とあるレベリング代行者のSAO   作:アルファささみ

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現実世界の主人公の弟サイドの話。


その日、とある少年は

Side-大輝

 

今日は2022年11月6日。

 

祝日に指定されているわけでもない、至って普通の日付。

 

でも、今日は俺が待ち望んでいた日だった。

 

「兄ちゃんどんくらい頑張ってくれるかなぁ?多分キリトが一緒だろうから大丈夫だと思うけど…」

 

俺の名前は柚原 大輝(ゆずはら ひろき)。ゲームが好きなどこにでもいる普通の中学生だ。と、少なくとも俺はそう思っている。

 

友達が言うには、俺は普通ではないらしい。その理由は知らないし、知りたいとすら思わないけど。

 

そんな俺が今日を待ち望んでいた理由。それは、世界初のVRMMORPG『ソードアート・オンライン』の正式リリース日が今日だからだ。

 

超高倍率の抽選をすり抜けてクローズドベータテストに当選した俺は、夏休みのほとんどをSAOに使った。他の時間にしてたことは食事睡眠風呂くらいだった気がする。

 

で、そのベータテスターにはソフトの優先購入権があったから買うのを決めて、リリース当日を今か今かと待ってたんだけど、当日に急な用事が入った。12時過ぎから5時過ぎくらいまでのそこそこ長めの用事で、1時に始まる正式版SAOには間に合いそうになかった。

 

スタートダッシュで遅れたくなかった俺は、ある人を頼った。それが俺の兄ちゃん、柚原 瑞希(ゆずはら みずき)だ。

 

背が高くて頭がよくて、とにかくカッコいい俺の自慢の兄ちゃん。レベリングの代行を頼んでみたら、二つ返事で引き受けてくれた。

 

安心した俺は、意気揚々と出掛けていった。いってきますと言った。いってら、と気の抜けた返事が帰ってきた。

 

そしてそれが、兄ちゃんとその年に交わした最後の言葉だった。次の年は、言葉を交わす機会すら得られなかった。

 

 

 

 

俺が向かったのは近所の公民館。学校で俺のクラスが主体でやる予定のイベントの打ち合わせみたいなものだ。

 

結構な時間をかけて構想を練って、なんとなく形になってきたと思ったのでそこで解散。やっぱり時刻は5時を過ぎていて、代行を頼んでおいてよかったと一安心して帰路につく。

 

「たっだいま~!」

 

と元気よく扉を開ければ、中からいい匂いが漂ってくる。今日はカレーだな。

 

台所に立っている遥叔母さんに声をかけて自室へ行き、荷物を置く。早くSAOをやるためにご飯を食べてしまおうと、いそいそと食卓へ向かう。

 

到着したら、テーブルの上にカレーが置いてあった。間もなく、遥叔母さんもやって来る。

 

叔母さんは、いつからか両親がいない俺たちの面倒を見てくれている、俺達の母さんの妹さん、らしい。らしいと言うのは、俺も兄ちゃんから聞いただけだから。

 

兄ちゃんは俺達の両親がいない理由を知ってるらしいけど、まだ話してくれない。そのうち訊いてみようっと。

 

「いただきます。」

 

二人で手を合わせて食べ始める。そんな中、叔母さんがなんとなくつけたテレビでは、信じられない報道がされていた。

 

まとめるとこんな感じ。

 

『ソードアート・オンラインがログイン不可能なデスゲームになった。』

『外から救出しようとしたら死ぬので(このあたりの理屈はよくわかんなかったけど)、プレイヤーの周りの人はナーヴギアを外しちゃいけない。』

『プレイヤーは全員準備ができたら病院に収容する。』

 

…うん、まとめてる場合じゃないよねこれ。兄ちゃんが命の危険に晒されてるよね、これ。

 

「兄ちゃんが!」

 

叫んだ俺は階段を駆け上がり、兄ちゃんの部屋の扉をノックもなしに開ける。

 

そこには、ナーヴギアを被ってベッドに横たわる兄ちゃんの姿があった。

 

「ひろ君、どうしたの急に!って、え…」

 

心配になって後から来た叔母さんも、その状況を見て絶句している。

 

次の瞬間、叔母さんは膝から崩れ落ちてしまった。そして声をあげて泣きながら

 

「姉さん、ごめんなさい…」

 

と、しきりに謝っていた。

 

こんな状況でどこか冷静になってしまっている自分がいる。叔母さんのこの様子が、兄ちゃんのことを何もかも諦めてしまっているかのように見える。

 

それが嫌で、泣き崩れる叔母さんに話しかける。

 

「帰ってこないって決まったわけじゃないから。とりあえず、入院することになるんでしょ?その説明を誰かがしに来るから。それまでに一旦落ち着こうよ、ね?」

 

5分ほど宥めていたら、なんとかもとに戻った。でも、やっぱり悲しいものは悲しい。

 

なんとなく気になって、兄ちゃんたちのおかれた状況を想像してみる。

 

デスゲームになったってことは、多分HPが0になったら死ぬみたいな条件がついてるんだろう。だとするとベータの時の蘇生ポイントだった黒鉄宮はどういう扱いになるのかな。

 

脱出条件はなんなのかな。外部からの救出が不可能なことを考えると何かしらの脱出手段があるはず。それも、どのプレイヤーでも達成できるけどその達成自体が困難なものが。

 

一つ思い浮かんだのは、アインクラッド100層までの攻略。

 

現実的とは思わないけど、そもそもVRゲームがデスゲームになってる時点で充分現実的じゃないし、あり得ない話じゃない。

 

ベータの時はトライアンドエラーを繰り返して期間内に10層クリアに届かなかった。

 

トライアンドエラーが許されない状況で攻略するとして、何年かかるかな。

 

ベータの時よりプレイヤーが多い分進みがよくなる可能性はあるけど、デスゲームを自ら進んで攻略しようとする人がそのうち何割いるかな。多分一割もいないと思う。

 

でも多分キリトは戦いにいくし、ビギナーの兄ちゃんもそれについていくんじゃないかな。生きて帰ってきてくれなきゃ悲しいよ…

 

と、色々考えてるうちに、大切なことを忘れていたことに気付く。

 

このSAOを始めるにあたって、一緒にプレイする約束をした人がいたことを。

 

その人の名前は葵 日向(あおい ひなた)。同じ中学に通ってる女の子で、俺の恋人。俺はいつも「ひな」って呼んでる。

 

クラスが違うから昼の会議には参加してないし、もしかしたらとっくに遊びはじめて、このデスゲームに巻き込まれてしまったかもしれない。

 

試しに携帯電話に連絡を入れてみたけど、反応はない。

 

どうしよう。俺が誘ったせいで、ひながデスゲームに囚われてしまった。なのに俺は、囚われずにそのまま。

 

罪悪感で胸がいたい。でも、どうすることも出来ない。

 

とりあえず、明日学校で確認してみよう。俺はみんなから責められるかもしれない。恋人をデスゲームに叩き落として平然と学校に現れる薄情者だと、罵られるかもしれない。

 

怖い。みんなから罵倒されるのはすごく怖い。でもそれ以上に、兄ちゃんと、ひなと会えなくなることが怖い。もしかしたら二度と会えなくなるかもと思うと、怖くてどうにかなりそうだ。

 

せっかく冷静になれてきてたのに、結局震えが止まらない。

 

俺の異変に気がついてか、叔母さんが背中をさすってくれた。さっきは慰める側だったのに、立場が逆転してる。

 

少しずつ現実を理解して、怖さを圧し殺して、なんとか落ち着いた、というところで呼び鈴が鳴らされる。

 

ドアを開けると、スーツに身を包んだ怪しげな眼鏡の男の人が立っていた。

 

彼はこう言った。

 

「私は、総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課の麻宮という者です。こちらにSAOのプレイヤーがいらっしゃるとのことでしたので、今後の説明のために参りました。入ってもよろしいでしょうか。」

 

 

 

 

麻宮さんを招き入れて話を聞いてみたところ、近所の病院でSAOプレイヤーへの受け入れ体制が整ったところから、順次プレイヤーの病院への移動が行われるらしい。

 

その時に回線を切断するのは大丈夫なのか不安だったけど、二時間は回線が切れてても死なないらしいのでその時間内に移動して病院で回線を繋ぎ直すらしい。

 

さっきのニュースで見た限りだとまだ生きているSAOプレイヤーは全部で9700人ほど。確かに受け入れ体制が整うには時間がかかるんだろう。

 

その他諸注意をして麻宮さんは帰っていった。他にもこの辺りに回らなきゃいけない家があるらしい。

 

というか間違いなくひなの家だろう。途端に申し訳なくなるけど、今更僕がどうにかできる問題ではないので任せることにした。

 

その日は僕達二人は特に会話もせずに寝た。

 

…兄ちゃんが無事に帰ってきますように。そう心の中で祈り続けた。




次回はSAO内部に戻ります。謎の少女の正体は…まあもうわかりますよね、はい。
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