ロビーの円卓をRoseliaのメンバーと囲む。
テーブルの上にはそれぞれのメモ帳と、人数分の缶ジュースが並んでいる。
缶ジュースは、まりなさんの奢りだ。
そのまりなさんは、カウンターでレジ締めなどの閉店作業をしている。
Roseliaの面々には軽い自己紹介をしてもらった。
何回かライブを見てるし、その度に勇人が騒いでるのを聞いてるから、何となく顔と名前は一致しているけど、念のためだ。
自分で買った甘ったるい缶コーヒーを啜り、一息。
「それじゃあ、各パートの気になった部分から伝えていくから、質問とかあったらなんなりと聞いて。まずボーカルの湊さんから・・・」
高音部の滑舌に注意した方がいい、氷川さんはピッキングのフォームを見直してみてはどうだろうか、白金さんはもっと感情的になっていいと思う、宇田川さんはあの手数を捌くのは凄いけれど一打一打の音が軽い。
ひとりひとりに、技術的な面の改善点を伝えていく。
これだけ技術があると「自分の努力を否定された」などと考えて多少反発してくるかと思っていたけれど、彼女たちは熱心に指摘を聞き入れ、質問もどんどんしてくる。
上手くなることに対しての熱量が尋常じゃない。
1時間程かけて今井さん以外のメンバーに、感じたことを全て伝えた。
日の落ちた外はすっかり暗くなってしまっている。
こんなに喋ったのはいつ以来だろう・・・、頭が回らなくなってきた。
「最後はベースだね、今井さん」
「はい!」
凄いなぁ、それなりに長く話してるのにとっても元気。
ライブ後にも関わらず、真剣な眼差しには疲れが全く見えない。
正直なところ、今井さんが一番伝えたいことも聞きたい事も多い。
自分自身それなりに長くベースを弾いてきた事もあって、他のパートに比べて気になる部分がかなり多いのだ。
ベースは初めてどのくらい経つの?普段はどんな練習をしてる?ピッキングのフォームが手首に負担のかかる形になっているから直さないとマズイ。指・ピック・スラップ、色々奏法を使い分けてるけどセッティングはどうしてる?指弾きのとき弦に力負けしてるように感じる。ドラムのリズムがよれると引っ張られてるから注意した方がいい。好きな音楽のジャンルは?目標にしてるベーシストはいるの?今の下着の色は?
ん?ダメだ頭の中がゴチャゴチャだ、ていうか最後の方にヤバいのがあった気がする。
とにかく彼女には最短距離で上手くなって欲しい。リズム感は良い方だし、指先の痛々しい荒れ具合を見る限り、相当な努力をしている筈だ。
この努力は絶対に報われて欲しい。
そのために伝えるべきことは・・・
「えっと高橋さん?そんなにアタシの演奏マズかったかな・・・?みんなに比べてヘタクソな自覚はあるんだけどさ、アハハ・・・」
突然黙り込んだせいか、今井さんが不安げに瞳を揺らす。
あ、ヤバい。
ヤバいヤバいヤバい、どうしよう、とにかくなにか言わないとーーーー
「今井さんっ!!」
俺は勢いよく立ち上がる。
立ち上がった際に倒れた椅子の音が、静まり返ったロビーに響き渡り、そこにいる全員の視線がこちらに集中する。
「今井さん、俺の弟子にならない?」
少し潤んだ、彼女の薄い琥珀色の瞳を真っ直ぐに見つめ、俺はそう言った。