ベルベット悩み相談室   作:ジベた

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11 凰鈴音

 その日、ベルベットが帰ってくると自室の前の廊下で壁にもたれかかっている少女、凰鈴音の姿があった。クーリェを待っているようには思えない。残された可能性は一つだけである。

 

「あ……」

 

 鈴と目が合う。彼女は何か言いたそうだったが上手く口から言葉が出てこないようだ。付き合いの浅いベルベットから見てもこのような鈴は彼女らしくないと思えてしまう。つまり、それだけ困っているということなのだろう。

 ベルベットは鈴の傍を何も言わずに通り過ぎる。自室の鍵はかかっており、クーリェはまだ帰ってきていないようだった。開錠してドアをオープン。ここで足を止めたまま廊下に目をやる。

 

「ずっとそこに立っているつもり?」

「へ? いや、あたしは……」

「私に用があるなら入りなさい」

 

 奥手になってしまっている人間を動かすにはわかりやすい道を用意しておくと手っ取り早い。この期に及んで悩み相談に来たと素直に言えない鈴はベルベットに促されるままに部屋の中へと足を踏み入れた。

 いつものテーブルで向かい合う。少し前のベルベットならば鈴を無視していただろうが、本人はこうした自身の変化に気づいていなかったりする。

 

「単刀直入に聞くわ。あなたの用件は何?」

「なんか最近、噂になってたからちょっと聞いてもらいたいことがあって……」

 

 どんな噂なのか気になるところではあったが、いきなり脱線するのはベルベットの望むところではないため尋ねるような真似はしない。

 これまでベルベットに相談を持ってきた者の多くは普段の明るさからは想像できない厄介事があったり、身近な誰かを心配していたりと深刻なものを抱えていた。専用機持ちたちのムードメーカーである鈴が沈んだ顔を隠さないのだからよほどの一大事であるとベルベットは踏んでいる。

 解決できるかはわからない。しかし話を聞くくらいはしよう、と覚悟は決めている。

 ベルベットは静かに待った。なかなか本題を切り出せなかった鈴だったが、葛藤を抑えてようやく悩みを吐露する。

 

「世界はどうして不平等なの……?」

 

 スケールの大きな単語で構成され、肝心の悩みが見えてこない。

 だがそれは言葉に限った話。鈴の視線はベルベットの胸元に注がれていた。もっとも、ベルベットは気づいていないのだが。

 

「その疑問を持つ。つまり、あなたは世界中の人間が平等であるべきと考えているということ?」

「いや、そんな大げさな話はしてないから」

「少なくとも理不尽な不利を感じたことがあるのね」

「そ、それはそうなんだけど――」

 

 鈴はハッキリとした単語を言わないまま自分の悩みを察して欲しかったのだが、その望みは届いていない。ベルベットが生真面目に対応してくれているため、一夏相手の時のように理不尽な怒りを示すことも出来ない。

 

「ほら、私って(胸が)小さいじゃない? 努力では変わらない、生まれ持った身体が理想から遠いと悔しいでしょ?」

「たしかに(身体が)小さいと困ることが多そうね。この女尊男卑な時世でも男性を頼るところだと思うわ」

「そうよ! 一夏がもっとハッキリ(貧乳でもOK)してくれれば、あたしもこんなことで悩まないのに!」

「織斑一夏はハッキリ(自分の意見を主張)してる方だと思うのだけれど」

「……やっぱ(巨乳の人に対してだけ)そうなのかなぁ」

「彼、(人助けに)自分から積極的に動くでしょう? 良く(女の子が困ってることに)気がつくし」

「え? あの朴念仁が?」

「そこまでしなくてもいい、といくら言っても聞いてくれなかった。とても強引だったわ」

「待って! アンタ、一夏と何かしたの!?」

「ごめんなさい、私のことはどうでも良かったわね」

「いやいやいやいや! アンタの話が気になってしかたないわ!」

「悪いけど、(フォルテの関わることだから)詳しくは話したくないの」

「……怪しい」

 

 あまり鈴のことが理解できていないベルベットだが、鈴のジト目に敵意のようなものが混ざっていることだけは察した。

 一夏の話題で機嫌を悪くした。論理的に考えて、おそらく嫉妬しているのだろうとベルベットは推測する。あながち外れでもない。

 

「これだけは信用して欲しい。私はイマージュオリジスと戦うためにここに来た。そこに偽りはないから」

「え、あ、うん。って、そんなわかりきったことはどうでもいいのよ!」

 

 鋭い人から見れば語るに落ちたも同然だったベルベットの弁明だったのだが、鈴にとってはそんなベルベットの事情など些末事に過ぎない。

 わかりきったことと鈴は言った。疑いの欠片すらなくベルベットを仲間だと受け入れているからこそ出てくる言葉だ。そんな彼女の真っ直ぐさが眩しくて、ベルベットの涙腺が高まってしまう。

 

「うん……そうね。ありがとう」

「へ? いや、お礼を言われるようなことしてないんだけど」

「私と織斑一夏の間で特別なことは何もないから安心して」

「そ、それならいいわ。あたしは絶対に負けるつもりなんてないからね」

 

 本人の弁明を聞いただけで疑惑が解けたのか、鈴の機嫌は直っていた。それのみならず、この部屋を尋ねたときの暗い印象すらもどこかへと吹き飛んでしまったようにも見える。

 

「あたしは負けてない! ちょっと(胸が)小さいだけのハンデなんかでクヨクヨしてんのがバカらしくなってきたし!」

「そうね。一般的な女子高校生の(身長の)平均値から見ると、私たち専用機持ちは高くても平均くらいなのだから、その中だけで比べても空しい」

「え……? マジで……? 世の中、そんな怪物だらけなの……?」

 

 目に見えて凹んでしまった鈴だったのだが、彼女はぶつぶつと呟きながら席を立ち、外へと足を向けている。

 ベルベットとしては何も解決していない気しかしていないが、ここで引き留めるほどのお節介焼きでもない。去る者は追わず、ただ見送るだけだった。

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