ファイアーエムブレム 双極の盾   作:マフィン野郎

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第二話 王と軍師

 

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(王都のすぐ近くなんだぞ…?何故あいつがそんな所に)

 深夜にも関わらず王宮から少し離れた離宮の廊下を銀髪の青年と長身の騎士が歩いて行く。暗闇を僅かに照らす蝋燭の灯りから2人の素顔を伺う事は出来ず、窓越しに聞こえる昨夜から続く豪雨の雨音は普通の話し声すら聞き取りにくい程だった。

 銀髪の青年はリク・アインザッツ・フォン・シリアン。三年前にシリアン公国の王位を継承した第38代目の国王である。

 三年前暗殺によって父である先代国王を殺されたたった一人の息子。思わぬ形で王位を継ぎ、日夜シリアンの政に奔走している。

その傍らを歩くのは側近のエリフ。リクの幼少時代から付き従う騎士で、深夜にリクを呼び出した張本人。王家に仕える者として所作や礼儀、知識は高いレベルで併せ持つ彼がこんな時間に王を呼び出す事はこれまであり得なかった。

しかし、先程起きた事態は王であるリクを深夜に呼び出すのには理由としては十分だったのである。

「本当に本人なんだな?」

「はい。この眼で見ていますので。先に救護に入っているリシアも間違いないと」

「エリフ達が言うんだ。疑うつもりはないけどな」

リクの表情は険しい。深夜に起こされた、という事ではなく伝えられた情報が自身にとってとても重要なもので、看過出来るものではなかったから。しかし過去に接点がある人物であるなら、それが本当に真実なのか話を聴いただけでは疑わしいものだった。

 従者ではなく、エリフが直接伝えに来たと言うのにリクは未だに信じ切れていなかった。話しながら進んだ先の螺旋階段を下り、更に少し進んだ所に兵士が2人立っている。

「ゲイガン、アヤ。深夜に呼び出してすまない」

エリフが自ら呼び出した兵達にまず詫びた。リクに対して敬礼をしてから赤髪の女騎士アヤが答える。

「とんでもありませんわ。しかしあの方…」

閉められている木製の扉。中の事を知っているかの様にアヤが言いかけた言葉をリクが遮った。

「この事はここにいる五人以外に絶対に口外しないで欲しい」

「承知しました」

 ドアノブに手を掛けたリクは静かにノブを捻る。

 殺風景な部屋には何本かの蝋燭とベッドが1つ。それ以外には何もない所だ。部屋の隅に鎮座しているベッドの上には今夜の騒動の核心ともなる人物が横になっている。

 シーチェ・フェイエンベルク。かつてシリアン公国で“フェイエンベルクの悪魔”と呼ばれて恐れられた人物。その策略と勇敢さ、統率力と戦闘力で国軍の全ての指揮を執る正位軍師の座に就き、先代国王や軍人たちから高い支持と信頼を受けていた。

 リクも彼女と過ごした時間は長く、姉の様に信頼していた。だからこそ、ゲランから父を殺した犯人だと伝えられたその真実が証拠と共に伝えられた時は激しく狼狽え、怒った。

 その事実を聴いて、リクがゲランと共に投獄したのちに脱出しこれまで姿を消していた。

「本当に生きていたのか」

 苦しそうに呼吸を繰り返す父を殺した犯人。リクが憎み続けた仇が目の前で生死の淵を彷徨っていた。彼女を見た瞬間から思わず表情が強張り、歯を噛み締めていた。

 ベッドの横で立ち尽くしていたリクに対して、治療を続けていたシスターが声を掛けた。

「リク様。治療は尽くしましたが、ここから先は本人次第です。…かなり弱っています」

「ありがとうリシア。悪いが外で待っててくれないか」

「分かりました。…あの、リク様」

「どうした?」

「ずっとこの人耐えてました。話だけでも、聴いてあげて下さい。“最期に伝えたい”と」

 手当てをしていたシューレ教のシスター、リシアが静かに部屋を去ったのがドアの音で分かった。

「シーチェ…」

 呼び掛けるとベッドに寝かされていたシーチェがゆっくりと眼を開く。その眼がリクを向くと呟く様に言った。弱く掠れた小さい声は確かに聴き慣れた声だった。

「リク…」

 ゆっくり瞼をあげるとリクが立っていた。その傍らには側近の男エリフも居る。

 何本かの蝋燭だけで照らされている窓のない部屋。記憶を探り、ここが離宮の地下だというのは分かった。僅かに視線を動かして体を見ると治療を施して貰ったようだ。

「シーチェ。何故ここに居る」

 懐かしい声だった。しかし3年前のあの時とは違い、リクから発される言葉からは憎しみの様な物が乗っている。それもそうだろう。何せ彼の中では私が父王を殺した事になっているのだから。

 しかし、ここでリクと会う事になるとは思ってもみなかった。

「まさか生きて俺の前に現れるとは思っても居なかったが、こうして会えたのは何かの縁だ。もう一度聞く。何故ここに居る」

「…私は、復讐に来たのよ……」

 三年前に全てを奪われた私がこの生最後に成し遂げるべき使命。リクは少しも表情を変えることなく続けた。

「自分の手で父上を殺しておいて復讐とはな。あの時王位を盗れなかった腹いせか?拘束命令を出した俺を殺しにでも来たのか」

「私が戻ったのは現在の宰相ゲランを殺す為。自分の謀略の罪を私に擦り付けたあの男を」

 リクとエリフが目を合わせる。その表情は困惑しており、奴の作り上げた虚構が完全に完成していると分かるには十分だった。

「先代とは言え正位軍師であった貴女にしては嘘の出来が下手過ぎるのでは?」

「先代国王も奴に騙されて居たわ。三年前、私は参謀の役職には反対していたでしょう?出身の分からない外部の人間であるゲランは地位を手に入れてこの国を奪う事を企んでいた。あれからまた地位を上げてしまったみたいだけど」

「あの時の御前会議、覚えていますよ。貴女は珍しく激しく怒っていましたね」

「…そうよ。ゲランはあの時から獅子身中の虫。私としては王政の中に入れる事だけは避けたかった。だから非礼を承知でプラマー伯やグレース公にも噛み付かせて貰ったわ」 

 三年前、王政内の新たな位として作られた“参謀”。

 その初代にゲランを据えるとした御前会議において私は参加者が賛成一色に染まる中で唯一最後まで抵抗した。正位軍師に成り立ての私が立場を危ぶんで反対したと言う結論付けをされてその時の御前会議は参謀の位にゲランが就任。そしてその翌日の晩餐会で先代国王は毒殺された。

「私1人では発言力が弱いのは分かっていたわ。参謀になる前からゲランが王位を狙っていたのは掴んでいた。私なりに色んな努力をしたつもりだったけど…」

 止める事は出来なかった。結果として国王が殺され、私は全てを失った。それに成り代わったゲランは今では国の政治を取り仕切る宰相としてNo.2の立ち位置を手にしている。

「伝えたかったのはそれだけ。もう、いいでしょ?」

 私は知っている事を全て吐き出した。もうこれで未練はない。このまま復讐を果たせないのは悔やんでも悔やみきれないが敵地に近い所で生きて行くなど出来る訳もない。

「…そんな事、初めて聴いたぞ」

「私もです。先代国王がシーチェさんとゲラン様を信用していたという事は知っていましたが」

 リクは呆然としているようだ。信じられないと言う表情。何故私を信じられないのにゲランを信じるのかはもうどうでもよい事だが面白くない。

 同時に信頼を失う事とは本当に一瞬なのだと改めて感じた。

「シーチェ。1つ訊きたい」

 リクが訊ねてくる。

「その話が本当だとしたらあいつは今も王位を狙っていると思うか?」

 そんな事言わずもがなだ。自分で考えろ、とも言いたかったがもうどうせ先もない。リクを使ってゲランへの復讐を続くのならそれもまたアリなのかもしれない、と思って答えた。

「恐らくね…今も虎視眈々とその時を待ってると」

 思うわ。の部分はむせてしまって声にならなかった。喋り過ぎてしまったようで発作の様な咳が止まらない。

 どうやらリクは私を話を聞き入れた様で、表情が難しくなる。

「宮殿に戻る!明日の朝1番でゲランを問い詰める。日の出の共に信頼できる仲間達に中庭に集まる様に伝えてくれ」

 リクの指示の声が聞こえる。漸く、少し位話を聞く気持ちになったか。

「もしこの話が嘘の時はこの手でお前を切り捨ててやる」

 捨て台詞の様な言葉が冷たく吐かれる。

「ゴホ…好きに、するといいわ…」

 リクはエリフを連れて部屋を出て行った。入れ替わってさっきまで治療してくれていたシスターが入って来てライブの杖を翳してくれる。

 薄緑の光が消耗した体力を少しずつ癒し、呼吸がさっきより楽になった。歳は私より若く見えるが、かなりの使い手のようだ。

 感心しながら休んでいると治療を続けながら、シスターが問い掛けて来た。

「さっきの話…」

「…聞かなかった事にしといて」

 これ以上は誰にもこの話をするつもりはない。今更誰かに分かって欲しいとかも思わない。私はもうこの国に仕える人間でもないのだから。

 2

 

〈数刻後 シリアン王城〉

 シーチェの話が本当なのか、信じられる確証はない。

 しかし胸に引っ掛かる不安がリクを行動させていた。もし、万が一でもシーチェの言うことが本当なら今や宰相に上り詰めて地位も力もあるゲランが反乱する事はなきにしもあらずだ。そして彼ならそんな事はない、と言い切れる確証がないのもまた事実。リクは内心彼を優秀だが、心から信頼出来る臣下だと思って居なかった。

「アヤとゲイガン、リシアはあの場にいるな?」

「はい。警護にあたっています。じきに憲兵隊も駆け付けるはずです」

「分かった。到着次第、ゲランを拘束する。戦闘の可能性もあるから注意してくれ」

 リクとエリフは戦闘に備えて既に帯剣している。鎧、盾と合わせて物々しい雰囲気に朝の仕事を始めているメイドがいつもよりずっと早歩きで通り過ぎていく。

 待っている間がもどかしく思える。特にせっかちな性質のリクはこの時ばかりはとてつもない不安感に、押し潰されそうになっていた。

 悪い予感がする。確信のない不安が胸に絡まる。

 憲兵の到着を待っている間のその予感は的中した。

「陛下ァーーッ!!」

 馬の早駆けの音と怒鳴る様な呼び声が響き渡る。声のトーンが尋常ではなく昂っている。

「も、申し上げます!宰相ゲラン様、反乱!」

 それは今一番聴きたくない、最悪の事態を知らせる報告だった。

「間に合わなかったか…!!」

 リクは唇を噛んだ。ゲランが反乱したとなれば可能ならすぐ鎮圧するか撤退するか判断しなければならない。

「他の状況は?分かる範囲でいい!」

「反乱軍は王都の中心街他、議事堂等の政府施設を制圧、王宮各所で近衛兵と戦闘中!味方の劣勢、援軍未だ見えず!」

「リク様。今このままゲランを捕えるのは不可能です。今は王宮内の味方を纏め、籠城すべきかと」

「分かった。玉座に兵を集めて防御を固めよう。このまま伝令を頼む!」

「は!陛下の御武運を祈っております!」

 伝令に来た騎兵は馬のまま王宮内を走り去って行った。敵はまだこの辺りには来て居ないらしい。戦闘の音もほとんど聞こえなかった。

「まさかシーチェさんの言うことが本当だとは…」

 普段は余り表情の変わらないエリフですら難しい顔をしている。信じられない人の信じられない情報が真実だったせいだろうか?だがそんな事を考えている余裕はない。すぐに部隊を動かさないとならない。

「ゲイガン達を合流させましょう。シーチェさんも居場所がバレたら必ず殺されます。戦力は多い方がいいです。それにここに居たらマズイです」

「あぁ、マズイ状況になってしまったみたいだ」

 リクは槍を、エリフは鞘から剣を抜く。シリアン公国の兵の装備に黒い鉢巻をした〈戦士〉の一団が二人を取り囲む。彼らの手には血に濡れた斧が握られている。

「陛下。申し訳ありませんが武器を下ろして貰えませんかねぇ?あんたを捕まえてゲラン殿に差し出せば大金が入るんで」

「シリアンの兵でありながら金に心を動かされたか愚か者共。陛下には指1本触れさせぬ」

「エリフ、ここは共同戦線だ。金が欲しいなら実力で取って見せろ反逆者!」

 指揮している男がやっちまえ!と号令を掛けると〈戦士〉達は群れで迫る。数の差はかなりあるがリクとエリフのレベルは普通の兵士では到底及ばない。本来不利である槍対斧の戦いでもリクは敵を圧倒し、次々に屠って行く。エリフもまたいつもと違う下馬の戦闘でも練度の違いを見せつけた。

「応援を呼べ!国王がここにいるぞ!」

「それぞれは大したことないが、数が多い!」

「気をつけて下さい陛下!突破口を私が開きます!」

 エリフが前衛、リクが後衛に周って包囲の中を少しずつ切り進んで行く。

 しかし二人は最初に比べ消耗し始めていた。次第にペースが落ち始める。

「このままじゃ捕まる!」

 リクが眼前の敵を倒した直後、更に後ろから飛び出した敵に対しての反応が僅かに遅れた。直感で負傷を覚悟したが、敵が斧を振り下ろす瞬間、“風”が目の前を通り過ぎ敵が視界から飛んで行った。

「早く突破して下さいな!後ろは引き受けますわー!」

「待ってよー!置いてかないでーーーー!」

 声のした方向にはいつも通り静かに斧を振り回して敵を薙ぎ倒すゲイガンと剣を振り回すアヤの姿。そして杖を抱えて涙ながらに付いてくるリシアとアヤの駆る馬上から弓を引く茶髪の長い髪が目を引いた。

 両端に鋭い刃を付けた弓を引き、敵を射抜いている姿は見間違えることはない。かつて王宮一の名手と言われた弓の使い手だ。

「シーチェか?!あいつあの傷で?」

「今は突破を!早く!」

 シーチェの弓を引く顔がひきつっている。しかし狙いは外さず、馬上から確実に命中させていく。

「リク様、今が好機です!一気に行きます!」

 エリフが敵の怯んだスキをついて一気にペースを戻す。後ろをリクと合流したアヤ、ゲイガン、シーチェの三人でリシアとリク達をカバーしつつ包囲をなんとか突破した。

少し離れた所の部屋に入り、後退する敵の集団を見ながらリクとエリフは汗を拭った。どこから敵が来るか分からない城内。室内はわずかでも休息するには十分だった。

「リク様、これからどうするか決まってるんですか?」

 椅子に座らされているシーチェの傷の手当てをしているリシアが問い掛ける。傷が癒えていないシーチェは先の戦闘中からかなり息が上がって苦しそうであるが、このまま潜伏する訳にも行かず、休んでいる時間もない。まだ戦っている兵が各所にら散らばっている。彼らを救援しなければならない。

「玉座に行き、味方の援軍を待ちつつ籠城する。城内の味方にはさっき伝令を出している。上手く行けば合流出来る」

「…それは下策だわ」

 ぐったり俯いていたシーチェがリク案をばっさり切ると最善策はこれと自らの策を打ち出した。

「まず一番大事なのは貴方が生きてここを出る事よ。籠城したって守りを破られる方が絶対早い…ならば今のうちに卑怯でもなんでも逃げるべきよ」

「そんな事をして王家として恥だろうが!」

「恥でもなんでも!貴方がここで死んだらそれこそ恥でしょう?!国を奪われたまま、逆賊に殺された王として名前が残るのよ!」

 リクはシーチェの言葉に項垂れた。これまでの歴史でも沢山の王が反乱によって命を奪われ、その度国は荒れたという話は嫌という程聴かされている。その度先代はリクに対してこう伝えていた。

 

(一時の恥を耐える事も時にはある。大切な事は最後に成し遂げる事だ)

 

 強い口調が体に障ったのか、シーチェは噎せてその口から少し血を溢している。リシアの、昂るシーチェを抑え込む様な仕草を片手で制しながらシーチェは続けた。

「この場を脱する策、私に講じさせて貰えないかしら」

「リク様よろしいのですか!彼女は本当にゲランに謀られたかどうか、確証があるわけではないのです。我々に近付き、策を仕掛けているのはシーチェさんかもしれません」

 シーチェの提案にエリフがすかさず異議を唱え、場を制した。

 エリフの言う事は的を射ている。彼女の話は疑い様の無いものである確証はない。

 しかし、倒すべき明確な敵は今はゲランとその一味であり、能力には定評のある先代の正位軍師の力は今は必要な様にリクは感じていた。例えそれが父の仇であっても。今は彼女の力を利用する方が自分の為であると。

「シーチェ…献策を。今はお前の力を借りよう。しかし俺はお前を赦した訳じゃない。いつでもお前を見ているぞ」

「分かったわ」

「さて、この場をどう打開する?」

 リクとシーチェ。追放した者とされた者が同じ立場の者として進み始める。

 




取り急ぎ第2話上げました。
近いうち修正かけようと思います。お待ち頂いて居る方、気長によろしくお願いします。
※2024年8月11日訂正
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