to be with...   作:ペンギン13

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ここでキスして。

「明日学校なんだから、ベース取ったら早めに帰りなよ?」

 

「うん、わかってるって」

 

なんとかリサの怒りを鎮めたあと、リサに貸すベースを取りに来るため家まで戻ってきた。

差し込んだ鍵を右に回転させると、ガチャリと聞きなれた音と手応え。ドアを開く。

後ろからリサが付いてくることには、もうしばらくは慣れそうもない。

 

「あ、よく見たらこのブーツ女物だ。・・・茜さんの?」

 

「よく気づくな・・・。そうだよ、気に入っててよく履いてた」

 

靴を脱いだリサが、目ざとく見つけた赤のジョージコックスをしげしげと眺める。

ソールの擦り減ったジョージコックスは茜が赤のライダースを着る際に、必ず履いていたものだ。

キッチンに明日の朝食用に買ってきたパンが入ったコンビニ袋を無造作に置いて、リサを部屋に招き入れる。

 

「こうやって見ると、茜さんっぽい物が結構あるよね、陽さんの部屋」

 

「そんなにわかるもの?」

 

「女の子はそういうの敏感なんだよー?」

 

そう言ってリサは乱れたベッドにうつ伏せに寝っ転がった。もうすっかり慣れてしまった様子だ。

俺もそっとベッドに腰掛けた。ベッドに広がった茶髪をひとふさ手に取る。柔らかな感触が楽しい。

 

「実は陽さんも、愛が重たかったりする?」

 

「なんで?」

 

「フツーここまで残しておくものなのかなって、茜さんのもの」

 

「あんまり気にしたことがなかったから。生活の一部と化してるっていうか」

 

「それって彼女としては、けっこー複雑なんだけど・・・」

 

髪の毛を弄る手をはたかれてしまった。太もものあたりをぺしぺしと叩かれる。

 

「昨日も言ったけど、いらないものは処分するって」

 

「今度アタシの物も持ってきていい?」

 

「・・・ほどほどになら」

 

太ももを叩く手を掴んで指を絡めると、素直に握り返してくれた。

 

「ファミレスで愛子さんから電話来てたよね?今でも連絡取り合ってたんだ?」

 

「いや、かなり久しぶり。正直驚いた」

 

しかもこのタイミングで、リサと付き合うようになってすぐに連絡が来ると思わなかった。

 

「要件はなんだったの?」

 

「サポートの誘い。Mr.Bigのカバーやるらしいんだけど、ベースが捕まらないって嘆いてた」

 

Mr.Bigはすべてのパートがそれなり以上に難しい。メンバーが集まらないのも当然だ。

ビリーシーンのベースは今でも大好きだから、少しだけ興味もあったりする。

 

「陽さんが好きなバンドだよね?サポート受けるの?」

 

「迷い中。久しぶりに思いっきり弾きたいなとも思うし」

 

「ふーん・・・そっかー・・・」

 

「・・・リサ、なんか不機嫌だったりする?」

 

「そういうわけじゃないんだけど、モヤモヤするっていうか・・・。陽さんの周りって可愛い女の子が結構いるんだなーって」

 

絡めた指を握ったり緩めたり、投げだした脚をバタつかせてシーツに皺を作る。

かと思ったら、するりと手が離された。

手近にあった枕を抱き枕にして、壁の方を向いてしまう。

その姿が拗ねてしまった猫みたいで可愛らしい。

 

「多分アタシすっごい嫉妬してる。付き合ったばっかりでこれってヤバいよね?」

 

「俺としてはかなり嬉しかったりするんだけど」

 

そっぽを向いてしまったリサの髪の毛をゆっくりなでる。

ゴロリと枕を抱えたままリサがこちらを向いた。

 

「そうやって甘やかしてると、もっともっと重くなるよアタシ?」

 

「浮気したら殺されるかな?」

 

「ばーか」と言って放り投げられた枕が肩に当たって床に転がる。

寝っ転がったまま両手を広げたリサと目があった。ムスッとした表情でやることだろうか。

リサの上に覆い被さるようにして抱きしめると、苦しげな悲鳴が控えめに上がった。

部屋着に比べると熱に距離感があって、それが酷くもどかしい。

 

「陽さん、重たいよ」

 

「リサよりは軽いだろ?」

 

「アタシの重いはそういう意味じゃないし」

 

回された手で背中を叩かれる。重いと文句を言う割に、抱きしめる力はやたらと強い。

 

「浮気したら、ホントに酷いからね?」

 

「期待してる」

 

「なーんで、する気満々なのかなー?」

 

首筋に痛みが走った。痕をつけられてるというか、これは噛まれてる。

鈍い痛みが脳に這い上がってくるけれど、同時に幸せな感覚も湧いてきて、俺も大概だなと笑ってしまう。

 

「ゴメン、強く噛みすぎたかも・・・なんで笑ってるのさ?」

 

「いや、なんか幸せで。血、出てない?」

 

「陽さんってドSじゃなかったの?あ、少し滲んでる・・・」

 

自分でつけた傷を慰るように、首筋を舐められる。

本当に猫みたいな娘だな。チロチロと傷にあたる小さな舌がくすぐったい。

 

「リサ、そろそろ帰らなくて大丈夫?」

 

「んー・・・。しばらくこんな甘えられなくなるし、もうちょっとだけ。帰り送ってくれる?」

 

「うん、ちゃんと送る。じゃあもう少しだけ」

 

強く唇を押し付け合う。何度か角度を変えて感触を楽しんでいると、口内に熱いものが侵入してきた。薄く赤い鉄の味がした。

それはすぐに消え去ってしまい、リサのものでいっぱいに満たされる。

それからしばらくの時間、衣擦れの音と控えめな水音が、他に音のない静かな部屋にゆっくりと染み渡った。

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