わけがわからない。
目の前の光景が信じられない。
一体何が起こっているのだろう。
呆けた意識を図太いベースの低音に殴られる。
夢でも見ているみたいだ。夢なら覚めないで欲しい。
こんな奇跡みたいなライブを、こんないいところから眺められるなんて、きっとこれからの人生じゃもうありえない。
耳元で何事か叫ぶ声で、現実に引き戻される。
「陽さん!なんすかこれ!?スゲー!スッゲー!」
照明卓を弄る手を休めずに勇人は笑う。
その高いテンションに連動して、ステージは煌びやかに照らされる。
俺の手元は動かない。
PAが演奏中にツマミを頻繁に弄ることは少ないけれど、それにしたってこんな棒立ち同然の状態になることはそうそうあるものじゃない。
ステージ上のプレイで全てが完結している。俺の出る幕が無い。笑いが零れる。
会場が一体に、なんて良く聞く言葉だけれど、今この瞬間まで実際に目の当たりにしたことはなかった。
観客がRoseliaの生み出す音楽に感情を揺さぶられ、熱狂を際限なく吐き出す。
ライブハウスがひとつの生き物になったみたいだ。
あこちゃんのドラムが地鳴りのようなビートで道を切り開いて、燐子の鍵盤が優しくそれを彩り支える。
紗夜のギターはどうしたんだ?感情的になれないと嘆いていた彼女の姿はどこにも見当たらない。
ギターを弾くことが楽しくてたまらないと、アンプが叫び声を上げる。
それらに負けじと友希那の歌声が熱く、力強く、切なげに、艶やかに響く。
ひとりの少女の身体から吐き出されているとは思えない、様々な色の混ざり合った歌声がどこまでも響く。
肩を支え合うように、殴り合うようにどんどん上り詰めていく音楽を、陽だまりのような温かい、けれど燃える様に熱い何かが抱きしめる様に包み込む。
リサのベースだ。
深紅のベースが照明をギラギラと反射させる。
あこちゃんのリズムが走りだそうとすると、ビートの端を掴んで引き留める。
散りばめられた燐子のアルペジオを、そっと支える様に優しく低音を添える。
吠える紗夜のギターを、まだ足りないもっと叫べと鼓舞する。
誰よりも高い次元で響く友希那の歌を、もう一歩先に進めるようにと、そっと背中を押す。
リサのベースがRoseliaのグルーヴを、引っ張り上げている。
いつだったかに見た、必死になってベースを弾くリサはもういなかった。
汗で前髪が張り付いた顔には満面の笑顔。
それにつられるように、メンバーにも笑顔が広がり、音も鮮やかな色に染まる。
「いつの間にこんな上手くなってたんだよ・・・」
そんな言葉が思わず口からこぼれた。
これじゃ、もう何を教えたらいいかわからないじゃないか。
リサの猫目とばったり視線が合ったような気がした。
笑みを深めるリサに口パクで「最高!」と言ってやると、グルーヴがまた一段階高い所に上がった。
ギョッとするメンバーに構わず、低音を吐き出す。
頂点を目指す彼女たちの音楽が、どこまでも高く昇っていく。
アンコールまで含めてたっぷり、彼女たちの音楽はクリスマスイヴの夜を熱く彩った。
その日のRoseliaのライブは、俺が今までの人生で見たどのバンドのライブよりも素晴らしいものだった。