ベルベット悩み相談室   作:ジベた

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05 セシリア・オルコット

 どうしてこうなっているのか、ベルベットには理解できなかった。

 

「失礼いたしますわ」

 

 このところ毎日のように来客がある。昨日のコメット姉妹に続き、今日顔を見せたのはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットだった。

 

「用件は?」

 

 突然の来客に慣れ始めていたベルベットはドア越しでの会話をせずにさっさと客を部屋に上げている。ただし、コメット姉妹とは少々扱いが違うのか、お茶を出したりまではしなかった。

 

「実はファニールさんからここを紹介されまして、なんでも悩みを聞いてくださるとか――」

 

 おもむろに溜息を吐く。ベルベットはカウンセラーではない。どちらかといえばコミュニケーション能力が低い方だと自己評価しているにもかかわらず、何故か悩みを抱えた子たちが彼女を訪ねてくる。

 紹介者はファニール・コメットらしい。たしかに相談には乗ったが結果的に怒らせて終わったとベルベットは記憶している。だからこそ、なぜ次の来客につながったのかが全く理解できない。

 

「わかったわ……話して」

 

 本当は納得していない。しかし悩みを誰かに打ち明けるというのは勇気の要ることだとベルベットは思っている。何かを決心してここまで来た者を手酷くあしらうことは躊躇われたので、仕方なく今回も話を聞くこととした。

 何よりもだ。同室の少女、クーリェ・ルククシェフカが期待に満ちた眼差しをベルベットに向けている。やるしかない。

 

「本題に入る前にベルベットさんに質問しますわ。あなたから見て、わたくしはどのような立ち位置に見えていますの?」

「立ち位置……? 悪いけれど、まだあなたたちの人間関係はよくわかっていないわ」

「聞き方を間違えましたわね。わたくしはちゃんと代表候補生として戦えているように見えていますか?」

 

 要するに日常生活の立ち位置ではなく、非日常、絶対天敵との戦いを代表候補生らしくこなせているかということだ。

 

「ええ。あなたに限らず、誰も足を引っ張っていないと思うわ」

 

 チラッとクーリェに視線を移して軽くウィンクを飛ばす。なお、この行為は無意識のうちに行っている。

 

「それを聞けて安心しましたわ。ベルベットさんならお世辞抜きでそう言ってくれていると思いますから」

「そう……」

 

 胸を撫で下ろしたセシリアだった。これで彼女の悩みは解消したようなものだろう。

 これで終わり……のはずだったのだが、ここで珍しくベルベットが口を開く。

 

「敵は未知の存在……怖くても仕方がないことよ」

「恐怖、ですか。わたくしには絶対天敵よりも怖いことがありますわ」

 

 宇宙からの侵略者よりも恐ろしいことがある。そう聞かされたベルベットには、それが何かピンとはこなかった。

 他人と関わるつもりはない。その気持ちには変わりはないはず。しかし純粋な興味が上回り、知りたいという欲求を抑えられなかった。

 

「聞かせてもらえる?」

「わたくしは……置いて行かれることが恐ろしい。わたくしが立ち止まっている間に、一夏さんも他の皆さんも手の届かないところに行ってしまっているかもしれない。わたくしに力がなければ、今のこの居場所がなくなってしまう。そんなことを考えてしまうのです」

 

 セシリアの語る不安はベルベットの胸をも抉る。

 親友だと思っていた彼女が自分も故郷も捨てて悪への道を走った。

 何も相談されなかった。

 自分がどれだけ想っていても、相手にとってはそうでない。

 その事実を突きつけられたらとても苦しいのだと、ベルベットは身を以て知っている。

 

「……あなたなら大丈夫。織斑一夏は絶対にあなたを置いていかないから」

 

 私と違って。その一言は発せられなかった。

 

「はい。最近のわたくしは、前よりももっとそう思えるようになりましたわ。だからこそ一夏さんたちに甘えているだけなのかどうかを知りたかった、というのが今回のわたくしの相談でした。助かりました」

 

 用件が済み、軽やかにセシリアは去って行った。

 反面、見送ったベルベットの顔には陰りがある。

 

「どうしたの、ベルベット……?」

 

 クーリェが服の裾をギュッと掴んでいる。心配させている。それはベルベットにとって最悪な事態だ。

 

「なんでもないわ。少し疲れているだけ」

 

 なんでもない、とその場を誤魔化す。内心では凹んでいるのだが、それを表に出すような真似はしない。

 ベルベット・ヘルは絶対天敵の迎撃のためにIS学園に来たギリシャ代表候補生。他に目的があっても誰にも悟られてはならない。巻き込むことはもちろんのこと、誰も悲しませてはならない。

 殺人者として投獄されたとき、その離別が新たなベルベット・ヘルを生み出してしまってはならない。自分がフォルテと同じことを誰かにするだなど考えたくはなかった。

 

 近くにいる誰かを突き放そうとするその精神が、既にフォルテと同じ道を辿っていることにまだベルベットは気づいていない。

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