かの高名な哲学者は言った「神は死んだ」と。
実際の意味合いは違うけれど、とにかく神は死んだのだろう間違いなく。
そうでもなければ、目の前のこの状況をとても受け入れられそうにない。
「奇遇ですね今井さん・・・」
「あはは、いらっしゃいませー、高橋さん。昨日は驚いたよ、いきなりいなくなっちゃうんだからさ」
「ほんとスミマセン、忘れてください。レジ、お願いします・・・」
平身低頭、ろくに目を合わせる事もできずに、そっと商品の詰まったカゴを差し出す。今井さんの苦笑が辛い、年下に気を使せてるよ。情けない・・・。
「はいはーい・・・って、なにこれお酒とスナック菓子ばっかじゃん!?なんか顔色良くないし、いつもこんな食生活なの?」
顔色が悪いのは今のこの状況のせいです。
「いや今日はたまたまで、いつもはちゃんとしてるよ。ほら、カレーとか結構食べるし」
「真っ先に挙がるのがカレーって・・・。信用ならないなぁ、カレーもレンジでチンするやつなんでしょ?野菜とか魚とか、ちゃんと食べてる?」
「ま、まぁぼちぼち」
ジトっとした瞳でこちらを見やりながらも、次々と商品をスキャンしていく手際は慣れたもので、高校生なのにしっかりしてるなと感心させられる。
ていうか、なんだろうこの会話凄く既視感がある。
・・・この間、お袋と電話したときに同じこと言われたんだ。お袋、女子高生に食生活の心配されてるよ俺。
「・・・ところでさ高橋さん、この後って時間空いてたりする?」
「え、どうして?」
「昨日、アタシだけアドバイス貰えなかったじゃん?気になっちゃってさ。もし時間があるなら聞かせて欲しいなーって。あと15分くらいでバイト終わるからさ!」
「こ、この後?この後かぁ、そうだなぁ」
ーーごめんね、今日はもう家に帰ってお酒飲んでグダグダするから忙しいんだーー
なんて言ったらどうなるんだろうか・・・。最終的にまりなさんに伝わって、それはそれは酷いことになる未来しか見えない。
どうにかして用事を捻り出せないものか、何か無かったか。
「これだけガッツリ買い込んでるあたり、今日はもう家に帰ってお酒飲んでグダグダするだけな感じなんでしょ?華の女子高生と2人っきりでお話しするのとどっちがいいのかなー?」
「・・・ここを出てすぐの公園でお待ちしております」
電子マネーで会計を済ませ、そこそこ重量感のあるレジ袋を、笑顔を浮かべた今井さんから受け取る。
「ありがとうございまーす!」「しゃーしたー」と落差の激しい挨拶を背に、出口へと向かう。
こんなドラマみたいな展開って本当にあるんだ。脚本家は出てこい、ぶん殴ってやる。
やっぱり神は死んだのだ、間違いない・・・
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突然降って湧いたこの後の予定に、期待と微かな緊張感を覚える。昨日まりなさんが「内緒だよ?」と言って聴かせてくれた彼の弾くベースの音色と、どこか焦った様子で「弟子にならない?」とアタシに問いかけた彼の姿が、頭の中で鮮明に思い出された。
彼のあの言葉は本気だったのだろうか?
「リサさん、リサさーん」
期待と不安とに胸を躍らせていると、同僚の青葉モカがいつも通りの、のんびりとした調子で話しかけてきた。
「んー、どうしたのモカ?」
「いやー、さっきのお客さんと随分と話し込んでたものだからモカちゃん気になっちゃいましてー。ナンパでもされちゃいましたー?それとも実はもうラブラブな関係だったりしちゃったりー?」
「違う違う、そういうのじゃないよー。てか、さっきのお客さん、モカも知ってる人だよ?」
ニヤニヤとした表情を、きょとんとしたものに変え「んー?えー誰だったかなー?」と首を傾げるモカの様子に微笑む。
思い出せなくても仕方ない、PAさんとはリハのときに軽く顔を合わせるくらいだ。本番中もステージからは照明の光でその姿はほとんど見えない。会ってる回数の割に接することが少ない存在だ。
実際、アタシにとってもそういう存在だった、昨日までは。
「あの人はねモカ、アタシの先生になってくれるかもしれない人なんだ!」