とあるレベリング代行者のSAO   作:アルファささみ

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デスゲームの始まり

side-K&Y

 

圏外フィールドに到着してから少し経ち、キリトはまずはソードスキルの扱いについて教えることにした。

 

「ソードスキルには始動するための特定のモーションがあるんだ。その形さえ作っちゃえば、あとはシステムアシストで勝手に技が発動する。こんな風に…な!」

 

そう言ってキリトは目の前のイノシシのようなモンスター、フレンジー・ボアに向き合い、右手に持った剣を左腰の方へ持っていき、構えをとる。すると、その剣が青色に光り輝き、次の瞬間にはそれは右上へ切り上げられていた。

 

キリトが片手剣カテゴリのソードスキル《スラント》を発動させ、ボアにダメージを与えた。ただそれだけの光景に、ユズキはひどく驚いていた。

 

「これがソードスキルか…。ただ剣で叩くだけよりは、確かにダメージ効率が良さそうだな。」

「まあ、その分デメリットもあるんだけどな。スキルのあとに硬直時間があったり、次に同じスキルを使うのにクールタイムが必要だったり。」

「なるほどな…。」

 

あとは実践あるのみだが、ユズキはソードスキルを使うためのモーションがわからないことに気づく。

 

「なあ、その、ソードスキルを使うときのモーションがどうこうってのは、どうやったらわかるんだ?」

「ん?ああ、それならまず、メインメニュー画面からスキルのページを開いてくれ。そこに今使用可能なスキルと必要モーションが軽く説明されてるから。」

 

見てみると確かに、少し分かりにくくはあるがモーションの説明が書かれている。そこに書いてある通り、ユズキは右手に持った槍を体の右側に構え、軽く腰を落とした。

 

すると、不意に何か不思議な感覚を覚えると同時に、手に持った槍がまるで意思を持っているかのように前方へと飛び出していった。

 

槍カテゴリのソードスキル《シングル・スラスト》。基本の単発技だが効果はてきめんだったようで、先程のキリトの攻撃で体力の減っていたボアは、ポリゴンの欠片となって消えた。

 

「おお…!」

「へえ、上手いもんだな。初回でこんだけできれば上々だと思うぞ。」

「そうか。ま、どうせ6時で終わりだけどな」

「入れ替わるのが6時なのか?」

「そういうことだ。」

 

代行だけのつもりだったが、こうも楽しいとやはり少しは未練が残ってしまうようで、今のうちに目一杯遊んでおこうと考えるに至った。

 

「うっしゃ、俺もやるぜ!」

 

と、今度はクラインが動き出した。しかし、どうにも上手く発動できず、ボアの突進をもろに受けてHPを2割程削られる。尻餅をついてため息をつく彼の姿は、妙に絵になっていた。

 

「クラインどうした?全然上手くいってないじゃねぇか。」

「だ、だってよぉ…。あいつら、動きやがるしよぉ…。」

「動くのはどのモンスターも一緒だろ…。いいか、無理に動こうとしちゃ駄目なんだ。1回構えを作っちゃえば、あとはシステムがどうにかしてくれる。それに任せるつもりでやってみろ。」

「こ、こうか?」

 

そう言ってクラインは、手に持つ曲刀を左腰に添えるように構えた。すると、キリトやユズキのときと同じく、剣から光があふれ、目の前のボアに直撃した。

 

曲刀カテゴリのソードスキル《リーバー》が発動したようだ。運良くクリティカルヒットの判定も出たようで、一撃でかなりのダメージを見舞うことが出来た。追加で軽くダメージを与え、難なくとは言いがたいが無事にボアを倒した。

 

「うおぉ、すっげぇ!」

「見事な剣筋だった。」

「ま、でも今のモンスターって、ドラ○エでいうス○イムみたいなレベルだけどな。」

「てっきり中ボスクラスかと思ってたぜ…。」

「中ボスがこんな弱いわけ無いだろ。この調子で狩りを続けるか。」

 

こうして、彼らはレベル上げや技術の向上に勤しんだ。これから訪れる悲劇のことは、まだ誰も知らない。

 

 

 

 

side-Asuna

 

各々の武器で攻撃を繰り出し、SAOの戦闘を楽しむプレイヤーたちを見ながら、アスナは戦い方を模索していた。

 

「どうやら何かしらの構えを取ると、技の判定が出るみたいね。」

 

確認するように1度呟くと、どんな構えがあるかも知らない彼女はレイピアを持った右手を地面と水平に後方へ引く。

 

次の瞬間、腕がフッと軽くなるような感覚と共に、眼前のなにもない空間へ細剣カテゴリのソードスキル《リニアー》の一突きが炸裂する。激しいライトエフェクトと初めて感じる衝撃、少しばかり動けなくなるような反動を受けて、アスナは考察を進めていく。

 

「システムが技を勝手に発動させてくれるのね…。それに、使ったあとに反動でアバターが硬直してる…。」

 

それから暫くモンスターと戦闘をした後、ふと思い立って右手の人差指と中指を揃え、目の前で軽く振る。その動作でステータス画面を開くと、時計の表示が既に午後3時を迎えようとしていた。

 

「そろそろログアウトして勉強しなくちゃ…」

 

アスナは、ログアウトボタンがあったはずの位置まで画面をスクロールしていく。しかし、そこにはあったはずの

ログアウトボタンが見当たらなかった。念のためすべてのメニューを開き、隈なく探す。しかしその中のどこにも、ログアウトの表示が存在していない。

 

「嘘…。どういうこと?」

 

他人との関わりを好む方でもない彼女は誰かに相談することもせず、ただ呆然とするばかりだった。

 

 

 

 

side-K&Y

 

「うっし。これでまたレベルアップだ。」

 

手に持つ槍でボアをポリゴン片へと変え、経験値やこの世界の通貨であるコルを獲得した音と同時に、プレイヤーレベルが上昇した際に発生する特殊な音とシステムメッセージを受け取ったユズキは、軽くガッツポーズをする。

 

「これでユズキもレベル3だな。一応ノルマは達成、ってことでいいんじゃないか?」

「そうだな。まあでも、あいつとは6時って約束してるし、もう少し続けるかな。」

「オレはまだレベル2だってのによぉ…。って、いけねぇ。もうこんな時間じゃねぇか。」

 

時計を見ると、時刻は午後5時20分を示している。約束の時間まではまだ30分はあるので問題ないとユズキは思ったが、どうやらクラインはそうでもないらしい。

 

「何か用事でもあるのか?」

「晩飯だよ。5時半にピザの出前頼んでんだ。つーわけで、オレはそろそろ落ちるぜ。色々教えてくれてサンキューな。」

「そりゃまた、準備万端って感じだなあ。」

「わかった。それじゃ、せっかくだしフレンド登録はしておこうぜ。」

 

このユズキの提案に2人とも賛成し、フレンド登録を済ませた。そして、クラインはログアウトしようとしたが、ここである異変に気づく。

 

「ありゃ?どういうこった。ログアウトボタンがねぇぞ?」

 

そんなバカな。そう思い、キリトもユズキも自分のステータス画面を確認するが、そこには『ログアウト』の文字が見当たらない。

 

「サービス初日からこんなバグが起きてるなんて、運営も涙目だろうなあ…」

「だとしたら不自然だな。SAOを運営してるアーガスはその辺をすぐにでも対処するはずなのに。こういう場合、全員を強制ログアウトさせて原因を調べるのが普通のはずだ。」

「てかクライン、お前このままでいいのか?ピザの出前取ってんだろ?」

「そうだった…。オレのアンチョビピッツァとジンジャーエールがああ…」

 

クラインは絶望しきったかのような顔をしている。一方で、なぜか冷静になっている自分がいることにユズキは気づく。

 

「キリトよぉ。他にログアウトする方法はねぇのか?」

「SAOからログアウトする方法はステータス画面のログアウトボタンを押すこと以外に存在しないはずだけど…。」

「にしたって、なんかあるはずだろ!?脱出!ログアウト!」

「無駄だと思うぞ。SAOにその手のボイスコマンドは無いはずだし。」

 

このままログアウトできなくなっては弟に申し訳ないと、ユズキはひとまず運営にメッセージを送ることにした。

 

「チクショウ。どうしろってんだ…って、なぁっ!?」

 

クラインが悪態をついた途端、ユズキたちの体が青白い光に包まれていく。

 

「これは…強制転移!?」

 

キリトのそんな叫びが聞こえたかと思うと、彼らの意識は暗転した。

 

 

 

 

「ここは…はじまりの街?」

「それで間違いなさそうだな。」

「だな…って、ユズキもここに飛ばされたのか。」

「ああ。見た感じだと、ログインしてる全プレイヤーが集まってるんだろうな。」

 

ユズキと合流したキリトは、ほどなくしてクラインも発見し、とりあえず3人でかたまることにした。周囲からは、ログアウトさせろだとかクソ運営だとか、そんな罵詈雑言が飛び交っている。そんな中、突如として上空が赤く塗りつぶされた。よく見ると、【warning】【system announcement】の文字が書かれた六角形のタイルが敷き詰められたようなものであり、ようやく運営側から反応があったかと彼は安堵した。しかし、それは次の瞬間、新たな不安へと変わった。

 

赤い空の一部が溶け出したかのような演出と共に、赤いフードを被った何者かが姿を表したからだ。そして、キリトはそれが見覚えのあるものだと気づく。それは、彼がベータテスト時代に幾度となく見かけたゲームマスターの服装だった。しかし、ベータのときはそのフードの中にあったはずの顔や手足は今眼の前にいる何者かには無い。

 

不意に、その何者かが音声を発した。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。』

 

私の世界ということは、やはりゲームマスターなのだろうか。しかし、だとしてもこの演出は不自然だ。誰もがそう思う中、何者かはこう伝えた。

 

『私の名は茅場晶彦。いまや、この世界をコントロールするただ1人の存在だ。』

 

茅場晶彦。その名前をキリトは、よく知っていた。その人物は、稀代の天才と称される研究者でフルダイブ型マシンの基礎設計者であり、ソードアート・オンラインを開発した張本人である。キリトにとっては憧れの対象人物でもあり、彼のインタビューが載った雑誌などはすべて購入し、内容をそらで言えるほどには熟読したほどだ。しかし、それだけに疑問も尽きない。彼はマスコミをひどく嫌っておりメディアへの露出も少なかったはずだ。その彼が、なぜこのような行動に出たのか。その答えは、目の前の彼自身が語ってくれた。

 

『諸君らの中には、ステータス画面からログアウトボタンが消滅していることに気づいた者も多いだろう。しかし、これはバグでも不具合でもなく、SAO本来の仕様である。繰り返す、これは、SAO本来の仕様である。』

 

一瞬、耳を疑う。ログアウトできない状況が本来の仕様である。すなわち、プレイヤーは自発的にログアウトすることができない、ということだ。そんなはずはない。すぐ近くにいるクラインやユズキも、驚きを隠せずにいる。しかし、この直後、さらに衝撃の事実が告げられた。

 

『また、外部からの強制的な救助も不可能である。それがなされようとした時、諸君らの脳は、高出力のマイクロウェーブにより焼き切られる。既に注意は呼びかけられているが、残念ながら現時点で、213名のプレイヤーが、この世界及び現実世界から永久退場している。』

 

213名。確かな数の犠牲者が発生している。しかし、それを確かめる術はない。流石に理解が追いつかないようで、クラインが叫ぶ。

 

「で、でもよぉ。ほんとに脳を焼き切るなんて可能なのかぁ?」

「ああ、可能なはずだ。さっきまではハッタリだろうと思ってたが、ナーヴギアは原理的には電子レンジと一緒だ。充分な出力さえあれば、脳を焼き切るくらい不可能じゃない。」

「な、なら!コードを抜いちまえばいいじゃねぇか!それなら問題ないはずだろ!?」

「無駄だろうな。ナーヴギアには不測の事態に備えて、かなりの容量の予備バッテリーが積まれてるはずだ。」

 

すなわち、茅場の言っていることには、不可能なことは何一つ存在していないのだ。人々の怒りの声、絶望の叫び、嘆き、そんな音が、広場を支配する。しかし、本当の悪夢は、ここからだった。

 

『また、このゲームでは、いかなる蘇生手段も機能しない。プレイヤーのHPが全損した際、そのプレイヤーはゲームオーバーとなり、高出力マイクロウェーブでその脳を焼き切られる。』

 

…この時より、二年間の壮大なデスゲーム『SAO事件』は、その幕を開けたのだった…。




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