処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第49話 疑念

 平凡な日々というのはわりと早く過ぎていってしまうもの。ボランティアコンサートには諏訪ちさとの考えからピアニストにあやめが選ばれたり、『四色姫』達は嬉しそうに演劇の参加を決めたり…。

 だがまあ、問題とは往々にして予想の範疇には収まらないものだ。

 

 -刹那side-

 演劇の最中、密さんが急に近づいてきた。

 

「どうかしたんですか、密さん?」

「えぇ…と、ですね」

 

 こちらの耳許に口を寄せる。そこから語られた言葉に刹那は小さくため息をつく。

 

「とりあえず、抜けるしかありませんね。織女さん、私と密さんで少し抜けます」

「何かありましたか?」

「実は象牙の間に少々忘れ物を。あと、私から密さんに渡すものがあったのを忘れていましたので。寮でもいいんですが、もののついでですし」

「わかりました。こちらも少し打ち合わせないといけませんから大丈夫ですよ」

「すみません。では、少しですが抜けますね」

 

 そそくさと、象牙の間へと向かう。道中、他の生徒に見つかる心配もなく象牙の間にたどり着くと念のために鍵を閉める。

 

「──さて、どうしましょうか。何か手立てはありますか?」

 

 問題は単純に密さんの偽乳が演劇の動きやその際にかいた汗のせいで外れてしまったというもの。

 

「はい。鞄の中に人肌で使用するための接着剤があるので。どうにも塗るのが少なかったのかもしれません」

「なるほど。偽乳にはそういった弊害があるのですね」

「まあ、パットとかでも大丈夫な気はするんですがその辺りはさすが風早グループといいますか…」

 

 なるほど。手抜きはしない、と。

 

「まあ、早く済ませてください。誰か来ないとも限らな──」

『すみません。密さんがこちらにいると聞きました。少しいい、です、か…?』

 

 振り向いた先──象牙の間の扉を開けてこちらを覗き込んでいるのは美玲衣。こちらの様子としては半裸の密さんとその手に持っている偽乳。

 

「「「・・・」」」

 

 三者三様に固まっていたが、美玲衣さんはその場にへたりこんで後ろへと倒れてしまった。

 密さんの方を振り向くとこちらもこの世の終わりのような状態で項垂れていた。

 

 ───さて、事後処理をしなくてはなりませんね…。

 

 

 

 ──数分後。目を覚ました美玲衣と服を整えた密、紅茶をテーブルに並べた刹那がイスに座る。お互いに一口飲む。

 

「──さて、いつまでも固まっているわけにもいきません。三人そろって演劇の練習を抜け出して象牙の間で『お茶会をしていた』などと織女さんにバレれば彼女のことですからしばらく膨れてしまいますよ」

「そ、そう、ですね…。…それで、あの、密さんは、何をしていたのですか?」

「…えっと、…あの…」

 

 まあ。単純に考えれば何と説明すればいいのやら、という話ですね。『胸が取れたので付け直していました』──うん、意味不明です。

 

「密さん。私の方から説明させていただいても?」

「…よろしくお願いします」

 

 密さんに代わって私の方から美玲衣さんに説明する。最初の方こそ疑わしくしていたようだが、説明を聞くにつれ納得したような、最終的には呆れた顔を密さんに向けていた。

 

「つまり、密さんは男性…」

「はい。今まで騙していて申し訳ありません…」

「刹那さんはいつから知っていたのですか」

「私は密さんのカナヅチ疑惑の頃に偶然。着替えのタイミングで突撃をかけてしまいましてね。アレ、見てしまいまして」

 

 どこを見てしまったのか指さすと美玲衣さんの頬に朱が入る。少し視線を泳がせていたが咳払いをして──

 

「事情はわかりました。まあ、密さんのことは私からこれ以上どうこう言うことはありません。だから、密さんも安心してください」

「…あの、いいんですか?」

「何がですか」

「先ほど刹那さんが説明した通り、私は男性です。訴えられても仕方ない立場の私を──」

「そうですね。確かに考えました。…でも、今日まで学院内で『変態』はいなかったわけですし、今さら密さん、いえ『薔薇の宮』が居なくなることには多くのデメリットがあります。なにより、今から密さんが抜けてしまうと刹那さんに演劇参加を打診しなければならなくなります」

「嫌ですよ?」

「わかっています。だから、密さん。私としては執行猶予とします」

「執行猶予、ですか」

「はい。このまま何事もなく卒業までお願いします。そうなれば、私からは不問にいたします」

 

 美玲衣さんの言葉に密さんは頭を下げる。

 

「ありがとうございます」

「しかし、美玲衣さんも丸くなりましたね。最初の頃の貴女なら、容赦なく通報していたと思いますが」

「まあ、そうですね。ですが、織女さんほどではありませんが私も負けず嫌いなんです。だから、密さん」

「は、はい…」

「勝ち逃げはさせませんよ?」

 

 テストに対して美玲衣さんは常に織女さんを意識し続けていた。そこに、今年から密さんが食い込んできた。負けず嫌いというのは本当なのだろう。

 

「もちろん、刹那さんにも負けたくありませんから」

「ええ、いつまでも迎えうちますとも」

「あの、美玲衣さん。本当に──」

「密さん。お礼はいりません。今は、劇を無事に終わらせることを考えましょう」

「…はい。頑張りましょう」

 

 結局、三人で戻ると織女さんから『私は除け者ですか…』と膨れられてしまい、機嫌を直してもらうのに時間を要したのは仕方ないのかもしれないと思うことにしました。

 

 

 

 ★

 

 

 

 -織女side-

 演劇の練習に演劇で必要なものの手配、全体での都度必要な折衝など、やるべきことは多岐に渡りますが充実した日々を送れています。

 先日、衣装合わせをした際には密さんなどは似合っていて、思わず見惚れてしまいました。

 

「…でも──」

 

 なぜなのだろう?どことなく既視感があった。

 そんなことはないはずなのに、なぜか妙に胸騒ぎがしてしまった。これ以上を知ることは私のためにはならない──そう感じてしまった。

 

「ですが、やはり気になるんですよね…」

 

 もしかしたら密さんは昔にも似たようなことをしていたのではないのだろうか。

 

(しかし、私の調べた範囲では何も出てこなかった…)

 

 だとしたら、あの既視感はなんなのだろうか?

 調べるべき範囲を広げてみれどもかかるのは小さな少年の動画。

 

「これは…。確か、結城室長の息子さんのCM出演の時の動画でしょうか──結城…?」

 

 感じた既視感は、これ…でしょうか?しかし、彼はどう見ても男の子で──

 

「…可能性は0ではありませんけど、もう少し調べてからでも遅くはありませんね」

 

 裏付けを取れてしまえば、後は本人に確認するだけになる。

 

「結城、密は──男性…?」

 

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