to be with...   作:ペンギン13

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カウントダウン

リサが俺のベースを背負い、俺がリサのベースを背負って歩く帰り道。

夏よりも少し広くなったような気がする夜空と、昼にくらべると少し寒いくらいに涼しい気温、中途半端に欠けた月は以前に見上げたときよりも鮮明にみえる。

隣を歩くリサの手には学生かばんが、今日は徒歩で出勤した俺の手には何も握られていない。

彼女の足取りはどこか軽く、上機嫌な鼻歌までが聞こえてくる。

 

「なんか、ご機嫌だな?」

 

「そりゃねー!陽さんとセッションが出来るなんて、思ってもみなかったからさ!」

 

今日のあれをセッションと呼んでいいのかわからない。

リサのベースをバッキングに、俺が好き放題に弾いてただけだ。

しかしリサの満足げな顔を見ると、とてもじゃないが水を差す気にはなれない。

 

「まりなさんに聴かせてもらった音源の陽さんもあんな感じだった気がする。凄く熱くて、激しくて・・・」

 

「そんなだった?楽しくなっちゃって弾きまくってただけだけど」

 

「へーアタシと弾いてて楽しくなってくれたんだ?嬉しいなぁ・・・」

 

「・・・否定はしない」

 

素直じゃないなぁ、と控えめに笑うリサの方を恥ずかしくて直視できない。

あんなにも熱い気持ちになれたのは久しぶりのことだった。

彼女の言う通り、きっとリサとでなければあんな風には弾けなかったと思う。

 

「また一緒に弾こうね?アタシもソロが弾けるくらい、もっともっと上手くなるから!」

 

「・・・楽しみにしてる」

 

リサが間を少し詰めてきて肩が触れ合う。公園での夜以来、物理的に距離が近くなった。

くすぐったいような気恥しさがあるけれど、それを嬉しく思う自分もいて戸惑う。

 

「それで、紗夜のことなんだけどさ」

 

「言い訳をさせて下さい」

 

思わず距離を取ろうとしたが、右腕を掴まれて逃げられない。リサのかばんが地面に落ちる。

気恥ずかしさは夜空の彼方へと霧散し、掴まれた腕から体温が奪われていくような恐ろしい錯覚を覚えた。

このタイミングで、この話題が来るとは思わないだろう・・・。

歩みは止まり、足音すら響かない。夜の静寂に背筋が冷える。

意を決してリサの方を見ると、その瞳の中は怒りではなく、恐らく不安で満たされていた。

 

「どうした?」

 

「紗夜も弟子にするの?」

 

「は?」

 

想定していたものと全く違う問いに、間の抜けた声が出てしまう。

その反応が不服だったのか、腕を掴む力が少し強くなった。

不安をいっぱいに宿していた瞳に、薄っすらと怒気が混じるのが見えた。

 

「紗夜にギター教えたんでしょ?陽さんのこと褒めてたよ。紗夜、あんまり人の事を褒めたりしないのに」

 

「教えたっていうよりは、人生相談みたいなものだったぞあれは・・・。そもそも、俺が紗夜にギターを教えられるわけないだろ?紗夜の方が異次元に上手いんだから」

 

あれは、ギターのレッスンというよりは、本当に人生相談のようなものだった。

正直な話、俺じゃなくても、楽器をある程度長くやってて年上なら誰でも出来るような人生相談だ。

 

「もし、もし陽さんが紗夜よりもギターが上手くて、紗夜が弟子にしてくれって言ったら、弟子にする?」

 

「なんだ、そのたられば・・・。」

 

「良いから答えて」

 

掴まれた腕に、リサの額が押し付けられる。

本当に距離感が近くなったな・・・。

額の当たる部分がやけに熱い。

 

「しないよ、出来ない。弟子はリサ1人で十分」

 

「なんで?」

 

「なんでって、リサにだって満足に教えられてないのに、もう1人なんて手に余るから」

 

「・・・3点」

 

「何に対する採点だよ・・・」

 

掴まれた右腕を開放されたと思ったら、無言で正面に回り込まれ、そのまま抱きつかれた。

胸に頭突きを繰り返されて地味に痛い。

今までにない近さと、体中に伝わる体温に狼狽える。

 

「ちょっとリサ、さすがにやり過ぎだって!」

 

「なんで?」

 

「え?」

 

「なんで、弟子はアタシ1人だけでいいの?」

 

100点を出すまでこれが続くのだろうか・・・。そもそも何点満点なんだ。

胸に顔を埋めて黙り込んでしまったリサの表情は見えず、普段まじまじと見ることのない、茶色い髪の真ん中にあるつむじが、何故かやたらと色っぽいものに見えてしまう。

行き場をなくしている両手を宙に放置して、必死に理性と思考とをかき集める。

 

「リサの師匠でいられることが誇りだから。リサの成長していく姿を見るのが楽しいから。リサと過ごす時間が幸せだから。リサ以外に弟子はいらない」

 

考えて考えて出てきたものはただの本音で、それ以上でも以下でもない。

俺がリサの師匠でいることの理由はたったのこれだけだ。

これで辛い採点をされたら本格的にマズい、色々ともたない。

 

「・・・90点」

 

「・・・残りの10点は?」

 

「フツー、このシチュエーションは抱きしめ返すところじゃない?」

 

「最近の女子高生のフツーがわからない」

 

胸の中にいるリサと目が合った。いつだったかと同じくらい距離が近いように思える。

瞳のなかにあった不安と怒りは消えて、いつもの俺をからかうリサの目だ。

からかうように、口元を歪ませている。

 

「なんで、ばんざいしてるの?」

 

「手の行き場がないからだよ」

 

「陽さんって、キスするとか、押し倒すとか言う割りに、結構ヘタレだよね」

 

「人が必死に理性を保ってるのわかってて言ってる?」

 

しーらない、と言って胸にぐりぐりと頭を押し付けてくる。だからそういうのをやめろって・・・。

 

「理性保ってるってことは、陽さん我慢してるんだ?」

 

「黙秘します」

 

「我慢は体に毒だよ?」

 

「紗夜辺りが知ったら卒倒しそうだな、この会話」

 

「ふーん・・・、女の子に抱きしめられてるときに、他の女の子の名前出しちゃうんだ?」

 

抱きしめる力が強くなった。ほかの女の子って、同じバンドメンバーだろうが。

より密着してきたリサの身体に、理性のタガが少し緩むのを感じた。

抱きしめ返すことはギリギリで踏みとどまったが、ずっと目に入って気になっていた旋毛のあたりに手を置いてしまう。

密着しているため手を置かれたリサの体に力が入る感覚がやたらと生々しく伝わってきたが、頭に置いた手をゆっくりと動かしてるうちに緩やかに弛緩していった。

 

「ヘタレ」

 

「うるさい、頑張った方だろ?」

 

「うん、もっと撫でて」

 

くすぐったそうに身をよじる姿と、ふわふわする茶色い髪の毛がまるで猫のようで、たまらなく愛おしくなる。

こんな遅い時間に、制服姿の女子高生と、楽器も背負ったままでいったい何をしているんだと冷静な自分が問いかけてくるが、その声は小さくて良く聞こえない。

 

「陽さんって髪フェチ?たまになら触ってもいーよ?」

 

「フェチとか言わない、ほらそろそろ離れよう」

 

「うーん・・・。仕方ないなぁ」

 

最後にギュッと力を込めて抱き着くと、リサはようやく離れてくれた。

名残惜しく感じてしまったのは、気のせいか、気の迷いだ。

リサは学生かばんを手に取ると、空いている反対側の手を「ん」と差し出してくる。

抵抗しても無駄なことを悟ったので、諦めて差し出された手を握る。

しかし、握った手は不満げに鼻を鳴らしたリサに解かれてしまい、すぐに指を絡めて握りなおされた。

ふたり、ゆっくりと歩く始める。

 

「リサってたまにこうなるよな・・・」

 

「うん、我慢しなきゃって思ったんだけど、まー色々あって我慢しないことにした」

 

「なんでまた・・・身体的な方はちょっと我慢してみない?」

 

「やーだよー!」

 

握った手をぶんぶんと振られる。段々と過激になっていくスキンシップにこちらの理性はズタズタだ。

 

「実は、結構嫉妬深かったりする?リサって」

 

「うーん、あんまり意識したことないなぁ・・・どうなんだろ?」

 

「じゃあ、もし彼氏がいたとして、そいつが浮気したらどうする?」

 

「・・・殺しちゃうかも?」

 

「怖い怖い怖い」

 

冗談だってー、と笑うが目がまるで笑っていなかった。

出会った頃はこういう娘だとは思いもしなかった。一緒にいる時間が増えるのに比例して色々な面が見えてくることがとても楽しい。

絡み合った指に少しだけ力を入れると、向こうも同じように握り返してくれる。

視線を向けると、いつもの無邪気な笑顔。

リサに殺されるなら悪くないかもしれない。

さすがにこの思考は危ういと、慌てて頭から追い出す。

たくさんの魅力を見せる様になったリサにすっかりやられてしまっているようだ。

苦笑を漏らすと手がぎゅっと握られたので、こちらもお返しに握り返してやる。

長くなり始めた秋の夜に街灯に照らし出されたふたり分のひとつの影が、アスファルトにぼんやりと浮かび上がった。

 

 

 




こんばんは、いつも読んで頂いてありがとうございます。
この辺りから、リサのキャラが崩壊気味になっている気がします。既にこれ以前からかもしれませんが・・・。
やりすぎないよう気を付けてようと思います。
これからもどうか、よろしくお願い致します。
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