「ピーポーピーポー...」
今何処にいるのか。
どういう状況なのか。
なにも理解できないまま、意識が朦朧としていくのを感じた。
目を開けた途端、大量の光が目の中に入り込んでいくのがわかった。
見えた景色は...病室の天井だろうか。
「やっと起きた!」見覚えのない一人の女の子がこちらを見つめていた。
「...誰だ?」俺は思ったことをはっきりと口に出した。
その女の子はきょとんとしたような、動揺しているような曖昧な表情をした。
「...え?お兄ちゃん?いるかだよ!」とても困ったような表情をしている。
覚えてないのだからそんな顔されても困るだけだ。
話によると、こいつは俺の妹なのか?いるかっていう名前なのか?
「記憶喪失のようですね」その後医師に告げられた。
どうやら俺は、帰宅中道路に飛び出して、車にはねられたらしい。そこをいるかに発見されたようだ。
いきなり飛び出すって、自殺願望でもあったのか?そんなことも今ではわかるはずもない。
とりあえず、元の生活に戻れるまで体が回復するまで、一か月くらいかかるそうだ。
車の当たり所がよくて良かった。あれ?当たり所がよかったのか?悪かったのか?ええいもうわからん。
それから毎日、いるかは俺のもとへお見舞いに来てくれた。
色々なことを話した。俺のいたはずの学校、部活等...
俺は尽きない話をして、毎日がとても楽しかった。
それから3週間くらいたっただろうか。徐々に一人で生活できるようになっていき、
退院も近いと言われた。
そんな日に
「ねえねえお兄ちゃん。ちょっとお金の話になるんだけど...」
俺の両親は中学の頃二人とも他界している。
お金などの管理はおそらくいままで兄である俺がやってきたのだろう。
「いるかね、お勉強が少しできるらしくて、優等生さんたちが行く学校に行けるらしいんだ。でもそれじゃ今までもらってた分じゃ足りなくてね?」
そうか。どうせ退院したら返してもらおう。
「ほら、通帳と印鑑だ。変なことには使うんじゃないぞ」
「わー!ありがとお兄ちゃん!大好き!」
彼女は満足げに帰っていった。
その日から彼女はお見舞いに来なくなった。
学校の話も全部でたらめだった。学校なんてまったく楽しい所ではなかった。
親が他界していて、大金持ちということもあり、毎日パシられていたらしい。
自分の唯一の救いであった金もすべてなくなった。何をして生きればいいのか。
いっそ自殺してしまおうか。前と理由は少し変わってしまうけど。
そう思い、夜外を歩いていると楽しく街を歩いている見覚えのある姿が見えた。
「いるか?!」俺は思わず叫んでしまった。想像の5倍の声は出た。
「あ?」見たことある顔、聞いたことある声。ただ、態度と表情と服装は全くの別人だった。
「いるかって誰っすか~ww」とても馬鹿にしたような声で言ってきた。
服装からして、学校に行くなどというのは嘘だろう。
自分の、今は亡き両親の残してくれた大切な金を自分勝手好き放題使ったのだろう。いや、今も使っているのだろう。
そう考えると、底知れぬ怒りと悲しみが同時にわき上げてきた。
「お前に妹なんていねぇよw第一、お前みたいなやつと血を分け合ったとも考えたくねぇよ!家に帰る途中、お前を見たんだ。そしたら確信したよ。こいつ、近所で有名な金持ちだなって。学校でいじめられてるのも知ってたし、親が死んでんのも知ってた。誰も悲しまないと思って後ろから押して車道に出してやったのさ。そしたらちょうど車が来て、お前をはねた。チャンス!って思ってお前のポケットを探ったね。でも想像以上に人が集まった。完全に怪しまれてたから、たまたま通りかかった妹を演じたのさ。すぐばれると思った。だけどお前は記憶喪失と来た!鳥肌ヤバかったね!これはもっと大きな大金を手に入れるチャンスだと思ったわwそしたらまんまとお前は騙されたんだよ!!」
「いやぁ大変だったねぇw毎日見たくもない顔のやつのところ行って、ありもしない作り話をして、架空の現実を信じ込ませるの。学校に行きたいって言ったときは、胃がキリキリしてヤバかった。お前はまんまと騙された!お前は会って一か月の赤の他人に全財産渡したんだよ!」
怒るというより、悲しかった。気が付けば目から大量の涙を流していた。
「え?泣いてんの?wダッサww」
怒りが思いっきりわいてきた。
「てか私用事あるからもう行くね。一生泣いてろゴミカス」
こちらに背を向けた彼女は横断歩道の信号が青になるのを待っていた。
気が付くと手が出ていた。無意識のうちに彼女を大量の車が通っている車道に押し出した。
「え」彼女はこちらを向いてきょとんとしたような、動揺しているような曖昧な表情をした。
会った時とは違い、まったくかわいいとも感じなかった。
「ピーポーピーポー...」
今どういう状況なのか。
なにも理解できないまま、付添人として救急車に乗せられた。
翌日、彼女が目を覚ました。
「あなた、誰?」彼女は何も知らない顔をしていた。
俺は、彼女に初めて会ったよりも、車道に押し出したときより、数倍の
【きょとんとしたような、動揺しているような曖昧な表情】をして言った。
「え?姉ちゃん?!俺だよ!!」