「これから家に来ない?」
「・・・年頃の女の子が、独り身の男を自宅に誘うんじゃありません」
弦を購入した後、買う予定も無いエフェクターを試奏したり、百万超えのギターに慄いたりして楽器屋を散々楽しみ、後は帰るだけという所でリサが突拍子もないことを言い出した。
「いやそうじゃなくって、家で夕飯食べていかないかってこと。もうこんな時間じゃん?」
「いきなり押しかけても迷惑だろ。またいつかの機会に日を改めて伺うよ。いつかの機会に・・・」
「それ、絶対来る気がないやつだよね?」
リサが大きな猫目を細め、ジトッとした目で睨んでくるが、女子高生のお宅訪問なんてイベントは心から御免被りたい。もし親父さんが、友希那の所と似たような感じだったらと思うと、背筋が震える。
「ママがさ、前から会ってみたいって言ってるんだ。陽さんの話をする度に連れて来いってうるさいんだから」
「リサが親御さんに俺のことをどういう風に伝えているのか、不安しかないんだけど・・・」
「あ、ほらママも、是非来て!だって」
ずいっとスマホが差し出される。画面には母子の仲睦まじいやり取りが羅列されており、確かに晩御飯に招待するよう書かれている。
「外堀から埋めるのやめようよ・・・」
「こうでもしなきゃ来てくれないでしょ?陽さんが断ったらママ、きっとショックだろうなー」
「喜んでお邪魔させて頂きます。だからお母さんにもそうお返事して・・・」
「おっけー!陽さん今井家にご招待!」
喜々として文字を打ち込む表情は本当に楽しそうで、この顔が見られればまぁいいかと思えてしまった。スマホをポケットに仕舞ったリサに引っ張られて駅へと向かう。ケーキでも買っていこう。
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「いらっしゃい!あなたが陽くんね、リサから話をたくさん聞いてるわよー!」
「こ、こんばんは。突然押しかけてすみません。リサさんのお姉さんでしょうか?」
「陽さん、こちらはアタシのママです」
「ウソ」
玄関口で迎えてくれたのは、どこかリサの面影を感じる顔立ちの妙齢の女性だった。
俺の間違いに母娘で笑っているが、その笑顔は二十代中ごろといわれても信じてしまえるくらい、若々しさに満ちている。
「どうも、私がリサの母です!それにしてもお姉さんかぁ、いいねーポイント高いよ陽くん!」
「えっと、恐縮です?これ良かったら召し上がって下さい」
「気を使わなくていいのに、ありがとうね。あら私の好きなとこのケーキだ。さらにポイント高いよー!」
「ママ、はしゃぎ過ぎ。陽さん困ってるじゃん」
「ずっと男っ気の無かった娘がようやく男を連れてきたんだから、そりゃー、はしゃぐわよ!陽くん、もうリサとヤルことはヤッた?」
「あなたの娘、まだ女子高生でしょう・・・」
あぁ、間違いなくこの人はリサのお母さんだ・・・。
「ちょっとママ!」と顔を真っ赤にして怒るリサを、笑いながらあしらうお母さんの表情は、俺をからかっているときのリサと瓜二つだった。
「まだ晩御飯の準備終わってないから、二人はリサの部屋で待ってて。もう少ししたら呼ぶから」
「は!?アタシの部屋!?リビングでいいじゃん!」
「リビング、まだ洗濯物とか散らかってるのよー。とてもお客様にはお見せ出来ないから、リサよろしくねー」
奥の扉がパタリと仕舞って静寂が訪れる。リサは真っ赤になったまま、わなわなと肩を震わせている。ここまで翻弄されるリサを初めて見た。しかしこの空気、どうしたものだろうか。
「・・・どうする?このまま玄関にいても大丈夫だけど」
「バカなこと言ってないで、行くよ、アタシの部屋・・・」
行くんだ・・・。
慌てて靴を脱ぎ、向きを揃える。リサは階段の方へと向かってしまっている。
氷川さんにばれたら、またひどく叱られそうだな。
妙に冷静な頭でそんなことを考えつつ、先に行ってしまったリサの後を追った。