1
帝国将ポルドナを文字通り叩き潰した
大勢の人間たちがこちらを見上げてぴくりとも動かない。いや、動けないのかもしれない。目立てば殺される。刺激してはならない、そう表情が語っている。
大地を、山を、大気を揺るがす咆哮を上げればさらにその恐怖は増長する。我先にと逃げ出す村人を見下ろしながら、私は自分の持つ絶対的な力にこれまでとは違う不思議な感覚を得ていた。この力があればこんなに簡単に敵を倒せる。どんな強大でも、数が多くても関係ない。
「シーチェさん!!」
兵士の中に混ざったクレハが叫んでいるが今、人の言葉を話すことは出来ない。せめてその声を聴くことくらい。
“奴モ殺スカ?”
声に耳を傾けている所に恐ろしい言葉を投げかける。誰彼構わずその場にいる人間は全員殺そうとするオルヴァヌスを抑えるのも一苦労だ。
―バカ言わないで。敵は帝国軍、竜に跨っている連中だけ―
“貴様ハ感ジヌノカ。コノ場ノ全テノ感情ハ我々ニ向ケラレテイル”
―分かってる。だから私があんたのその欲求を抑え込んでんでしょうが。あんたはそうでもしないと皆殺そうとするんだから―
“敵ヲ皆殺シニスル事デ勝利ニ近ヅク。世界ノ理ダロウ”
たしかにそうなのかもしれないが、そんな事出来る訳がない。私はある意味正しいと思われるオルヴァヌスの発言を無視する。ここで言い合うために呼び出した訳じゃない。
ただ、
手始めにポルドナが率いてきた竜騎士達を駆逐するために動く。
こちらの動きに反応して臨戦態勢に入るが将を失い、浮足立った奴らにはまともな反撃も叶わない。魔法も刃も通さないこの体の前に成す術なく蹴散らされる。空で散った竜騎士と飛竜の骸が空から降り注ぎ、地面で紅い花を咲かせる。
歩兵だったら苦戦必須の帝国竜騎士の小隊も瞬く間に駆逐して、報告に挙がった本体の方に向けて空を翔ける。
“コノ感覚ダ…!フハハハ…!”
自身が解放されて立ちはだかる者を好きに殺せるこの状況がオルヴァヌスにとっては気分がとても良いらしい。私は黒竜の体になることで相変わらず負荷が掛かりすぎている…気分もすこぶる最悪だ。
意識を掴まえながら飛んでいると正面に飛竜の群れが現れる。あれが敵の本隊。陣形を鶴翼に展開した敵から魔法の洗礼が浴びせられ、その全てがこの巨躯に命中した。人体や普通の生物なら消し飛ぶほどの魔力と魔導書の威力に中てられてもびくともせず、効いている素振りも感覚も全くない。
本当に恐ろしい。人類が滅ぼされかけたのが納得出来る。そんな敵を前にしてなお対峙しなければならないなんて…
オルヴァヌスの意のままに熱線を吐き敵の一団を焼き払う。少しの情け容赦なく吐けるだけの熱線で焼き払われた敵が今度は焼かれたまま落ちていく。この一瞬、たった1発の熱線で今何百の命が消えたのだろうか。
“フハハ!見ロ、貴様ガ望ンダ悪魔ノ業ダ”
そう言われてはっとする。
これが、私の望んだこと…?私は全力で否定しようとしたけど、言葉を見つけられない。図星だったから。
敵にとっての悪魔になる、それはこういうことだ。絶対的な力で、逆らえないものに対して力を以て蹂躙する。恐怖を植え付ける。その為にすることと言えば普通の人間が想像もできない事をする事。
戦争だから、人間がする事だからこれまで“残虐”で、“残酷”で済まされてきた。それを上回る恐怖が今ここに生まれようとしている。
「魔法が効かない!?」
「馬鹿な、帝国の魔導士達が開発したこの魔法が弾かれるだと…」
「クソッ!ジュギウ将軍、これを感づいて俺たちを捨て駒にしやがった!」
泣き言に近い嘆きの声が聞こえてくる。
恐怖が支配する空で帝国の竜騎士は果敢に黒竜と対峙して灰となった。これまで何度も見た光景だったが、私は言葉を失っている。
この先、この力を間違いなく制御できなくなる。ならばその前に戦争を終わらせるべきなんだろうか。
…どうやって?
“簡単ナ事ダ。敵ヲ皆殺シニスレバイイ。何度デモナ”
オルヴァヌスが私の考えている事を察知して語り掛けて来る。敵を皆殺しにすれば確かに脅威は消える。
―なんにしてもここまでよ黒竜―
“ナンダ、モウ限界カ?”
―次の機会もある。ここはもう十分だって話―
“ホウ?マアイイダロウ”
随分と聞き分けの良い事で、と思った。先ほど私の感情を読んだ所を鑑みると奴にはもう心情も伝わる様になってしまっているのだろうか。
だとすれば私がこいつを封印しようと思っていてその為に動いたり、考えたりする事だって
帝国竜騎士隊を撃退した後、戻った私を出迎えたのは明らかに敵意を向けて来るカイ兵達と廃墟になった山間の村の姿だった。広場だったらしい空き地に降り立ち、人間に姿を戻したその途端に力が入らず膝を突く。吐き出す呼吸は今でも火が出るのではないかと言う程熱く、体は憔悴しきって今はもう立つこともままならない。そんな中、私は四方を取り囲まれた。
「何故気付かなかったのですかクレハ様!」
兵の1人が怒りを込めて言う。アラハバキと戦った後で黒竜に化ける人間が来たとなれば、事の張本人だと思われても無理はない。竜と異形の関連性は分かっていないけれど、関連付けてしまうのも分かる。
「知ってた。けどアラハバキとは関係ない」
兵に怒り、恐怖などの感情が支配する中で冷静にクレハは私の前に出た。
「武器を仕舞って。私の恩師よ」
「貴女の命でもそれは出来ません!我らの敵でない事を証明出来ない限り、今ここで首を取るべきです!悪夢の再来を繰り返す訳には!」
求められる命の安全。私がここでまた変身してしまった時は矛先が自分達に向くかもしれない、そうなれば手が付けられないから今の内になら…と問答無用で斬られないだけマシだ。感情的になっているが、冷静さは残っている。
方々から彼に同意する声が上がる中、クレハが吠える。
「貴様らその眼で何を見ていた!?今我々がこうして立っているのはこの方が帝国竜騎士どもを撃退したからだろう!窮地を救った恩人に対して“敵でない事の証明”、“首を取る”などと抜かしおって無礼者ッ!」
赤備えの娘が戦場に立つ鬼気迫る姿が自分達に向き、気圧されて兵がじわじわと後ずさる。
「異論がある者は前に出よ!このクレハが相手となるぞ!!」
刀を抜いて更に一喝すると兵が息を呑んで明らかに怯んだ。それでも私と言う存在に信頼を置けない兵士達は互いに顔を見合わせて探り合っている。
「おーい君たちー!ケンカはやめないかぁー!」
そんな殺伐としている空気に似合わない素っ頓狂な声がどこかから降って来る。声に続いた羽ばたく音の軽やかさは飛竜のものともまた違う。
「ってやっぱりクレハだ!また兵士いじめてる!」
「ッさい!説教の最中よ黙って!…やっぱり、って何よ!?」
声の主にクレハが大きな声を出す。羽音は大きくなり、その方を向くと天馬とは違う姿の大きな鳥に兵士が跨っている。
金鵠。カイの山奥の綺麗な水場に生息するというその水鳥は、かつて国を救った武士が操ったと伝わる。今では〈金鵠武者〉の称号を手にする者はごく僅か。熟練した〈天馬武者〉から選抜された者が金鵠を授けられる。
そのうちの1人が彼。
「いつもの事じゃん!クレハは女の子なのに下手な武将より武将なんだもん怖いよー」
「…ダイヤ。あんた相手でも今は本気で怒るよ?」
「ただ事じゃないねぇ。ちなみにどうしてそんな事に?」
「命の恩人に向かって“首を取れ”など“敵でない事の証明”などと抜かす奴がいた」
それは穏やかじゃないねぇ。と言って彼は金鵠を降りた。
つかつかと歩み寄ってくると彼は私の前で跪いてじっと見つめてくる。
「“敵でない事の証明”、ねぇ?」
相手を観察して、見抜こうとしている薄い茶色の瞳と視線が交差する。私の方は満身創痍で相手を観察するどころじゃないが何とか皆の疑いを晴らす言葉を絞りだす。
「私がこうして、会話出来ているうちは味方…だと…」
喋るだけで息も苦しいし頭を上げているのもしんどくなって、私は限界で意識を手放した。
2
黒竜という存在はシューレ教の信者であってもなくても人生のうち一度は耳にする事がある単語だ。この世で最も分かりやすい“悪”という存在の象徴にもなっている黒竜。それを宿しているという人間が今目の前に横たわっている。外で警戒している兵士がまだ恐怖を払いきれずに家の前でぼそぼそと話すのが聞こえてくるがその殆どは“彼女を早く始末してしまえ”という声が殆どだった。
「その身で敵を撃退しても、存在が大きすぎてまだ…兵の気持ちも分からなくはないけど…」
村の中で無事な家を見つけてそこでシーチェを寝かして看病をしているクレハと金鵠武者のダイヤの表情は暗い。
目の前にいる存在は人の形をしている。なのにその隠している存在が大きすぎて図る事が出来ていなかった。復活すれば明確に敵となる。しかし今は自我もあり実際身を呈してカイの兵士と村を救い、帝国の侵略も撃退してみせた。それは味方となったシリアン公国軍の軍師の姿であり、彼女の意思だ。
「そもそも竜が人に憑依?するなんて起こり得るの?」
シーチェが眠っている部屋の近くの縁側に腰掛けて、信じられないという仕草と共にクレハがダイヤに訊ねる。
「
「向かっていたのは事実。それもこの人がここで暴れたもんだから頓挫しかけてる」
組んだ足の上で頬杖をついて目を伏せる。
「彼らの所に向かうなんて…」
ダイヤの言う事は尤もだ。竜の一族の所に人間が行くなんて普通なら絶対にあり得ない。
しかし、クレハにとってシーチェはカイで将になるまでに何度もお世話になっている恩人でもあった。国を追われてシリアンを去ったと聴いてから数年ぶりに再会した恩師が困っている今、どうしても力になりたい。父のマサカゲや王子のアスマは部隊の指揮を執る様に言ってきていたが半ば強引に説得してここに付いてきている。
だからこんな所でそれを止める訳にもいかなかった。ダイヤならなにか前向きな意見を言ってくれる、と確証もない期待もあって話してみたが。しかし返ってきた言葉はその期待を打ち砕くには十分な現実だった。
「無理もないね。世界を滅ぼそうとしたなんて明確で巨大な敵でしかないじゃん?実際いつ復活するかも僕達には分からない訳だし」
「そ、それはそうだけど…さ」
「恐らくだけど、竜の一族はシーチェとは会わないと思う。彼らは自分達に危険が及ばない限り外と関わりを持たない。この国が焼け野原になろうとも、ね」
現実主義者のダイヤにとって、クレハの行動の意味が正直分からなかった。国の将として普段兵を率いている人間が私情に流されて可能性の低い“賭け”とも言えることをしようとしている。
竜の一族に会いにわざわざ他国の人間を連れて行く時間を割いて得られるものが有るのか?
「これを達成して君は何を得るんだい?僕らは将1人を欠いて戦っているというのに?それは僕らがそうしてまで利のある事なのかな?」
ダイヤが真っ直ぐにクレハを見つめる。答えを聴いて計ろうとしているのは分かった。いつもは笑みを絶やさない彼が少しも笑わず、真剣な眼差しを向けている。
得るもの。自分達を利する事なのかどうか?クレハには質問の意味が分からなかった。だから当然答えも分からない。
「そんな事…知らない」
細く呟く。その声は届いたか届かなかったか、ダイヤの顔は険しくなる。
「は?」
「そんな事知らない」
今度ははっきり言い切る。
私情なのは間違いない。利があるかなんて考えてもいないし、打算もなかったがこの行動の根拠はあった。
「ただ言える事がある。この人は最後に絶対勝つ。そして無意味な事はしない」
これまで過ごした時間はお世辞にも長いとは言えない。しかし短い時間でも多くの事を自分に教えてくれた経験がクレハにそう言い切らせた。
どんなにその時は無駄だと感じていても最後には必ず結果で応える。それがシリアンの悪魔、シーチェ・フェイエンベルクという人間だ。
「私を信じてくれてありがと、クレハ」
クレハとダイヤは驚いて声の主に目を向ける。これまで寝息を立てていたシーチェが目を開けて上をじっと見ていた。
「いつから聴いていたんですか」
ダイヤは目を細めて尋ねる。
「“竜の一族”は私には会わないだろうって所」
そう言うとシーチェははぁ…と大きくため息を吐く。疲れや負の感情を吐き出すような大きなため息。
「それじゃあ困るのよねぇ。世界の行く末に関わるんだから、我関せずではね」
遠くを見たままどこか棘のある言い方をするシーチェ。そこにダイヤが反応した。
「我関せず?黒竜という存在自体が伝説的で本当にそうだったかも分からないのに?」
「面白い事言うわね?この村で帝国竜騎士を撃退したのは
派手にやったもの、と声は笑うがその瞳はダイヤを真っすぐ射貫いている。これまで数多の戦場と修羅場を潜り抜けて国を守ってきた悪魔が狩りの眼を開きかける。クレハとダイヤは底知れない寒気を感じた。
「ダイヤ、その辺で…」
クレハはダイヤを制止しようとしたがダイヤは無視してそれでも食い下がった。口調はさっきよりも強くなっていた。
「それは感謝する。ただクレハ程の将を連れて時間を費やしている事、僕がわざわざクロガネ城からここに来た事の意味、納得出来る理由がなければ…」
突然シーチェが腕を振るう。一瞬のうちに掴んだ得物の刃が首に食い込む直前で寸止めされダイヤは息を飲み、クレハは目を見開いて刀に手をかける。
(反応出来なかった…!今まで寝込んでいたのに!)
シーチェの殺気に身動きを封じられ、動けないまま2人は時が動き出すのを待つ。
「私は今、世界を救うために行動している。だけど邪魔をしてくる人間まで救ってあげるほどお人よしじゃない」
「世界を救う?大層な目標だけど戦争をしているんだよ?!その前に攻め滅ぼされれば我々は全てを失うんだ!」
ダイヤは目を剥いて声を荒げるがシーチェは動じず淡々と続ける。
「シリアンも同じよ。うちはここよりもっと酷い。あぁ…時間が惜しいと言うのならクロガネ城を包囲する敵もシリアンを攻める敵も私が焼き払えば話が早いか。そのあとカイもシリアンも丸ごと焼いてしまうかも知れないけど。いい?」
近しい人間がその選択をする、もしくはその選択の先が
「どうする。この場で私を
ダイヤの頬を脂汗が伝っていく。少しでも求められている事以外の行動を取ろうとすれば首と胴体が切り離されてしまいそうだ。シーチェの話を聞いた後で出せたのは悪かった…という一言だけ。それでも彼女はその意図を理解し、フェイルノートを下げたのだった。
3
村で夜を明かしたのちにシーチェ達は目的地への旅路を急いだ。
クロガネ城を守っていたダイヤがここまで飛んできたのは敵の攻勢が強まり劣勢になりつつある事を伝える伝令の役割と、少しでも離脱期間を短く出来るように援軍として派遣された為だという。
戦闘に巻き込まれた村の後処理はカイの現地部隊に任せ、急いで山を進んでいく。天気の安定しない険しい山の山頂の近くに
何か聞けるかどうかの確証もなければ何かを知っている保証もない。シーチェも内心とんだ博打を打っている事は理解していた。それでもここに来れる
道なき道を進み、開けた場所では向かい風に足を阻まれる。それでも進み続けついに風が凪いでいる開けた場所に着いた。辺りは霧に覆われ、手を伸ばした少し向こうでさえ見る事が出来ない。この霧の向こうに何者かがいると一行は感じ取った。
「ここは竜の一族の村よね?敵意はない!話をさせて欲しいの」
シーチェが前に出て、通る声で語りかけるが返答はない。沈黙がその場を包んだまま、聞こえるのは流れる僅かな風の音。少しずつ霧の中を進んでいくシーチェにクレハやダイヤ、忍達も続いた。
「貴方達が人間と関わりを持たないのは知ってる。昔話を聞かせてほしいの!」
「その辺で待ったほうがいいんじゃない…?」
クレハがシーチェに声を掛けるがシーチェは首を振って見せた。自分でも軽率だと感じている。視界のない中を策もなく進むなんて
相手が入ってきた外界のモノにどんな対応をするか分からない。護衛に付いてきたクレハ達だけでも入口で待たせておくべきだったかも、と思ったが今更だと振り切る。
我らに関わるな…立ち去れ…
霧の中から聞こえた低い声に一行は足を止め、相手がそこにいる事だけを把握する。明らかに敵視されている声だが、織り込み済みだったシーチェは再び語り掛けた。
「話を少し聞かせて貰いたいの!黒竜と、この大陸に関する歴史のこと」
あぁ…忌まわしきあの時代。我らをここに追いやった人間ども……愚かな人間ども…
忘れはせん…裏切りの記憶を…
滅ぶがよい…我らの怒りに焼かれて…
最初に聞こえた声と同じような声が今度は複数聞こえる。そのどれもが人間に対する憎しみや怒りを口にしている。
(どういうこと?竜の一族は昔人間と交流があったというの?)
彼らの言葉に思考が目まぐるしく動き始める。
これまでの歴史、考えようとしなければ知らないままだった部分への違和感がまた大きくなる。ただでさえこの大陸ではおかしいくらいにシーチェは
「ねぇ教えて。何があったの?私だったら…」
そう言いかけた時だった。
立ち去れッ!!
強く突き放す口調と同時に、何かに掴まれてシーチェは身動きを封じられた。体を外からがっちり掴むほどの大きな手、それはおよそ人間のものではない。長い爪にゴツゴツした肌、そこから感じる体温はそれこそ黒竜とほぼ同じだと思った。
霧の向こうから伸びている腕の正体は竜なのだろう。しかし姿は見えない。力を入れられたら人間の骨など簡単に砕いてしまいそうな腕力に締められ、首には爪が当てられる。
「シーチェ!」
「動くな!」
後ろからダイヤ達が助けに入ろうと動き出す前に叫んで動きを止める。今ここで戦えば全滅する。なんの意味もないものになってしまう。
「命の危機であってもまだ我らと対話をするか…バカめ。我らの恨みは娘一人の命では消せぬ」
「何があったか知らないけど、今対話している私の気持ちに嘘はないからね」
「ん…貴様は…」
シーチェの言葉に竜は意識を研ぎ澄ませているようだった。少しの沈黙の後、息を呑む音と共に腕に力が加えられた。体が握り潰されそうになり、苦しさに顔が歪み声が漏れる。
「貴様よくも我々の前に現れたな…!ひねりつぶしてくれる!」
「待って…私だってなりたくてなった訳じゃ…」
「黙れ!貴様がいなければ我らはこんなに無様にならずに済んだのだ!」
更に力が加わる。人間の体ではもう持たない。骨がミシミシとしなり、今にも砕かれそうになるのを感じながら最後かもしれないと思い、シーチェは言葉をぶつけた。
「おかしいと思うのは私も同じ!貴方達を無様にした
これでだめならもう話は出来ない。その時はもう一度変身してこの一族を倒すしかなくなる。避けたい。それだけはどうしてもしたくない。
体を砕かれそうになりながらもシーチェは祈った。