処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第45話 対立の煽り

 -花side-

 ──翌朝。

 いつもよりなんとか早く起き、密お姉さま達よりも早く学院へと来ると、件の彼女は待っていてくれた。

 

「英子ちゃん。お待たせしました」

「ううん。さっき来たところだから。それで、話ってなにかな?」

 

 少しだけ期待しているような表情。ですが、花は──

 

「ごめんなさい。やっぱり花は昨日のお話はお受けできません」

「えっ、ちょっと、頭あげてよ、花さん」

 

 勢いよく下げた頭に英子ちゃんは狼狽えているようです。頭を上げる。

 

「ごめんなさい。花にはやっぱり、そういう便宜とかを話したりはできません」

「あはは…。うん、そうだよね。いやさ、朝早くから呼び出されたからほんの少しだけ期待しちゃったけど。うん。これでいいんだよ」

「英子ちゃん?」

「ごめんなさい、花さん。私が考えなしに頼んだことですごく悩ませちゃったみたいで…。今度、何かお詫びするからさ」

「い、いえ、そこまでしていただくわけには…」

「これは私のケジメみたいなものだから!友達にこんなこと頼むなんて間違ってるよね」

 

 寂しそうな雰囲気の英子ちゃん。そんな顔をさせたいわけではありません。だから、花は英子ちゃんの手を取った。

 

「英子ちゃん。もし、お姉さま達にお話に行くようなら花にお声かけください。一緒にお話します」

「えっ?でも、それじゃ──」

 

 花は小さく首を横に振る。

 

「一緒にお話に行くだけです。お願いしたりはしません。これなら、お姉さま達にも迷惑をかける心配はありませんよね」

「花さん…。ありがとうね」

 

 ようやく笑ってくれました。胸のつかえも取れましたし、良かったです。

 

 英子と別れた花は教室へと向かって歩いていた。

 

「伊澄花さん、ですね」

「えっ?」

 

 声がかかった方へと振り向くと一人の生徒が立っていた。

 

「はい。なんでしょうか?」

「はじめまして。私は映画研究会所属の一ノ宮紗映といいます。少し、お話よろしいでしょうか」

「…はい」

 

 映画研究会と聞いてなんとなくどのようなお話があるのかと察することができた。

 

「花さん。貴女はESSから便宜を図るように頼まれ、映画研究会のことについては新聞部の方へと何らかの情報をリークした。間違いはありませんね」

「えっ?新聞部、ですか?」

 

 何やら雲行きの怪しい話が出てきた。新聞部ということは新報が発行されているということでしょうか。

 

「あくまでもしらを切りますか。ですが、貴方がESSの部員と密談をしていたというのは新報にも上がっていました」

「英子ちゃんとの、話がですか?」

 

 つい先ほど断って──いや、今さっき『便宜を図った』と言われていたような…。

 

「ご、誤解です。お話は確かにしましたが便宜とかのお話は先ほどお断りしたばかりで…」

「ではなぜ新報で映画研究会が、鈴蘭の宮が貶されているのですか!?」

 

 花にはもはや何がなんなのかわからない。

 

「なぜ反論しないのですか。やはり、新聞部に何か話したのですか!?」

『ちょっと待った!』

 

 聞こえた声の方を見ると英子がこちらへと早足で近づいてくる。花の前に立つと、紗映から守るように対峙する。

 

「ごめんなさい、花さん。別れてから何か言い争うような声が聞こえたからさ」

「英子さん。ちょうどいいところに来ました。新報のこと、貴女にも聞きたいことが──」

「ストップ!そうは言うけど、私と花さんは新報を見ていないから何のことだかまったくわからないし、そもそも聞こえた話だと私が花さんに頼んだ『便宜』の話だよね。それならついさっき花さんから断られたばかりだよ」

「やはり便宜は頼んだんですね。みっともないと思わないのですか?」

「うっ…。それはまあ…。でも、この話で花さんがこれ以上言いがかりをつけられるのを私は見逃せない」

「言いがかり、ですか」

 

 英子の反論に紗映はため息をつく。

 

「言いがかりかどうかは貴女方の話次第でしょう」

「まだ疑ってるの!?」

「今の話を聞いた以上、貴女方以外にわざわざ新聞部に話を持っていくような生徒はいません。さあ、洗いざらい──」

『何をしているのでしょうか?』

 

 再び聞こえた第三者の声。階段から降りて姿を見せたのは──

 

「刹那お姉さま…」

 

 花が呟いた声に刹那は柔らかな笑みを花と英子に見せると、半身のまま紗映へと視線を移す。

 

「なにやら揉め事の様子でしたので差し出がましいとは思いましたが割り込ませていただきました。相手の話を聞かずに一方的な話をするのはさすがに見過ごすわけにはいきません」

「わ、私はそのようなつもりはありません」

「で、あればこそ。新報を見ていないというお二人の話を無視して一方的な話を進めようとする理由はなんですか?」

「私は、そんなつもりじゃ…」

「ならば、今は引き下がりなさい。頭が冷えれば今よりはもう少し建設的な話し合いができるでしょう」

「…わかりました」

 

 振り返って歩き去る紗映の背中を見てから刹那は二人へと振り返る。

 

「大丈夫でしたか?」

「は、はい。ありがとうございます」

「刹那お姉さま。ありがとうございます」

「いいえ。しかし、なにやらよくわからない揉め事が起きているようですね。二人とも、新報とやらを見に行ってみましょうか。そうすれば、先ほどの生徒とも話しやすくなるでしょう」

「そうですね」

「はい。行きます、お姉さま」

 

 

 

 ★

 

 

 

 -密side-

 花ちゃんを起こしにいくと珍しく早起きをして学院へと行ったとのことで、今日は照星三人での登校だ。

 ──と、昇降口の辺りに人だかりができている。

 

「なんでしょうか?」

 

 近づくにつれてこちらへと気がついた生徒がざわつき始める。

 

「どうやら私達関係の何かが提示されているようですね」

「では、見に参りましょう」

「そうですね。ものを見ないことにはわからないですし」

 

 生徒達が道を開けてくれる中を、三人めいめいに挨拶をしながら提示板まで来た。

 

「セラール新報、ですか」

 

 ── 『照星の派閥争い勃発か?映研に便宜の疑惑!』 ──

 

 視聴覚室の利用に際して、映研とESSが一週間の使用申請を出したところ、なぜか映研に便宜が図られる結果となった。

 ESSには再来週に弁論大会が控えており、その準備として視聴覚室を使用したいという正当な目的があるも、割り振られたのは週五日中のわずか二日に留まっている。ESSは後日、奉仕会へ実情を説明しに向かったものの要望は受け入れられなかったようだ。

 

 なお、映研には鈴蘭の宮派が多く在籍し、奉仕会内の美玲衣派役員に嘆願し便宜を図ったのではないか、という疑惑が持たれている。

 

「ESSは薔薇の宮派が多く在籍しており、その影響もあるのではないか…ですか。なるほど。事実を最小限に、印象論を元に持論を展開しているのですね」

「ずいぶんと品のない煽りですわね」

 

 美玲衣の呟きに織女はため息をこぼす。

 

「なるほど。今であれば生徒達が食いつきそうな話ではありますが…」

「美玲衣さん。映研の方々とは親しくされているのですか?」

「直接部活には関わったことはありませんが、幾度か試写会に伺ったことはありますね。ですが、その程度ですね」

「ということは、映研からの陳情──便宜を図ったという事実は?」

「もちろんありません。根も葉もない噂に過ぎません」

「だ、そうですよ、皆さん。噂というのは時に面白いものではありますが、人を貶める話題というのは、あまり感心できませんね」

 

 

 織女さんと美玲衣さんのやり取りを聞いていた生徒達は安堵したように散っていく。

 

「織女さん、ありがとうございます。本来なら、自ら身の潔白を証明しなければならないところですが」

「私は水を向けただけですよ。実際に身の潔白を証明したのは美玲衣さん自身ですし、私自身、根も葉もない噂で友人が貶められることが我慢できなかった。ただそれだけです」

 

 この記事には織女さんは登場していない。それが逆に説得力が増す要因になったのでしょう。

 

「しかし、この疑惑…映研への印象については悪くなるでしょうね」

「それに、奉仕会の対応へも疑問を持たれそうですね。しかし、これに関しては私達の預かり知らぬところですからね」

「教室の許可申請に関しては香苗さんが担当していたはずですが、あの子がこのような不正をするとは考えられません」

 

 とりあえず、事実確認をしないことには話が進みそうになかった。

 

 

 

 ──三人が去った頃。刹那に伴われて英子と花が姿を現す。三人は新報を眺めて…。

 

「なるほど。映研としてはこれほど印象を悪くされては憤る理由もわからなくはありませんね」

「これ、もしかしたら私が花さんに話していたのを新聞部の誰かに聞かれてたってことかな…」

「その可能性は高いでしょうね」

 

 ここへ来るまでの間、刹那は二人から事の経緯は聞いていた。

 

「なんにせよ、照星と奉仕会の両方に確認すべき話ではありますから、この話は私に預けてください。放課後にでも確認を取ってきます」

「よ、よろしくお願いします」

「ありがとうございます、刹那お姉さま」

「お礼は解決した後で。しかし──」

 

 刹那は新報を見直す。印象操作としてはこれほど理想的な新報もあるまい。

 

「気を抜いていたらこういったことが起きているとは…。放課後、待てなくなりそうですね」

 

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