to be with...   作:ペンギン13

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Old Love

ペグを緩め、古くなった弦を6本ともニッパーで切り落とす。ボディの裏側から弦を引き抜き、ペグに残った切れ端も取り除く。弦が無くなり晒されたフレットを一本一本、指板に付着しないよう専用の器具で保護しながら、コンパウンド剤をつけたクロスで丁寧に磨く。

 

「まりなさん、リサに俺のベースの音聴かせたんですってね」

 

「あーうん、聴かせたよ。リサちゃんビックリしてたなぁ。・・・ん?リサ?」

 

カウンター隅の作業スペースでギターのメンテナンスをしながら、そのすぐ後ろでパソコン作業をするまりなさんに話しかける。まりなさんとのシフトは久しぶりだ。

平日の夕方、ライブの予定が無く、利用者がスタジオに入って練習をしてる間のCiRCLEは大体こんな感じで、防音扉からはわずかに練習の音が漏れ出ている。

 

「人に許可も取らないで何してくれてるんですか・・・。どのライブの聴かせたんですか?」

 

「最後にやったやつだよ。ベースの音がよく聞こえてるし。ねぇ高橋君ってリサちゃんのこと名前で呼んでたっけ?」

 

「は?最後のやつ!?よりによってなんでそれ聴かせるんですか!?ベースの音がよく聞こえるって、ベースとドラムしかいないんだから当たり前でしょ!もうボケ始めたんですか!?」

 

「ちょーっとお姉さん、何言ってるのか聞こえなかったなぁ。ボケて耳が遠くなっちゃったのかも。もう一回言ってもらってもいいかなぁ?」

 

「失言でした、ごめんなさい」

 

素直に謝ると、作業の手を止めたまりなさんが溜息をついてこちらを向く。

思っていたより怒ってない?

 

「ううん、あたしの方こそごめんね、勝手なことしちゃって。でもリサちゃん、最近ベースのことで悩んでたみたいだから力になりたいなって思って・・・」

 

「・・・だからって、あれを聴かせることはないでしょう」

 

「前にも言ったことがあるけど、私はあのライブが君のベースの中で一番かっこよかったと思ってるの。だからリサちゃんに聴かせるならこれしかないって思った」

 

「・・・聞かなかったことにしておきます」

 

まりなさんの言葉に、こちらも前に言われたときと同じ返事を返す。あのライブはそんな評価をしてもらって良い代物じゃない。

ギターのメンテナンスに戻る。フレットに塗布したコンパウンド剤を綺麗に拭き取り、ローズウッドの指板にレモンオイルを塗り込んでいく。

 

「あれから2年経ったけど、まだ受け入れられそうにない?」

 

「俺は全部受け入れた上で、今ここにいます」

 

「そっか・・・」

 

どこか悲しげな、まりなさんの声がポトリと床に落ちて消えた。

指板にオイルを塗り終える。オイルが浸透するまで少し時間を置かなければならない。

スタジオの方は終了まで、まだ30分以上時間を残している。

少し休憩してくるか・・・。この空気はさすがに耐えがたい。

 

「まりなさん、ちょっと休けーー」

 

「おはようございまーす!」

 

居心地の悪い湿っぽさが充満したロビーから逃げ出そうとする、しかしタイミング悪くお客さんがやってきた。

今日は厄日かもなぁ・・・。

「いらっしゃいませー」と入口の方を見ると、そこのはついさっき話題にあがっていたリサがいた。

 

「リサ、早すぎないか?まだ予約の30分前だぞ」

 

「わー、リサちゃん。いらっしゃい!」

 

「まりなさん、陽さん、こんにちは!まりなさん、この間はありがとうございました!おかげで陽さんにベース教えてもらえることになったんだ!」

 

まりなさんが、目を見開いてこちらを向く。

そういえば伝えてなかった。あんな顔するの久々に見たな。

 

「そ、そうなんだ良かったね!ていうか、ふたりとも名前で呼びあっちゃって、もうすっかり仲良しさんじゃない。お姉さんビックリだよー」

 

「いや、それはリサが無理矢理ーー」

 

「そうなんだー!ほんとまりなさんのおかげだよー!」

 

女三人寄れば姦しいというが、2人でも十分賑やかだよなと思う。

2人の話に水を差すのも悪いし、外のカフェで一息入れてこよう。

ポケットに財布が入っているのを確認し出入り口へと向かうと、入れ違いでリサ以外のRoseliaのメンバーもやってきた。みんな集合が早いな・・・。

 

「ちゃんと話せたみたいで安心したよ。高橋君、バンドのことは教えてくれた?」

 

「それがバンドのことは、口と口でちゅーしないと教えないって言われちゃってー!」

 

不自然に大きいリサの声がロビーに響き渡る。

Roseliaのメンバーとまりなさんとが揃うロビー、以前と同じ状況で今回はリサの一言で場の空気が凍り付いた。

 

「・・・高橋君、ちょっとこっちに来てみんなでお話ししようか!」

 

やっぱり、今日は厄日かもしれない。

 

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