to be with...   作:ペンギン13

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REMINDER

引き戸から漏れ聞こえるシャワーの音をBGMに、テーブルに上に置かれたリサの深紅のベースの故障個所を、広げたメモ帳に書き出していく。

やはり重症なのは電装系だ。ペグがダメになってしまったのは痛いが、木部のダメージがボディサイドだけで済んだのは不幸中の幸いと言っていいだろう。

電装系のパーツならある程度交換が効くが、木部は壊れてしまうとどうしようもない。

 

バスルームのドアが開く音がした。

 

配線の取れてしまった箇所を確認すると、プリアンプ本体から配線が取れてしまっているのが確認できた。

これは少し厄介だ、本体につけ直しても耐久性に不安が残ってしまう。

この際、少し費用はかさむがプリアンプを載せ換えてしまうのも手かもしれない。

Roseliaのサウンドにあわせて、もう少しラウドな音が出せても良いと思っていたところだ。

 

引き戸越しに衣擦れの音が聞こえてくる。

 

そうなると電装系は総入れ替えで良いだろう。一度派手にトラブルを起こした楽器だ、やるならとことん詰めよう。

プリアンプの載せ換えとなると、音の傾向がガラリと変わってしまう。その辺りはリサが風呂から上がってきたら相談するとして、ひん曲がったペグと弦は外してしまわなければ。ネックに変なテンションをかけるのは良くない。

 

引き戸がガラリと開けられた。

 

「お風呂と着替えありがとー、陽さんも入ってきたら?」

 

・・・どうしてこうなった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

食後、料理をさせておいて片づけまでさせるのは良くないと思い、洗い物を引き受けることにした。

とは言っても食器が紙皿だったため、リサが使った調理器具くらいしか洗うものがなかったのだけれど。

フライパンを泡塗れにしていると、部屋から顔を出したリサが呑気な声で問いかけてくる。

 

「陽さん、バスタオルと着替え借りていい?」

 

「うん、クローゼットの一番下の引き出しに入ってるから好きに選んで。タオルはその上の引き出し」

 

「分かったー、ありがと!」と言ってリサは顔を引っ込める。

洗い物なんて久しぶりだ。包丁を丁寧にスポンジで磨き、泡を洗い流す。

ん?・・・バスタオル?・・・着替え?

濡れた手のまま、慌てて部屋に戻る。

 

「リサ泊まっていく気!?」

 

「え?うん、もう遅いし」

 

「いやマズいって、送っていくから」

 

「でもママにも泊まってくるって言っちゃったから、たぶんウチもう鍵閉まってるよ?」

 

「嘘だろ・・・」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

冷水を頭から被る。

もう10月も終わりのこの時期、頭が冴えわたるのを通り越して普通に寒い。

とにかく意思を強く持とう、犯罪者にだけはなりたくない。もう一度水のシャワーを被りバスルームを出る。

体の水気を拭きとって寝巻に着替えると、髪を雑に拭いてタオルを被ったまま部屋に戻った。

 

引き戸を開けると、部屋着に身を包んだリサが、ベッドに腰掛けて呑気に5弦ベースを弄って遊んでいた。

その姿が一瞬、記憶の中の彼女にダブって見えてしまって、軽く頭を振る。

 

「あ、陽さんお帰り。5弦ってやっぱり難しいねー。ネックが太い!」

 

「4弦で足りてるなら、手を出さなくても大丈夫な楽器だよ。重たいし弦は高いし」

 

髪を拭きながら床に腰を下ろす。とてもじゃないが隣に腰掛けるなんてことはできない。

 

「あー、ちゃんと乾かさないと風邪ひいちゃうよ?こっちきて、やったげる」

 

ベースを傍らに置いて、ドライヤーを片手に自らの脚の間をパシパシと叩くが、ちょっと理解が追い付かない。

 

「いや、いいって。いつもこんな感じだから」

 

「いいから!言うこと聞かないと紗夜にあることないこと言っちゃうよ?」

 

「それはずるいだろ・・・」

 

社会的に死ぬ。

渋々リサの足元へ体をずらすと満足げに鼻を鳴らしたリサにドライヤーの温風を当てられ、手ぐしで柔らかく髪を梳かれる。

普段頭を触られることなんてないから、妙にむずがゆい。

 

「陽さん、今日は色々とありがとね。沢山わがまま聞いてくれて」

 

「こっちこそ料理ありがとう、美味しかった。なんか情報量の多い一日だったな・・・」

 

本当に濃い一日だった。リサと師弟関係になって初のライブがあって、とんでもないトラブルに見舞われて、リサが弟子を辞めると言い出して、キスして、恋人になって、料理を作ってもらって、何故か泊まることになって・・・。

とてもじゃないが、今日一日の出来事とは思えない。

 

「ホントだよ・・・。アタシまさか陽さんと付き合えると思わなかった。燐子みたいな子がタイプだと思ってたから」

 

「あれだけスキンシップしてきておいて嘘だろ・・・。ていうかなんで燐子?」

 

「必死だったんですー!だって男の人って燐子みたいな清楚系、大好きじゃん?」

 

「みんながみんな、そうってわけじゃないだろ」

 

「テーブルの下の雑誌」

 

「・・・見なかったことにして下さい」

 

完全に忘れてた・・・。

ドライヤーの温風はすでに止まって、髪の毛を弄られたり、頭をペシペシ叩かれたり好き放題にされている。

 

「付き合って初日からこれじゃ不安になっちゃうよなー。ホントにアタシのこと好き?」

 

「好きに決まってるだろ・・・。そうじゃなきゃ家に入れないって」

 

「その家なんだけど、ちょいちょい女の人の匂いを感じるのはリサちゃんの気のせいかなー?クローゼットの赤い革ジャンとか。あれレディースのやつだよね?」

 

「目ざといな・・・」

 

「そのくらい気づくよ。・・・あー、ごめんダメだ。アタシ、ホントに嫉妬深いみたい・・・」

 

頭に乗せられたリサの手を取って、そっと握って隣に腰掛ける。

表情を伺うと、不安を顔いっぱいに浮かべていた。

 

「その女の匂いのことなんだけど、リサが前から聞きたがってたバンドの話が関わってくるんだ」

 

「陽さんのバンドの?」

 

テレビの横の赤いフライングVがギラギラと輝いている。ようやくお前とも決別ができそうだよ。

 

「そんな大した話じゃないけど、聞いてくれる?リサには話したい」

 

本当に大した話じゃない。

俺が勝手に深く抱え込んで拗らせてしまっていただけの、本当にどうしようもない話。

 

 

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