to be with...   作:ペンギン13

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When You Got A Good Friend

コーヒーの黒い水面を、ひとつまたひとつと落とされる角砂糖が揺らす。

彼女の白い手がスプーンでクルクルとカップの中をかき回すと、見た目は自分のものと同じなのに、なにもかもが変わってしまったコーヒーが出来上がる。角砂糖の数は5個目を超えたところで数えるのを止めた。

そのコーヒーのような何かが満たされたカップを優雅に持ち上げ、何のためらいもなく飲み下すと真っ白な喉が上下した。見ているだけで胸焼けしそうだ・・・。

 

「砂糖たっぷりのコーヒーが歌声を保つ秘訣だったり?」

 

「・・・なにを言っているの?」

 

対面に座る制服姿の湊さんが怪訝な表情をする。きっと俺も似たような表情をしていることだろう。

金曜日の時間は午後5時くらい、「話がある」と湊さんに呼び出された俺は、以前にリサと来た羽沢珈琲店で会うことにした。

制服の上着を脱いでエプロンを付けた羽沢さんが、あちらこちらへと忙しなく動き回っている。

 

「それで湊さんが、俺に話って何?」

 

「友希那」

 

「はい?」

 

「友希那でいいわ。リサのことを名前で呼んでいるのだし、いいでしょう?」

 

「じゃあ、友希那さんが俺に話って何?」

 

「友希那」

 

「・・・友希那が俺に話って何?」

 

渋々言うと「最初からそう呼べばいいのよ」とぼやかれる。

ファーストネームで呼ぶのって地味に照れるし緊張するんだけど、最近の娘はこれが普通なのかな・・・。

 

「わかっているでしょう?リサの事よ」

 

「・・・まぁ、友希那との共通の話題って言ったらそれくらいだよね。」

 

「リサと私が幼馴染だということは聞いている?」

 

「薄っすらとは。彼女のベースを弾く理由が友希那だってことくらい」

 

「そんなことを言ってたのリサは・・・。でもそうね、リサはいつも私を支えてくれているわ、それこそRoseliaを結成する以前から」

 

普段のクール表情をわずかに崩して、柔らかくはにかむ。そういう顔もするんだな・・・。

少し温くなったコーヒーを一口飲み下す。うん、やっぱり美味しい。

 

「リサは少し変わったわ、あなたと接するようになってから」

 

「そうなの?俺にはいまいち変化がわからないけど」

 

「あなたといるときのリサは少し幼くなる。普段Roseliaでいるときのあの子は、一歩引いた位置でみんなが動きやすいように行動していて、昨日のようにはしゃいだりなんてしなかったもの」

 

「それは苦情かな?」

 

「違う、感謝しているの。リサは自分を無意識に犠牲にして周りのために動いてしまう悪い癖があるのだけれど、あなたと接するようになって素の無邪気なあの子が見えるようになった、そのことが私はとても嬉しい」

 

「・・・おかげで俺と氷川さんはだいぶ被害を被ってるけどな」

 

「そこは素直にどういたしまして、と言えばいいのよ。リサから聞いた通りあなた、少し捻くれてるわね」

 

口元に手を当ててクスクスと笑う友希那をじっと睨む。リサのやつ、俺のことを友希那にどんな風に伝えてるんだ・・・。

バツの悪さを紛らわすためにコーヒーをぐっと呷る。

 

「話が脱線したわ。本題なのだけど、Red Dayの元ベーシストの高橋陽から見て、リサのベースはどうかしら?」

 

「・・・バンドのこと、誰から聞いた?まりなさんか?」

 

思わず咽せそうになるのを、すんでのところで堪える。

 

ーーーバンドの名前Red Dayで決定ね。ほら赤はかっこいいし、Green Dayもかっこいいし。つまり最強ーーー

 

記憶の端っこの方に遠ざけていた彼女の声が蘇る。

なんとか平静を装う。まさか友希那の口からその名前が出てくるとは思わなかった。

 

「父のツテでこのあたりのライブハウスの関係者に聞いてもらったの。あっさり見つかったわ。隠したいのならネットの動画くらい消しておくべきだったわね」

 

「動画を上げたメンバーが頑なに消そうとしないんだよ。ていうか友希那の親父さん、リサの楽器の件といい強すぎるだろ・・・。どうしてそこまでして調べた?」

 

「うちの大事なベーシストを預けるのだから当然の事よ。父も乗り気だったわ」

 

ライブハウスに勤めてるというのに、ライブハウス界隈の横の繋がりをなめていた。

というか友希那の親父さんが怖い。それこそ友希那に手を出そうものなら、このあたりでは一生音楽が出来なくなるだろう。いやそれ以前に息の根を止められる。

 

「もうバンドは組まないの?動画を見る限り、悔しいけれど良いバンドだった。リサが惚れ込むのも納得出来るくらい」

 

「バンドはもうやらないよ、やれるだけやって満足してる。それより動画、頼むからリサには見せないでくれよ?」

 

「あら、どうして?リサがボヤいていたわよ、あなたがバンドのことを全く話してくれないって。弟子として師匠の音に興味を持つのは当然のことだわ」

 

「変に影響を受けて欲しくないんだ。聴いたのならわかるだろうけど、あまりまっとうなベースじゃない。リサにはしっかり基礎を固めて、その上で自分の音を見つけていって欲しいんだ」

 

「・・・思っていた以上に真剣に考えているのね、リサの事。あの子としては複雑でしょうけど」

 

「大切な弟子だからね。複雑ってなにが?」

 

「乙女心よ、察しなさい」

 

「友希那が乙女心を語るか・・・」

 

「・・・どういう意味?」

 

そのままの意味だ。音楽に全てをかけると豪語する友希那に、乙女心を諭されるとは夢にも思わなかった。まぁ、友希那とふたりで話すこの状況自体、少し前では考えられなかったことなのだが。人生何が起こるかわからないものだ。

冷めたコーヒーを飲み干す。

 

「あのバンドはどうして解散してしまったの?父もそこまではわからなかったらしいのだけど・・・」

 

「・・・それはもう少し仲良くなったら話すよ」

 

「仲良く?」

 

「うん。口と口でチューできるくらい、仲良くなったら」

 

「・・・そういうのことを言うのは、リサにだけにしなさい」

 

呆れかえった表情で深く溜息を吐く。こいつ幼馴染を売りやがった。

 

友希那の親父さんはきっと全部を知っているはずだ、あえて黙っていてくれたのだろう。いつかは明るみに出ることだろうけれど、今の俺には正直まだそれに耐えられる気がしない。

不意打ちに友希那によって引き摺り出された、深紅のギターを一心不乱に掻き毟る彼女の記憶を、再び隅の方へと押し込める。

ふいに見た窓の外の景色はいつかと同じ、燃えるような夕焼けの赤で染まっていた。

 

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