Side-Asuna
「みんな、今日は集まってくれて、本当にありがとう!」
今日の攻略会議は、自称騎士のその一言から始まった。と言っても、会議も何もなくそろそろボス戦に向かうはずだけれど。
午前中の練習は、いい内容だったと思う。パーティプレイに慣れていない私でも、いつのまにかフォローしてくれているアオイさんや恐ろしく戦闘能力の高いキリト君のおかげで、特に苦もなく戦えた。
人が多いだけで、1人では埋められない穴が気がついたら補填されている感覚は、なんだか心地よかった。
そして、改めて思ったこと。このパーティのメンバーは、みんな強い。
戦闘力に関して群を抜いているのは、やはり元テスターのキリト君。元テスターであること以外にも、その戦いぶりには何か圧倒的で、超越的な何かを、もはや「強さ」とは別次元のものを感じる。
アオイさんはサポートの入り方が上手い。自分ではあと一歩届かない、ギリギリカバーしきれないような隙間を的確に埋めるように動くので、いるだけで安心感が違う。
そして一番謎なのが、ユズキさん。何を考えているのかわからないが常に達観したような様子で、敵を圧倒している様子はないのにいつの間にか敵のHPがなくなり、欠片となって消えていく。
己に与えられた役割を理解しているかのようにコボルドを狩り続ける3人の動きに、私は圧倒された。私自身は、彼らのレベルに追いついているのかすらわからない。
コボルドとの戦い方、スイッチの方法を確認できたので11時過ぎに撤退し始め、なぜか全員で昼食を摂ってからこの場に赴いた。
自称騎士ことディアベルさんの方を向く。今回に関しては彼がこの場を取りまとめるリーダーなので、話半分でも聞いて置かなければいけないはずだ。
「今だから言うけど、この場に来るプレイヤーが昨日から1人でも減ってたら、攻略自体やめる予定だった!でも、今ここに、46人全員いる!みんな、最高のレイドだよ!ありがとう!」
レイド、がどういうものなのかはわからないが、理解しがたい発言だった。
自分からボス戦の時間を決定しておきながら、「人が集まらなかったら放棄するつもりだった」?あまりにもそれは身勝手だ。とてもではないけれど、先頭に立つべき人間の所業ではない。
けれどそれは私1人の考えだったようで、周囲からは拍手喝采が巻き起こる。リーダーシップはともかく、人望はかなり厚いらしい。
「このボスを攻略すれば、新たな階層への道が開く!まだ諦めるべき時じゃないと、ここで待つすべてのプレイヤーに示せるはずだ!」
場の空気が支配され、士気の高揚を感じる。私は、そもそもこの戦いを生き抜けるのだろうか。
…いや、ここまで来たからには生きよう。アオイさんとも約束したもの。
「よし、それじゃあ、行こう!」
その言葉を受け、私達46人は、迷宮区へと向かった。
Side-Kirito
やっぱり、か。
目の前の男、キバオウの装備を見て、俺は隣のユズキと頷きあう。
剣も、防具も、靴も、アクセサリーも。彼の装備一式が、昨日からなんの変化も見せていない。これで、ほぼ確実にユズキの仮説が正しかったことが証明されたわけだ。
「この調子じゃボス戦は、コボルドの余ったやつを適当に狩りとってりゃよさそうだな」
「だな…」
隣でこちらをにらみ、「何を言っているの?」と目線で問いかけてくる
ここは第一層の迷宮区内部。ディアベルのパーティが見つけたボス部屋に、攻略メンバー46人全員で向かっているところだ。
当たり一面が無機質な壁に覆われ、明かりは壁に等間隔で灯される松明のみ。RPGにありがちな「ダンジョン」をそのままVRにしたと言って差し支えないこの空間は、パーティ全体にどこか緊張した雰囲気を与える。
とはいえ、攻略メンバーの戦闘力は全体的に高く、敵とのエンカウントを極力避けて行ったため、ボス部屋に到着するまでの間には、ほとんど誰も消耗はなかった。
迷宮区は一つの層につき各20階層で構成されており、ボスのいる部屋はその最上部である20階にある。ここだけは今までと違い、どこか暗く、ひんやりとした空気をはらんでいる。
20階まで行ってしまえばボス部屋までは一本道で、道中にモンスターも湧かない。故に、ボス挑戦前にはいつもここでHPの回復などの最終準備が行われる。
全員の準備が終わるのを見計らったかのように、一人の男が声を上げる。
「みんな!俺から言えることはたった一つだ!」
そのディアベルの発言に皆が注意を向ける。
「勝とうぜ!」
周囲から雄叫びが湧く。歓声があがる。各々が武器を手に取る金属音が聞こえる。
ディアベルが扉を押し開けた。大きく、重みのある扉が、ゆっくりと開いてゆく。初のボス攻略レイドパーティ、総勢46名が、一斉にその中へなだれ込んでいった。
Side-Yuzuki
広い。そんな印象をまず受けた。
左右の幅がおよそ20メートル。奥行きは100メートルほどだろうか。そのくらいの大きさの、直方体の空間。高さは掴み難いが、今までいた20階の天井よりは高い。
キリトが言っていたが、このゲームにおける「ボス部屋の大きさ」は、そのボスのサイズや行動パターン、攻撃の範囲や威力、取り巻きの湧く量やスピードに深く関わるものらしい。単純に部屋が大きいほどボスの図体は大きくなるし、攻撃範囲も広くなると考えて差し支えないはずだ。
中央に2本の柱が立つこのボス部屋に俺たち46人が無事入り切ると、しばらくの静寂が訪れた。後方の扉が閉まらなかったのは、ある意味僥倖と言ってもいいだろう。何かあったときの避難経路が確保できているのだから。
ふと前を見やると、目の前に3人のパーティメンバーの姿。全員が俺より年下なはず(アスナについては知らんが)だが、その背中に頼りがいを感じる。なんならコイツらに全部任せてサボりたいまである。
次いで訪れたのは、光。左右の壁に等間隔に配置された松明が、一つ、また一つと火を灯し始める。おぼつかなかった視界が開け、部屋の中央に居座るこの部屋の主の姿を鮮明に見せる。
高さだけで俺たちの2倍、いや3倍はあろうかと思わせるような、赤い巨躯。両手に握られた、ラウンドシールドと無骨な斧。今までのモンスターと比べ物にならないような鋭い眼差しには、俺達に対する殺意すら感じさせられる。
第一層ボス、イルファング・ザ・コボルドロード。そいつは灯りがついたと同時に、雄叫びを上げる。
俺たちの初めてのボス戦は、こうして幕を開けた。
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