to be with...   作:ペンギン13

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5.13(番外編)同様、本編には関係しないお話です。
5.13(番外編)で心の整理のようなものはついていましたが、なんというか感謝の気持ちを形にしておきたいなと思って、前回と違ってやや理性的に書き殴りました。
あまり良くないことなのかもしれませんが、私の中ではこのお話のリサは、最初の声のままで今でも泣いたり笑ったりしていて、きっとこのお話が終わるまでそのままです。
とはいえ2代目の方への尊敬がないわけでもなく、これから彼女が見せてくれるリサが心から楽しみで楽しみでたまりません。
きっと間違いなく素敵になっていくに違いありません。

ただただ心からの感謝と、お疲れさまでしたと、その他もろもろの感情をいっぱいに込めて。

自己満足の書き殴りかもしれませんが、もしよかったらお付き合いください。


6.1(番外編)

「おしることコンポタどっちがいい?」

 

「なにそのチョイス・・・。コンポタちょーだい」

 

「ありがと!」と2本差し出した缶の、飲もうと思っていた方を掻っ攫われた。

和食好きだからてっきりあんこが好みかと思ったけれど、どうやら違ったようだ。

木製のベンチに腰掛け、熱い缶を数回強く振ってからプルタブを起こす。一口飲んでみると甘さで喉が焼けるのを感じた。すでに胸焼けがしそうだ・・・。

隣に腰掛けたリサがコンポタの缶を傾けるのを見て、今からでも交換してもらおうかと思ったが、控えめに動く白い喉やら、学校帰りだというのに色付きのリップが塗られた光沢のある唇やらが目に入って思いとどまる。

 

「あーおいしい!もうコンポタの季節かー。陽さんっておしるこ好きなの?」

 

「いや、久々に飲みたいなって・・・」

 

正直な所、初めて飲んだ。きっともう買うことはないだろう。

肌寒くなってきたというのに、日の傾きかけた公園には子供たちの遊ぶ声が元気に響いている。ちらほらと見える半袖の少年の姿に、見てるこっちの方が少し寒くなった。

ふっと視線を向けた制服姿のリサも、冬服に切り替わってはいるがスカートから伸びるのは白さが眩しい生脚だ。

 

「リサ、寒くないの?脚むき出しで?」

 

「え?そりゃ寒いけど、そこは女の子ですから。・・・てか陽さん脚フェチ?」

 

短いスカートの裾を手で押さえて、じっとりとした視線を向けられる。

 

「違う違う、ふっと思っただけ」

 

「ほんとー?怪しいなー・・・陽さんは色々疑惑があるから」

 

色々とある疑惑とはなんだろうと思ったが、どう考えてもつついたら蛇が出てくる質問だろうから、グッと飲み込んだ。

視線を脚からリサの脇に置かれた、キーホルダーがじゃらじゃらと付けられた学生かばんに移す。いつものウサギと目が合った。

 

学校帰りのリサと遭遇したのは偶然だった。

休日で不足した食料品や生活用品の買い出し、それとレコードショップに寄った帰りに、商店街でバッタリ会った。

どうせレッスンで顔を合わせるんだからと、一言二言会話をして立ち去ろうと思ったら、腕を掴まれ例の公園へと連れてこられた。

そして現在に至る。

 

「今日は完全にオフなんだろ?たまには羽でも伸ばしたら?」

 

「せっかく陽さんに会えたんだからお話ししたいじゃん?」

 

「でも、俺とはレッスンだったりで会うんだし。友達と遊んだりしないの?」

 

普段バンドにバイトに部活に部活と、さらに最近ではそこにレッスンも加わって遊ぶ時間など殆どないはずだ。

花の女子高生なのに、それはあまりにも寂しい。

 

「へー、そんなにアタシといるのがイヤなんだ?」

 

「誰もそんなこと言ってないだろ・・・」

 

「アタシは陽さんと会えて嬉しかったんだけどなー?」

 

二の腕の辺りを平手で叩かれる。全く減ってないおしるこがこぼれそう。

 

「俺もリサに会えて嬉しかったって。だから叩かないで」

 

「どーだかー」

 

叩くのを止めたと思ったら、肩で軽くどつかれた。あ、指におしるこがかかった。

どう機嫌を取ったものかと思ったところで、食料品が詰まった買い物袋の横にある、小さめの黄色い袋が目に入る。

そうだ、どうせ渡すのだから今渡してしまってもいいだろう。

 

「ごめんって。ほらリサ、これあげる」

 

「え、何いきなり・・・」

 

突然差し出された袋に、大きな猫目を丸くする。本当に猫みたいだ。

 

「あ、ありがと、開けていい?」

 

「もちろん。そんな大したものじゃないけど」

 

綺麗に整えられた爪が、丁寧に黄色い袋に貼られたテープをはがし、中から四角いプラスチック製のケースを取り出す。

 

「・・・CD?」

 

「見ての通り。リサに聴かせたいなと思って買ってきた」

 

手前にオレンジ色に染まったプール、奥には真っ青な海が広がるジャケット。

その左上には白のゴシック体で素っ気なく「Red Hot Chili Peppers」の文字が。右上にも同様の書体で「Californication」の文字が並ぶ。

 

「れっど、ほっと・・・。なーんかどっかで聞いたことあるバンドだ」

 

「レッドホットチリペッパーズ。有名だけど、やっぱり若い子は知らないか」

 

レッチリの愛称で有名なバンドだが意外と若い子は、こういう少し前の洋楽を知らなかったりする。

音楽好きを自称する同い年の友人が、リンゴ・スターをトマト・スターと言い間違えたときは本格的に眩暈がしたが、最近はもう慣れた。

 

「若い子って、陽さんだってまだ23でしょ?これ、どういうアルバムなの?」

 

「レッチリの7枚目のアルバムで、バンドを脱退・・・というか人生を引退しかけてたギタリストが復帰したアルバム」

 

「いや、人生引退って・・・。そのギタリストになにがあったのさ・・・」

 

「薬物とかで色々と。ロックスターて感じだよな」

 

薬物という言葉にリサの表情が露骨にしかめられた。

 

レッチリの2代目ギタリストを務めたジョン・フルシアンテは92年の来日公演中にバンドを突如脱退した後、97年にリハビリ施設に入所するまでひたすらドラッグに明け暮れていたという。それは相棒のギターを売り飛ばして薬に変えてしまうほどに壮絶なものだった。リハビリ施設での2年の歳月を経て、奇跡的にクリーンになった彼は、ベーシストのフリーの説得を受けバンドに復帰した。

そしてバンドはリサが今、手に持っている「Californication」を世に生み出した。

 

「まぁ、バンドのストーリーは置いておいて、まずは聴いてみて。ベース凄いから、きっと勉強になると思う」

 

「わかった!陽さんのオススメかー、嬉しいなー」

 

見てたって音楽が聞こえてくるわけじゃないのに、しげしげと手元のCDを見つめるリサに頬が緩む。

あんまり女の子女の子してるバンドじゃないけれど、気に入ってくれると嬉しい。

べたつくおしるこの缶を傾ける。甘い。もう残してしまおうかなと傍らに冷めた缶を置く。

裏側の英語ばかりのジャケットを見ていたリサが、ぼんやりした表情で突然ぽろりとこぼした。

 

「・・・陽さん、もしアタシがいきなりバンドを辞めて、ベースも辞めるって言ったらどうする?」

 

傾いた夕日の赤と哀愁に染められた公園でそんなことを言われて、どうしていいかわからなくなった。

「辞める」その言葉に、心の奥を柔らかい何かで締め上げられたような苦しさを感じる。

 

「そうだな、新しく紗夜を弟子にしようかな・・・。ごめん!冗談だから!CD壊れるから!」

 

涙目になってCDを振りかぶるリサをあわてて止める。

 

「陽さんのバカ・・・」

 

「悪かったって。でもなんでそんなこと?」

 

「ふっと思っちゃって。Roseliaの皆といるのは凄く楽しいし、ベースを弾くのだって大好きだけど、この時間がいつまでも続くのかなって・・・」

 

リサがいなくなったRoseliaの姿と音を頭の中で思い描いてみる。

・・・ダメだ、どうやってもそこには深紅のベースを構えたリサが居て、他のだれかが立っていることなんて想像できない。

 

「・・・わからない、そうなって欲しくないけど、そうなってみないと。でもRoseliaのことは好きなままだと思う。もし万が一、リサじゃない誰かがベースを弾くことになっても」

 

きっとリサがいなくなったとしてもRoseliaが続く限り、俺はその音楽を聴き続けると思う。リサがそこに存在したという証だから。

そして、たまに酷く寂しい気持ちになるんだと思う。

新しいベーシストの音や歌声を聴くたびに、リサならこう弾いたんだろうな、リサはこういうフレーズが苦手だったな、リサの歌声が好きだったなと、無くなってしまった陽だまりを思い出すたびに、どうしようもない寂しさに襲われるのだと思う。

 

「そっかー・・・うん、ゴメン変なこと聞いちゃって!」

 

「勘弁してくれ、ちょっと本当に驚いた・・・」

 

好きなミュージシャンが辞めたり、居なくなったりするのは歴史の中の出来事でお腹がいっぱいだ。

出来ることなら当事者になんてなりたくもない。

 

「陽さんはアタシがベースを弾かなくなったら寂しい?」

 

「・・・一番弟子に辞められたら、そりゃ寂しいよ」

 

「へー、最初の頃は自分以外にいい人がいたらそっちに弟子入りしろ、とか言ってたのに、へー寂しいんだー?」

 

悪戯気な表情を浮かべたリサに頬をやんわりと突かれた。

バツが悪くてその手を振り払うが、今度は肩を寄せてきて思い切り体重をかけられる。

肩から伝わる体温が、日がほとんど落ちかけて冷えたしまった体に染みる。

 

「制服で人目があるんだから、そういうの控えろって。俺が警察に捕まる」

 

「制服じゃなくて、人目が無かったらいいの?」

 

「からかうなって・・・」

 

控えろと言うのにリサはするりと、俺のおしるこをこぼしてべたつく手に指を絡めてくる。

 

「うっわ、陽さん手べたべたじゃん・・・」

 

「嫌なら離せ。ていうか離しなさい」

 

不快なべたつきに嫌そうな表情を浮かべたクセに、握る力を強めて離そうとしない。

 

「そうだ陽さん、これから家でご飯食べてきなよ!」

 

「いきなり行ったら迷惑だろ。この間だっていきなりだったんだから」

 

「大丈夫!ママもほら」

 

ずいっとデコレーションまみれのスマホを目の前に差し出される。

画面には仲睦まじい母子のメッセージのやりとりが表示されており、その内容は確かに俺を夕食に連れて来いというものだった。

いつの間に、と思い画面をよく見ると、俺が自販機におしることコンポタを買いに行っている間の出来事のようだった。

座っているのに立ちくらみがした。

 

「ほら行くよ!帰ったらアタシの部屋で一緒にこのCD聴こうよ!」

 

かばんを手に立ち上がったリサに、繋がれた手をぐいぐい引っ張られる。

 

「いや、ほら俺もう食料品買っちゃったし」

 

「ちらって見えたけど全部レトルトでしょ、それ?」

 

痛い指摘に、諦めて買い物袋を手に立ち上がると、リサの家の方角へと手を引っ張られる。

ベンチに置き去りにされた中身が半分以上残っているおしるこが、こちらを恨めしそうに見ている気がした。

 

「・・・わかった、ならせめて手を離そう。この時間帯はマズい」

 

「手を離しても、陽さんのせいで手が汚れちゃってなんにも持てないんだよなー」

 

空いている左手で器用に母親への返信を打ち込んでいるのだろう、スマホを操作するリサは上機嫌で今にもスキップでもし始めそうだ。

その姿を見ていたら多少人目に触れるくらい、もういいかと諦めがついた。

ギュッと手を握ってやると、嬉しそうにリサも握る返す。

 

もしかしたらリサがいつかバンドを、ベースを辞めてしまう日が来るのかもしれない。

そんな日は来ないでほしいけれど、もし来てしまうのなら、その時はリサが心からの笑顔で、幸せな気持ちでいっぱいで音楽から去って行ってくれるといいな。

べたつく指を絡め隣を歩くリサの陽だまりのような笑顔を見て、こっそりそう願った。

 

繋がれた手だけが温かい少しだけ肌寒い帰り道、日の落ちたばかりの空には藍色が広がり、都内にしては珍しくちらほらと星が見えた。

 

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