──一方、その頃。
-美玲衣side-
昼休み。昼食を取るために食堂へと足を運ぶと複数名の一年生から声をかけられ、一緒に食事を取ることになる。
「あら。鈴蘭の宮の選んだ和食も美味しそうですわね」
「私もそちらを選べば良かったです…」
微笑みながら食事を終えて、図書室へと足を運ぶ。
書籍を選んでいるところへ、先ほどからこちらの様子をうかがっていた一年生達が近づいてくる。
「鈴蘭の宮、何かオススメの書籍などはありませんか」
「オススメ、と言われても…。貴女が普段はどのような本を読んでいるのかわからないと答えが返せないわね…」
「そうですね──」
いくつか挙げられた書籍を頭に浮かべながら本を選んで渡す。自分も借りる本を選んで図書室から出る。
「いやぁ~。鈴蘭の宮は人気者ですね~」
「真紗絵さん」
一年生を見送ったところで真紗絵さんが現れる。
「そういえば鈴蘭の宮。今、一年生の間で薔薇の宮派と鈴蘭の宮派で過熱してるみたいですよ」
「興味ありませんね」
「興味でない?けっこう面白いことになってるみたいですよ」
「面白いこと?」
「興味出た?」
ニヤニヤ笑いをしている真紗絵さんの反応に…。
「何か話題になっているんですか」
「うーん。まあ、各宮派の一年生が喧々諤々盛り上がってるみたいだよ」
「喧々諤々って…」
何を話すことがあるというのか…。楽しそうに笑っている真紗絵さんを見ていると妙に不安になってくる。
「まあ、何かあったら新報を出すからよろしく!」
そうして歩いていく真紗絵を見送る。
「何もなければいいんですけど…」
ああいうことを言われるとやはり気になるものですが…。
☆
放課後。象牙の間へと行くと演奏している茉理、ティータイムをしている密さんと織女さんがいる。
「お疲れさまです」
「美玲衣さん。少し遅かったですね。もう少し早ければあやめさんが紅茶を出してくれたのですけど」
「あら。それは少し急いでくるべきでしたでしょうか」
なんとなく刹那さんを探して部屋を見渡す。が、今日は来ていないのか姿は見えない。
「刹那さんなら今日は忙しいようですぐに帰られましたよ。こちらへ寄る時間もなかったようです」
「あっ、そうなんですか」
「なになに~。美玲衣ちゃん、刹那さん探してたの~?」
練習の手を止めて茉理がこちらへと来る。
「あれ。美玲衣ちゃん、ちょっと疲れてる?」
「…そう、見えますか」
「うん。はい、座って座って」
茉理がイスを勧めてくるので素直に座る。密さんも紅茶を用意してくれたのか、テーブルにはカップが置かれている。
「ありがとうございます」
「やはり少しお疲れのようですね。何かありましたか」
「そうですね──」
ここ最近続いていることを話す。聞いていた密さんや織女さんは頷いていて、お二人も同じような状況にあっているようだ。
「最近少し過剰な感じはしていましたが、美玲衣さんはああいったことの対応はあまり慣れていないのですね」
「そうですね。照星に選ばれてからはああいう機会も増えてはきていたのですけど…」
未だに慣れない、というのは弱音だろうか。
「やっぱり美玲衣ちゃんとかもそういうのあるんだねぇ」
「えっと、茉理さん。誰と比べているんですか?」
「えっ?刹那さんにもああいう子達いるよ~。少ないけど」
「「「えっ?!」」」
照星三人で驚いてしまった。いや、確かに刹那さんも何かとカリスマ性を持った人ですし、いやしかし…。
「『女帝』と呼ばれている刹那さんに、取り巻きの下級生…ですか」
「想像が、つきません、わね…」
「あれ~?じゃあ、あの子達ってあんまり知られていないんだね。前に刹那さんに聞いたことあるんだけど、なんでも二年生四人いるから『
また素晴らしくかっこいい二つ名を戴いているようで…。しかし、あの刹那さんにそんな子達が…。
「二年生に四人だけ、なんですか?」
「らしいよ?一年生の中にも何人か刹那さん派の子がいるっていうのは聞いたことあるかな~」
「隠れた派閥というものはあるものですのね」
「まあ、刹那さんの場合。私達の子達のようにおおっぴらに動くような子を野放しにするとも思えませんし…」
「なるほど。確かにそうですね」
「しかし…『四聖』ですか。いつか見てみたいものですね」
織女さんの言葉に私と密さんは同意するように頷くだけだった。
★
-花side-
二年生が修学旅行へと出発した頃から、クラス内では一つの話題が盛り上がっていた。
曰く、『照星の方の誰が推しか?』というもの。
花としては密お姉さまも織女お姉さまも美玲衣お姉さまも等しく優しく親しみやすいお姉さま方という印象が強いのですが、クラスの他の子達からみるとそうでもないということを知りました。
でも、話しかけるのにとてつもない勇気がいると言われても花にはピンと来ない話なのですが…。
それでも、話の根底にあるのはお姉さま方を慕う気持ちなのでそこは花としても理解できることなのです。
───けど、それでも…。
「えっと、英子ちゃん。それは、花にどうしてほしいのでしょうか?」
「だからさ。花さんって照星のお姉さま方ととても仲がいいじゃん。今回だけでいいからさ、さっきのことお話してみてもらってもいいかな?」
「えっと、あの…」
「よろしくね!」
遠ざかっていく英子ちゃんの背中を見ながら、花はただ呆然と頼まれたお話を考えるしかありませんでした。
『話された内容』というのは、どうやら近く英子ちゃんの所属しているESSという部活と映画研究会という部活が視聴覚室を日割して使用するようなのですが、これに照星のお姉さま方からESSの方へ『便宜』を計ってもらえるようにできないか?という相談でした。
寮へと帰る間も考えてはみましたが花自身ではどういう答えを出していいのかわかりません。ですが、密お姉さまに話すわけにもいきません。
「なるほど。それで私に相談しに来た、という次第ですか」
バルコニーで相談相手の鏡子お姉さまはうんうんと頷いてくれている。
「正直なところ、英子ちゃんの話もわからなくはないのです。けど、こんなお話を話してもいいのかと思ってしまって…」
「なるほど。しかし、この件に関しては花さんは関わらない方がいいと思います」
「そうでしょうか…?」
できるなら相談されたことを手伝いたい…とは思うのですが。
そう思っていることを鏡子お姉さまは表情だけで理解したのか、人差し指を立てて。
「もし、今回の相談事を花さんが密さんに相談して、まあ、それが功を奏したとしましょう。そうしたら映画研究会の方が今度は花さんに同じように頼んできたとすれば、花さんは対応できますか?」
「それは──無理、です…」
「そういうことです。花さんがその友人のために頑張ってあげたい気持ちはわからなくはありません。しかし、今回の場合に言えば片方に肩入れをしてしまった場合、もう一方から頼まれた場合に断らざるをえず…──万が一、便宜を図ったことがバレていた場合は花さん自身が大変な目に合うことになります」
何も言えず、ただただ俯いてしまう。そんな私を鏡子お姉さまは優しく頭を撫でてくださいました。
「まあ、あくまでも今回のような場合には期待には応えない方がいいこともある、ということです。友人のために何かをしてあげようと考えることは良いことなのですから花さんが落ち込む必要はありません」
「…っ、はい。ありがとう、ございます。鏡子お姉さま」
少し涙が溢れてしまいましたが、鏡子お姉さまには笑顔で返事を返す。鏡子お姉さまは私が泣き止むまで、優しく撫でてくれました。