ベルベット悩み相談室   作:ジベた

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04 オニール・コメット

 ファニール・コメットが立ち去ってから1時間。もうそろそろクーリェが戻ってくるだろう時間に、ノックの音が木霊する。

 

「……また? 誰かしら」

 

 先ほどまでファニールの相手をしていたせいか、居留守の選択肢がなくなっている。少しの逡巡もなく客人を出迎えに行く。

 

「あの……オニール・コメットです」

 

 今度は双子の妹の方が訪ねてきた。ベルベットは用件を予想して答える。

 

「お姉さんなら、もう帰ったわ」

「あ、知ってます。ここに来たのはそうじゃなくて――」

 

 ベルベットはドアを開けた。

 

「入りなさい」

 

 具体的に用件を聞く前からオニールを部屋に招き入れ、テーブルにお茶を用意する。

 ささっと落ち着いて話せる場がセッティングされる。にもかかわらずオニールは入り口で立ち尽くしていた。

 

「どうしたの? 座ったら?」

「え、と……じゃあお言葉に甘えます」

 

 姉とは違い、遠慮がちに椅子に座る。ファニールと比べれば多くの人が人見知りする方に分類される。親しいと言える間柄ではないベルベットと一対一で向き合っていて緊張するのは当たり前だった。

 

「私に用事がある、ということでいい?」

「は、はい! なんでも悩み相談に乗ってくれると聞いたので」

 

 瞬間的にベルベットの眉が中央に寄せられた。

 

「誰がそんなことを……?」

「さっき一夏さんの部屋でクーリェちゃんから聞きました」

「そう……仕方ないわね」

 

 情報の出所を聞いた途端に笑顔を見せるベルベットだった。

 普段の厳しい印象は笑顔で消えた。この空気になればオニールも本題に入りやすくなる。

 

「私の悩み……聞いてもらえますか?」

「構わないわ」

 

 ここまで歓迎しておいて、今さら拒否するほどベルベットは鬼ではない。

 というより、冷たい人間を演じているだけの彼女は気を抜くとすぐ他人に優しくしてしまう。

 

「相談といっても私じゃなくてファニールのことなんだけど」

 

 出だしを聞いただけでベルベットは口元に笑みを浮かべてしまった。

 姉妹共に自分の心配を棚に上げている。こうした仲の良さは実に微笑ましかった。

 

「え? 何かおかしいこと言いました?」

「……違うわ。続けて」

「あ、はい。実は最近、ファニールが何か隠し事をしてるみたいで、気になって仕方ないんです。こんなこと今までなかったから、直接聞くのも気がひけて……」

 

 まだ断片的なことしか聞けていないが、察するには十分だった。

 

「あなたはお姉さんの隠してる事が知りたいの?」

「はい。私はファニールの力になりたいから」

「お姉さんに直接聞く以外に方法はあるのかしら?」

「さっき、ファニールがここに来たと聞きました。あなたは何か知ってるんじゃないですか?」

 

 推測の範囲ではあるがオニールの言うファニールの隠し事とはファニールの悩み事だろう。

 ここでベルベットの選択肢は二つ。話すか話さないか。ファニールのプライバシーを守る義務があるわけでもない。とは言っても全てを話してしまうのは姉妹のどちらのためにもならない。

 

「あなたが知らなくて、私は知っている。ほぼ初対面に近い私に打ち明けて、ずっと一緒だったあなたには隠している。それではわからない?」

「やっぱり、私のせい?」

「心当たりはあるの?」

「IS学園に来るのを決めた日、私たちは初めて喧嘩したんです。結局、ファニールが『仕方がない』って折れてくれたけど、きっとまだ納得してくれてなかったんだ」

 

 ほぼ正解だった。ではその確証が得られたとしてオニールはどうするだろうか。

 一夏を諦めるだろうか。答えは否だ。一度は喧嘩までして、自分の想いを貫いてきた。ここで揺らぐ程度だったのなら、ファニールの説得の時点で折れるべきだった。今はもう引き返せないところまで来ている。

 戦う意味を失って、国に帰れるだろうか。答えは否だ。代表候補生の派遣にオニールの想いなど関係ない。絶対天敵の襲撃がある限り、オニールはもうこの戦いから逃れられない。

 ファニールの悩みを知ったところで状況は何も好転しない。メリットのないことを告げるのは何も論理的ではない。

 

「……あなたのお姉さんは一度は受け入れたことを、今更蒸し返すような子なの?」

「それは違う。ファニールは強いから」

「そう。だったら、あなたが心配してるのはお姉さんではなくて、むしろ自分なのかもしれないわ」

「ファニールじゃなくて私……?」

「今まではお互いのことで知らないことは何もなかった。だからたった一つの秘密があなたを極度に不安にさせている。お姉さんの力になりたいことに嘘偽りはないでしょうけれど、本当は怖いだけなのだと思うわ」

「怖い? 私がファニールのことを?」

「少し違うわね。アイデンティティの崩壊が近いのかしら。お姉さんのことで知らないことがある自分になった、その事実を受け入れられていない」

「それは……そうかも」

「その不安を私に聞いたりとか強引な手段で取り除こうとする。言い方が悪くなるけれど、これはあなたからお姉さんへの信頼がなくなってしまうことを意味する。本当にあなたはお姉さんの隠し事を知らないといけないのかしら?」

 

 ベルベットの問いかけに黙り込んでしまうオニール。

 見かねたベルベットはさらに問いかけを続ける。

 

「二人で一つのISを操ることはお互いを信頼しきっていないとできない。まだ私はあなたたちを実戦の中でしか見ていないけれど、あなたたちの信頼関係はたかが一つの隠し事程度でなくなるようなものではないと思うの。自信を持って」

「そ、そうですよね! まだ私、ファニールとISを動かせてるから、大丈夫ですよね!」

 

 二人乗りのIS。この特別な機体の存在を思い出すことで一気にオニールの表情は晴れていった。

 

「なんかこのままでも大丈夫な気がしてきた! うん! ファニールが話してくれるまで待ってみようと思います!」

「そう。良かったわね」

 

 最終的にオニールは鼻歌交じりの上機嫌で帰って行った。

 オニールを見送った後、ベルベットはベッドに腰掛けて天井を見上げる。

 

「ときに信頼関係はお互いを傷つける刃にもなってしまう。私のような結末は絶対にダメだから」

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