「バカなことはせずにとっとと行きなさい」

「…うぅ。刹那お姉さま、こういう時は容赦ありませんわね…」

 

 茉理のピアノを聴きながら読書していた刹那さんがあやめさんの首根っこを掴んでピアノの向こう側から運んできた。猫扱いでしょうか。

 

「刹那お姉さま。お手数をお掛けいたします」

「いいえ。しかし、なぜあやめさんはこちらに逃げてきたのでしょうか」

「はい。今は二年の修学旅行の関係で奉仕会の仕事を一年側へと引き継ぎをしているのです」

「ああ、もうそのような時期でしたか」

「はい。では、あやめさんは引き取らせていただきます。宮様方、失礼いたしました」

「ちょっ、深夕さん?せめて引きずらないでほしいですわ…」

 

 首根っこを掴まれた状態で渡されたあやめさんがそのまま首根っこを掴まれた状態で引きずられていった。

 扉が閉まったところで、茉理がテーブルの方へと来た。

 

「そっか~。もう修学旅行の時期なんだね~」

「この時期は奉仕会は大変ですからね。なにせ、一年のみで回さねばなりません」

「それは、どのくらい大変なのでしょうか」

「そうですね。少なくとも処理すべき案件は減らないというのに処理できる手が半分になるようなものですね。去年、私は千歳を脅───…お願いして手伝ってもらいましたが」

 

 刹那さん。今『脅して』って言いかけましたよね。美玲衣さんや織女さんも聞こえていたようですが、スルーするみたいですね。

 

「そうなると、照星も忙しくなると思った方がいいのでしょうね」

「いいえ、美玲衣さん。照星がやるべきことは不測のトラブルの解決に尽力してください。基本的な仕事は今、深夕の言っていた通り引き継ぎをしています──が、毎年のことですがこの時期はトラブルが妙に増えるらしいのです」

「トラブルが、増える…?」

「なぜかはいまいちわかりませんがね」

 

 肩を竦める刹那さんに、美玲衣さんや織女さんは少し驚いている様子だ。

 

「とりあえず、照星側でトラブルを作らないようにだけ気をつけていればいいですよ。トラブル作りな私が言っても説得力がないのはわかっていますが…」

「自覚あるんですね、刹那さん」

「ありますとも。しかし、織女さん。貴女には言われたくありません」

 

 密は苦笑いする。仕方ないとは思うものの、苦笑いが浮かぶのは仕方ないと思ってほしい。ふと、隣を見ると美玲衣さんも苦笑いしていた。

 

「密さん。顔が笑っていますよ?」

「美玲衣さんこそ。他人のこと言えないぐらいににやけていますが…?」

 

 二人で苦笑いしていると振り返った織女さんがこちらを向いてふくれている。

 

「どうして二人は笑っているのですか」

「どうしてと言われますと…」

「そう、ですねぇ…」

 

 結局のところ、ごまかすために苦笑いしているしかなかった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -鏡子side-

 本日は本来であれば象牙の間に顔を出すべきなのだが、千歳さんが何やら話があるとのことで中庭へと足を運んでいた。

 座って待っていると千歳さんの姿が見えてきた。

 

「珍しいですね。貴女が普通に現れるとは」

「なんですか。まるでいつもは不思議な現れ方をするような言い方をしますね」

「普段の行いを省みてから発言しなさい」

 

 いつの間にか隣に座っていることなど当たり前。木の上から飛び降りてきたりする相手が普通に歩いてきたのですよ。珍しいと言って何が悪いのか。

 

「──それで。本来の方をキャンセルさせてまで私を個別に呼び出した理由はなんでしょうか?」

「そうですね。本題に入りましょう。実は週明けから私達二年生は修学旅行に行くわけですが」

「…ああ、もうそんな時期でしたか」

 

 この時期はトラブルが絶えない。とはいえ、目の前のトラブルメーカーが減るのですし、今年は静かに過ぎるといいですね。

 

「なにやら小バカにされた気がするのですが…」

「気のせいですね」

「まあ、私のことは気にしないでいいです。修学旅行の方へと行ってしまえば学院に迷惑をかける方法はありませんから。ですが、問題はあります」

「ええ。そうですね」

 

 なにせ、新聞部には三年の真紗絵さんがいる。

 

「しかし、それほどまで気にする必要はないと思うのですが」

「そう思いたいですが、今年の照星は例年よりも良きメンツがそろっていますし、それに比例して一年や二年におけるファンの数もしのぎを削るほど。これがトラブルの種になるかもしれません」

「ファンがトラブルの種になるのはわからなくはありませんが、そう簡単に起きるとは思えませんが」

 

 そもそも宮ごとにファンクラブという名の派閥が出来ているのは知っている。しかし、この派閥はそれぞれにぶつからないように意外にも動いている。

 まあ、不用意なトラブルは各宮に負担をかけることになるので派閥内で牽制のようなものが起きるのだろう。

 

「まあ、派閥が真っ向からぶつかるようなことはありえないでしょうが、問題は別のトラブルが起きた時に派閥がぶつかる可能性があるんです」

「別のトラブル、ですか」

「はい。というのも、毎年この時期だけはあらゆる中核を担う二年が抜けてしまう関係か、部活動間などでトラブルが発生すると『やれあのトラブルは○○派閥の差金で~』、『あの言いがかりは彼女が○○派閥にいるからだ~』などといった別口のトラブルに発展するんです」

「それは、なんといいますか…」

 

 おそらく、照星制度によって発生してしまう必然性の事案というやつなのでしょうか。確かに照星というのは一般生徒──特に一年生から見れば『雲の上の存在』になってしまうのかもしれませんね。

 

「まあ、そういうわけで。この時期だけは照星に関するトラブルが発生しやすいんです。毎年、奉仕会の方でも何かと対策はしているようですが、いかんせん何が引き金になるのかわからない事案ですから」

「わかりました。こちらとしてはトラブルがないに越したことはありませんし、その忠告、頭の隅にでも入れておきます」

「そうしてください」

「しかし、千歳さんも何かと世話焼きですね」

「えっ、そ、そうですか?」

「ええ。こういった情報は新聞部では使えないとはいえ、わざわざ私達に教えにくる必要もないはずですが」

「ああ~。まあ、普通に考えればそうですね」

 

 ということは、何かしらの見返りがあるということでしょうか。

 

「鏡子お姉さま。なにやら考えているようですが、違いますからね。今年の宮様方はそれぞれに何かと重責を背負っている方ばかり。精神的な負担は今までの照星方よりも多いことと思います。途中で潰れてしまうのは私の本意ではありませんので」

「彼女達も新聞部のネタ提供のために照星をしているわけではないのですがね」

「ええ、そうですね。しかし、週末から美玲衣お姉さまが一時的に寮に入るとも聞き及んでいます。また楽しそうなお話、鏡子お姉さまから聞けることを期待していますよ?」

 

 やはり知っていたようですね。それにしてもどこからこういった話はこの子に漏れているのでしょうか。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -千歳side-

 鏡子お姉さまとお別れしてから家路を歩く。今日も今日とてお姉さまと楽しく話せたことはいいものだった。

 

 ───私が『この気持ち』に気がついたのは密お姉さまの水泳授業の際に奔走していたときだ。

 他人を陥れてしまうような記事はいつかきっと取り返しのきかない事態を誘発してしまう。それが、その人の人生を大きく狂わせてしまうことだってある。

 

 ──私が家族を失った事故。

 

 調べていくうちに、あの事故はどうやら同業の者に仕組まれた事故だということを知ってしまった。

 とは言うものの、相手方も殺すつもりはなく『少し手荒い脅し』のつもりだったらしいこと。事故を知って苦悩し、私が知り得た頃には自殺してしまっていたこと。

 私にもその同業の者にも『あの事故』は人生を大きく狂わせてしまうものになってしまった。

 

 もちろん、学院内でここまで酷いことになるとは思わない。でも、きっと傷つく人が出てきてしまう。

 

 ───だから私は奔走した。悲劇など、どこに転がっているかなんてわからないから。

 

 ───だから、疲れ果てていた時に、鏡子お姉さまが膝枕をしてくれたことは嬉しかったし、その…私にはとても他人には言えない『気持ち』を持っていることを知る機会にもなってしまった。

 

 

 だから、私はまた鏡子お姉さまに会いに行く。『この気持ち』に嘘偽りがないのはわかるから。

 

 ──私は、鏡子お姉さまに『──している』のだから。

 

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