処女はお姉さまに恋してる-陰に輝く星-   作:揺れる天秤

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第56話 そういう話

 ──病室の外。扉の窓越しに中を覗いていた密と織女は目の前で交わされているキスからそっと視線を外し、扉の影から離れる。

 

「…今日はこのまま帰った方がよさそうですね」

「そう、ですわね。でも、鏡子さん。嬉しそうでしたね」

 

 二人は千歳のお見舞いに来たのだが、鏡子の話の内容から中に入りかねていた。そんなところで急に告白が始まり、挙げ句には二人はキスを始めてしまった。

 

「…千歳さん、鏡子さんと幸せになれそうですね」

「ええ。鏡子さんのお給料、少しは上げられないかお父様に相談してみますわ」

 

 今後ともお世話になることは決まっているのだ。少しでもご機嫌取りができるようにしておいた方がいい。

 

(見ていたのがバレた時に怖いですし…)

 

 寮へと帰った二人は遅れて帰ってきた鏡子を労いながらも食事を終えた。

 時間もそこそこに過ぎた頃。密の部屋で二人が寛いでいるところに鏡子がやってきた。

 

「入りますよ」

「言いながらすでに入りましたね」

「さて、密さん、織女さん。私に言わなければならないことがありませんか?」

 

 イスに座りながら憮然とした態度の鏡子。

 

「私が、ですか?」

「なんでしょう?」

 

 こちらの反応にスマホを取り出した鏡子さん。織女さんにはわからない行動でも私にはわかる。

 何が言いたいのか理解できてしまい、私は観念して頭を下げた。その様子に織女さんは首を傾げ、鏡子さんは軽く頷く。

 

「わかっているようですね」

「はい…。すっかり失念していました。申し訳ありませんでした」

「えっと、密さん。いったいどういうことなのでしょうか」

「私と鏡子さんのスマホは一定距離に近づくとアラームで知らせる機能があるんです。マナーモードであればバイブでお知らせします」

「それって──」

「ええ。病室前で何をしていたのか、ぜひとも私にも聞かせていただけますか」

 

 素晴らしい笑顔で話しかけられていますが目が笑っていないし、明らかに怒気がただよう鏡子さんに2人ですぐさま頭を下げる。

 

「その、すみませんでした。覗き見をするつもりはなかったんですが…」

「お見舞いに行ったらちょうどそのタイミングだったので入るに入れなくて…」

「───」

「「本当にごめんなさい」」

「…まあ、いいです。病室であんなことをしていた私達にも非はあるでしょうから」

 

 頬がうっすらと赤くなっている鏡子さんを見ていると顔がにやけてしまいそうではあるのだが…。

 

「それで、鏡子さん。千歳さんとのお話はどのようにまとまりましたの?」

「千歳さんがこちらの秘密を厳守し、かつ卒業までは監視下に置かせていただく代わりに千歳の秘密は他言無用。という形でまとめましたがそれで2人は大丈夫ですか?」

「はい。私の方は大丈夫です」

「私も問題ありません」

「そうですか。…あっ、あと、2人には千歳さんから頼まれたこちらを渡しておきます。なかなかな一品ですよ」

 

 鏡子さんから手渡されたのは一枚の写真。そこには織女さんの手に自分がキスをしている決定的な瞬間の写真だった。

 頬が赤くなるのを感じながらも、鏡子さんに視線を戻す。

 

「これは、いったい…?」

「迎賓館で撮った珠玉の一枚だそうですよ。というよりはデータ内にはその一枚しかありませんでしたから、2人に渡すため用だったのでしょう」

 

 確かにあの場で一番映える画と言われてしまうとそうとしか見えない。密自身、自分の気持ちを伝えるのにわかりやすい方法をと選んだのは事実だし、それを写真に収められるということにまでは頭を回していなかった。

 

「あとの報告としては、千歳さんは退院後に入寮してもらう予定になっています。向こうの親御さんとも話はついていますから、この後にでも寮長に伝えてきます」

「入寮までしてもらう必要ってあるんですか?」

 

 今までも口約束とはいえ守られてきたのだ。今更監視が必要な相手でもなさそうな気はするのだが…。

 

「まあ、千歳さんとしても口約束だけでは不安なのではないでしょうか」

「…鏡子さんとできるだけ傍に居たい、と言われたのでは?」

 

 織女さんのツッコミに鏡子さんが目を逸らせた。おそらく似たようなことは言われたのだろう。

 ニヤニヤと冷やかすように笑ってしまうこちらを尻目に、鏡子さんは咳払いとともに話を元に戻す。

 

「ともあれ、千歳さんとのことはそうなりました。二人に不服などはありませんか?」

「はい。大丈夫です」

「私も大丈夫ですよ」

「でしたら、退院後から入寮してもらえるよう動くのです。…しかし…」

 

 鏡子さんはふと天井を見上げたかと思うと固まる。しばらくそうしていたのだが…。

 

「千歳さんは誰の妹に据えるべきでしょうかね」

「「えっ?」」

「なんですか。二人そろって『本気で言っているのかこいつは』みたいな目で私を見て──」

 

 数日後。無事に退院した千歳さんは入寮した。そして───

 

 

 

 ☆

 

 

 

 -刹那side-

『二学期 期末学力考査』

 『成績優秀者発表』

  『第三学年』

 

 首 席 結城 密

 二 位 正木 美玲衣

 二 位 風早 織女

 四 位 御剣 刹那

 五 位 畑中 美海

 六 位 高山 香澄

 七 位 茨 鏡子

    ・

    ・

    ・

 

 貼り出された学力考査の順位を見ながら刹那自身はうんうんと頷いている。周りの生徒はひそひそと何か話しているようだが…。

 

「刹那さん、段々と順位を落としてますけどどうしたんですか」

「何がですか、密さん?」

 

 少し遅れて現れたのは照星の三人。順位を見ながら──

 

「刹那さんは手を抜いていますの?」

「心外ですね、織女さんは。私がそこまで優しい人だとでも?」

「いいえ、そうは思いませんわ──となると、純粋に落ちてきているということなんでしょうけれど…」

「織女さんとしてはどうして落ちていくのかが気になるのですね」

「美玲衣さん。そうなのです。刹那さんは『手を抜いていない』とおっしゃいますけれど、だとしたら段々と成績が落ちていくのはどういうことなのでしょう」

「どうと言われても…。茉理の勉強時間に私のアレコレ、他に割かなければならない時間が一学期の頃と比べれば多くなっていますから純粋に勉強不足ですよ」

 

 いや本当にやることが増えましたよね。茉理に勉強を教えたり茉理と遊んだり…ああ、仕事のこともありましたね。

 

「最近、急な呼び出しもありましたし事後処理もそれなりに大変でした。まあ、私がやり過ぎたというのもありますけど」

 

 両親からは久しぶりに怒られてしまった。確かに久しぶりのお仕事でしかも依頼人は友人。現場は薄暗い倉庫の中で今まさに三人をどうするかのタイミング。

 瞬間的に加減することを失敗しても仕方ない状況だったと思います。ええ、病院送りにした男共全員が結果的に社会復帰絶望的とか言われても私はそこまで責任持てません。

 まあ?その代償として次の日から二日はベッドから起き上がれないほどに疲弊しましたから、私が加減できていなかったのは事実ですが。

 

「えっと、その節は──」

「はい、密さん。こういった場で話すような内容でもなし、後片付けは任せろと請け負ったのも私です。あの後にもいろいろと問題は起きているようですが、一応の解決は見たのでしょう?」

「ええ、まあ」

「でしたら、今はいいですよ。まあ?お二人の結婚騒動については気になるところですが?」

 

 密と織女が固まるのを美玲衣は眉を寄せて見ている。知らない人から見ればこうもなるか。

 

「美玲衣さん。詳しいお話はまたあとで聞けるでしょうから、今は教室へと向かいましょうか」

「えっ、ええ、でも…」

「そこの固まっている二人は放っておきましょう。周りがいなくなれば自然と動きだしますよ」

「はぁ」

 

 納得のいかないとばかりに息をつく美玲衣を連れて教室へと向かう。二人はしばらく固まっていたが。

 

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