放課後になり、ベルベットはすぐに部屋に戻る。クーリェにISの訓練をと誘われていたが、先に取り付けてしまった約束があったため大変残念ではあったのだがクーリェを一夏に任せて約束を優先することにした。
用件は「相談に乗って欲しい」とのこと。これまで流されるままに専用機持ちたちの悩み相談を受けてきたベルベットだったが、あらかじめアポをとってくるケースはこれが初めてである。そんな生真面目な対応をされてはベルベットも断りづらかった。
相談相手はロランツィーネ・ローランディフィルネィ。愛称はロラン。オランダの代表候補生であるが、そんな肩書きよりも100人の恋人(全て女性)がいるという印象の方が遙かに強い。
生真面目なベルベットですらもロランには『そっち方向の人』という印象が先行してしまっている。その最大の理由はロランの開き直りによるものだろう。時代が時代ならアブノーマルだと蔑まれる性癖を持ちながら、それを隠すことなく表に出し、初対面の女性に告白までしてしまう堂々とした態度。十中八九、ベルベットとは違う星の生まれなのだろう。
そんなロランが悩みを相談するらしいが、内容は皆目見当も付かない。聞いたところで役に立てそうにないが、このようなしがらみはさっさと解消するに限る。どうせ理解できない悩みなのだろうか『わからない』の一言で終わるはずだ。
……そう、思っていたのだ。
「最近、箒が良い笑顔をするようになったのだが、少しばかり腹を立てている自分がいることに気がついてしまってね。箒が幸せならそれでいいはずなのに。ちょっと自分でもどうすればいいのかわからないから、原因究明に付き合って欲しい」
「嫉妬じゃないかしら?」
条件反射で受け答えてしまっていた。わからないと言っておけばそれで終わりであったにもかかわらず、明確に返答できてしまったのは今のロランの現状に重なる自分があったからだった。もっとも、ベルベット本人は自分のことが見えていないため、何故自分がこのような返答をしたのか、ただ首を傾げるだけなのだが。
「嫉妬。私が? 一夏に?」
「おかしくはないわ。おそらく篠ノ之さんの笑顔は織斑一夏によって生み出されている」
「だが私は彼女が幸せならばそれでいいと思っている」
ロランの言葉を聞き、ベルベットの脳裏には親友の顔が浮かんだ。
彼女が亡国機業に降った理由は駆け落ちのようなもの。そこで幸せにしているのなら、それでいいと言えてもいいはず。しかしベルベットは彼女のことを許せなかった。その正体は何だろうか?
「あなたの言葉が事実なら、この相談は終わりね」
ベルベットが先に席を立つ。するとロランは――
「待ってくれ!」
立ち上がり、手を伸ばして引き留めた。このまま終わりで良しとはしない。そんな自分の意思表示に気がついたロランは力なく椅子へと落ちる。
「よくわかったよ。たしかに理屈に合わないことを私は言っている」
「そう……」
ロランが認めようが認めまいがベルベットから話す内容はもうない。構わず放課後の訓練へと向かう準備を始める。
「どう向き合えばいいと思う?」
もう終わったつもりでいるベルベットにロランは問いかける。だがその質問はベルベットにも答えようがない。他ならぬベルベット自身が向き合えていないのだから。
「あなたには99人の恋人がいるらしいけれど、あなたは一度も向き合ったことがないのね」
「!? 何を――?」
「本当はこんなこと言いたくないのだけれど、あなたの言う恋人は一般的な恋人とは違っている。同性であることを抜きにして、ね」
直接的な答えは言えなかった。本能的にその事実から目を背けたベルベットは、率直にロランに対して思っていることを口にすることで誤魔化していく。
「あなたの作り上げた同性のハーレム。その実態は孤独な少女たちに手を差し伸べたことで作られてしまった孤児院なのだと思うわ」
「孤児院……? それは彼女たちへの侮辱と受け取っていいか?」
ロランが凜々しく睨み付けるもベルベットは逆に鋭利な目つきで睨み返した。
「あなたにだけ向けた軽蔑よ」
ハッキリと喧嘩を売っている言葉だったが、ロランはゆっくりと息を吐いて落ち着きを取り戻す。
「私の愛が歪んでいる、と言いたいのかな?」
「愛の形の正道を私は知らない。ただ、こうしてIS学園にいる間、あなたは99人を放置している。そんなあなたが篠ノ之さんのことだけを悩んでいると言う事実を、あなた自身はどう感じる?」
「……薄情者、か。連絡は取っているが、毎日全員というわけにはいかない。そして、そのことに疑問を感じていなかった……」
ロランは天井を見上げる。
「これだけは言わせて欲しい。私は一度として自分の気持ちに嘘を吐いていない」
「そんなこと、誰も疑っていないわ」
「寂しがっている女の子を見ると放っておけない。こうして恋人の人数が増えていっても気にしなかった。私の腕で全ての少女を抱きしめてやれると今も信じている」
「でもあなたの腕には限りがある」
「……そうだね。私の夢は
一つ、結論が出たらしい。ロランも席を立ち、出口へと進む。
「とりあえず今と向き合うことにした。過去とはそれから向き合おう。参考になったよ、ありがとう」
男らしく颯爽と去って行く後ろ姿を見送った後、ベルベットはクーリェの元へ向かおうとして、ふと思う。
「私が向き合うべきは……」
過去と現在のどちらを優先するべきだろうか。
選ぶのは今じゃない。結論を後回しにして、とりあえずクーリェの元へ向かうこととした。
本当はこれが答えなのかもしれない。