ファイアーエムブレム 双極の盾   作:マフィン野郎

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第二十七話 夢

 

 1

 

「貴方の!望んだ世界に!祝福をーーーーーッ!!」

 四方から槍を構えた敵が迫る。得物である剣は敵を貫いたまま。対処する暇はないまま、エリフは影を感じ取った。

 そして周囲を薄く煙が包み込み始めると同時に、すぐ傍を駆け抜けた風は目前の敵を瞬く間に斬り裂く。

 黒い頭巾と着衣。顔を仮面で隠し、僅かな曲線を描く片刃の武器を持っている。その姿にエリフは見覚えがあった。

「忍…!?まさかカイ王国軍?」

 エリフ達が呆気に取られる間にも忍達は重装備の聖教騎士達を翻弄する。その時、隣に鬼の面を被った忍びが現れ、短く言う。   

「…行け。長くは抑えられん」  

「援護感謝します!しかし我らも前に進まなければなりません!」

「ならばこのまま東へ。川に出れば仲間が居る」

 恐れの森の切れ目はカイとの国境が近い。最短ルートを進む方針を取ったシーチェの作戦は速度を重視したものだったが、二度も戦闘をしてしまえばばその利点はもう潰えていると考えてもいい。

 であれば、もう確実にカイへ辿り着く選択を取るべきだ。決めるのは自分ではないが、決断を問う時間はない。罠である可能性はないだろう。実際、この忍達は既に聖教騎士を手に掛けている。

 早合点かも知れないが、迷っている暇はない。   

「分かりました。皆!東に向かって下さい!私は陛下にお伝えしてきますッ!」

 

  

 2

 

 カイ・シリアン国境 恐れの森近くの平原   

  

 

 暖かな風が平原を凪いでいく。空は青々としていて、時折雲達が太陽を隠す。作り出された日陰の下では太陽と自然の恵みを享受する人間が今日も何処かで戦いを繰り広げる。

 大地に鎮座する岩の上に腰かけて足を伸ばす1人の侍。赤い胸当て、茶色の長い髪と額に巻いた鉢巻を靡かせて、恐らく特注であろう切れ込みの入った短めの袴、腿まで覆う長い足袋に脛当てという変わった出で立ちの女性が空を見上げる。

「森の向こうが静かになりました。煙幕も見えます…予定通りです」

「さっすがカイが誇る忍達だねぇ」

 空に向けていた視線は声を掛けた兵士と恐れの森に向けられる。森の向こうに見える白い煙は壁の様に聳え立ち、その先の全てを隠す。

 白の煙幕が展開されたという事は作戦は成功だ。目標を回収したら国に戻るだけ。

「クレハ隊長!北より帝国軍接近!偵察と思われます」   

 そうは問屋が卸さないかぁ、とクレハは溜息を吐く。

「しゃーないな。一仕事していきますか」

 クレハの言葉を聴いた副官が合戦準備と号令を掛ける。慌ただしく陣を駆け回る兵士の中にあっても全く変わらずに自分のペースを守る侍は“よいしょー”といいながら身軽に降り立った。

「馬出して!」 

「はっ!」

 反応した近くの兵士が馬を出してくる。曳かれてきた馬に手を掛けて騎乗すると副官に伝える。

「遊び過ぎたらごめん!」

「程々にしてください!」

 ひらひらと手を振って了承の意を示すと、クレハは単身敵に向けて馬を走らせた。

 

 少し進むとヴィツワの騎兵隊が見えてくる。数はほんの10名程度。〈パラディン〉を先頭に手練れていそうな雰囲気の騎兵の集団が正対して接近してくる。敵もこちらを捉えていて戦闘態勢を取っている。

 集団から先行した〈ソシアルナイト〉が左右から挟み込む。クレハは冷静にその動きを見て両腰の太刀に手を掛ける。突き出される二振りの槍を躱すため、馬上で立ち上がり少し跳ねて宙を舞うとそのまま左右の太刀で〈ソシアルナイト〉を葬った。

「ヴィツワの兵ども!」

 着地を決めたクレハは二振の太刀を手にしたまま声を張り上げた。

「私は“赤備えの娘”クレハ!誰ぞ私と立ち会うやつはいないか!?」 

大地に仁王立ちして敵の目の前に立ちはだかるその姿は凛々しくも堂々とし、同時に強者の風格を漂わせる。対するヴィツワの〈パラディン〉が先頭に立ち、名乗りを上げた。

「マサカゲの娘か!貴様を討ち取り我が武功にしてくれる!」

「何処からでも来い!さぁ!さあさあ!!」

「後悔するぞ小娘ッ!」

 馬を出す〈パラディン〉。いきなりトップスピードで突撃するのではなく、様子を窺いながらある程度の距離を取り続ける。クレハも同じ距離を保ったままゆっくり歩いた。

 風が大地を凪ぐ。向かい風に吹かれた〈パラディン〉が嫌がる素振りを見せた瞬間、クレハが一気に距離を詰める。跳ねるように大きなストライドで駆け、太刀を振りかぶった。それに反応した〈パラディン〉は槍で纏めて受け止めると薙ぎ払う事でクレハを弾き飛ばした。離れたクレハとの距離を詰め、槍で突きを繰り出すがその全てを体の動きだけで躱す。    

 踏み込んで相手の懐に入り、そのまま近い方の太刀で伸びきった敵の腕を切り落とす。槍と手綱を持っていた騎士の肘から下が噴き出した血と共に落下した。

「うぎゃぁぁぁ?!!」

 痛みで声にならない悲鳴を上げ〈パラディン〉は落馬し、地面で転げまわる。さっきまでの威勢は全く消え果た哀れな騎士を見下ろしながらクレハは表情を変えずに太刀を振った。   

 頭と別離した胴体、動かなくなった屍を一瞥したのち、再び声を張り上げて敵の集団に目を向ける。

「次!誰ぞ!」

 太刀を向けて挑戦者を求めたが〈パラディン〉の部下は委縮してしまい誰も詰め寄ろうとはしない。

 心底残念そうな表情を浮かべたクレハはやれやれといった感じで血を払ってから太刀を収めた。

「やる気ないんならもう帰って!やるんだったら死ぬ気で来なさい!」

 その一言で怖気づいたのか、〈ソシアルナイト〉達はそのまま踵を返して元来た方向に去って行く。入れ替わりにクレハの後ろから幾つかの馬の駆ける音が聴こえて来たが、誰か分かっているので目を向けなかった。 

 速度を落とした騎馬が隣に並ぶ。

「隊長?」

「遊び過ぎ、とは言わせないよ」

「ふ、貴女も人が悪い。単身時間を稼いで、報せが来たら一気に殲滅するつもりだったのでしょう?」

「あ、バレた?一個班だったしね」

 副官の言葉に悪びれもせずに腰に手を当てて笑うクレハ。その体勢のまま、本題を促す。

「撤収準備が完了。シリアンからの一行がそろそろ来られます」

「じゃ、行きますか。あ、私化粧してないや」 

「…戦場ですから誰も気にしないのでは?」

「そ…違うそうじゃない!」 

 仮にも王族に会うのに、もし一行の中に運命の人が居たらどうする!と慌てるも時は既に遅し。手元に何もその類の道具を持っていなかったクレハは諦めて陣地へと戻った。

 

 3

 

「遠路遥々、ようこそカイ王国へいらっしゃいました」 

 私達がエリフに指示された方角へ逃げてくると、そこに居たのはカイ王国の兵士だった。

 具足という装備に身を包んだ〈侍〉や〈武辺者〉、〈騎馬武者〉と呼ばれる兵種の人間が整列している中迎えられ、そこの先頭に居るのは腰に太刀を二振提げた若い女侍。真っ先に声を掛けてきたのを見ると彼女が指揮官なのだろう。

 前見た時はまだ見習いの侍だったのに。

「私はカイ王国、マサカゲの娘クレハ。この部隊の長です」   

「クレハ殿、救援感謝します。私は騎士のエリフ、こちらがシリアン公国国王のリク=アインザッツ=フォン=シリアン陛下で在らせられます」

「国王陛下、我々カイ王国は皆さまのご到着を心待ちにしておりました。我が王の待つ砦まで馬をご用意しております。こちらへどうぞ」

「ありがとうクレハ。怪我人も多い、道中で治療は可能か?」

「応急手当程度は可能ですが、本格的な治療はここでは出来かねます。砦に着けばそこですぐに治療を受けられますが…すぐに治療が必要な方はいらっしゃいますか?軍師殿は如何ですか?」

 クレハの視線が私に向けられる。部隊の中で腕を吊っているのは私だけだから目立つ。他の皆も大なり小なりの切り傷を負っているが軽傷といった所だろう。

 2度の戦闘で戦死者なし重傷者1名は奇跡としか言いようがない。  

「私は大丈夫」

「でしたら、急いで戻るとしましょう。聖教騎士団も近くにまだいますから」

 クレハはそう言うと馬車に乗るように案内してくれた。荷物を積む為の馬車だがそれに乗って移動するのももう慣れたモノだ…。

 それからすぐに私達を乗せた馬車が移動を始める。テンポ良く揺れる荷台で背を預けると疲れがどっと襲ってくる…思わず溜息が出た。

 まさかこんなに傷を負ってしまうとは。頭も触ってみたら血が滲んでいたし、肩の方は言わずもがなでざっくりやられている。

 そのどちらも普通なら治るまで暫く時間が掛かりそうな傷だが既に回復の兆しが見えていた。回復が早いのは勿論リシアやミッシェルの魔法のお陰もあるが自己回復の能力も黒竜のせいで増しているようだ。

 どんどんと人間から離れていくのを感じるのは恐怖感が拭えない。隠している右腕の痣ももうこれ以上隠すのは難しいところまできている。 

 私は…本当にこれを食い止める事が出来るんだろうか?不安を感じていた時に、ふと声を掛けられる。仲間になって以来良く話しかけてくる剣士のハスタだ。

「どうしたんだシーチェ。暗い顔をして」

「…考え事してるだけ」

「そうか。あんたのおかげでここまで死なずに来れている。礼を言っておく」  

 珍しい。女性が居ればすぐに口説いて回るハスタが口説く以外の事を最初に言ってくるなんて。しかも真面目なカオをしている。

「……ハスタの生き別れた弟さん?」

「俺に兄弟はいねーよ」

「茶化して悪かったわ。正直、傭兵は好かなかったけど貴方達は別みたいね」

 私の中で彼らへの評価に少し変化があった。傭兵なんて危険だったり不利になるとすぐに逃げだしたり裏切ったりするものだと思っていたが、彼らはどこにいてもしっかり戦ってくれるし頼りになる。

 救われた事も何度もある。私も礼を返した。

「私もありがとうと言っておくわ。傭兵にも義理堅い人がいるのね」

「あんたらは信頼出来る依頼主だからな」

「ふーん?あくまで商売、ってワケ?」

「仕事だからな。お互いに選ぶ自由はあるさ。ただ、信頼出来る依頼主だけってワケじゃないがな」

 ハスタはそう言うと隣に腰かける。付かず離れずの距離、座っても頭一つ分は高い所に並んだハスタの横顔も小さな切り傷を幾つも作っていた。

「夢の話を覚えているか?」

 私はえぇ、と答える。それは良かった、と言ってハスタは話を続けた。

「俺も夢を見ているんだ。あんた達に」 

「…私達に?」

 一瞬言葉に詰まった。彼の考えている事が分からなくて。

 私達、というのは私とリクの事だろう。しかし、どこに夢を見るというのだろうか?私が訊ねると、ハスタはうーん、と唸ってからゆっくりと言葉を選ぶようにして話してくれた。

「戦争を終わらすだけ…って感じじゃない。きっとデカい事をさせてくれる…ってかな。付いていったらそんな感じがすんだよ」

「それが夢なの?」

「その先だ。そこを越えたら、もう戦わなくていいんじゃねぇかなって思って。アイツも…やいやい言いながら俺みたいなのにくっついて危ない仕事しなくて済むんだろうな、とか」

 アイツ、というのがミッシェルの事なのは分かった。確かにこの2人は揃うと口喧嘩をしている場面によく出くわす。ミッシェルの小言をハスタがタジタジしながら聴いている感じで嫌がっているかと思っていたが、どうやらそういう訳でもないようだ。

「そういう話さ。あんたは見つかったかい?」

「生き残るのが今は精一杯。夢じゃないけど…ただ、仲間が居る事はやっぱり悪くない、って思ってる」

「いつか見つかるさ。見つけに行くとしようぜ」 

 素敵な仲間と一緒に、と親指で自分を指す。どこまで行っても変わらない彼にそれ自分で言うー?と言ってまた茶化した。  

 いつか見つけられるのかな、とか考える気持ちになるだけでも私は大分変ったと思う。相変わらず考える余裕はないけど。

「気が向いたらねー」

 そう返したが、私は確かに彼に感謝していた。

 

 

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