Side-K&Y
自発的なログアウトが不可能かつ、蘇生手段が機能しない。すなわちこの瞬間、彼らはこの『ソードアート・オンライン』に閉じ込められた状態となったのである。
そんなことを咄嗟に信じることが出来る者は少なく、広場には混乱が訪れた。そんな中茅場は、さらなる情報を開示してきた。
曰く、このデスゲームをクリアするためには、鋼鉄城アインクラッドを第百層まで攻略しなければならない。
ベータ時代には何度も死に戻りを繰り返して1ヶ月で10層までクリアしきれなかったので、途方もない時間がかかるのは目に見えている。
『最後に諸君らへ、プレゼントを送っておいた。アイテム一覧を見てほしい。』
茅場からそう言われたキリトたちは、メインメニューからアイテムを見る。一番上に表示されるアイテムをタップ名すると、手のひらにのるくらいの小さな板が出現した。
「これは…手鏡?って、うわあっ!?」
突然全プレイヤーの持つ鏡が光り始め、周囲が明るさを増す。その光が完全に消えたとき、何やら周囲の様子が先程とは明らかに違っていた。
街並みにはなんの変化もない。しかし、目の前の人々の容姿が、まったく見慣れないものへと変貌していた。
ゲームではありがちな美男美女集団だった彼らの風貌は、言ってしまえば平凡な、どこにでもいそうな出で立ちで、その装備だけはゲーム内のものだった。
平均身長も随分下がっており、恐ろしいことに性別まで、先程まで男女同数程度だった男女比は女性の数が激減して、女性が1割いるかどうかすら怪しいほどだった。
ふと思い立って、キリトは手元に残る鏡を覗く。そこに写っているのは、彼にとって見慣れた顔だった。
少し前髪が長く伸びた黒髪と、同じ黒い色の目。妹と一緒に出掛けると時おり姉妹と間違われる、中性的な顔立ち。
それは、現実世界でのキリトの、すなわち『桐ヶ谷和人』の顔だった。
唖然としていると、すぐそばから聞き覚えのある声がした。
「ありゃ?誰だ、おめぇ?」
声のした方を向くと、逆立った髪に赤いバンダナを巻いた、野武士のような髭面の男が立っていた。そのどこか侍のような装備に見覚えがあったキリトは、その名を呼ぶ。
「俺はキリトだけど…。もしかしてクラインか?」
「んな!?おめぇ、キリトだったのか!?」
その反応を見る限り、向こうはクラインで間違いないようだ。その安堵と共に湧いてきた疑問を、クラインが代弁してくれた。
「にしてもよぉ、なんで茅場の奴ァ、こんなことをしたんだ?つか、そもそもなんでここまで再現が出来てるんだ?」
前半はキリトも同様の疑問を持っていたが、後半に関しては既に自分なりの見解を持っていたので、それをクラインに話す。
「ナーヴギアは顔全体を覆う形になってて、そこから電磁波を流してるから。それで再現はできたんだと思う。それに、理由についてはきっとあっちから話してくれるはずだ。」
とキリトが言った直後、茅場は最後の言葉を語る。
『諸君らはなぜ、と思っているだろう。身代金か、はたまた実験台か、と。しかし、私の目的はこの世界の鑑賞にある。故に、私の目的は既に達成せしめられた。…以上を以てSAOのチュートリアルとする。諸君らの健闘を祈ろう。さらばだ。』
赤い空に、茅場が吸い込まれるように消えてゆく。途端、閉じ込められたプレイヤーたちの怒号が、悲鳴が、絶叫が、慟哭が、広場全体に広がり、その場を支配してゆく。
「ふざけんな!早くここから出せ!」
「大事な約束があるのに!帰してよお!」
「嫌だぁ…!まだ死にたくないぃ…!」
ゲームの中に閉じ込められたという、考えたくもないような、理解したくもないような現実が、人々を混乱へと陥らせる。この状況下で冷静に動ける者はそう多くない。キリトは、今のうちに行動を起こそうととある人物を探し始めた。
「ユズキ!どこにいる?」
「俺ならさっきからずっとここにいるが。」
「おっ、いた…って、え!?」
キリトが声のきこえた方を向くと、先程のユズキのアバターとしての姿からかけ離れた、長身の青年が立っていた。
白髪交じりの黒髪は肩くらいの高さに切りそろえられており前髪はキリトのそれより長く、その隙間から気だるげな灰色の双眸が覗いている。顔立ちはそれなりには整っており、180センチメートルは超えていそうな長身には、先程までユズキが仕様していた布装備類が確かに装備されたままだった。
印象がいままでとはかけ離れていたため、キリトは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。そんな中ユズキは、何事もなかったかのように―実際何かがあったわけでもないのだが―キリトに話しかける。
「何か話があるんだろ?ここじゃ聞こえが悪くて不都合だ。静かに話せそうなところに移動しよう。」
キリトはその提案にのり、その場にいたクラインも連れて圏外へ続く街道へと向かった。
もう少しで圏外に出る。そのくらいの路地の真ん中で、キリトは足を止め、二人にとある提案をする。
「聞いてくれ。俺はこれから、この街を出て次の街を目指す。二人もついてきてくれ。」
突然の提案にクラインは驚いた様子だったが、ユズキは想定済みだったのだろう。質問をしてきた。
「それが安全である保証と、ついでに出る理由を訊いてもいいか?」
「ベータ時代のデータに頼ってるから保証は無いけど、十中八九安全だと思う。理由については、これがデスゲームだからだ。こうなったからには、生き残るために少しでも多くのリソースを得る必要がある。そのためには、落ち着きを取り戻した他プレイヤーがこの街周辺のリソースを狩り尽くす前に次の街を本拠地にした方がいい。」
「なるほどな。」
理由を説明してもクラインは納得がいっていないようで、こんなことを言ってくる。
「だから一緒に来いってか?悪ぃが、そいつぁ無理だぜ。まだこの街のどっかに、一緒にSAO買った仲間がいるはずなんだ。置いて…いけねぇよ。」
確かにそれは一理ある。可能であるならば、その友人たちも連れていければよいだろう。しかし、キリトが彼らも連れて次の街に移動するとなれば、危険はかなり増す。本来であれば守りきれるはずの人が、多すぎて手におえないなんて事態は、絶対に避けなければならない。
そんなキリトの葛藤を知ってか知らずか、クラインは無理に明るく言う。
「まあ、俺のことはいいからよ!オメェら二人で先に行っててくれよ!あいつら連れてすぐ合流すっからさ!なぁに、キリトに教わったテクで、しっかり生き延びてやるさ!」
ユズキもその提案に乗ることにし、とりあえずこの場でクラインとは別れる流れになった。
「そんじゃ、またそのうち会おうぜ!」
「こっちで得た情報は可能な限りフレンドメッセージで伝えるようにする。そっちで検証なりなんなりした上ではじまりの街のプレイヤーに流してくれ。」
「そうだな。俺はテスターとして、ユズキはニュービーとして、それぞれの視点で情報の吟味できるから信憑性も増すはずだ。」
「サンキューな、二人共。あいつらもそのうち紹介するよ。」
「また会えるときを楽しみにしてる。絶対生き延びるぞ。」
「ああ。」
こうして彼らは、それぞれの道を歩き始める。
「キリト、ユズキ!オメェら、結構可愛い顔してんな!ソッチのほうが好みだぜ!」
「冗談にしたってキツイぞ、クライン。まあでも、お前はその髭面のが様になってるな。」
「だな!お前はその野武士面のが10倍は似合ってるよ!」
別れの挨拶にしては気が抜けているが、二人は圏外に向かい走り出す。もう一人は広場へ向かい友を探す。
キリトとユズキの前に二匹のオオカミ型モンスターがポップするが、それぞれの獲物を右手に携えた二人は、刀身を、穂先を光らせ、ソードスキルを発動する。
片手剣カテゴリソードスキル《ホリゾンタル》
片手槍カテゴリソードスキル《シングル・スラスト》
無我夢中で走る彼らの一撃で、オオカミ達は瀕死のダメージを負う。直後、スキル後硬直の溶けた二人の追加攻撃を受け、その体をポリゴン片へと変え、爆散していった。
彼らの冒険は、まだ始まったばかりだ。
ソードスキルに関しては、可能な限り原作に合わせる予定ではいますが個人的に熟練度の問題とかが気になって改変していたり、槍のソードスキルは割りと適当になってしまうかと思いますがよろしくお願いします。
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