to be with...   作:ペンギン13

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4話

スタジオの外に隕石か爆弾が落ちたのかと思った。

それが佐藤愛子のドラムを初めて聴いたときの感想だ。

 

愛子がバンドに誘われない理由、それは「音がデカすぎる」というシンプル過ぎる理由だった。

どのくらい音が大きいかと言うと、愛子が貸しスタジオで練習していると、防音完備のスタジオなのにも関わらず、上下階両隣の部屋から音の大きさに苦情がくるレベルで、専門入学から1年の間にこの近隣のほぼ全ての貸しスタジオで出入り禁止を言い渡される偉業(?)を達成してしまうくらい、とにかく音が大きいのだ。

 

「小さい音を出す練習をすればいいだろ?」と出会ったばかりのころの俺はたまらず提案したことがあったが

「ドラムの音はおっきい方がかっこいいんだよ!」

と、ふんわりした笑顔で返されてしまって何も言い返すことが出来なかった。

 

以来、奢りのご飯につられてたまに付き合う愛子とのスタジオ練の度に、難聴になりかけの耳を押さえて適切な音量で叩くよう懇願したが、変なところで頑固な愛子が首を縦に振ることはなかった。

 

ーーーー

 

櫻井に煽られて完全に忘れてた・・・

 

バスドラムがボディブローのように、スネアがジャブのように、クラッシュシンバルが顎をえぐる右ストレートのように、愛子の叩くドラムが音の暴力となって身体中に突き刺さる。

身体に直接刺さるものだから、詰め込んだ耳栓は焼け石に水程度の効果しかもたらさない。

目の前でクラッシュシンバルが弾けた。一瞬気が遠くなる。どうしてスタジオってこう、ベースアンプとドラムの位置が近いのだろう。

ふっと思い出して櫻井は大丈夫かと視線を向けると、信じられないことに彼女は笑みを浮かべたまま目を閉じ、愛子の刻むビートに合わせ頭を振っていた。リフを刻む手は止まらない。

それを見て気を良くしたのか、笑みを浮かべた愛子はさらにボルテージを上げる。

嬉しいのだろう、今までは渋々付き合う俺のベースしかなかったところに、ついにギターが増えたんだ。音の大きさは勘弁して欲しいが、愛子の笑顔に少しだけ心が温かくなる。

 

しかし、いつまでもこうしてリフを回してるわけにいかない。そろそろボーカルが欲しい。

そんな俺の思いが通じたのか櫻井の猫目がゆっくり開かれ、ぴったりと唇がマイクに触れた。

その姿があまりにも綺麗で、目が離せなくなる。

この爆音のなか、聞こえるはずのない櫻井の息を吸い込む小さな音が聞こえた気がした。

どうせ高校生の文化祭みたいに、オケの音量に呑まれて歌なんか聴こえないだろうと思っていた。その予想は裏切られた。

低くてハスキーだけどちょっとだけ幼さの残る歌声が、この馬鹿みたいな大音量に負けじと鳴り響いた。

自分が間抜けな顔をしているのがわかる。櫻井がこちらを一瞥して挑発するように笑った。

こいつの歌声はどうなってるんだ。喉にエンジンでもついてるみたいだ。

 

このAmerican Idiotというは曲名は直訳すると「アメリカ人馬鹿」という、とんでもなく身も蓋もない曲名だ。

歌詞もアメリカに対する怒りや、政府を批判する内容が包み隠すことなく書かれており、これぞパンクロックといった曲なのだか、生粋の日本人の俺には正直な所この怒りの感情がよくわからない。結局、日本人なのだから仕方ない。

 

しかし櫻井は違った、こいつは本当に怒っていた。マイクに怒鳴りつける様に歌をぶつけ、ギターにピックを叩きつける。

その怒りにあてられてベースの弦を弾く指に力が入る。愛子のドラムも一層激しさを増した。

バンドサウンドが櫻井の歌声に引っ張られていく。

信じられない。色んなバンドを見てきたが、こんな感覚は初めてだ。

櫻井は決して上手いわけじゃない、ときどきキーは外すし、ギターのリズムだってよれている。

なのにこんなにも熱くて楽しい。

 

本当なら3分もかからないで終わる短いパンクロックを、俺たちは熱に浮かされたように延々と引き延ばして演奏し続けた。

愛子のドラムスティックが中ほどからバッキリと折れて、それが奇跡的に俺の頭に直撃するまで演奏は止まらなかった。

 

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