to be with...   作:ペンギン13

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Gift

大きな欠伸をひとつ。利用者のいないCiRCLEのロビーは閑散としている。

スタジオ内の清掃はすでに終わらせているし、レンタル用のギターなんかのメンテナンスも先日やったばかりだ。

まりなさんチョイスのロックナンバーが控えめな音量で空気中に漂っている。

カウンターに突っ伏す。・・・暇だ。

 

「休憩ありがとー、戻ったよ。・・・うっわ、ダレてるねー」

 

「暇すぎです。潰れるんじゃないですかここ?」

 

「不吉な事言わないでよ・・・。事務所にあったベース高橋君の?」

 

「俺のです。リサがサブのベース持ってないから、しばらく貸そうと思って」

 

「へぇ・・・なんていうか丸くなったね、高橋君。楽器を人に触られるの嫌がってたのに」

 

まりなさんの言う通りで、自分の楽器を触られるのは正直、今でもあまり好きではない。過去に酷いリペアマンに当たって、ベースがそれはもう酷い状態で返ってきたことがあったからだ。

CiRCLEでレンタルしている楽器のメンテナンスも、基本的に俺がやることにしている。

 

「リサは別ですよ。弟子なんだから」

 

「弟子、ねぇ。リサちゃんに貸すなら4弦だよね?高橋君が一番長く使ってるやつじゃない?」

 

「そうですね。でも最近は全然使えてないから、ベースもリサに弾いてもらった方が喜びますよ」

 

「そっかそっか!うん、愛だねー!」

 

「愛弟子ですから」

 

まりなさんの、妙に意味深な言い回しにげんなりする。

このままいても遊ばれるだけだ。ポケットの財布を確認する、俺も休憩を貰ってしまおう。

 

「まりなさん、俺も暇なうちに休憩入っちゃいます。お任せして大丈夫ですか?」

 

「えー、もっとお話ししようよー」

 

「おもちゃにされるのは勘弁です。外にいるから、何かあったら呼んでください」

 

いけずー、というまりなさんの恨み言を聞き流して外に出る。

今日も今日とて秋晴れだ。気温・湿度も快適なもので、実に過ごしやすい季節だ。

大きく伸びをすると、運動不足からか背中と腰の骨が物騒な音を鳴らす。

今日はカフェオレにしよう。たまにはいいだろう。

 

「すいません、カフェオレをひとつ、ホットでお願いします」

 

「アタシも同じのお願いしまーす!」

 

「・・・驚くから、ひと声かけようなリサ」

 

いきなり後ろから肩に手を乗せられ、思わず悲鳴を上げそうになった。

肩口から聞こえたのがリサの声でホッとする。

 

「ゴメンゴメン、陽さんが見えたからつい」

 

「犬か。・・・すいませんカフェオレ、やっぱ2つで」

 

「わ、奢ってくれるんだ。ありがとー!」

 

「いいよこれくらい。持って行くから先に席取っておいて」

 

おっけー!と素直に言うことを聞いてくれる姿は、顔は猫っぽいくせにやはり犬に近くて、今度首輪とリードでもプレゼントしようかなとか、本人に知られたら引っ叩かれそうなことを、つい考えてしまった。

 

「お待たせしました、カフェオレが2つですね。高橋さん、彼女さんですか?」

 

「ありがとう。違う違う、女子高生ですよ?犯罪ですって。あ、このスコーンも2つお願いしていいですか?」

 

「かしこまりました。大丈夫!愛があれば関係ありませんよ!」

 

「日本の法律は厳しいんですよ。お金、ちょうどです。」

 

休憩の度に利用するものだから、すっかり顔と名前を覚えられてしまった店員さんから、2人分のカフェオレとスコーンとが載ったトレーを受け取ってリサのもとへ向かう。

変な噂を立てられないといいな。警察のお世話にはなりたくない。

 

「おまたせ、学校疲れたでしょ?スコーンもついでに奢り」

 

「ありがとー!店員さんと何話してたの?」

 

「リサが彼女なのかって聞かれた。犯罪者にはなりたくないって言っておいたから安心して」

 

「うっわー色気のない返事。この間はあんなにアツい夜を過ごしたのに」

 

「言い方!いや、照れるなら言うなよ・・・」

 

自分で言っておいて赤くなるリサに呆れる。あの夜の、友希那が作り上げるコーヒーのような何かのように甘ったるい、あの瞬間は今思い出しても現実とは思えないほどに、とても儚くて幸せなものだった。

 

「よ、陽さんが悪い!よく女子高生は駄目みたいなこと言ってるけど、年下苦手なの?」

 

「法律が許さないだけ。これだけリサと接してて苦手なわけないだろ?いこうと思えば中学生だっていける」

 

「・・・あこは、さすがにマズイよ?」

 

「冗談だから、本気のトーンで返さないで・・・」

 

あこはかわいいと思うけれど、お菓子をあげたくなるだとか、そういう類のかわいさであって、恋愛対象云々の話ではない。

いい加減、言動には気をつけたい方がいいかもしれない。うちには、まりなさんという、はた迷惑な人間スピーカーがいるから、この手の噂は一瞬で駆け巡る。最悪の光景が頭をよぎって、背筋が震えた。

カフェオレを一口飲み心を落ち着ける。

 

「連絡したけど、今日ベース持ってきたから。これ食べ終わったら練習までに使い方とか説明するよ」

 

「うん!陽さんのベースかぁ、楽しみだなー!」

 

「前も言ったけど、あんまり期待するなよ?とりあえず今日のバンド練習とレッスンは、慣れも兼ねて俺のベースでやってみて。リサのベース、なるべく早く弦交換とセッティングは済ませておくから」

 

「わかった、頑張る!」

 

楽しみだなー楽しみだなー、と笑顔でスコーンを頬張るリサを見ていると、温かい気持ちになっていく。

一時は手放す事も考えた楽器だったけれど、あのとき早まらなくて良かった。

俺のベースを構えるリサを、この後でいくらでも見られるのに、ついつい想像してしまう。

気に入ってくれるといいな・・・。

リサの笑顔を眺め、そう思った。

 

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