部隊を率いるという点で初陣となったリクは強烈なプレッシャーを感じながら勇気を持って先陣を切る。
深い森の中を進む間も剣戟の音が絶え間なく耳をつついてくる。戦闘が始まったと誰もが分かるその音を耳にして、改めてやるべき事を自分の中で再確認し、作戦通りにリクは部隊と共に村を目指して前進していく。
(偵察に出た兵の報告によるとノクタス村守備隊は既に壊滅寸前だと言ってたな。早く着いて彼等を助けないと)
シーチェからは“焦りは兵士に伝わるから常に冷静でいること”と軍議中に釘を刺されている。これまで大きな戦もなく、賊の討伐に時折出ていた程度の実戦経験から部隊を率いる事になった状況が自信のなさから焦りを生み出そうとしている。
部隊の指揮は以前ならシーチェに任せていたし、彼女が出国してからは軍の指揮官から大将を指名し、その者にほぼ一任していた事が仇となっている。
座学で学んだ軍事学とは訳が違う。知識はただの言葉と先人の経験の羅列に過ぎず、正解は教科書には存在しない。その場で起こる全ての事象にその場で出来る正しい判断を決断し、勝利しなければならない―それが戦場での指揮官の役目。
負ければ全てを失う状況にあるリクにとって、指揮官としての初陣は苛酷なものだった。
前進開始から程なく、村に到着した救援部隊はリクの合図で戦列を展開した。
そのまま部隊が村に入ると、プラマー伯軍の旗はまだ掲げられていて村人を救出する兵士の姿も見られた。
至る所で家は焼け、手に掛けられた村人が倒れており、それは大人も子供も見境なかった。傷付いて居る村人は兵士が手当てをしていたが、明らかに医療品は不足している。
(反乱軍め,,,民に容赦なく手を出したな,,,,,,!)
怒りが込み上げ、奥歯を噛み締める。父が守って来たこの国と民を傷付けられた事、同胞にこんな仕打ちを出来る反乱軍、特に指示したゲランへの敵意と殺意が明確になったのをリクは感じた。
「救援か!助かった,,,?!貴方はリク陛下!」
部隊に気付いた兵士が声を投げたが、同僚が助けに来たと思ったのであろう兵士は驚いて目を丸くした。巷では病に罹ったと噂になっているはずのリクが居たのだから驚くのは無理はない。
リクは怒りを一度堪えて兵士に質問した。
「遅くなった。敵はどちらからだ?」
「はっ、敵の主攻はここから南に行った所です!前線の奴らを助けて頂けませんか!」
「分かった。リシア、彼に付いて怪我人の手当てを頼む。後で合流してくれ」
「は、はい!」
負傷した村人を介抱していた兵士から聴いたリクは部隊をそちらに向ける指示を飛ばす。
ライブの杖で治療を始めたリシアを置いて前進し、少しして戦場の熱気が近づいて来るのが感じられた。
剣戟の音、地鳴りの様な足音、悲鳴。様々な物が混ざった戦場はすぐそこにある。
そんな時、傍らに居たシーチェがリクを呼び掛けた。
「陛下。緊張してらっしゃいますね?」
「,,,あぁ。部隊指揮も実際の戦場と言うのも初めてだ」
「王城の時と同じ様に動ければ問題はないかと。陛下の槍の扱いは,,,」
少し間を空けてそうね、と言った後“並の人間には及ばないですから”と悪戯っぽく笑いながら言った。
「ただ、戦場は模擬戦とは違います。沢山の相手を纏めてする事になりますので仲間と連携は欠かさぬように」
「ありがとう。1人よがりにならない様気を付ける」
戦いを前にして昂る体にシーチェのアドバイスがスッと入って来た感じがした。程よく冷静さを取り戻し、リクは見えて来た戦場を見据えた。
「見えて来ましたね,,,陛下、号令を」
シーチェに分かったと答え、リクは一呼吸置いてから部隊に檄を発する。剣戟の中でもその声は部隊に届くだけの力強い声で紡がれる。
「ノクタス村と味方を救出し、この戦争における勝利の礎とする!諸君!勇者であれッ!!!」
沸き上がる兵士達。熱気がぐんと上がって士気の高まる中、先頭を駆けるリクの紅いマントと銀の配色が目立つ鎧の男が手にする槍“クルバルカ”のフォルムが見た者全てを魅了する。
そしてその槍を持つ者の存在は味方には勇気を、敵には恐怖を与えた。
「味方が来たぞ!押し返せ!来て下さった国王陛下に無様な姿を見せるな!」
馬上の現場指揮官が剣を敵に向け、更に味方を鼓舞する。押し込まれていたノクタス村守備隊は息を吹き返した。
先陣として斬り込んだリクは巧みな槍捌きで戦列を貫く。リクの槍の腕を知っているかつての部下達は国王自らがクルバルカを振るって斬り込んで来る姿に動揺した。
リクはかつての部下であり、民である反乱軍を斬る事をノクタス村の惨状を見てからは迷いを捨てた。
「,,,!」
想いを胸に秘め、静かに怒りの槍を振るうリクの動きは誰から見ても洗練されているうえで怒りによって鋭さを増していた。
リクの槍は最小限の動きで敵をいなし、一撃の下に葬る。守りを固める〈兵士〉や〈剣士〉程度の相手であれば、その守りごと薙ぎ倒す。
討ち取って名を挙げようとする敵を片端から倒して行くその姿に味方は鼓舞された。
すぐ近くでクルバルカを流れる様に扱うリクを戦いながら見ていたシーチェはリクの槍の鋭さから戦う事の迷いが無いことに対して内心安堵していた。
リクは本来は不器用だが相手を理解しようとする優しい心の持ち主なのだ。だからこそ相手を理解しようとして戦場で迷いが出るのではないかと心配していたが、その心配は無さそうだ。
(相変わらずの腕前ね,,,)
数的不利もものともせず、敵をなぎ倒して行く姿は先代の姿と瓜二つだ。
(,,,っと。私も負けてられないわね)
今回の戦場はあまり広くない。矢を振り撒く様な事はせず、フェイルノートを両刃の刀の様にして戦うシーチェもまた、傷が癒えた事で本来の動きを取り戻している。
両側からの攻撃を捌き、正面の敵からの振り下ろされた剣の切っ先を半身になって躱す。地面に刺さったその剣を勢い良く踏み込んで距離を取る様に後ろに大きく飛んだシーチェはそのまま矢を番えてまとめて3人を撃ち抜いた。
「漸く調子が出てきたわ!」
あの時、ゲランに射貫かれた傷ももうすっかり回復した。シーチェの特徴である体のキレやスピードと正確な一撃は敵に対処する隙を与えず、一瞬のうちに攻撃の手数を叩き込む。
敵に容赦はない。対峙する者は誰であろうと斬り伏せ、先陣を切り開いていくその姿にかつてシリアン兵は勝利への全幅の信頼を置き、そして恐怖した。
今“裏切り者”と皆が罵る女性は自ら策を弄した上でその策に必要であれば自らの強さで道を切り開いてしまう力を持っているのだから。
リクやシーチェ達の奮闘で村での戦闘はかなり優勢に運んでいた。リクは最前線から少し離れた所で戦闘を見守る。
事が順調に運んでいればそろそろ別働隊が敵本陣を奇襲する頃合いだ。それを合図にブレグ率いる本隊とリクの部隊で同時に攻撃を仕掛けるー
シーチェは初戦から大胆にも敵本陣を焼く作戦を採ったのには“今後逆らう者には容赦しない”と言うことを知らしめる為だと言った。
敵は勿論、日和る諸侯に対しての牽制の意味もあると。
「報告致します!」
幹部達で集まっていたリクの下に駆け寄った兵士が敬礼をして内容を告げる。
「別働隊奇襲成功です!敵本陣より火の手が上がっています」
「分かった。これよりこちらも更に押し込む。攻勢を強める様伝えてくれ!」
「畏まりました!あと、もう1つご報告がございます」
そう伝えた兵士に対してリクは続きを促した。
「敵方に付いていた傭兵2名とノクタス村の村人が1人、戦列に加えて欲しいと申しております」
「村人はともかく敵の傭兵,,,ねぇ」
シーチェは寝返って来る傭兵と聴いて嫌そうな顔をした。
劣勢と知って寝返って来る様な傭兵など程度が知れている。例えどんなに強くて金を積もうと同じ状況になれば掌を返すだろう。
しかし、吟味する時間は今はない。今攻勢に出なくてはせっかくの策も無駄になってしまう。
判断を先延ばす事を提案しようとする前にリクが口を開いた。
「シーチェ。その3人、あんたに任せていいか?」
「え?,,,畏まりました」
「俺は部隊を率いて攻勢に出る。あんたもすぐ来てくれ」
そこまで言うと、リクは側に控えていたエリフや兵達と共に前線へと向かって行ってしまった。
(味方の勢いが良くて前のめりになってるわね,,,エリフが居るから暴走はさせないだろうけど)
リク達を見送り、残されたシーチェはとりあえずその3人に会ってみる事にした。
案内をお願いした兵士は機械的にこちらです、と待たせて居る所へと案内をし、終えるとさっさと部隊へと戻ってしまった。
「貴方達が戦列に加わりたい傭兵と村人?」
シーチェは壊された家屋の前に居た明らかに兵士ではない装いの3人に声を掛けた。
1人はオレンジの髪が目立つ痩身長身の男で左肩に付いている大きな肩当てと目鼻が整った顔が特徴的な雰囲気の軽そうな剣使い。その側にいるのが薄いピンクの髪を肩まで伸ばし、ライブの杖を抱えて居る女性。毛先が少し巻いてある所や服装などを見るとかなり身嗜みには気を使っている様だ。
そしてもう1人。服装は簡素なズボンとシャツ、そして簡易的な皮の鎧と木こりが使う斧を手にした青年。またまだ顔や雰囲気は成人まで遠そうだが、力仕事が多かったのか逞しさが印象的だった。
その3人は誰もが返り血や泥にまみれていて、ある程度修羅場を潜ってここにいるのは想像が出来た。
「俺はハスタ。こっちのはミッシェル。訳あってあんた方の敵の指揮官をぶっ飛ばした。信用は出来んだろうが腕は立つんだ。使って貰えねぇか?」
「私は戦闘は出来ないけど治療は出来るわ!早速こちらの負傷者の治療をさせて貰うわよ!」
「貴方達2人はちょっと待って。君はどうしてここに来たの?」
シーチェを見るなり売り込んで来た傭兵2人を待たせ、目付きの鋭い青年に話を振ると彼は静かに話し始めた。
「家族が,,,俺と妹以外殺されたんだ」
衝撃的な始まりにシーチェは息を飲んだ。
昨日までは戦い等とは無縁の生活をしていた筈の彼はアイゼンと名乗った。家族が襲われる中、隠れて居る所を追っ手から逃げてきたハスタ達に救出されたらしい。
救出が早ければ,,,一瞬言葉に出し掛けてシーチェは飲み込む。そんなことを今言った所で、もうアイゼンの家族は帰って来ない。それでも今は慰めるべきなのだろうか。
考えてみたが、彼の表情を見るとどうやらそれは必要ないらしい。
「この兄ちゃんが教えてくれたんだ。敵から何かを護りたいなら戦うしかないって。力があれば、皆護ってやれたんだって,,,!うぅ,,,」
感極まったのか涙が溢れるアイゼンはなんとかその涙を堪えようと天を仰いでいる。
この状況になってしまったのなら残酷な話だが、ハスタが言った事は1つの正解である。しかし数ある正解の中の1つに過ぎない。
妹と一緒に遠くに逃げる選択肢だってあると言うのに。自分の力の無さで大切なものを奪われたアイゼンはハスタから護りたいなら戦えと言われ、戦う事を決意したと言うが,,,
「泣くのは後にしなさい。この後、貴方も妹も死ぬ様な事があるかも知れないのよ。戦いたいのならそうするといいわ。私は止めない,,,ただ、責任は誰も取らないわよ」
「もう、あんな思いはしたくねぇ,,,!父ちゃんと母ちゃんに言われたんだ。あいつを護ってくれって!だから強くなりてぇんだ!連れてってくれっ!」
「分かったわ。アイゼン、私と一緒に来て。絶対に離れない様にね」
シーチェはなるべく優しくアイゼンに言葉を掛けた。トラウマの様な状態から脱する為の決意であれば簡単に逃げ出す様な事もないだろう。
問題はこの傭兵2人だ。本来ならお断りする所だが,,,時間もないし既に彼らはアイゼンを巻き込んでいるため、放り出す訳にもいかない。
「貴方達2人には試験を出すわ。私と一緒に来てアイゼンを護ってあげる事。どう?」
「分かった」
「承知致しましたわ」
ハスタもミッシェルもすんなり了承してくれた。
契約の条件交渉についてはどうせ私では決められないから終わって3人が無事だった後で考える事にするとしよう。
「戦列に戻るわよ。覚悟して来てね」
策は成った。
火計により反乱軍本陣は燃え上がり、その中を国王軍は攻め上がって行く。指揮が乱れ、部隊としての戦闘力を発揮出来なくなった敵はあっと言う間に敗走し、本陣では抵抗する残敵の掃討が始まった。
「降伏した者は手を掛けず、拘束し1ヶ所に集めて下さい!」
戦闘が佳境を迎え、ノクタス村から攻めた方面の残敵掃討の指揮はエリフが引き継いだ様だった。馬上から慣れた様子で部隊を操っている。
この状態であれば、この戦闘での増援や伏兵の心配はないだろう。私は血の付いたフェイルノートの刃を払い、血を落としてから布で拭き取った。
「はぁ,,,はぁ,,,なんだよ、こんなにしんどいのかよ,,,」
隣で初陣を見事生き残ったアイゼンが膝に手を付いて肩で息をしている。かすり傷は幾つかある様だが、目立った負傷はない。
代わりに持って来た木こりが使う様な斧は受けた刀の傷や斬った刃こぼれでボロボロになっていた。
「ここまで上出来だわ。ただ帰りたくなったのなら今のうちだけどどうするの?」
「冗談じゃない,,,!こんな所で戻って、妹を守れるか!」
「,,,いい心構えね」
彼はしっかり鍛えれば良い兵士になりそうだ。戦うにも筋は凄くいい。まだまだ危なっかしいのは言う間でもないのだが。
そしてアイゼンのお守りをした傭兵の2人は先程断りを入れてから“馬を捜しに行く”と行って別れた。嘘か本当かは知らないが、戻らないのならそこまでだ。
しかし、離れる前に彼等は敵将の居場所を教えてくれていた。
リクと合流した私は教えられた所に行ってみる。他の天幕とは違って少し豪華な装飾の施された如何にも目立つ天幕は火計の餌食にならず無事だった。わざと残したとは聴いていないので単なるラッキーなのだろう。
「先に行きます。陛下とアイゼンはここに」
武器を構えながら,,,天幕の覆いを一気に捲り上げる。
「死ぬのだァァアッ!!」
案の定隠れていた。体格の良い敵が短剣を手に詰めて来る。胸を狙って突き出される短剣をフェイルノートで逸らし、敵の前脚の膝を蹴って体勢を崩す。横から思い切り蹴飛ばされ、痛がる敵にもう一撃、膝を蹴飛ばした脚をそのまま顔に喰らわせた。
「グボハァッ?!」
「その程度の動きで私と格闘勝負する事になるなんてツイてないわねぇあんた」
「き、貴様は!」
私を見据えた男は正体に気付いたらしい。今更隠すつもりもなければ名乗るつもりもない。
しかし、どいつもこいつも私の事を貴様呼ばわりしてくる。そう思うと腹が立った。
「今、私に“貴様”なんて言える立場かよ?」
「お、俺をこんな風にして,,,!許されると思っているのだ?!」
歯が折れ、鼻血も出してボロボロになったブタの様な男が仰向けで頭だけ上げながらそんな姿になっても喚いている。上からな態度を取られ腹が立ったので顔をもう1度蹴飛ばした。
襲われた咄嗟の反応でぶっ飛ばしたが、身に付けている物だけは中々良い物でどうやらこいつがこの軍の将の様だった。天幕にはこの男1人だけだが。
他に隠れている事もなさそうだ。落ちている短剣を木箱に突き立てながら、しゃがみ込んでこう答える。
「はぁ?私と戦って無事で済むと思うなよ?」
戦場で対峙すれば敵は必ず破壊する。どんな手段、策を使っても。それが私のポリシーだ。
「それよりあんた、取り巻きは1人もいないの?寂しいわねー」
本来ならこんな時大将の周りには護衛の兵士が何人かは居るものだが,,,この天幕の周りには敵は居なかった。
この男の求心力や人望を表しているのだろう。同情するつもりはないが可哀想な男だ。
「まぁどうでもいいか。とりあえずこの周りは燃やしてるから選ばせてあげる。5秒あげるから選ぶといいわ。ちなみに選ばなかった時はこの場で殺す」
フェイルノートの刃を振り下ろし、首筋の手前で止める。ひっ、と息を飲んだ男の表情は恐怖に染まっていた。
「1番。投降してあんたの知っている情報を全て差し出す。2番。黙秘して縛られたままここの宝物と一緒に灰になる。はい、決めて」
いち、にぃ、とゆっくり数え始める。
「ひ、ひ、ひちばんっ!」
「はぁ?!ちゃんと答えな!」
「い、1番なのだ,,,!命だけは助けて欲しいのだ,,,!」
フェイルノートの刃を首筋から外し、私は外に出て控えて居る兵士達に拘束を依頼した。
天幕の近くに居たリクとアイゼンは恐らく一連の流れは聴いて居ただろう。視線が泳いでいるリクと表情が固まっているアイゼンに悪びれもせず伝える。
「,,,敵に容赦はしません。それに奴は私を怒らせたので」
「そ、その様だな,,,やはりあんたは敵に回すべきじゃない」
「あぁ、俺もシーチェさんには逆らわねえ,,,」
そんな話をしていると、拘束された敵将が天幕から引き摺り出されて来た。往生際悪くこの期に及んで、しかも私にぶっ飛ばされた後で抵抗している様だ。
大声で喚きながら兵士達をその大きな体躯で振り回そうとしている。命の危険を察しているからか、かなりの暴れっぷりだ。
「あいつの顔,,,何したんだシーチェ?」
ボロボロになった男の顔を見てリクが尋ねて来たので私も答える。
「襲われ掛けたので2回ほど蹴飛ばしました。あいつが敵将の様で、こちらの質問には何でも答えると言ってた筈ですが,,,」
「そうか。あいつがまともな事を知っているとは思えないけどな」
「それは何故です?陛下は奴を知っているのですか」
私が軍師として勤めている頃はあいつは軍の中心には居なかった。将軍達の部下だとしても見覚えはない。
私の質問から少し待っても答えがないので思わず悪い事を訊いたのかと思いつつ、促す様に陛下?と呼び掛ける。
「奴はブバゼ。あんたが国を出た後でゲランが登用した。ただの風見鶏でどうしようもない男だ。恐らく何も考えず指示に従っただけだろう」
リクが目を細めながら暴れるブバゼを冷たい目で見ている。余りに暴れるので兵士に槍の石突で後頭部を殴られ気絶させられていた。
兵に見捨てられる将に大事な情報など伝わっている筈もない。攻略して後の事は後から来る誰かが指揮する手筈か。
「ただ、もしかしたら何か知ってるかも知れないな。掃討完了後に訊いてみるとするか」
「承知致しました」
程なくして残敵の掃討が報告され、ノクタス村の救援は完了した。焼き払った反乱軍の本陣が森に延焼しない様に周囲の木を切り倒してからカパダへの帰路に就いた。
ーシリアン王城ー
(ブバゼがしくじったか。奴めやはり使えぬ。あの程度の守備を崩せず大敗するとは,,,)
密偵の報告を受けたゲランは舌打ちをした。
先鋒として奴の生死はどうでも、ノクタスを陥落させてカパダへの進軍ルートを抑える事位は期待していたが事態は最悪の方に転んだ。
部隊は壊滅し、ブバゼは捕えられた。
今は疫病が流行しているとして王城を封鎖し、情報を伏せているがこの敗戦が伝われば諸侯や他都市の民衆が反乱に気付いてしまう。
諸侯が敵に回る様な事になれば中々難しい事になる。今後の為にもこのままこの国を手に入れる必要があるのだ。
「ゲラン様、お出でになられました」
側に控えて居るフードを被った男が呼び掛ける。かなりの敬った呼び方をする人物の来訪を知り、ゲランも外を眺められる窓を離れた。
「そうか,,,行くぞ」
そう言うとフードの男は魔法陣を描き、ゲランと共にどこかへと姿を消したのだった。