to be with...   作:ペンギン13

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グッドバイ

シンと静まり返った会場の床にモップをかける。水を吸ったモップの先がやたらと重く感じて鬱陶しい。

いつも感じる祭りの後の静けさとか、哀愁とか、今日に限っては心の底からどうでもいい。

さっさと帰って、酒でも飲んで全部忘れて寝てしまいたい。

 

「Roseliaちゃん、残念でしたね陽さん・・・」

 

「・・・あのくらい続けてればいつか経験することだよ。勇人だってあるだろ?ああいうこと」

 

トラブルは俺も大小数え切れないほど経験してきた。同じバンドのやつがギターを客席にぶん投げるライブや、曲の頭でスネアのヘッドが破けてそのままやり通したライブだって経験したことがある。

自分のベースから音が出なくなってしまったこともあったがその都度、根性で乗り越えてきた。

 

「そりゃまぁそうっすけど・・・。てか陽さんなんで戻ってこなかったんすか!?オレ、ラスト3曲のPAと照明同時にやってたんすよ!?」

 

「何気に器用だよな勇人って、また頼むよ」

 

「イヤッすよ!!」と叫ぶ勇人が、場の空気をどうにか明るくしようとしてくれている事がわかる。

バカっぽいけど変に空気が読めるコイツは、こういうときはありがたい存在だ。

今日は迷惑をかけっぱなしだ。今度、ご飯でもご馳走してやらないと。

 

「高橋君、今ちょっといい?」

 

爽やかな声が控えめに響く。ロビーで出演バンドの娘達の相手をしているはずのまりなさんが、いつの間にかやってきていた。

あんなことがあったのにも関わらず、その表情は普段と変わらなくて、度量というか、人生経験の差を見せつけられているようで少し悔しい。

 

「まりなさん、どうしました?出演バンドの娘たちはもう帰ったんですか?」

 

「うん、もうみんな帰って貰ったとこ。Roselia以外は、だけど・・・。友希那ちゃんが陽くんの感想が聞きたいってさ」

 

感想って友希那は一体、俺に何を言えというのだろうか。

安っぽい慰めの言葉なんて彼女たちは欲してはいないだろう。

かといって、失敗をした直後にそのことを批判する傷口に塩を塗りたくるような真似は、俺には出来ない。

 

「いや、俺まだ仕事残ってますから・・・」

 

 

「陽さん!残りはオレがやっときますから大丈夫っすよ!その代わり、今度Roseliaちゃんのこと紹介してくださいよ!」

 

「・・・パスパレのドラムの娘より上手くなったら紹介してやるよ」

 

勇人の表情が途端に真顔になるのを見て、ロビーへの階段に向かう。

本当にいらない所で変に空気を読める奴だ。

どんな言葉を掛けたものか、頭の中でぐるぐると考えを巡らせる。

背後で「陽さんひっでー!!」という勇人の絶叫が響き渡った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロビーには衣装から私服に着替えた友希那たちが揃っていた。

失敗を引きずっているようで、彼女たちの表情にライブを終えた達成感は無い。

みんな顔に濃い疲労感を滲ませている。

その中に、リサの姿が無かった。

 

「お疲れ様。・・・お通夜みたいな雰囲気だな。リサはどうした?」

 

「余計なお世話よ・・・。リサ、楽屋から出てこないのよ」

 

「出てこないって・・・、なんで置いてきてるんだ。メンバーだろ?」

 

「今井さん、私たちが何を言っても謝罪を繰り返すばかりで、お手上げなんですよ・・・」

 

思っていた以上に、今日の失敗が堪えているらしい。昨日のリサの意気込みを思い出すと、それも仕方のないことに思える。

しかしメンバー内でリサを責める空気が無いことには安心した。

酷いバンドだと打ち上げという名の批判大会が行われることも少なくない。

バンドの絆の強さを感じて、こんな場面だけれど心の奥が温かくなるように感じた。

 

「陽さん、リサ姉のこと元気付けてあげて。リサ姉が元気じゃないと、あこたちも寂しいよ・・・」

 

「お願いします・・・陽さん」

 

控えめに袖を引いてくるあこちゃんはすっかり消沈していて、いつもの無邪気な元気は見る影もなく、とても見ていられない。隣の燐子の顔色も悪く、普段リサが担っていたムードメーカーのポジションがいかに重要なものなのかがわかった。

こんな形で知りたくなどなかったが。

 

「そういうことなの、お願い」

 

「・・・友希那は嫌に落ち着いてるな」

 

「だって私たちが許しているのに、一向に立ち直れないのは陽さんが原因でしょう?」

 

「原因とか言うな・・・。わかった、任せろとは言えないけど、リサと話してみる。今日はみんな先に帰りなよ」

 

「ええ・・・。申し訳ないけれど、リサの事、お願いするわ。ライブの感想は今度、全員が揃ったときに聞かせて頂戴」

 

リサを頼むという旨の言葉を一人一人から受け取る。

メンバーからは許されているのに、立ち直れないということは、不本意だが友希那の言う通り俺が原因なのだろう。

「陽さんの顔に泥を塗っちゃう・・・」

昨日のリサの言葉がよみがえる。

頭が痛くなる、こんな顔、泥なんかいくら塗られたって変わりやしないのに。

 

いつだったかのように、今回は逃げるわけにはいかない。

どんな言葉をかければいいのか正直まるでわからないけれど、ここで悩んでいてもどうしようもない。

腹を決めて、リサがいるという楽屋へと向かう。

絞られた廊下の照明が頼りなくて、見慣れた光景のはずなのにやけに不安を掻きたてられた。

 

 

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