to be with...   作:ペンギン13

3 / 86
Jesus!

ロビーの円卓をRoseliaのメンバーと囲む。

テーブルの上にはそれぞれのメモ帳と、人数分の缶ジュースが並んでいる。

缶ジュースは、まりなさんの奢りだ。

そのまりなさんは、カウンターでレジ締めなどの閉店作業をしている。

 

Roseliaの面々には軽い自己紹介をしてもらった。

何回かライブを見てるし、その度に勇人が騒いでるのを聞いてるから、何となく顔と名前は一致しているけど、念のためだ。

自分で買った甘ったるい缶コーヒーを啜り、一息。

 

「それじゃあ、各パートの気になった部分から伝えていくから、質問とかあったらなんなりと聞いて。まずボーカルの湊さんから・・・」

 

高音部の滑舌に注意した方がいい、氷川さんはピッキングのフォームを見直してみてはどうだろうか、白金さんはもっと感情的になっていいと思う、宇田川さんはあの手数を捌くのは凄いけれど一打一打の音が軽い。

ひとりひとりに、技術的な面の改善点を伝えていく。

 

これだけ技術があると「自分の努力を否定された」などと考えて多少反発してくるかと思っていたけれど、彼女たちは熱心に指摘を聞き入れ、質問もどんどんしてくる。

上手くなることに対しての熱量が尋常じゃない。

1時間程かけて今井さん以外のメンバーに、感じたことを全て伝えた。

日の落ちた外はすっかり暗くなってしまっている。

こんなに喋ったのはいつ以来だろう・・・、頭が回らなくなってきた。

 

「最後はベースだね、今井さん」

 

「はい!」

 

凄いなぁ、それなりに長く話してるのにとっても元気。

ライブ後にも関わらず、真剣な眼差しには疲れが全く見えない。

 

正直なところ、今井さんが一番伝えたいことも聞きたい事も多い。

自分自身それなりに長くベースを弾いてきた事もあって、他のパートに比べて気になる部分がかなり多いのだ。

 

ベースは初めてどのくらい経つの?普段はどんな練習をしてる?ピッキングのフォームが手首に負担のかかる形になっているから直さないとマズイ。指・ピック・スラップ、色々奏法を使い分けてるけどセッティングはどうしてる?指弾きのとき弦に力負けしてるように感じる。ドラムのリズムがよれると引っ張られてるから注意した方がいい。好きな音楽のジャンルは?目標にしてるベーシストはいるの?今の下着の色は?

 

ん?ダメだ頭の中がゴチャゴチャだ、ていうか最後の方にヤバいのがあった気がする。

とにかく彼女には最短距離で上手くなって欲しい。リズム感は良い方だし、指先の痛々しい荒れ具合を見る限り、相当な努力をしている筈だ。

この努力は絶対に報われて欲しい。

そのために伝えるべきことは・・・

 

「えっと高橋さん?そんなにアタシの演奏マズかったかな・・・?みんなに比べてヘタクソな自覚はあるんだけどさ、アハハ・・・」

 

突然黙り込んだせいか、今井さんが不安げに瞳を揺らす。

あ、ヤバい。

ヤバいヤバいヤバい、どうしよう、とにかくなにか言わないとーーーー

 

「今井さんっ!!」

 

俺は勢いよく立ち上がる。

立ち上がった際に倒れた椅子の音が、静まり返ったロビーに響き渡り、そこにいる全員の視線がこちらに集中する。

 

 

「今井さん、俺の弟子にならない?」

 

 

少し潤んだ、彼女の薄い琥珀色の瞳を真っ直ぐに見つめ、俺はそう言った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。