ベルベット悩み相談室   作:ジベた

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07 ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー

 今日の客人はそわそわと落ち着きがなかった。

 ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー。タイ代表候補生ということしかベルベットは知らない。どこか浮き足だって見えるのも、浅い交友関係に過ぎないためだろうと納得している。

 

「最初に私から聞きたいのだけれど、なぜ私のところにばかり来るの?」

 

 人を遠ざけようとしているのに逆の結果ばかりである。もういい加減偶然では片付かないレベルなので原因を究明する必要があった。

 親しい人間関係は築かない。そう決めたはずだったから。

 

「3年生だから、だと思います」

「年上だからってこと?」

「それもあると思うのですけど、どちらかといえば1年生の集団から遠いことに意味があります」

 

 親しくない人の方が相談しやすいこともある。そういうことなのだろうと受け取るしかなさそうだった。

 となれば相談内容も自ずと推測できてくる。

 

「織斑一夏、もしくは彼の周りの女の子たちに聞かれたくない話ということね。たしかに私だったらその輪の中に入れそうにないから」

「え? ベルベットさんも十分、一夏の周りの女の子の一人だと思いますけど」

 

 しばしベルベットは固まった。

 まさかそんなはずはない。たしかに一夏に気を許している自覚はあったが、ベルベットはあくまで一夏たちを遠くから眺めているだけの第三者的な立ち位置にいるはずだ。

 いついなくなっても誰も困らない。そうでなければ困るから。

 

「細かいことはさておき。本題は何だったかしら?」

 

 咳払いをして仕切り直し。頭の中ではどうイメージを修正するかを必死に考えている。

 

「え、と。相談というのは、反射的に足が出るのをどうにかしたいということなんです」

 

 ベルベットはずっこけそうになる。よもや自分が抱かれているイメージばかりか、恋愛関係の相談という推測もズレていた。

 

「……どうしてそれが同じ1年生に相談できないの?」

「だって皆さん、無意識――だと信じたいのですけど、ISを部分展開して一夏に攻撃するときがある人ばかりなんですよ?」

 

 相談相手が1年生から遠い必要性は残念ながら理解できてしまった。同じ穴の狢では解決しないという考えが強いからなのだ。

 ベルベットとて反射的に一夏を攻撃した経験があるため、相談相手として不適切なのだが、それをわざわざベルベットがカミングアウトするのもおかしい。仕方なく話を続けるしかなかった。

 

「キックするのは織斑一夏に対してだけ?」

「はい。自分でもよくわからないんです。一夏が特別……と思っているのは認めますが、痛めつけたいわけないのに」

「好きなの? 彼のこと」

「はい」

 

 自分だったら返答に困る質問を、相談者であるヴィシュヌはきっぱりと答える。強い瞳だった。

 

「いっそのこと、告白でもしてみたら?」

「それで私は変われるのでしょうか……すぐに蹴るような私を一夏はどう思うのでしょうか……」

「たしかにそこは不安になるところね。でも問題の根本には『織斑一夏が周りの子の恋心に気づいていない、あるいは気づかないフリをしている』ところにあると思うの。誰かが彼に自覚させたとき、きっとあなたたちは誰も彼に理不尽な暴力を振るえなくなる」

 

 他ならぬベルベットがそう確信しているのだから間違っていないはずだ。

 

「きっかけを私が作る……?」

「他の子が動くのを待ってもいいわ。それをあなたの心が許すのならば、ね」

「最初に動いた子は一夏にとって特別になりうるってことですか。そうかも、しれませんね。でも今の関係は壊れてしまいそうです」

「それは織斑一夏との関係だけじゃない、ということかしら?」

「はい。私にとって、一夏だけが特別ではないですから」

「そう……たぶん、そう思っているのはあなただけではないわ。だからこそ、今のこの環境が生まれている。それがいいのか悪いのかはさておいて」

「なんだかんだで居心地がいいですからね、ここは。代表候補生にはなかなか親しい友人ができませんから。同じ境遇の皆さんは気兼ねなく話せる得難い友人なんです」

「そういうものなの?」

「限られた枠を争うということは見たくもない現実も見せつけられます。敗者に限らず、勝者でさえも」

 

 ヴィシュヌの語る代表候補生ならではの話にベルベットは共感できなかった。少なくとも彼女が代表候補生を目指す間、隣には親友がいたのだから。

 実は恵まれていたのかもしれない。だからこそ、失ったときの喪失感が今の彼女を形作ってしまっている。

 

 結局、ヴィシュヌはそのまま帰っていった。問題の根本は彼女の足癖でなく、一夏が悪いということで決着したようだ。ベルベットとしては悪いとまでは言うつもりはなかったのだが、彼の反応が招いている事実は覆らないため特に訂正をする気にもなれなかった。

 今は一夏のことなどよりもフォルテ・サファイアのことが気になっている。年上のベルベットを追い抜いて代表候補生の座を勝ち取った親友は本当に親友だったのだろうか。親友のフリをして、ベルベットから地位を奪っていっただけではないだろうか。

 

「あの子はそんな器用じゃなかった。きっと私を裏切ったのでなく、他の誰かを裏切れなかった。悔しいけどね」

 

 ベルベットが本当に負けたのはフォルテではない。フォルテが亡国機業に走る原因となった者に負けている。

 きっとその事実が一番認められない。

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