Side-Aoi
「A隊B隊C隊!ボスを迎え撃て!D隊からH隊も持ち場についてくれ!」
ディアベルさんの鋭い指示が飛び、雄叫びのような声とともに、沢山のプレイヤーが眼前の巨大ボスに向かって突撃していきます。
私含め4人と少人数なH隊は、基本的には柔軟な戦闘スタイルが求められています。指揮官とは違う位置から戦況を見極め、適切なタイミングで適切な場所に随時援護に入る形になるみたいです。
とはいえ、ベータテストでこのボスが撃破されたときのプレイヤーの平均レベルはおよそ6から7くらいだったらしくて、おそらく平均レベル10くらいであろうこのパーティで相手取るには、些か物足りない、というかもう私達の出る幕ないんじゃないかってくらい順調です。
時折狩り残されたコボルドが出てきても、キリト君やアスナさんがあっという間に倒しちゃうから本当にやることがありません。私の隣でお兄さんも暇そうに欠伸をしています。
「これ、このまま放置しても勝てそうですよね?」
手持ち無沙汰になったのでお兄さんに話しかけてみました。
「ま、そうかもな。ぶっちゃけ過剰戦力なのは間違いなさそうだ」
お兄さんは、当事者でありながら傍観者のように、自分を取り囲む状況を俯瞰しているようなところがあります。そんなお兄さんに「過剰戦力」と称されるのであれば、つまりはそういうことなのでしょう。
あっという間にボスの残りHPバーが最後の一本となりました。最後のルインコボルド・センチネルのポップに備えて戦闘態勢を取り直します。
狩り残しは2体。キリト君とアスナさんのコンビが一体を葬りに向かったので、残りを私達で処理しに向かいます。
基本的には私がパリィで隙を作り、そこにお兄さんが精密射撃の如く槍を打ち込んで、引いたところを私が片手棍の打撃でとどめを刺して終了です。午前中にトルーパーを使って訓練したので、連携は今のところ失敗無しで行けています。
どのパーティも4、5人で一体のコボルドを囲んでいますが、効率は悪そうです。このあたりの連携訓練ができたことは、元テスターのキリト君に素直に感謝です。
割当分が片付いて暇になるな、と思った矢先、お兄さんはキリト君の方に走って行きました。何かあったのでしょうか。横顔から焦りのようなものが見えましたが。まあ、私の出る幕ではなさそうなので、待つことにします。
Side-Kirito
ユズキが駆けて来る。その表情には、焦りが見えるようだ。
俺のもとにたどり着くと、小声で俺に話しかけてくる。
「おいキリト、あいつの背中にあるの、どう見ても
言われるがままに部屋の中央にいるボス、イルファング・ザ・コボルドロードに目を向けると、ありえないものが視界に映る。
「あれは…野太刀!?ってことはあいつ、まさか〈カタナ〉スキル使いか…!?」
ベータのときと同じなら、あいつが使うのはユズキが言うとおり、曲刀カテゴリの武器、〈
「刀スキル?」
「アインクラッド10層で初めて使う敵が出てくるモンスター専用ソードスキルだ。俺がベータ時代に対処法を覚え終わったくらいでテスト期間が終わっちゃったから、テスターでも対応できるやつは少ないはず…」
そう。〈カタナ〉スキル。10層の〈千蛇城〉と呼ばれるフロアで〈オロチ・エリートガード〉あたりのヘビ侍が使ってきた、凶悪なソードスキルだ。プレイヤー側に存在していなかったこのスキルは変幻自在で、俺も奴らと何度も戦ってはHPを0にさせられ、行動パターンを覚え続けたものだ。
「ってこたぁ、
言われ、一瞬は躊躇う。おそらくユズキが言っているのは、
テスターに対して一部のプレイヤーが反感を持っている現状。俺がテスターを名乗って出ていけば、少なからず糾弾が来るだろう。攻略メンバーから追い出されることだって、もしかするとあるかもしれない。
ただ、今はプレイヤーの命がかかっている。俺が出なきゃ、
「行くよ。何かあったら、頼らせてもらうぞ?」
故に、そう返事する。なにせこいつは、俺がこの世界で出会った一番頼りになるやつだ。俺にできなくても、なんとかしてくれるだろう。
「援護くらいなら、いくらでもしてやるさ。行ってこい」
その言葉を聞き届け、俺は走る。攻略を指揮する男・ディアベルのもとへ。
Side-Diavel
思えば、ここまでは長かったようであっという間だった。
SAOがデスゲームと化し、一万人ものプレイヤーが絶望と恐怖のどん底に叩き落とされてから一ヶ月。
力を蓄え、情報を集めて発信し、人助けなんかもするうちに、段々と仲間が増えていった。キバオウさんやリンドさんなんかは、特に熱心に僕を慕ってくれているようだ。
だからこそ、彼らには申し訳ないと思っている。僕は彼らに一つ、大きな、ひどく大きな嘘をついている。
彼らは、僕をベータ上がりのテスターじゃないと、本気で信じてくれている。自惚れかもしれないけれど、圧倒的優位のテスターを差し置いてリーダーとなり、自分たちを導いてくれる希望の星だと思ってくれている。
だが、僕はそんなんじゃない。
僕はベータテスターだ。みんなをまとめてこの世界を攻略して、デスゲームから解放したいという思いに偽りはないが、それでもテスターだ。
テスターとしての知識をフルに使って、安全に攻略を行った。狩場の情報だって、効率的なクエストのことだって、知っている。
ボスのラストアタックボーナスが強力なものであることだって知っている。それを手に入れ、攻略集団でのリーダーとしての地位を確かなものにするために、汚い手を何度も使った。
ベータ当時にLAB取りとして名を馳せていたキリトさんとユズキさんに対する対策は、特に執拗に行った。
ベータ時の彼らの所業を、
彼らの戦力を削ぐために、キバオウさんを仲介として、武器の買い取り交渉を続けさせた。結果は不発に終わったけれども。
攻略会議でキバオウさんがあんな発言をしたのだって、元をたどれば僕のやったことだ。テスターに対する要求を会議で語らせてほしいと彼に頼まれ、会議中には初対面の人間として振る舞いながら彼の目的を遂行させた。
それでもなんとかこうしてボス攻略までこぎつけ、もうすぐそれも終わる。ここから、僕が攻略組を…
…ベル!ディアベル!聞こえてるか!」
気がつけば、すぐそこにキリトさんが来ている。何やら焦っているようだが。
「どうしたんだい、キリトさん?」
「あいつの持ち替え武器が、湾刀じゃない。どっからどう見ても、『カタナ』だ。」
刀。ベータのときに、そんな武器があっただろうか。いや、噂ぐらいには聞いたことがあるかもしれない。知り合いのプレイヤーが、10層の敵が使うそんなスキルの話をしていたような…。
「あいつが〈カタナ〉スキルを使うなら、状況はマズい。あれに初見で対応できるやつは、まずいない。」
「だから、ディアベル。頼む。この場の指揮権、一度
一瞬、何を言っているのかわからなかった。じゃあなんだ。あなたはそのスキルに対応できるのか。
「
途端、すべてがつながる。そうか、つまりあなたは、
なら、もう任せよう。僕の役目は、ここで終わりだ。この戦いの最後を任せるなら、どちらが適任かなんて言うまでもない。見れば、ボスの体力は、ちょうど発狂圏内にさしかかった。息を吸い、部屋中に呼びかける。
「ボス情報に更新あり!今から、
ボスがラウンドシールドと斧を投げ捨て、獲物を取り替える。ああ、本当だ。あれは僕の知るあのボスの武器じゃあない。黒光りする分厚い刃は、どこからどう見たって〈カタナ〉以外に形容のしようがない。つまり、ここからはもう、
「全員、防御姿勢!間違ってもボスを囲むなよ!」
キリトさんの声が響き、一斉に全員が動き出す。
あとは任せたよ、キリトさん。
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更新が遅れてすみません…