-美玲衣side-
週末。数日分の衣服を旅行鞄に詰めて私は学院の寮の前にいる。今日から少しの間ではあるが、ここでお世話になる。
「ようこそ、美玲衣さん」
「美玲衣お姉さま、ようこそいらっしゃいました」
「すみれさんは寮長なのでわかりますが、刹那さんはなぜ一緒に?」
「いえ。休日ですが茉理は忙しく会えないとのことなので暇潰しです」
暇潰しですか。相変わらず自由な人ですね。
「まあ、半分冗談ですよ。荷物、持ちますね」
「えっ、いえ、そんなにありませんし…」
「気にしないでください。部屋まで運びますよ」
「それでは、美玲衣お姉さま。中をご案内いたします」
こちらの手からさっさと旅行鞄を引ったくるとすみれさんを先頭に寮の中へと入る。
「今日は皆様お出かけしていたりとほとんどの方が出払っていて、今の時間は私と刹那お姉さましかいらっしゃいませんが…美玲衣お姉さまは皆のことはよくおわかりかと思いますので説明は大丈夫ですね」
「そうね。普段から顔を合わせる方々ばかりですし」
「では、寮内の案内の前に、お部屋にご案内いたします」
階段を上がり、とある一室を開ける。最低限の家具やテーブル、メイキングの終わっているベッド。
刹那さんはそのベッドの隣に鞄を置いた。
「綺麗なお部屋ですね」
「はい。昨日、刹那お姉さまがなぜか茉理お姉さまと掃除をなさいましたので」
…なぜ茉理と刹那さんが?刹那さんの方を向くと本人は少し首を傾ける。
「茉理はあまり部屋の掃除などはしたことがないと言うので。最低限の知識を教えるついでにこのお部屋を掃除しましたよ。部屋の広さ的にはちょうどいいサイズでしたから」
「そうですか」
「まあ、私としても美玲衣さんには快適に過ごしていただきたいと思いましたので。とは言っても、こういったことぐらいしかできませんが」
「いえ、お気遣い感謝します」
「それでは、寮内のご案内をいたしますね」
「よろしくお願いします」
すみれの案内で寮内の説明を受けていく。いつの間にか刹那さんの姿がない。
食堂の方へと案内されると、そこで紅茶とお茶請けのクッキーをテーブルに並べている──
「ふむ。予想通りの時間で来ましたね」
「刹那さん。いつの間にこちらへ…?」
「おや、気がついていませんでしたか。部屋を出た時点で食堂へ来て時間を計りながら準備をしていたのですよ」
紅茶からは温かい湯気が立ち上っている。芳しい香りもしているから入れたてなのだろう。
「寮生と仲良くすることはたいして難しいことではありませんし、今は私達以外はいないのですし。今はゆっくりすることにしませんか」
「刹那お姉さまはゆっくりしすぎではありませんか」
「ほう?すみれもなかなか言うようになりましたね。週明けには貴女も修学旅行があるのですから、今くらいはゆっくり休んでは?」
「…美玲衣お姉さま、いかがなさいますか?」
「そうですね…」
少しだけ考えて、手近なイスに座る。
「今くらいは刹那さんの話に乗りましょう。美味しそうな紅茶も用意してくださっているようですし」
「ええ、味は保証いたしますよ」
「すみれさん。せっかくですから寮でのことをいろいろと聞かせてください」
「わかりました。そういうことでしたら…」
結局、その日はリビングで紅茶を飲みながらゆったりとした時間を過ごすことで終わってしまった。
★
-香苗side-
週が明けて。奉仕会は多忙を極めていた。
「ああ~、いくらなんでも忙しすぎですわ…」
処理すれど減らぬ書類の山。奉仕会以外のところにも振り分けてもなお、自分達の目の前にある書類は山のようだ。
「単純に、処理できる人手が半分になっていますから…」
「よくよく考えてみれば、紅鶸祭が近いのですから仕事量は普段よりも増えているんですわよね…」
あやめさんも私も書類の処理に追いつけていない。次から次へと奉仕会へと流れてくる日々の案件に紅鶸祭関連。
今ばかりは照星の方々の対応は免除されているような状況でも、奉仕会はすでにパンク気味である。
「香苗さん、私は職員室への書類提出と諸々の打ち合わせがあるので席を外しますわね」
「わかりました。お願いします、あやめさん」
「いってまいりますわ…」
フラフラと奉仕会室から出ていくあやめさんを見送って、私は手元にある書類を見てため息をつく。
「どうしよう…」
それは、来週の視聴覚室の使用申請に関する書類。問題は、それが二つあるということ。
一つは映画研究会。他校との交流会が近いとの記載がある。もう一つはESS(english speaking society)。こちらには特に付随記載は無い。無いのだが…。
(確か、去年のこの時期は弁論大会があったような…?)
とはいえ記憶は定かではないし、書類の記載欄にも特に記載はされていない。となると、自分の記憶違いの可能性もある。
本来であれば、それぞれの部活に書類を差し戻して話し合ってもらうのが一番なのだが、書類の提出期限は今日まで。しかも書類を発見したのは今朝。
「もっと早く見つけていたら──」
悔やんでいても仕方ない。担当の教師が帰ってしまう前に書類を提出しなければ二つの部活にも迷惑がかかる。
「ESSには特に付随記載は無いのだし、いいよね…?」
映画研究会に3日、ESSに2日を割り振ると書類を提出するために帰ってきた生徒の一人に声をかけて職員室へと向かった。
☆
──次の日。
昼休みの時間に書類の処理にあやめさんと追われていると一人の生徒が訪問してきた。
彼女はESSに所属しているらしく、今回の決定に不服があるとして申し入れに来たようだ。
「──だからさ、うちは毎年この時期には弁論大会があるから視聴覚室を使うことも毎年恒例なんだけど」
「そうはいいますが、英子さん。提出されていた書類には付随記載はありませんでしたよ」
「それは、そうだけどさ…。だから、今説明してるじゃん」
言いたいことはわからなくはない。しかし、そのような陳情があったとしても──
「映画研究会は交流会のことを記載してあり、ESSは特に記載していませんでした。こうして見比べると映画研究会の方が必要事項の記入もあることから優先順位が上に来るのは仕方ないと思いませんか?」
「それは…」
なおも言い募ろうとする英子さんにあやめさんが手を向けて止める。
「おっしゃりたいことはわかりますわ。しかし、私達としてはあくまでも記入された書類を元に判断するしかないのですわ。毎年恒例だからと記入を怠ったのはESS側の落ち度。これ以上無理をおっしゃられても我々はどうにもできません。
それでもどうにかならないか、というお話であれば一度、映画研究会の方とご相談してみるのはいかがでしょう?」
「うーん、やっぱりそうなるよねぇ…。わかりました。貴重なお時間を取って下さりありがとうございました」
奉仕会室から英子が出ていく。納得しきれてはいなかった様子ですが…。
「あやめさん、申し訳ありません。事前にご相談するべきでした」
「いえいえ。謝るようなことでもありませんわ。たとえご相談されていたとしても、私も香苗さんと同じ判断を下していたと思いますし──はい。まだまだ仕事は山積みですし、お仕事に戻りましょう!」
「──はい」
その後は両部活動ともに奉仕会へと姿を現すことはなかった。
さすがに原作を忘れてきているので、やり直しながら進めるので更新頻度は今まで以上に亀速度になりそう…。