-刹那side-
──放課後。奉仕会へと顔を出した刹那は、ちょうど照星と香苗、あやめの五人が話し合っているところだった。
「ちょうどお話をしていたようですね」
「刹那さん。どうしたのですか?」
「貴女方も新報は見たのでしょう。私は事実確認のために来たのです」
刹那は今朝見かけた花が巻き込まれている話。日中調べたところ、鈴蘭の宮派と薔薇の宮派でこぜり合いのような対立が起きていること。
「まさか花ちゃんがそんなことに…」
「便宜に関わる話ですからね。密さんには相談できなかったのでしょう」
「動くのは急いだ方がいいのかもしれませんね。花さんがこれ以上、不当な扱いを受ける前にも」
「照星では何か解決法を?」
刹那の問いに密と美玲衣が頷く。
「ここは素直に当事者の方々を呼集して説明するのが一番早いと思いまして」
「そこで、宮派にも苦言を入れます。確かに今回の件は奉仕会の対応が悪かった面もあるにはあるのでしょう。しかし、結果として宮ごとの派閥争いのような状態になっているのは見過ごせません。そもそも、私は貶められたなどとは思っていません」
「美玲衣さんは頑固ですね」
美玲衣の意見に織女が笑っている。どうやら三人の間ではすでに話し合いが終わっているのだろう。
「なるほど。…で、あれば、私は今回は何もせずに見守る──いえ、念のため奉仕会の方へと詰めておきましょうか。あのような記事とはいえ、真に受ける生徒がいないともかぎりません」
「刹那お姉さま、お手をわずらわせてしまい申し訳ありませんわ」
頭を下げるあやめに刹那は首を振る。
「謝る必要はありません。私自身、今回の件にはあまり関わらないようにしていましたし、その結果としてこのような問題が起きることは昨年、一昨年のことからも考えられることでした。
それをあえて放置してしまいましたし、あまり首を突っ込むのもどうかとは思いまして、ね」
「では、どうして今からでも関わろうと思ったのですか?」
織女さんの質問ももっとも。あえて答えるなら…。
「花さんの現場を見てしまったから、というのが一番強いでしょうか。身内に問題が関わる以上、私がここでそっぽを向くのは違うでしょう」
自分や周りに火の粉が舞うならそれを振り払うのは普通でしょう。対岸の火事を野次馬する気はありませんが、自分達が関わるとなれば話は別です。
☆
──夜も深まる手前。寮の浴場でもはや本人達は気にしなくなった姿で入浴していた。
「それで、話は上手くいったのですか?」
「ええ、まあ。結局のところ、お互いにすれ違いが発生した結果でしたから」
刹那と密が話すのはあの後すぐに当事者達を呼び集めて行われた話し合いだった。
結論から言えば、やはりというか新聞部部長による早期のネタ提供によるものだと判明。しかし、元々から映画研究会とESSは長年のわだかまりを抱えていた上に今回は派閥争いまで上乗せされたために大事に発展してしまった。
花は完全に巻き込まれた形だ。
「花さんも大変難儀な話に巻き込まれたものですね」
「ええ。クラス内には私や鏡子さん、織女さんの妹をしていることが周知されていたことにも今回の騒動に一役買ってしまったようで…」
「仕方のないこと、といえばそれまでですがね。宮様の妹分とはそういったこともあると学べたいい機会だったでしょう」
学内の有名な生徒の妹分になるというのは名誉でもある。しかしその分、本来であれば気にする必要のない期待までかけられることになることにも繋がる。
「しかし、美玲衣さんはさすがでした」
「そうですね。『
「刹那さんには、そういった子達はいないのですか?」
「私名義の派閥を聞いたことはないのでしょう?」
「ええ、そうですね」
「つまりはそういうことです」
まあ、まったくいないのかと言われるとそうではないのですが…。
★
-密side-
週が明けて。美玲衣さんは家の方が片付いたとのことで寮から退寮し、二年生達が帰ってくると派閥争いは自然と鎮静化した。
「しかし、紅鶸祭のすぐ後に期末試験というのは学生にはなかなかハードではありませんか?」
「まあ、日数を空けようにも二学期はイベントてんこ盛りのおかけでどうしても過密スケジュールにならざるをえない、というのが実状のようです」
「密さん。二学期は負けませんから!」
「ああ、はい。受けてたちますよ、織女さん」
寮からの道すがら、校門前で美玲衣さん、茉理さんと合流して校舎へと向かって歩き出す。
そこへ、なにやら特徴的な四人が早足でそばを歩いていった。
「あっ、『
「…えっと、茉理。なんですか、その…『四色姫』、というのは」
「えっ?美玲衣ちゃん知らないの?密さんや織女さんは?」
茉理の質問に首を横に振る。織女さんも同様のようだ。
こちらの様子に茉理は感心したように嘆息する。
「みんなって一般生徒なら知ってるような有名人ってあんまり興味なさそうだよね~」
「き、興味がないわけでもないのですが…」
「そ、そうですよ。それに二つ名持ちは比較的人数が少ないはずで…」
「ほら~。織女さんがそう言うってことは『四色姫』が総称ってことすら知らないってことでしょ~?」
どや顔で話しかけてくる茉理に織女さんは頬を赤らめて顔を背けてしまった。
「こほん。それで、茉理さん。その『四色姫』というのは?」
「『四色姫』っていうのは、それぞれが『色』に関係する名前で、二つ名もそれにちなんだものがあるんだって。あと、刹那さんのいわゆる…派閥?みたいな感じらしいよ」
「…刹那さんの、派閥ですか?」
週末の時は自分には派閥なんて存在しないなんて話していたはずですけど…。
「なんでも女帝に憧れた人達だから、二つ名も『色』に『姫』という一文字を付けた名前なんだって」
「『○○姫』みたいな感じでしょうか」
「そうそう。確か──」
もはや豆粒サイズの四人を眺めながら──
「一番後ろを歩いてる赤い髪の子は『
「しんごうき…?」
「し・ん・こ・う・き」
織女さん…。さすがにその間違いはベタ過ぎるのでは…。
呆れた表情になっていたのか、織女さんは再び頬を赤らめて視線をそらす。
「あとは『
「刹那さんの派閥、ねぇ…」
「どうしたの、美玲衣ちゃん?」
「いえ。刹那さんのような人が派閥のような存在を許しているというのは…」
「ああ。なんとなくですが、わかります」
私達のイメージに合わないのだ。刹那さんは派閥争いを嫌っている節がありましたから余計に…。
「でも、派閥っていうよりは後継者って感じらしいけど」
「後継者?」
「うん。確か、今日の放課後の視聴覚室で『四色姫』主催の勉強会があるはずだし、密さん達も行ってみたら?」
「勉強会ですか」
「うん。刹那さんが直接鍛えたスパルタ勉強法の直系の四人だから。私は、また紅鶸祭が終わる頃には刹那さんにガッツリとマンツーマン勉強あるし…」
『ははは…』と空気の抜けるようなか細い笑顔の茉理さんを見ると可哀想になりますが、刹那さんですし、しかたないでしょう。
「それにしても、勉強会…ですか」
それなりには興味がある。なにせ、あの刹那さんの勉強法を実践して実力をつけているだろう生徒の勉強会だ。何かタメになるものが聞けるなら行く価値はあるのかもしれない。