side-Yuzuki
(キャラクターネームの入力は…Yuzukiでよかったはずだな。)
元ベータテスターである弟は、キャラメイクも済ませてあるテスター時代のアバターを使いたいと言っていた。
キャラクターネームを同じにしないと、そのアバターは使えないはずなので少し慎重になる。
目の前に『βテスト時のアバターを使用しますか?』と表示が発生したことに安堵し、彼は丸が表示されたボタンをタップした。
『Welcome to Sword Art Online!』
そのメッセージと共に彼の意識は暗転、気がつけば目の前には、見知らぬ広場が広がっていた。
「これがソードアート・オンライン、か。」
誰に言うでもなく、ポツリ、と呟く。
ゲームそのものはそれなりにやっているものの、ハードウェアの高さゆえにフルダイブ型VRゲームは手を出しておらず、彼にとってはこれが初めての経験だった。
(まずはキリトってやつとの合流だったか)
彼は、弟に言われた「最初にやっておいて欲しいこと」を思い出していく。この世界についてはそのキリトというプレイヤーに教えてもらえとのことだったので、とりあえず探すことにした。
が、その探索が終わるまでにはさほど時間を必要としなかった。はじまりの街を歩き始めようとしたそのとき、誰かが自分を呼んでいることに気付いたからだ。
その声の主は、こちらに向かって走ってきた。
「おーい、ユズキ!」
side-Kirito
少年は、目の前のキャラクターネーム入力画面に、βのときに使用した名前、Kiritoを素早く打ち込むと、βテスト時のアバター使用を即座に選択。
テスト時にも見慣れた、『Welcome to Sword Art Online!』というメッセージに続いて、懐かしい風景が視界に飛び込んできた
「はじまりの街…。俺は帰ってきたんだ、この世界に…!」
喜びのあまりヒャッホウと飛び上がりそうになるのを必死に抑え、まずは行きつけの武器屋にでも行こうかと考えた。
その矢先、見覚えのあるプレイヤーがログインしてきた。
それは、彼がβテスト時に最も話すことも共に戦うことも多かった、彼にとってかの世界における親友のような存在だった。
懐かしい。そう思った彼は、声をかけようと思い、その名を呼びながら駆けていった。
「おーい、ユズキ!」
side-K&Y
突如として名を呼ばれたことに、ユズキは多少驚いた。だがしかし、人探しの手間が省けた、と同時に思った。
なんということはない。キリト本人が呼びかけてきただけの話だ。
一応、彼自身はキリトと初対面なので、人違いの無いように確認をとることにした。
「お前がキリト、で合ってるんだな?」
「え、いや、まあそうだけど。もしかして俺のこと忘れてた?それともアバター似てるだけの別人か?いやでもだとしたらなんで俺の名前を…」
事情を知らない彼には当然の疑問だろう。なので説明は早いうちにしておこう、と思いユズキは口を開いた。
「混乱させてすまん。βのときのユズキは俺の弟でな。用事があるからとレベリングを頼まれて、今はあいつの兄である俺がこのアバターでログインしてるんだ。」
「あ、そういうことか…あいつ結構やりこんでたからなぁ、それでも普通誰かにレベリングの代行なんて頼んでまで…」
キリトはやはり動揺は隠せていないが、それも仕方ないことだろう。
何せ、知り合いだと思って声をかけたら別人でした、という状況であることに違いは無いのだから。しかし、いつまでも戸惑っていられてはユズキも弟との約束が果たせない。
ひとまずこの世界についてある程度のレクチャーをしてもらう必要のあるユズキは、その依頼をすることにした。
「そういうわけなんで、悪いがキリト、このゲームについてざっくりとでいいから教えてくれないか?なにぶんVRゲームは初めてでな。いまいち何をしたらいいのかわからん。」
「…!あ、ああ。そうか。そういえばそうだったな。わかった。とりあえず、俺たちが行きつけにしてた武器屋があるからそこに向かおう。」
「ありがとう、助かる。」
こうして、彼らは仮想世界での第一歩を踏み出した。
side-Asuna
彼女は少し混乱していた。目の前にはプレイヤーネームを入力するコンソールとそれが表示されるディスプレイがある。
それに名前を打ち込めばいいだけなのだが、この手のMMOゲームに触れる機会のなかった彼女にはそれもよくわかっていなかった。
(フルネームを入れる必要は無いはずだから、Asunaでいいのよね…)
本来、こういったゲームをプレイする際の名前に実名を使うことはあまり無いのだが、何はともあれ結城明日奈はプレイヤー'Asuna'としてログインすることを決めた。
アバターの生成に関しては女性であることのみは選んだもののあとはほとんど初期設定のまま。とりあえず早く終わらせてほしかった。
キャラメイクを決定する意思表示のためにボタンに触れると、ソードアート・オンラインへようこそ、という英文と共に目の前の光景に変化が生じた。
そこに見える景色に、彼女は驚愕を隠せなかった。
「嘘…これが本当にゲームの中だっていうの…!?」
細部を見れば現実世界とそれなりの差異は存在する。しかし、どこかヨーロッパのような雰囲気を感じさせる町並みや行き交う人々は、どう見ても実在する場所や人であるかのように映る。彼女に衝撃を与えるには、それは充分すぎるものだった。
(何から始めればいいんだろう)
MMORPGに関してはほとんど何も知らない彼女は、ひとまず周りの人々の会話から情報を集めることにした。
結果としてわかったのは、ここでは武器を持って敵モンスターと闘い、倒すことでお金や経験値を手に入れることができ、逆にそれをしなければお金は減っていく一方である、ということだった。
ならば、武器の調達が必須だと思い至り、武器を売っている店を探すことにした。
ふと視線をあげると、何人かのプレイヤーが急ぎ足で向かう街道があることに気がつく。他のところは皆ゆっくりと歩いたり談笑しながら移動していたりするばかりなのだが、その街道だけは急いでいるプレイヤーが多かった。
まずはこの街道からあたってみよう、と考えたアスナは、ゆっくりと歩みを進めた。
side-K&Y
武器屋で武器の調達を終えた2人は、早速狩りに出掛けよう、という話でまとまって圏外へ向かおうとしていた。
選んだ武器は、キリトが片手剣、ユズキが片手槍だった。
β時のユズキ、すなわち今のユズキの弟は槍使いだったようなのでこの武器にするようあらかじめ言われていたのだが、扱いが難しそうだとユズキは落胆せざるを得なかった。
「槍の扱いもこの世界じゃあんまり面倒でもないはずだし、とりあえず行ってみようぜ。実際に使ってみなきゃわからないし。」
そう言うキリトの意見ももっともだと思い、ユズキは先を行こうとする彼を追うことにした。
そこに、後ろから誰かが声をかけてくる。
「おーうい、そこのお2人さん!ちょっといいかい?」
キリトは、うへぇ、とでも言いたそうな顔を見せる。どうやら後方のプレイヤーはこちらに用があるらしい、と気付いたユズキは、返答だけでも返しておくことにした。
「俺達に何か用か?」
「おう!あんたら、元ベータテスターだろ?迷いもなくここの武器屋に向かっていったしよぉ。よかったら、俺に少しレクチャーしてくれねぇか?」
つまりこいつも自分と同じく、ベータテスターの力を頼ってまずは遊び方を学んでおこうという考えなのだろう、とユズキはわかった。
しかし、それを了承できるかどうかは自分ではなくキリトの意思によるところなので、ひとまず口をつぐんだ。
ほどなく、キリトが口を開く。
「うーん、別に構わないけど…基本的なことだけな?あとこっちにも教えなきゃだし。」
こっち呼ばわりされたことに少しムッとしないでもなかったが、キリトが了承するなら問題ないだろう、とユズキは自己紹介しておくことにした。
「それじゃ、決まりだな。俺はユズキ。一応ビギナーだ。」
「ん?そうか。俺はクライン!よろしくな。」
「キリトだ。ま、とりあえず圏外に行くか…と、その前に。クラインは武器は何にするんだ?」
クラインは曲刀【リトルサーベル】を選択して購入。そのまま3人で圏外へ向かうことにした。
side-Asuna
武器屋についたものの、どうやって武器を買ったらいいのかわからなかったアスナは、他に武器を買う人を待ち、それを見て買おうと思い至った。
ほどなくして、1人の少女が店の前に現れた。背丈はアスナと大して変わらないくらいのその少女は、悪戦苦闘しながらもどうにか武器の購入を終え、その場を立ち去っていった。
あまり参考にはならなかったかも、と思いながらもアスナは店に向かった。先程少女がやっていたように店を見る。
目の前に『購入』『売却』の2つのメニューが表示されたのがわかると、ゆっくりと購入のボタンをタップ。
浮かんでくる選択肢から、さてどの武器を選んだものかと少し悩む。
そして、自宅のマントルピースにレイピアのような武器が置いてあったことを思い出し、特にこだわりもないしあの剣と似たようなものにしよう、と考えた。
結局、細剣【スモールレイピア】を選択し、購入。圏外にその足を向けた。