to be with...   作:ペンギン13

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Nostalgia

「あー!やっと戻ってきた、遅いよ陽さん!」

 

「あ、あこちゃん、お仕事の用事なんだから、仕方ないよ・・・」

 

ごめんごめん、とひと声かけて席に着いた。白金さんのフォローに心が痛む。

ひとまず、リサのおかげでやるべきことが決まった。

後は2人を誘うだけだが、断られたらどうしよう。

・・・しばらく立ち直れないかもしれない。

思い返して見ると、リサのときも、友希那のときも、紗夜のときだって、彼女達の方から声をかけてくれていた。

年下に甘えっぱなしの自分が、酷く情けない存在に思えてくる。

 

「あこちゃん、この後って時間ある?良かったら一緒にスタジオ入ってみない?・・・燐子も良かったらどう?」

 

「スタジオ!?行く行く!絶対行く!」

 

「あ、あの・・・名前・・・」

 

「さっき呼んで良いって言ってたから。マズかった?」

 

「い、いえ、そんなことは。・・・その、私も行きたいです、陽さん」

 

ぎこちなく微笑む燐子を見て緊張が解けるのを感じる。

色よい返事をもらうことが出来た。

 

「それじゃ、あと少しで仕事終わるから待ってて貰ってもいい?それと今日はCiRCLEが予約で使えないから、他の貸しスタジオになるけど大丈夫?」

 

「うん!大丈夫!待ってるからね!」

 

「お、お仕事頑張って下さい・・・」

 

「ありがとう。終わったらすぐに来るから。それじゃまた後で」

 

CiRCLEへと向かう足取りが軽い。

こんなにも、とんとん拍子で事が進むとは思わなかった。リサのアドバイスに感謝しなければ。

すっかり上機嫌になって自動ドアをくぐると、そこには鬼がいた。

 

「随分ゆっくりとお楽しみだったね、高橋君?」

 

ハッとして壁に掛けられた時計の方を見やると、まりなさんから貰った30分は遠の昔に過ぎ去っていた。

 

「・・・今日だけは、残業は勘弁してください」

 

「まずはごめんなさいでしょう・・・」

 

スタジオを利用していた娘たちはすでに退出しており、ロビーが賑やかな喧騒に包まれている。その喧騒の中にまりなさんの呆れたようなため息が吸い込まれていった。

作業台に置きっぱなしのベースが「ばーか!」というように、光を反射させた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

後日、残業することと、言うことをひとつ聞くことを条件に、定時に上がることを許してくれた。どんな無理難題を要求されるのか、今から非常に不安で胃に穴でも空きそうだ。

あこと燐子とを連れてやってきたのは以前、リサとレッスンを始めたばかりの頃に利用していた貸しスタジオだった。

前バンドの頃から利用しているスタジオで、煙草のヤニで黄色くなった壁も、埃をかぶった

売り物のドラムスティック等も、どこか懐かしい。

CDやら音楽雑誌やらが、うず高く積まれたカウンター内でスマホを弄る三十路過ぎのクセして真っ青な髪の毛のオッサンに「店長、ども」と挨拶をする。

 

「おー陽ちゃん、久しぶり。今日は3人だっけ?」

 

「はい、キーボードとベースとツーバス、用意してくれました?」

 

「3番のスタジオにセッティングしてあるよ。ツーバスとか久々すぎてどこに置いたか一瞬迷った」

 

「そこそこ大きいのに、なんでわからなくなるんですか・・・」

 

「メンバーはそっちの2人?どーも、こんにちは」

 

あこと燐子は普段接することがないであろう人種のこの男に、すっかり萎縮してしまっている。

バンド界隈は割とこういう人ばかりだから、CiRCLE外でも積極的に活動していく日のことを考えると、今のうちになれておいた方が良いのかもしれない。

今度、友希那と紗夜も連れてきてみようか・・・。いや、あの二人は全く動じなそうだ。

 

「前に連れてきた娘と違うよね?いいなぁ陽ちゃんモテキ?ボクにもまわしてよ」

 

「この子たちは清純派だから、まわすとか変なこと教えないで貰えます?」

 

「ツレないなー。スタジオちょっと早いけど入っちゃっていいよ?お嬢ちゃんたちがかわいいからサービスしちゃう」

 

あこたちはなんとか「あ、ありがとうございます」と返すと、スタジオ内へと逃げ込んでしまった。

店長は慣れれば人懐っこくて絡みやすい人なのだが、初見はどうやったって怖い。派手な柄シャツ姿で、耳には無数にピアスが空いているし、鼻や口にも空いている。シルバーのネックレスやら指輪やらをジャラジャラと身に着けたその姿は、まるでどこかの狩猟民族だ。

 

「いーねー、初々しい」

 

「あんまりイジメないでやって下さいよ?慣れてないんだから」

 

「ボクなりの愛情表現だよ。陽ちゃん、またバンドやるの?」

 

「やりませんよ。今日はたまたまです」

 

「そっか。またやることがあったら教えてよ。ライブ、見に行くからさ」

 

「えぇ、やることがあれば、是非」

 

この人は、俺の前バンドの顛末を知っていながら、こういう風に声をかけてくれる。

解散したばかりのときは、ウザったく思ったものだが、それが店長の優しさなんだと気づいてからは、純粋にありがたく感じている。

 

「それじゃ楽しんでね。ボクは空気が読める男だから、エロいことをしてても気づかないふりをしてあげよう」

 

「やりませんから」

 

前言撤回。いまでもそれなりにウザったい。

 

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