個人的にFEは好きなので勝手に作ってみました。良かったらゆっくりしていって下さい。
仕事&子育てしつつのんびり編集執筆の為、投稿までかなーーーーり時間かかります。少しずつ新話投稿と編集していきますので気長に待っていて下さい。
あと、ど素人ですが応援宜しくお願いします!
プロローグ
また沢山の人が死んだ。敵も味方も皆傷つき、血濡れた体になって倒れている。それも全ては計算の上。私が立てた作戦に従って戦場は動いている。
熱気、怨嗟、悲鳴、思惑…様々なものが渦巻くこの場所で誰もが帰ることを望んでいる。私だってその1人だ。だけど全員で生きて帰る事は出来ない。誰かの命を燃やした先に描いた勝利があって、私は勝利の先に恐怖を描こうとしている。1人でも多くの人間を救いたいと思い続けているから。
「こんな日が来るなんてね…」
自分の国の村を自分の手で焼くよう命じる日が来るとは。こんな事になってしまった、させてしまった自分の愚かさが憎い。
しかし、自分を憎む事なんかより先にやるべきことがある。これ以上好きにはさせない。攻めてくる敵からこの国の人を1人でも救う為に私はなんでもやる。
「今だ!炙りだせッ!!」
村に火を放つ号令。生き残る為、皆を守るためにやるしかなかった。自国の無人となった村ー敵が制圧している拠点に向けて、号令と共に火矢が放たれた。
数百の赤い矢が空を翔けて、それは村一帯を襲う。火の手が上がるのはそれからすぐだった。黒い煙が立ち上る敵拠点。建物に入っていた敵兵がわらわらと屋外に出て来るのを見て私は作戦を進める。
「ありったけの矢を放って弓兵は歩兵の前進を援護!歩兵が村に入るまで続けて!」
「了解しました!」
「これよりこの国に攻め寄せた敵を掃討する!私に続き奴らに地獄を見せろ!!」
隊列を組んだ部隊に檄を放ち、真っ先に飛び出す。平野を蹴って突き進む先、目指すのは敵陣。炎に包まれる建物に人間の姿も見える。そしてそこに突き刺さる弓矢。バタバタと倒れる敵に止めを差すべく向ける刃。
「全軍!前進せよッ!!」
「「オォォォォォォォッ!!」」
士気旺盛な味方の歓声を背中に浴びながら私は願う。
私が血で汚れた分、皆が生きて帰れます様に。
1
場所はヴァルドラ大陸の南にあるシリアン公国。
数百年昔に女神が滅びから救ったとされるヴァルドラ大陸の中でも温暖な気候が産み出す豊富な農業力を誇り、それを糧とした貿易で大陸の3大国として存在している。シリアン公国の現在の国王は国内に目を向けた事もあり、民の生活は更に改善し元からの穏やかな性格とひょうきんさも受け、民から圧倒的な支持を受けている。
平和を守り、民と共に生きるーと常々口にしている陛下だが、無闇に力を蔑む事があった訳ではない。高い錬度を誇るシリアン公国軍が常備軍として国の盾としてまた矛として国内外の敵を見張っている。そんな土地と環境に恵まれたシリアンの民を守る王を支える最も権力のある優れた人間がこの国では〈正位軍師〉だ。
正位軍師と呼ばれる人間は戦禍に見舞われた時王の頭脳としてその才を持って味方を導く。シリアン公国の歴史にその職が語られ始めた時から1つの一族が守り続けていた。
全てを奪われるその日まで…
〈シリアン王城 ー国王寝室ー〉
「シーチェ、聴いてくれぬか。また来たのだ…奴等が」
「はぁ…またですか。懲りない連中ですね。陛下、そろそろ正式に抗議をされた方が宜しいかと」
そろそろ眠ろうと思っていた深夜の事だ。陛下に呼び出された私は着替えを慌てて済ませて寝室に推参した。ベッドに横になっている初老までいかない男性。短い髪に対して長い髭が特徴の国王は困ったなぁと言う。右手で目元を擦り、眠そうな仕草をするが左手で髭を撫でて考える仕草を同時にしている。いつもの事だがなんとも器用なお方だと思う。
“奴等”と言うのは隣国の脱走兵が賊となった連中の事だ。食料状況の悪い北の覇権国家ヴィツワ帝国からの脱走兵が越境してシリアンの民に牙を剥く。何時だって犠牲になるのは力を持たない人間。こうして越境されるたびに軍を動かして討伐するのだがいよいよ私の我慢も限界だった。
「軍を出して討伐するのは良いとして、被害は出るのですから対策を考えましょう」
「そうよなぁ。対策せんと、なぁ……」
「あの…陛下?」
ここ最近は外交で飛び回ってらしたから疲れが出たとしても不思議はないが、なんと陛下は話しているうちに寝息を立てていた。
私も色々片付かなくて何日も寝れてないのに…。
文句などこの方に向けて言える筈もなく、はぁ、と息を吐いて私は独り言の様に呟いた。
「…陛下に起きたら伝言を。“管轄の第2軍即応隊に対応させます。事後の報告は届き次第追って致します”」
「畏まりました。軍師様もご自愛くださいませ」
夜でも側に控えているメイドに伝え、私は静かに寝室を後にした。廊下を早歩きしている間に会う警護の兵士の敬礼も手を上げる事で応え、自分の部屋に戻ろうとしている時だった。
「これはこれは正位軍師様。夜分遅くにお会いするとは」
「…ゲラン殿。貴方も忙しいわねこんな所で会うなんて」
よりによって今は一番会いたくない人物。私とは別の所で軍の頭脳として仕えているゲランと言う男だ。
陛下より年齢は上だと聞いているが肌に皺などはなく、髪は短く切り揃えられているが剃り混みが入っている。そして年齢を感じさせないのは迸る野心とそれを遂行しようとするエネルギーを全身から感じさせるからだろう。シリアンには珍しい黒を貴重とする装いに身を包み、首の紅い紋様がうっすらと襟元から覗いている。
この王政の中において唯一出身の分からない人物だが、その知力で軍や内政を支えている。
「夜更かしはせっかくの美人を損ないますぞ。それに悪魔と恐れられる軍師様も人間でございますれば…ご自愛ください」
言葉だけ聴けば労ってくれている有難い言葉なのだが、いつも彼の言葉だけは真っ直ぐ聞き入れられない。それは私しかまだ知らない彼の野望を知っているから。ただ尻尾を掴むに至らず、公にする事が出来ないが早くしなければ。
私は日々の仕事に加えてその“仕事”が忙しい。だからあんたにそんな事言われたってまだ寝れない。時間を与える訳にはいかないんだ。
ただそれは本音の話。私は笑顔を作って応じた。
「心遣い痛み入るわ。所で貴方は何を?」
「色々と考え事がございましてな。風に当たろうとしております」
「…問題は山積みだものね。お互いに考え事は程々にしておきましょう」
悪い事になる前にね、と含みを持たせて付け足した私は歩みを再開した。静まり返る廊下からゲランがフンと鼻を鳴らすのが聞こえた。
ー数日後ー
「…きろ。起きろシーチェ」
「う…ん?その声はリク…?」
私は王子に呼び掛けられる声で目が覚めた。
視界に入る本とメモの山。傾いた視線を上げれば窓から差し込む太陽の光が目に入る。眩しい。
(この王子がフィアンセだったら…女として幸せだったりするのかな。いや、彼とはないな)
一瞬でもそんな想像が出来る位頭だけは常に回っている。女としての幸せを求めていなくはないがこのままではそんな暇は一生来なさそうだ。
どうやら昨晩は作業をしたまま机の上で突っ伏して寝てしまったみたいだ。体には掛布団が掛けられているのを見るとメイドが掛けてくれたのだろう。
「やっと起きたか」
寝ぼけ眼を擦り覚醒しながら、王子自ら何の用だ?と考えるには最早至らなくなっている。頭を上げた5秒後には“鍛練に付き合え”と言うに違いない。だが。
山程ある突っ込み所から私はまず絶対言わないといけない所から突っ込む。
「女性の部屋に許可なく入るのは男子として止めなさいって言ってると思うんだけど?」
「あんたと俺の仲だろ。今更何を言ってるんだ」
「親しき仲にも礼儀ありって言葉もあるのよ」
「ノックはしたが反応がなかったんだ。早く支度をしてくれ。約束の鍛練だ」
はいはい、と適当に答え私は大きく体を伸ばす。全く顔だって洗ってないと言うのに…と内心毒づきながら私は水の入った樽から桶に水を掬って顔を洗う。
リクは部屋で待っているつもりなのか出ていく気配が全くない。本棚に仕舞われた様々な本を興味深く見ている。本棚には私が個人的に集めた戦術書や歴史書、色々な学問の本がジャンル毎に分けて置かれている。
「あんたでも勉強するんだな」
「常に学び続ける気概がなければすぐに他国に置いてかれるからね。リクもちゃんと座学やりなさいね…あと、これから服脱ぐんだけど着替える時までここにいるつもり?」
クローゼットの扉に手を掛けながら最後は苛立ち混じりの声で言う。
お年頃のリクからすれば興味はあれど、未知の領域を未だ出ない話だ。顔を一瞬で赤らめたリクは慌てて部屋を出ていった。
(全く…子供なんだから)
私はため息を吐いて訓練用の服をクローゼットから取り出そうとして、止めた。
「今日はなんだかむしゃくしゃするぞ。この責任はしっかり取って貰うとしよう」
2
叩き起された朝というのは大抵虫の居所が悪い。
正位軍師の私にとってゆっくり寝ていられる日の方が圧倒的に少ないので早起きも起きてすぐ動くことも苦にはならないけれど。それでも虫の居所は悪い。
「遅いぞシーチェ」
特にこんな感じに朝からフラストレーションを感じる日はそれだけでモヤモヤイライラ。鍛錬と知りながら私は得物を手にして中庭に出た。
「あんた訓練服に着替えるんじゃなかったのか?それにそれ…」
「ちょっと“お話”したくて。女性の部屋に突入してくるような不躾な男に礼儀を叩き込もうと思ったのと、叩き起されたのと、私の睡眠を邪魔した件で」
訓練服に着替えて訓練用の武器を手に出るだけなのに遅いとリクなら思っただろう。むしゃくしゃした私は本気で叩きのめそうと思って戦闘服に普段使う弓を手にしていた。“お話”とはもちろん言葉の対話ではない。
「俺は防具を着けていないんだが?それにあんたの弓とこの棒切れじゃフェアじゃないだろ?」
恐ろし気な瞳で私と私の武器を見るリクだが、気持ちは分からなくもない。
私の弓は少々特殊で弓の能力に加えて先端に両刃の刀を取り付けてある。一族に代々伝わる武具だ。接近戦も遠距離戦もこなせる万能の武器。
普段の戦闘では状況で使い分けるが、私自身は接近戦の方が自信があって弓も近距離で使う事が多い。
それに比べて彼は自分の槍と同じサイズと重さに調整された訓練用の木の長い棒。正真正銘の棒切れだ。
「こんなに長い時間を一緒に居て私の怒りを買うことを避けない貴方が悪いわ。フェアじゃない戦いなんて幾らでも起こるんだから諦めて今あるもので最大限戦う事を学びなさい。それに攻撃なんて当たらなければいいのよ」
「無茶苦茶だ…」
「この世の無茶苦茶な事なんて無限にあるの。さ、構えて」
リクはブツブツ文句を言っていたが今更私と彼の間に遠慮はない。そう彼が言ったのだから。
そしてむしゃくしゃが爆発した私が全戦圧勝で鍛錬を終えた。
鍛錬の後、傷を作ったリクがメイドに治療されている傍で私はゲランの事を考えて居た。彼は昨日この国の“参謀”という新しい役職に就任することが議会で決められた。私以外の反対意見は無く、貴族の冷ややかな声を浴びたのが収穫だった。
そのあとも結局陛下と謁見する時間を作ることが出来ず晩餐会の日を迎えてしまった。これでは奴に王政内で更に力を与えてしまう。
「…これじゃだめだ…」
「何がダメなんだ?」
リクが不思議そうな表情で尋ねてくる。
しまった。声に出ていたとは…どう取り繕うか考える。いっその事この話をリクからしてもらうか?いやそれこそダメだ。奴の協力者がいるかも知れない以上、これは私1人で決着しないといけない。例えリクだったとしても打ち明ける訳にはいかない。
「こんなに俺をやっつけておいてまだ満足していないのか」
「ち、違うわ。その…大人気なかったよね。ごめんなさい」
「いや、良い経験になった。ブレグにも“シーチェは怒らせるな”って言っておく」
内心私は心を読まれていなかった事を感謝した。
「そうよ。私だって女性なんだから…たまには守ってくれるとか優しくするとかしてよ」
「いいさ。あんたもこの国も俺が守る。だから厳しく稽古つけてくれてありがとう」
リクの素直な言葉に私は思わず見つめてしまった。実際彼の槍の腕は名手の域にあるし、経験と知識を積んでいけばきっと陛下にも劣らない国王になる。
私は彼やこの国をこの先も支えて行くんだ。それが私、たった1人残ったフェイエンベルク家の人間の使命だから。
だから、早く止めないと。
「その心意気よ。私用事思い出したから先行くわ。また夜ね」
そう告げて私は彼の元を去った。
〈晩餐会会場〉
豪華絢爛な装飾で飾り付けられて部屋を彩る。
どこまでも続いて居るような長いテーブルの上には銀の燭台が等間隔で並べられており、その間には既に1口大に切られた様々なフルーツが置かれている。
美味しい物は当然大好きだ。晩餐会と聴けばいつもは小躍りする様な心境になるのに、私はネガティブな感情を昨日から引きずっていた。
「シーチェよ。そう難しい顔をするでない。彼は彼で能力があるのだ。そなたの仕事も減るし悪い事は無かろう?」
「仰る通りでありますが…陛下。やはり今一度お考え直して頂けませんか。彼はまだ登用されてから日が浅く、また出立も不明です。彼に今以上の役職は」
「讒言(ざんげん)はよしたまえ。出立不明で仕事をしている者など多く居るのだ。そんな事より…君はそろそろ結婚でもした方がいいのではないかね?」
「け、け、結婚?!」
真面目な話をしているつもりだったところを奇襲され、脊髄反射で思わぬ反応が出てしまった。
「わ、私はその様な事に興味は…」
急に言われて恥ずかしくなり、私は頬が火照るのを感じた。いずれ…とは思うが今はそれどころではない。少なくてもこの問題が片付くまでは相手を探す時間はないしそんな気にはとてもなれない。
「フェイエンベルク家に男子はおらんかっただろう。家を残すのであれば相手は婿となるだろうが、そなたであれば家柄も見た目も問題はないと思うが?」
「お、お戯れを…私の結婚相手は私より強い者で無ければ務まらないかと」
陛下の隣の席で会話をしていると時間が来た様で鐘の音が時を告げ始める。“そろそろ始めるとしよう”と陛下が席を立ち、乾杯の音頭を取る為に壇上に上がっていく。
起立した参列者達は手にグラスをし、乾杯の発声まで陛下のお言葉を聞き入っている。王政の閣僚や軍の将軍級の人間が全員揃いその中にはゲランもいる。
あいつは今どんな気持ちでこの言葉を聴いているんだろう。悪魔の如き企てを秘めながら、この国の幸福を願う陛下のお言葉を。
「今宵は皆是非楽しんで行ってくれ。“シリアンの未来に”」
“シリアンの未来に!”
陛下の乾杯に合わせて私もグラスの乾杯酒を私はくいっと飲み干す。陛下も同じ様に飲み干された。
壇上から戻られた陛下がいつもと変わらない笑顔で私を呼ぶ。
「そなたも今日は楽し…め……」
「陛下?」
崩れるように倒れる陛下を慌てて抱きかかえる。力が抜けきった大柄な男性を辛うじて支えながら、私は声を張り上げた。
「メイドと救護を早くッ!!陛下が!」
〈数日後 シーチェ自室〉
晩餐会の会場で倒れられた陛下は治療の甲斐無く、数時間後にはそのまま崩御された。
この事実はまだ兵士や国民には知らされていない。この件は関係者機密とされ、その場に立ち会った者全員にもれなく緘口令が敷かれた。
私はこの件の究明に昼夜寝る間も問わずに全力を尽くしている。
「毒殺されるだなんて…相手は誰なの?いや、恐らくはアイツの手の者。誰が?手段は?」
犯人は程度の算段は付いているがそれを証明するものがない。早く見付けないと証拠を消されてしまうと言うのに…!焦りばかりが募る。
どうすればいい?何を当たれば真実が見える?
机に散らばった書類にはもう穴が空く程見直した。繋がる線は見付けられず、私は今日何杯めか分からない珈琲を淹れようと席を立った瞬間だった。大きな音と共に扉が突然乱暴に開け放たれて、私はビクッと体を震わせた。完全武装の〈兵士〉や〈アーマーナイト〉が私を取り囲みあろうことか矛先を向けた。
「何事?!貴方達矛先誰に向けてるのか分かってるの!?」
槍を向けてくる兵たちの顔は皆困惑している。何故こんな事に、と言うのが顔に書いてあるかのように伝わってくる。
「軍師殿…国王陛下暗殺の疑いで拘束させて頂きます」
その言葉に耳を疑った。私が陛下を暗殺した疑いだって?
「はぁ!?バカ言わないで!!」
「証拠があるからこうして動いているのだよ、軍師殿。いや、裏切り者シーチェ・フェイエンベルク」
兵士と違う聞き覚えのある声が影から現れる。兵士の間から現れたのは薄ら笑いを浮かべるゲラン。そして燃える様な憎悪の目でこちらを睨み付けるリクが居た。リクの後ろには更に沢山の兵士が控えており、私は完全に逃げ場を失った様だった。
「ねぇ。どうして貴方がそこに居るのリク」
それよりゲランと一緒に居るという事は奴の言葉をリクが信じたと言うのか?その受け入れがたい事実は彼とゲランが一緒に居ることが何よりの証明だった。私は激しくショックを受け、その余りに体が震え始めた。
信じたくない。ただ一心で私は彼に問いかける。難しい事は考えられない。言葉を絞りだすのが精一杯。
「冗談よね?」
これまで過ごしてきた時間はこの男よりも遥かに長い。お互いの事も良く知っている。そんな彼がこの状況で敵の側に居る。感情がぐるぐる頭で周り、思考が落ち着かない。
悪い冗談だと思いたかった。
「…まさかお前が仕掛けていたとは思わなかった。よくも騙していたな…!拘束しろ」
先に突入してきた兵士達が一斉に私に襲い掛かり、力ずくで取り押さえられてしまう。抵抗するが数の暴力には勝てず、手は後ろに回されて体中に縄が巻かれていく。
扱いは完全に敵に向けるものだった。後ろ手に縛られる腕。足枷も着けられる。
「待ってよ…話を聴いて!痛っ…ちょっと止めてよッ!私じゃない!私じゃないッ!!」
拘束される私の頬を自然と涙が伝う。ぼろぼろと溢れる涙を流したまま、私はリクに訴え掛けようと叫ぶ。もう、私の掴んでいる事を止められるのは最後かも知れない。これまでの時間でリクと積み重ねて来た事を信じて力の限り叫ぶ。
だけど。駄目みたいだ。私を見る彼の表情は氷の様に冷たく、視線はナイフの様に貫いていた。
「連れていけ」
その言葉が耳に入った瞬間、私は途端に力が抜けていくのを感じた。
2
3年後。
王が晩餐会の時暗殺された事件が起こったその日から私の全てが変わった。
代々私の一族がこの地でずっと築いて来た信頼や誇りは奪われ、仲間や居場所も失った私。孤独に震えながら虚無感と被せられた無実の大罪を背負い、命からがら逃れて国を離れて闇の世界に潜伏した。
どうして私がこんな目に遭わないといけないの?私はこの国の為に身を粉にして頑張って居ただけだったのに。この国で生きて行きたい。皆が守ったこの国を。それをどうして奪われないといけないの。
たった1人の野望の為に私や家族が紡いできた歴史に終止符が打たれた。許せる訳がない。
私に楯突くなら必ず死を見せる。軍師になる前から何時だって私は悪魔を肩代わりしてきた。
時には戦場で。時には王家に仇なす者に。フェイエンベルク家に
私はこの武器1つで闇を渡り歩いて来た。生きるために何でもした。どんな汚い仕事も、自分を殺しながらすべてはこの日の為と言い聞かせて漸くこの日を迎えた。身を隠しながら遂に掴んだ情報。奴は今夜ここに現れる。雨に打たれ、外套はおろか髪も服もぐしょぐしょになった事なんかどうでもいい。私の気持ちはこれ迄にない程昂っていた。
「この日を待ってたわゲラン。今日こそ貴様を…殺す」
木々の枝葉の向こう、雨粒が激しく地面を叩く隙間から全ての元凶の男の姿を捉える。今にも飛び出したくなる欲求を抑えるのも一苦労だ。 護衛は外套を深く被った者達が担当している。見た所練度は高く数も多い。迂闊を踏めば囲まれ、殺されるのは私のほうだ。
気配を消し弓の届く距離まで接近する。矢を番え、先ず警戒する護衛を狙う。雨音が矢の飛翔音と護衛の倒れる音を見事に消してくれる上に、視界も悪くなっている。狙い通り護衛は音もなく絶命した。この状況になり、尚且つゲランが”巡察”という名の奴隷売買の為の誘拐に来る時を狙っていたのだ。
失敗は許されない。私がまだ生きている事をあの男に知られれば、国を挙げて殺しに来る。
ゲランと護衛が民家に侵入していく。数名で誘拐を実行するゲランは必ず馬車を使う。誘拐した人間の口を塞ぎ、運ぶための手段を潰しにかかる。警戒の男が油断しているうちに接近して始末すると運搬役に近づく。一気に口を塞ぎ、そのまま首に矢を突き立てる。噴き出した大量の血は外套が被ってくれた。
「き、さまぁ…」
死に絶える直前、視線が交わる。生気を失った兵は座ったまま死んだ。交わった視線は明らかに憎しみの込められたものだった。恨みはないが、誰にも邪魔をさせはしない。御者を殺し、馬車から離れようとした時。奴が現れる。
民家から出てきたゲランと目が合った。人質を連れている手下と共に現れた奴は、こちらを見て驚いた表情からすぐに敵を見る表情に変わる。
「貴様、生きていたのか」
「あんたを殺すまではと思ってね。地獄の底から戻ったわ」
「こんな日に態々戻ってくるとは、せっかくの美人が雨に濡れて台無しだなシーチェ?」
「雨に濡れても美人なのは変わんないわ。あんたのその悪人面と腐った魂も変わってないわね」
「相変わらず口は達者だな。貴様を捕らえた時と同じじゃないか」
あの日の下衆な笑いが蘇る。私を捕らえた時のあの顔と同じ顔が笑っている。誰も味方になってくれない中で味方を探し続けた私を絶望させようと嘯くあの顔。
「今度こそ貴様を殺してくれる。我輩の邪魔をした事を苦しみながら悔やむんだな?」
「どの口が。私を敵に回した事をあの世で後悔するといいわ」
・2022年10月7日
大幅に編集し直しました。
・2024年8月
再度編集しました。
今後も初期に投稿した話は修正・加筆の予定です。
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