to be with...   作:ペンギン13

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About A Girl

「湊さんにキスをして、あまつさえ今井さんには体の関係を要求したと聞きましたが、本当ですか?」

 

「・・・今回は随分と尾ひれがついたね」

 

夕暮れ時、すっかり秋の深まった最近はこのくらいの時間になると肌寒く、仕事終わりに、表のカフェで飲む温かいコーヒーがたまらなく美味しい。

目の前に現れたギターを背負った氷川さんの制服も冬服に切り替わっており、もうすぐに年の瀬がやって来るなと、いかにも秋らしい哀愁を感じた。

 

「今日はRoseliaの練習なかったよね?個人練?」

 

「話を逸らさないで下さい」

 

ごまかせなかったか。氷川さんが誤解しているリサと友希那とのやりとりは、ほんの2日前に起こった出来事なのだが、Roseliaの情報伝達の素早さはいったいどうなっているのだろう。素晴らしいことだが、正確じゃない情報ですら回ってしまうのが致命的だ。

これって白金さんと、あこちゃんにも伝わっているのかな。・・・急に頭が痛くなって来た。

 

「氷川さんもそろそろ慣れて来たでしょ?この流れ」

 

「情報に誤りがあると?」

 

ご明察、と茶化したように返すと氷川さんにジロリと睨まれた。

 

「元を辿れば、あなたの今までの不用意な発言が招いた現状なのですが?」

 

「それを言われると耳が痛いな」

 

深くため息を吐く氷川さんの姿も、このひと月程で見慣れてしまった。

最近はリサが以前に比べて、はしゃぐことが増えたため心労が溜まっているのだろう。

もうちょっと力を抜いてもいいだろうと思うが、この馬鹿が付くほどの真面目さが彼女の魅力なのだ、難儀なことだが。

 

「今井さんには言っておきます」

 

「悪気はないだろうから、お手柔らかにしてやって?氷川さん、コーヒーでもどう?ご馳走させてよ」

 

「・・・すみません、お言葉に甘えます」

 

背中のギターを俺が座っていたテーブルに立て掛け、対面の席に氷川さんは腰掛けた。背筋がピンと伸びていて、こんな何気のない所作にも彼女の魅力を感じる。

こんな真面目の塊のような彼女と、飲み物を奢らせてもらえるくらいには打ち解けられていることに、ほんの少し喜びを感じた。

 

 

「はい、お待ちどうさま。砂糖とミルクは?」

 

「ありがとうございます。いえ、今日はこのまま頂きます」

 

音も立てずにブラックのままコーヒーを啜る。一瞬顔をしかめたように見えたのはきっと気のせいだ。

 

「それで、話が戻るけど今日は個人練?リサが今日は部活だって言ってたからバンド練はないはずだけど」

 

「よく連絡を取り合ってるんですね。今日は個人練も目的のひとつですが高橋さん、あなたに話があって来ました」

 

「話?話ってさっきの俺の濡れ衣のこと?」

 

「それはもののついでです。高橋さん、私にギターを教えてください」

 

一瞬、彼女の言ってる意味がわからなかった。

俺は元ベーシストであってギタリストではない。それは氷川さんも知っているはずだ。

ギタリストがベースも弾けるのは楽器の構造上よくあるけれど、その反対はほとんどない。自身がギタリストの氷川さんがそんなことを知らないはずがない。

 

「えっと俺、ベースは弾くけどギターの方は全然だよ?ギターだったらまりなさんが弾いてたからそっちに聞いた方がいいんじゃない?」

 

「高橋さん、好きなギタリストを3人あげてください」

 

「好きなギタリスト?・・・ミーハーだけど、ジミヘンとレイヴォーンとスティーヴヴァイかな。あ、ジョンフルシアンテも好きだな」

 

「・・・随分と偏ってますね。」

 

「そういう氷川さんは、好きなギタリストいるの?」

 

「カートコバーンと、hideさんが好きですね」

 

「・・・氷川さん、今いくつだっけ?」

 

思っていたよりも渋い趣味をしている。カートの方に傾倒していなくて良かったと安心する反面、ハウリングするまで深く歪ませたギターを滅茶苦茶に弾きまくる氷川さんも見てみたいなと心の隅の方でそう思った。

 

「わ、私のことはいいんです!それより、それだけスラスラとギタリストの名前が出て来るのなら、ギターの音の良し悪しも分かりますよね?」

 

「人並みぐらいには、多分」

 

「技術的な指導は結構ですので、音の良し悪しを判断して下さい。そして出来ればどういう風にすれば良い音になるか、教えて頂きたいです」

 

それは技術的な指導なのでは?と内心思ったが、真剣な様子の氷川さんにそんな茶々を入れる気にはならない。

 

「期待に沿えるかわからないけど、それで良ければ」

 

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

 

そういうや否や、ギターを手にとって立ち上がりCiRCLEの方へと歩いて行ってしまった。

殆ど減っていないブラックコーヒーは、完全にその存在を忘れられて寂しげにテーブルの上に佇んでいる。

氷川さんは真面目な性格だけれど、こういう微妙に抜けているところが年相応で可愛らしく思える。

自分の分のコーヒーを飲み干し、彼女に忘れ去られたコーヒーを手に取って氷川さんの待つCiRCLEへと向かった。

 

 

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