to be with...   作:ペンギン13

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本編をご覧いただくうえで、読まなくても大丈夫な陽くんの昔のお話です。
いくつか書いて、お蔵入りにするのが寂しいなと思ったのでこっそり。
不定期に更新します。
恐ろしいことにバンドリの登場人物が一切出てきません・・・。
ですので、お時間が余り過ぎて他に読むものがないときにでも、薄っすらご覧頂けると、嬉しく思います。


過去編
1話


バンドはいつか必ず終わる

 

日本の、もう死んでしまった偉い音楽プロデューサーの著書にこんな言葉が書いてあった。

確かにその通りだと思う。どんなに良いバンドだって音楽性の違いという名の仲違いとか、どうしようもない理由であっさり解散してしまうし、奇跡的に長く続いたとしても人間という生き物が死という運命から逃れられない以上、バンドにはいつか必ず終わりが訪れる。

メンバーチェンジを繰り返して何十年と生き永らえているバンドも確かに存在するが、それはもう本質の変わってしまった、死んだまま生きているような、そうゾンビのような存在だと思う。

 

いつか必ず終わる

 

だからこそバンドの奏でる音楽はあんなにも熱くて、カッコよくて、輝いていて、それでいてどうしようもなく、切ないのだと思う。

 

 

 

「陽くんお願い!いっしょーのお願いッ!」

 

昼下がり、日本全国どこにでもある平凡なファミリーレストラン、目の前のテーブルには出来立てのハンバーグの載ったプレートと、大というには些か控えめな量の大ライスが並び、その向こうには見ているだけで胸焼けを催す巨大なパフェがそびえ立つ。

対面の席には、3度目を過ぎた辺りで数えることを諦めた一生のお願いを使ってこちらに深く頭を垂れる、佐藤愛子(さとう あいこ)が座っている。

 

「何回目だっけ?その一生のお願いって。何回生き返る予定?」

 

「イジワルいわないでよぉ・・・」

 

生クリームに蜂蜜をこぼした様な甘ったるい声とともに、伏せていた顔が上げられると、丸っこい大きな瞳が現れた。

ショートボブというよりは中途半端に短いだけの、染めた意味があるのか分からない暗い茶髪に、緩い曲線を描いた輪郭は幼く、大きめのTシャツにデニムとバスケットシューズという、ボーイッシュ過ぎる服装がその幼い印象をさらに強めている。

身長も本人曰く150cmしかないため、初見は高校生・・・いや、中学生にすら見えてしまうが、間違いなく俺と同じ専門学校の2年生だ。

 

「このままいくと俺たち、来世も再来世も、そのしばらく先まで会う事になるんだけど」

 

「愛子とずーっと一緒で嬉しいでしょ?」

 

「帰る。来世でまた会おう」

 

「ゴメン待って!来世でメイドでも奴隷でもやるから待ってー!」

 

「来世の自分を安売りしすぎだろ・・・」

 

溜息をひとつ吐いて、浮かしかけた腰を下ろす。その中学生のみたいな容姿でメイドやら奴隷やら口走られると、周囲の視線が痛くって仕方がない。

「お腹空いてるでしょ?ほら、食べて食べて」と愛子に勧められ、渋々ハンバーグに手をつける。慢性的な金欠に陥っている苦学生の俺には、なかなかありつける機会のないものだ。口の中に広がる肉汁が堪らない。

しかし、食べてしまったからには話を聞かなきゃならない。己の食欲が恨めしい。

 

「愛子は俺がバンドをやらないって知ってるだろ?ベース専攻の誰かに声掛けなって」

 

「もうとっくにかけたよぅ。でもみんな愛子がバンドの話をすると逃げちゃうから・・・」

 

この愛らしい外見からはなかなか想像が出来ないけれど、彼女は俺と同じ専門学校のドラム科に通っている、立派かどうかは置いておくが歴としたドラマーだ。

ドラマーという、需要に対して供給が常に追い付いていない人材な上、ルックスも上々な愛子は入学当初こそ方々からバンドの誘いが絶えなかったが、ひと月も経つ頃にはその誘いはパタリと途絶えた。

彼女の持つ、致命的な欠陥が原因だ。そのため彼女は2年へと進級した4月現在も、どこのバンドにも所属せず、サポートのお呼びすらかからない孤独なドラマー生活を送っている。

 

そびえ立ったパフェの尖塔をスプーンで突き崩して口に運ぶと、しょげていた表情が一転して星が弾けたように明るくなる。単純なやつ・・・。

 

「ていうか、愛子がバンドに誘われたってどういうこと?この辺りだと噂が広がってて誘うやつなんていないでしょ?」

 

「事実だけど、面と向かって言われるとなんか複雑・・・。昨日ね、貸しスタジオで練習してたら扉がいきなり開いて、また苦情かなって思ったらバンドに誘われちゃったの。背が高くってカッコいい女の人だった」

 

「ちょっと待って、急展開すぎて付いていけない」

 

人が練習してるスタジオに突然押し入って、メンバーの勧誘だなんて正気の沙汰じゃない。アニメや漫画の世界の話だ、そんなものは。

それを受けてしまう愛子もなかなかに正気じゃない。

 

「それで、ベースに心当たりがないかって聞かれたからつい、あります!って・・・えへへ」

 

「笑い事じゃないから。大丈夫なのそれ?怪しい宗教かなんかじゃない?」

 

「良い人だったよ?お菓子くれた」

 

それでいい人なら世界はとっくにジョンレノンが望んだものになってるよ・・・。

付け合わせのハッシュポテトを咀嚼する。美味しい。国境のない世界より、宗教のない世界より、美味しいご飯だ。

 

「お願い陽くん!気に入らなかったら今回だけって事でいいから!」

 

必死な様子の愛子を見て溜息をひとつ。昼食の恩もある。何より、ここで断ったらそれこそ来世まで祟られそうな勢いだ。仕方ない・・・

 

 

「一回。一回スタジオに入るだけなら」

 

「ホント!?陽くん大好き!愛してる!」

 

「あーはいはい、俺も愛子のこと愛してるよー」

 

「わー両思いー!」とすっかり機嫌をよくした愛子はパフェの塔をどんどん崩して胃に収めていく。その小さな体のどこに栄養が行くのだろう・・・。

小さな体躯には不釣り合いに大きい、彼女の一部分に目をやると視線を感じ取ったのか「エッチ」と自分の肩を抱くように隠してしまう。

うるせぇ、ちんちくりん。

 

「それで、そのカッコいい女の人と会うのはいつ?覚える曲があるなら早めに教えて」

 

「うんとね、今日!この後3時から!」

 

「今日!?俺、楽器持って来てないぞ!?」

 

「だいじょぶ、陽くんの家の近くにあるスタジオだから、行く途中に寄ってこう?」

 

なにが「だいじょぶ」なのか全くわからないが、崩壊したパフェの塔の底に残ったシリアルを笑顔で削る愛子を見ていたら、どうでも良くなってきた。

どうせ、今日一日だけの付き合いなんだ。サポートのときと同じ様に程々にこなしてさよならしよう。ハンバーグランチ一食分の労働だ。

 

「人とスタジオ入るのすっごい久しぶり!楽しみだなー!」

 

はしゃいでる愛子には悪いが、本気でやる気などさらさら無い。

バンドはいつか必ず終わる。そんなものに全力になったって、虚しい結果が待つだけだけじゃないか。もうあんな思いは沢山だ。

付け合わせのコンソメスープを一口。

スープは会話の間にすっかり冷めてしまっていて、なんだか切ない気持ちになった。

 

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