to be with...   作:ペンギン13

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Bad Day

約2年、このライブハウスCiRCLEに勤めている。その中で様々な失敗をやらかしてきたが、少なくとも営業中のロビーで正座をするのは初めてのことだ。

閉店後に正座をさせられたことはある。理由はお察しの通り、まりなさんへの失言だ。

 

「言い訳を聞きましょうか」

 

「悪気の無い悪ふざけだったんです・・・」

 

翠髪の美少女、氷川紗夜さんが強い怒りを湛えた視線でこちらを見下ろしながら言う。その右隣で銀髪の歌姫、湊友希那さんは感情を窺い知れない目で無表情にこちらを見下ろす。左隣に立つまりなさんはいつも通りの向日葵のような素敵な笑顔を浮かべている。

少し離れたテーブルの方では両手で顔を覆い震えるリサを、艶やかな黒髪が美しい白金燐子さんと、紫髪のツインテールを揺らしながらこちらを威嚇する宇田川あこさんが両隣で支えるように座っている。

リサ、あれ絶対笑ってやがるだろ・・・。

 

「その悪ふざけを今井さんが本気にしたら、どうするつもりだったんですか?彼女はまだ未成年なんですよ?」

 

「仰る通りです。大いに反省しております・・・」

 

リサの体の震えが大きくなる。ちくしょう、絶対にやりかえしてやる。

Roseliaの面々はスタジオの予約時間よりかなり早めに来た。つまり俺への追及の時間もたっぷりある。

 

「まさか他の利用者にも同じようなことを言ってるんじゃないでしょうね?宇田川さんのような中学生だっているというのに・・・」

 

「そこは大丈夫です。リサ以外にこんなこと言ってません」

 

「それのどこが大丈夫なんですか!だいたいリサって・・・。いつから今井さんのことをそんな馴れ馴れしく呼ぶようになったんです!」

 

「いや、それはリサがそう呼べって・・・」

 

「この状況で、よくそんな嘘を言えたものですね!」

 

本当なんです。

氷川さんクールな人だと思っていたけど怒るとめちゃくちゃ怖い・・・。だけどリサの事を思ってこんなに怒ってるんだから、心根がとても優しい娘なのだろう。

良い仲間に囲まれてるんだな、と思わず頬が緩む。

 

「何をニヤニヤしているんです?自分の立場がわかっていますか?」

 

「・・・紗夜そのくらいにしましょう。リサも笑ってないでそろそろ皆に説明をしなさい」

 

終始静観していた湊さんが助け舟を出してくれる。リサが笑っていることにも気づいていたようだ。

気づいていたなら最初から助けてよ・・・。湊さんの方を恨みを込めてジッと睨むが、ふいと顔を逸らされてしまう。

 

「アッハハハ、みんなごめんねー。ちゅーしたらって言われたのはホントだけど、ただの悪ふざけだから大丈夫だよ。アタシも陽さんの事からかって遊んじゃったしおあいこなんだ!」

 

「今井さん、おあいこってあなたは・・・。この人にいかがわしいことを強要されたわけじゃないんですね?」

 

「されてないされてない!てか陽さんにそんな度胸ないって!」

 

燐子もあこもごめんね?状況についていけずに目を白黒させる2人をリサが抱き寄せている。

目の前に立つ氷川さんは額に手を当てて、深くため息をつく。そして俺の方へ「立てますか」と手を差し出してきた。心遣いに甘えて、その手を取って立ち上がる。あ、脚がちょっと痺れてる。

 

「誤解からとはいえ、目上の方に向かっての暴言を吐いてしまったことをお許し下さい。・・・ですが誤解を生む発言は、今後控えて頂けると助かります」

 

「いや氷川さんは何も悪くないんだから謝らないでよ。仲間のためにここまで怒れるって凄いね、尊敬する。発言には気を付けますご迷惑おかけしました・・・」

 

「そ、そんな大したことはしていません。バンドの一員として当然のことです!ところで高橋さん、あなたベースを今も続けているんですか?右手の指先がとても固くなっていましたが・・・」

 

「よく気づくね。・・・まぁぼちぼちかな。趣味レベルでだよ。氷川さんも指先固くなってたね。フィンガーも練習してるんだ?」

 

「趣味レベルでそこまでーーー」

 

「なーにふたりでいちゃついてるのー?」

 

「いちゃっ、誰がそんな!今井さん、大体元はと言えばあなたが変にふざけるからこんな面倒な状況になったんですよ!?」

 

「アハハ、ごめんって!紗夜ってばアタシのために怒ってくれてありがとね!」

 

「別にあなたのためじゃーーー!」顔を赤くする氷川さんを、白金さんと宇田川さんのいるテーブルへと引っ張っていく。さりげなく足踏んでいきやがったアイツ・・・。

 

ふと時計を見ると、スタジオの入れ換えまで10分ほどの時間になっていた。20分近く正座してたのか俺は。休憩は取り損ねてしまったが仕事に戻らないとだ。Roseliaは鍵盤が2段積みだったり、ドラムがツーバスだったりで準備に時間がかかる。

痺れる脚に鞭を打って労働に勤しもうとする。

 

「高橋さん、少しいいかしら?」

 

「湊さん?ごめん、スタジオの入れ替えがあるからーーー」

 

「高橋君、私が先に準備進めておくから友希那ちゃんとのお話が終わってから手伝ってくれれば大丈夫だよ?バスドラとヘッドアンプはちょっとしんどいからお願いね」

 

先程まで笑顔でこちらの行く末を眺めていたまりなさんが、てきぱきとキーボードスタンドや氷川さんの使うDiezelのアンプの用意を始める。どういう風の吹き回しだろう、正直後が怖い。

 

「ごめんなさい、手間をとらせてしまって。リサの事であなたに聞きたいことがあったの」

 

「いや、大丈夫だよ。大体俺の発言のせいだしね・・・。それで聞きたいことってなに?ちゅー云々の件は本当に悪ふざけで本気じゃないからね?」

 

「そのことはどうでもいいわ。リサがあなたからベースを教わることになったと聞いたのだけれど本当?」

 

「どうでもいいんだ・・・。あぁ、本当だよ。彼女にベースを教えることになった」

 

「そう・・・。もしよかったら連絡先を教えて貰えないかしら?今度、日を改めて話をしたいわ」

 

「話?・・・まぁ別に断る理由もないしいいよ」

 

ポケットからスマホを取り出し、連絡先を交換する。まさかこの短期間で2人もの女子高生の連絡先を入手することになるとは思わなかった。

 

「ありがとう、今度時間があるときに連絡する。引き留めてごめんなさい、スタジオの準備よろしくお願いするわ」

 

「わかった、連絡待ってるよ。入れ替えまで後5分くらいか、準備急ぐからもう少し待ってて」

 

5分前になり先にスタジオを利用していた娘達がぞろぞろと退出する。お疲れ様ですと声をかけつつ、Roseliaでは使わないMarshallやジャズコを外に出し、まりなさんが用意しておいてくれた機材を次々とスタジオ内に運び込む。アンプ類はセッティングをプレイヤーが自身が行うためそれほど苦ではないが、ツーバスに関してはなかなかにしんどいものがある。

なんとかバスドラムの設置を終え、自前のスネアのチューニングをしていた宇田川さんにキックペダルの調整をお願いしてスタジオから退出しようとするとリサに呼び止められた。

 

「ねぇ陽さん、さっき友希那となに話し込んでたの?」

 

「ん?別に大したことは話してないよ」

 

「そっかー、友希那が真剣な顔してたから気になってさ。あ、今日の練習に向けてアドバイス頂戴よ先生!」

 

「アドバイス?そうだな・・・。ドラムの音をよく聴いてみるといいよ。特にバスドラとスネアを聴くようにするといいかな」

 

「バスドラとスネアね。わかった意識してみる」

 

「まぁ細かいアドバイスは後から伝えるよ、今日は少し遅くなっても大丈夫なんでしょ?」

 

「帰り家の近くまで送ってくれるなら大丈夫だよ!」

 

「もちろん、その位はするよ。じゃ練習頑張って」

 

各々の楽器をセッティングするスタジオから退出する。これから2時間、彼女たちはぶっ通しで練習を続ける。平日の授業があった後だというのに大した集中力だ。

 

彼女たちが練習に励んでる間は、30分前に放置してそのままのギターのメンテナンスや、予約の電話受付をするくらいで比較的穏やかな時間になる。先程取り損ねた休憩を満喫しても良いだろう。

そんなことを呑気に考えていると、閉じたばかりの防音扉が開いて湊さんが姿を現した。

 

「高橋さん、もし良かったらなんだけれど・・・。私たちの練習を見てはくれないかしら?」

 

・・・今日は休憩なしかなぁ。

 




初めまして、ペンギン13と申します。
10話まで投稿して自己紹介というのもおかしな話ですが、この辺りでやらないと永久にタイミングを逃し続けると思いましたので・・・。
初めて書く小説なもので、何かと不便をおかけしているかと思いますが、たくさんの閲覧、お気に入り登録、感想、評価を頂けてとても幸せに思っております。ありがとうございます、嬉しいです。
今、自分の持ってるものを全部注ぎ込んで、キャラクター達を幸せな完結に連れていけるよう努力していきます。
もし良かったら完結までお付き合い頂けると嬉しいです。何卒何卒、よろしくお願い致します。
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