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Side-Asuna
攻略会議に突如訪れたこの空気感を、私は既に幾度となく経験している。
誰が悪いでもない状態で一人の発言により全員が疑心暗鬼に陥るこの状況。女子校育ちの私はこの駆け引きじみた状況には慣れっこだ。私の学校だけがそうだった可能性は、まあ否定できないけれど。
誰も彼もが舞台に立つ男、キバオウの発言で周囲を疑い始めている。そもそもベータテスターとは何者なのかすらわからない私には無縁な話なので、私は特に気になっていない。
この状態が続いたら会議どころじゃなくなるなあ…と思っていた矢先に、私の左前方の男が、おもむろに立ち上がったかと思うと唐突に言った。
「俺はユズキ。ベータテスターの残骸だ。少しばかり話をしても構わないか?」
その言動が理解できなかった。この場で「ベータテスター」とやらであると名乗り出れば、待っているのは糾弾の言葉のみ。最悪の場合、この攻略会議からハブられる可能性も否めない。自分から私をこの会議へ誘っておいて何様なのだろう。しかし、それにしても彼の発言には一箇所気になるところがあった。
「残骸…?それは一体どういうことだ?」
自称騎士ことディアベルも同様の疑問を抱いていたようで、その旨を彼に尋ねるようだ。
「簡単なことさ。俺はとある元ベータテスターに頼まれて、レベリングの代行をしてたんだ。別に、誰のアカウントでログインしようがキャラの見た目のデータは引き継げるからな。それで、交代する前に事件に巻き込まれたわけだ。」
とっさの作り話にしてはなかなか筋が通っている、というか、もしかしたら本当のことなのかも知れない。
どちらであるにしても、テスターなのかそうでないのか曖昧な立場とも言える彼は、この場では発言しやすいのだろう。そう思って眼前の青年、私がこの場所に来る元凶となった男、片手槍使いのユズキを見る。
「キバオウさん、あんたが言うには、元ベータテスターはビギナーを見捨てたそうだな」
「せや!見捨てたんや!1800人の死者がその証拠や!」
「へえ。それじゃ、その1800人の中にテスターがいないと、お前はそう言い切れるんだな。」
なかなか強引な結論だけれど、キバオウは言い返せないのか、言葉に詰まる。
少し考えてみればわかることだが、別にその「テスター」とやらであったところで、結局プレイヤーは人間だし相手はプログラム。常に勝ち続けられるのは、実力のある者だけだ。
「それともう一つ。俺は元テスターだった依頼人の伝手でテスターの知り合いがいないでもないが、そいつらは全員、助けられる範囲で人助けはしてたぜ?それこそ、鏡見る前のアバターこそテスターだったが中身はビギナーの俺とかな。」
「なっ…んなもん、コネがある方が有利に決まっとるやないか!そんでベータテスターの影でちょろちょろ生きてきて、こんなとこにのこのこ現れたっちゅうんか!?」
彼の言う「テスターの知り合い」は、今この会議の場にいるのだろうか。もしかしたら、数時間前に私を助けた黒髪の少年か黒髪の少女がそうなのだろうか。いずれにせよ、彼の生き方はこの世界では正しい。使えるものはなんでも使って生き延びるのがこの世界でやるべきことだ。そういう点でキバオウの発言は、なんの意味もなさない。
「それじゃあ訊くが、キバオウさんや、テスターは他人にかまってる暇があるやつばっかりだと思うか?そいつらだってこの世界を生き延びるために必死だと気づかないのか?」
そう。結局そういうことなのだ。話を聞いている限りテスターとは、「このゲームについて事前にある程度情報を知っている人たち」のことなのだろうと推測がついたが、結局状況がデスゲームであることに変わりはないわけで、生きていくために必死なのはお互い様なのだ。
「って言っても、情報を共有することくらいはできたはずやないか!」
「…あのなあ。テスターがばらまいた情報なら、そこら中にあっただろ。お前まさかそれに気づかずにここまでこれたのか?」
そう言ってユズキは、ストレージからいくつかの冊子を取り出す。
「このガイドブック、見覚えがないとは言わせないぞ?」
彼が手に持つのは、私もお世話になった攻略ガイドブック。何故か行った先々の街のNPCショップで無料配布されていて、試しにもらって中を見たときは驚いたものだ。
次の街までに受けられるクエストの情報や敵の出現パターン、行動の種類にステータス、おすすめの攻略スポットや危険な場所とその対処法まで、おおよそこれから攻略を始めようとするプレイヤーが知りたいであろう情報がすべて記載された代物だったのだから。
「それなら持っとるわ。なんや、それがテスターからの情報や言うんか?」
「そりゃな。お前、気づかなかったのか?こいつの情報が早すぎるってことに。こんな精度と情報量をほとんどのプレイヤーが街に着く前に用意できるやつが、テスター以外にいると思うか?」
そう言われれば納得がいく。貴重な情報をほかのプレイヤーに無償で提供してくれたことには感謝しておこう。キバオウもこれ以上言うことがなくなったのか、口をつぐむ。
「そういうことだ。あんまりテスターへ風当たりが強いのもどうかと思うぞ。攻略のための貴重な戦力も情報も、一気に失うことになる。…っと、俺からは以上だ。失礼した。」
周囲から自然と拍手が湧き上がっていた。誰も、ベータテスターという存在をを責めるためにこの場に来たわけではない。だからこそなのだろう。
「俺からも追加で少しだけ、構わんか?」
舞台にほど近い席から、そんな声があがる。そちらを見てみると、スキンヘッドにチョコレート色の肌をした巨漢が立ち上がっていた。なかなかにインパクトのある見た目だ。
ディアベルは彼に向かって頷き、続きを促す。
「俺の名はエギル。さっきユズキが言ってくれたとおり、現在の死者の中にベータテスターは少なからずいると俺は思う。そうでなくとも、ゲームの腕が多少はたつベテランの連中がな。そいつらがこのデスゲームをただのゲームと履き違えて、引き際を見誤って死に至ったんじゃないか?そういう事実を踏まえて、このボス攻略をどうするのかについて議論する場だと考えて、俺は今日ここに来た。」
キバオウも冷静になったか「今回のところはこのくらいにしといたる!」と捨て台詞を残して座った。再び場の指揮権がディアベルに移行する。
「よし、前置きは長くなっちゃったけど、会議を始めさせてもらおう!まずは件のガイドブックだが、先程最新版が出て、そこにボスの情報が載っている。きっと何人かは持っていると思うから、それを開いてくれ!」
Side-Yuzuki
今回のボスモンスター「イルファング・ザ・コボルトロード」は、どうやら戦いにくくはないようなスペックだった。アルゴから500コルで買ったガイドブックによれば少なくともそのはずだ。
知り合いのプレイヤーに500コルで売った後、それを元手に第二版を無料頒布するスタイルを取るこのガイドブックは、数々の元テスターや熱心な情報収集家達により恐ろしいほどの情報量を盛り込むことができている。かくいう俺達も情報提供者側だ。
それによると第一層のボスは斧使いで、4本あるHPバーの最後の一本が残り2割ほどになると武器を持ち替え、曲刀カテゴリの武器、湾刀(タルワール)に持ち替えるのだそうだ。初期のボスであるだけに攻撃パターンの種類も少なく、これと言って警戒すべき技もなかったのでそこまでこの話題は時間を取らなかった。
「よし!それじゃあ、パーティを組もう!最大6人まででグループになって、パーティを組んでみてくれ!」
というディアベルの発言で、プレイヤーたちが動き出す。俺はといえば、そもそもキリトやアオイと既にパーティを組んでいるので、あぶれたプレイヤーを余った枠に入れようくらいにしか思っていないわけで。そして、この場にいるのは46人。6人パーティを組んで余る4人のうち3人がこのパーティに入っているわけだから、残りはあと1人。
最後の1人は、まあ予想がついていたので、さっさと声をかけるため、真後ろの、赤いフード付きケープのフードを目深に被ったプレイヤーに近づく。
「宛がないなら俺達のパーティに入るか?」
「そっちが申請するなら」
短く即答され、断る理由もなかったので申請を送る。程なくして、目の前に1人のプレイヤー名が表示された
『プレイヤー’Asuna’がパーティ加入申請を承認しました。』
そういえばこいつの名前は知らなかったな、と気付き、その名を心に留める。
キリトとアオイにもその旨を報告すると、2人とも快く受け入れ、4人パーティが組み上がった。周囲を見渡すと、俺達以外はどこも無事に6人パーティが出来上がっていた。
「よし!大体パーティが組めたみたいだから、代表者は集まってくれ!」
呼ばれたキリトは舞台の方へ向かい、ほどなくして戻ってきた。
ディアベルがパーティを軽く組み替えて、攻撃重視のチームと防御重視のチームに分担。ボスには7パーティ中3パーティであたり、残りはボスの周辺に湧くmob(ルインコボルト・センチネルという名前らしい)を適宜倒していくという配分となったそうだ。そして、俺達は人数が少ないのでパーティ単位というよりも足りない部分の援護や救援がメインとなる立ち回りだそうだ。
アスナ嬢は配置の取ってつけたような感じに文句を言っていたが、こうしてなんとか、攻略会議は終わったのだった。
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