ファイアーエムブレム 双極の盾   作:マフィン野郎

4 / 48
ゲラン叛乱。
早朝のシリアン王城を貫いた報せを聞いて、シーチェは戦いに身を投じた。痛む体に鞭を打ってリクを守り、脱出の為の献策を提案した。
献策を受けたリクは傷ついたままの体で脱出を支えようとするシーチェにリクは生き残る事を命じる。
先代国王が心から信頼していた軍師と先代国王の実の息子の2人はもう1度歩み寄ろうとしていた。



第三話 脱出行

 

 1

 

「シーチェ、献策を頼む。最善の手はなんだ?」

 リクは片膝を付いて私と視線の高さを合わせた。彼のこの目を覚えている。たまに見せる本気で何かを決意した時の目。大人びた顔つきになり、体格が大きくなった所以外は少しも変わらない表情が真っ直ぐみていた。

「はい…伝令を出してから帰りを待つ余裕はありません。集合地点を選ぶので全員そこに集う様に手筈を。脱出後はランバンの町東五キロの地点」

「池があるところですね?」

「ええ…脱出は城の裏手門を使い一気に敵と距離を離す。エリフと陛下は仲間達陛下と脱出を。敵の包囲を突破して陛下を安全な所まで…私が戻って兵を連れて後を追います」

 脱出通路が地下にあるが、宰相のゲランが知らないはずはない。その先の出口は抑えられていると思って動くべきだ。逆に潔いくらい堂々と逃げる方が手のうち様もある。

 包囲している敵の数はそんなに多くはないはずだ。と感じるのはまだ戦闘が激しいと言うこと、頻繁に兵舎を訪れるリクやエリフが気付かない位しか反乱に加担する兵の数を揃えられていないと言うこと、先程から追撃が止んでいること。それらの事から包囲は厚くないと予想された。

「その傷で行くと言うの…?」

 ずっと手当てをしてくれているリシアが不安そうだ。

 確かに高位魔法のトロンに貫かれて傷は痛むし息も苦しいしボロボロだが、殿は自分が引き受けるしかなかった。

 リクを逃がす為にここを譲る訳にはいかない。脱出後の行動の為には少しでも味方の兵力も必要だ。

「私が行くしかないの」

 渋りそうなリシアに言い聞かせる様にぴしゃりと言うと思わぬ所から声が上がった。

「俺も行く」

 蒼髪長髪の斧使いの男、ゲイガンが一言だけ発した。斧を肩に乗せ、いつでも行けると無言のアピールをしている。それを見て赤髪の女騎士も薄ら笑いを浮かべながら追従した。

「リク様の為になるなら私も喜んで死地に入りますわ」

 アヤは言わずもがなだが、ゲイガンも腕の立つ。決して臆す事なく迷いない武を振るう勇敢な兵士である。二人の協力を得られるのは正直ありがたい。

 ありがたいのだが。

「貴方達ねぇ…!陛下の護衛を減らす訳にはいかないのよ?」

「そういう貴女はここで死ぬつもりではありませんこと?」

「私は…罪を償う必要があるわ」

「それは今じゃないぞシーチェ。お前にはまだ生きていて貰わなければならない」

 リクが真っ直ぐ見ていた。

 リクを逃がしてこの死地で死ねれば、償いにはなると思ったのにどうやらそれは当の本人が許さなそうだ。

「そんな…承知致しました陛下。私は必ず戻ります。この二人を連れていくことお許しください」

「分かった。アヤ、ゲイガン、三人で必ず味方を率いて戻れ。大広間にいる指揮官は必ず必要になる」

「畏まりました。二人とも準備はいいかしら?」

 アヤは慣れた身のこなしで騎乗し剣を抜いた。その表情は死地を前にして楽しそうですらある。無口なゲイガンは唇を一文字に結んだまま斧を担いでこちらを見ていた。

 どちらも支度は整っている様だ。

「それでは参ります。陛下のご武運を祈ります」

「死ぬなよ。聞きたい事は山程あるんだ。あとは俺の兵士達を頼む」

 御意、と短く答えて扉を開け放つ。

 廊下に響く剣戟と悲鳴があちこちから耳に入ってくる。城内はまだ制圧されていない。まずは玉座へ入り、味方との合流を急いだ。

 

 2

~玉座の間~

 

 破壊された扉から玉座へ入り感じた事はまず、戦況は守備隊がやや押され気味であること。数こそ近衛騎士や守備隊が反乱軍より圧倒的に足りて居なかったが、戦列が整い、組織的に抵抗している守備隊側は大健闘していると言えた。

 同じ色の鎧や装具を着けた者が斬り合い、魔法を浴びせ合う。豪華絢爛な装飾が見所でもあった玉座は血に染まり、血で血を洗う様な地獄と化していた。

 見物している時間はない。すぐ戦列に加わり、私は指揮官を探した。

「ここの指揮官はッ!?どこにいる!」

「増援…?たった三人で今さらなんだ!」

「陛下より王命を申しつかった!指揮官はどこだ!」

 剣戟の音で聞こえないせいでお互い自然と怒鳴る様なトーンで兵士と会話をして、指の指された方を向く。そこには斧を手に奮戦する黒い鎧の姿があった。遠目でも分かる角が生えた様なあの兜の持ち主を私も知っている。

(あの人なら間違いなく頼りにはなるわ!)

 兵士から離れ、戦列から敵を倒しつつ移動してようやく黒い鎧の人物の所に辿り着く。その僅かな間にも私達の服は新しい返り血でまた汚れ、武器の血を落とす余裕もなかった。

「この裏切り者共がぁぁぁッ!!」

 黒い鎧の太い声が咆哮すると同時に振るわれた斧(しかも普通の斧よりも一回り大きい戦斧と呼ばれるタイプである)が攻めいる敵をまとめて吹き飛ばして行く。

「加勢に来たわ!」

 私はある程度の距離を取り、攻め寄せる敵を斬り捨てる。彼はそこで初めて私達に気付き、面甲をあげると一瞬驚いた後に表情を曇らせた。

「何故あんたが…」

「話は後よゲクラン殿。陛下は脱出されたわ。守備隊にも合流するよう指示が出てる。その伝令に来たわッ!!」

 一合して二太刀目を躱してカウンターで胸にフェイルノートの刃を突き刺す。そこから斬り上げて瀕死の敵に止めを刺した。

「陛下のか?!しかしあんたの事は信用出来ん!陛下の指示と言えどもな!」

「今はここを脱出するのが最優先よ!私がどうこうは後にしてよ!先代からの忠臣なら分かるでしょ?!」

 黒い鎧の男、シリアン軍将帥のゲクランと私は軍師時代に何度か一緒に戦った事もあったが、例の暗殺事件から袂を別つしかなかった。

 ゲクランは情に厚い一方で裏切りを許さない人物である。以前は色々協力してくれていた彼も私が捕まって無実を晴らそうとした時は耳を貸してはくれなかった。

 だが、過去の事で彼と言い合う時間はない。私と遺恨はあっても今は私の言葉で、リクの為に動いて貰わなければならない。

 斬り込んで来た敵を倒し、私は叫ぶ。

「私はここを抜き陛下の下へ行く!国一番の忠臣なればこんな所で止まってる暇はないのではッ?!」

「なんだと?くっ…言ってくれるなシーチェ!」

 全軍傾注ゥ!と太い声が再び咆哮した。

「ここを突破して陛下の下へ参じる!我こそ勇者と言う者は某に続け!全軍、この黒兜が目印だァッ!」

 戦列から上がる歓声に戦意が高まる。下がりかけていた守備隊の士気が戻り、反乱軍を押し返し始めた。

(統率力はさすがゲクラン殿ね。こんな状況でも檄1つで軍をまとめ直すなんて)

 増える一方の敵を盛り返した士気で逆に押し込んで行く守備隊。その先頭にはシリアンの誇る猛将ゲクラン、後ろには配下の兵達がまるで壁の様に固まって圧迫を強める。

「奴ら息を吹き替えしやがった!応援を呼べ!破られるぞッ?!」

 反乱軍の慌てている声が聞こえ始め、統率が乱れるのは同じタイミングだった。そして敵戦列を斬り崩して行くと正面に小さな集団が一瞬映る。

 敵の本陣!すかさず私は呼び掛けた。

「こちらの正面!敵本陣!」

「斬り崩せェッ!裏切り者に鉄槌を!」

 左右で戦列を組む兵の攻勢が更に苛烈になる。空気がまるで沸騰するような、この感覚。そこに直感的な嫌な感じはしない。ここは勝てる!

戦列を1つ、2つ…3列目を破る頃になると私の正面の戦列はがら空きになった。あの分厚かった反乱軍戦列を突破したのだ。

 その隙間から守備隊側の兵が雪崩れ込み、穴を広げて行く。

「シーチェ本陣を獲れ!」

 ゲクランの号令に私は反応し、真っ直ぐ小さな集団を目指した。10名程の小隊が防御隊形を取って待ち構えている。

「アヤ、先頭を!ゲイガンは私に続いて!」

「心得ましたわ!」

 アヤは馬上で面甲を下ろすと馬を加速させた。単騎での騎馬突撃だったが、浮き足立っている敵の防御隊形など敵ではない。瞬く間に蹴散らして散開させ、そこに私の放つ矢とゲイガンが突っ込んで半分以上の兵を無力化する。

「勝てると思ってあの方に付いたんだ!こんな所で死んでたまるか!まずはお前からだ裏切り者ッ!」

 蹴散らされた敵の〈戦士〉が立ち上がり、斬り込んで来る。シリアン軍の鎧と額に黒い頭巾を巻いている男。既に冷静さを欠き、殺意だけを込めた目が真っ直ぐ向けられている。

 何を慌てている。何をそんなに怒っている。貴様は付く方を間違えただけだろう。ここはシリアン公国。この国に楯突く奴に自由があるはずない!

「貴様に!私の…何が分かる?!」

 裏切り者。私の名と私に張られたそのレッテルしか知らない人間が何時でも騒ぎ立てる。

 そのレッテルを背負い、独りで生きてきた。

 全ては復讐の為に!

「私の、邪魔をするな!」

 大きく振りかぶった斧が振り下ろされる前に弓を射る。矢は狂いなく男の眉間を貫き、絶命させる。即死だった。

「敵本陣陥落!扉を確保!」

「お前達良くやった!陛下の下へ急ぐぞ!軍師殿、積もる話は後だ,,,案内を頼む。時間は余りないぞ」

 鎧を返り血と傷だらけにしたゲクランに促され、私はすぐ動こうとしたが呼吸が乱れていることにすら気付かなかった。咳き込む位、息が上がっていた。

「傷が治りきってないのに、貴女の無茶する所は前と少しも変わってませんわね」

「変わってないのは、アヤもでしょ。すぐに…はぁ……」

 大きく深呼吸をして呼吸を整える。だが心臓がバクバクと鼓動しているのが手を当てなくても分かった。それでも戦闘中に傷が痛まなかった事はリシアに感謝しなくては。

「行きましょ。陛下の所へ」

 突破した後は撤退戦へ。殿をゲクラン殿に任せ、私達を先頭にに守備隊は王城から命からがら逃げ出したのだった。

 

 3

~2日後 ランバンの町~

 

「到着出来たのは?」

「某を含めた将兵が三百です。半分以上は負傷し、糧食装備とも全く足りていません。撤退するのが精一杯でした」

 申し訳ありません、とゲクランが頭を垂れた。普段は面甲に隠れているヒゲと顔の傷がいかつい雰囲気を出しているがその表情はまるで苦虫を噛み潰したようだった。

「面をあげてくれゲクラン。あの中を良く生き延びて脱出してくれた」

 リクの言葉にゲクランは顔を上げ、前を向き直る。それを見てリクは言葉を続けた。

「脱出したのはいいが、危機はまだまだ続いている。今後の方針だが、ここから近いプラマー領に行こうと思う」

「ブレグ様ならば間違いなくリク様に手を貸してくださるでしょう。しかし周囲の状況が不明な今、ここをすぐに動く事が果たしていいのかどうか,,,」

「エリフ殿。状況は切迫しているのだ、すぐに行動せずなんとする」

 ゲクランがエリフの言葉を刺す。

 しかし、どちらの意見も今は正しかった。

 このままここに居ればいずれゲランの追っ手に見付かるし、動いても手負いの軍勢は目立って見付かり易い。運良くプラマー領に入っても私達が捕捉されればゲランは全軍で攻め寄せるだろうし、そうなればこれまでの苦労も水の泡だ。

「我々の戦力や装備はあまりにも不足していて、味方となる勢力との合流を急ぐ必要もあります。しかしエリフ殿の発言も一理あります。ゲランがプラマー伯との合流を呼んでいれば既に監視されているでしょう。私はこの軍を一度潜伏させ、情報収集と戦力回復を図る事を提案致します」

「軍を潜伏させて情報収集と戦力回復を並行させるだと?ここは王城から通常行軍でも2日しか離れていなんだぞ。三百人とはいえ、どうやって潜伏する」

「まずは聴いてください。策はこうです」

 話している間、疑いや好奇の混ざった三人の視線が外される事はなかった。私はまだ、信頼を得ると言うには程遠い。

「時間がない以上取れる手段は限られる、か。分かった。シーチェの策で行こう。エリフ、ゲクラン指揮を頼む」

「畏まりました陛下」

「…本当によろしいんですな?」

 素直に承知したエリフとは対照的なゲクランは訝しげにこちらに目を向けながら主のリクに問い掛ける。

 彼の抱く疑念を晴らす術を今の私は持たなかった。しかし、リクは違った。

「俺が決めたんだゲクラン。国王の命が聞けないのか」

「滅相もありません。陛下の命であるならば…」

 ゲクランも踵を返し、エリフを追うようにこの場を去った。残された私も町の様子を見に行きたい所だが、返り血の着いたこの服のままでは目立って仕方ない。しかもゲランを襲撃した時のままなのでぼろぼろも良いところだ。

「町に出るなら服とか整えてこい。その身なりで居て、自分の策を失敗させるつもりか。皆を危険に晒す事は見逃せないな」

 それはごもっともで。あの時は世間知らずで坊っちゃまだったリクも数年も国王の座に居れば色々見えて、変わるはずだ。先代が目を掛けていた理由が良く分かる。

 彼は紛れもなく、王の素質に恵まれていた。

「仰る通りで,,,少しお時間を頂けますか。身なりを整えて参ります」

「手早くな。その後は町の偵察も兼ねて出てくれ。リシアと一緒に行き、サポートを頼む」

「承知致しました」

 私の身なりを指摘した言葉は正論だが、彼の表情は少しばかり解れている様なそんな気がした。最初にあった時の様な冷たさは少なくとも感じられなかった。

 いつまでもこうしても居られないので、私も踵を返す。身なりの事などとうに忘れてしまっていて、おしゃれな服の事や装飾品の事などもう関心もないが、服や体をきれいにする事位は覚えている。

 浴びに浴びた返り血や自分の血を洗い流す為、私は近くの川を目指した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。